インタビュー
「MODEROID パトレイバー」開発者インタビュー
「作って遊べるアクションフィギュア」、出渕裕氏監修のプロポーションも魅力
2021年3月3日 00:00
「機動警察パトレイバー」に登場する「AV-98イングラム」や「ブルドッグ」などのレイバーをプラモデル化した、「MODEROID」のシリーズが1月に発売となった。弊誌でもレビューをお届けしたこのキットは、「MODEROID AV-98イングラム&ブルドッグセット」、「MODEROID AV-98イングラム」、「MODEROID ブルドッグセット」(オンライン予約専売)の3種類を同時発売し、多くのユーザーから好評を得ている。
1月上旬の「THE合体展」、そして2月中旬の「ワンホビ32」では、最新アイテムとなる「TYPE-J9グリフォン」や「AV-0ピースメーカー」、「HAL-X10」、「98式特型指揮車+99式特型レイバーキャリア」といった新たなラインナップも発表され、パトレイバーシリーズのファンを大いに沸かせている。
筆者は「機動警察パトレイバー」はTV版から入り、劇場版、OVA版などを繰り返し見ているファンの1人であり、パトレイバーの造形が各社から発売されるたびに一喜一憂している。その中で今回のMODEROIDシリーズでの展開には、これまで以上に心が躍った。その第1弾に「ブルドッグ」の存在があったからである。
これまでのレイバーの立体化は、イングラムやグリフォン、ヘルダイバー、零式といった、主役または準主役級の機体が中心だった。しかし「レイバー世界」で考えれば、彼らはイレギュラーな存在で、ブルドッグのような作業用、汎用レイバーこそが一般的な機体であり、世界観を支える存在なのだ。しかし、その作品の大きな魅力の一つである汎用レイバーの立体化は、どちらかというと後回しになることも多かったのだが、このMODEROIDでは、なんとその第1弾としてラインナップされたのである。
このブルドッグは、MODEROIDパトレイバーの今後に大きな期待を持たせるアイテムだと個人的に思っていて、今回「ワンホビ32」に出展された新製品も含め、その開発者に話を聞いてみたい旨を担当編集に打診したところ、アポイントの後にこのインタビューが実現した。
インタビューに対応してくれたのは、「MODEROID機動警察パトレイバー」シリーズの開発担当者で、グッドスマイルカンパニー企画部の髙木義弘氏。筆者が弊誌のレビューにて「MODEROID AV-98イングラム&ブルドッグセット」を実際に組み立てたことも踏まえ、このシリーズの開発秘話やこだわり、そして今後の展望などについて聞いてみた。
メカデザイナー出渕裕氏による監修は理論的かつ的確で、上手く反映することができた
インタビューで最初に質問したのも、このブルドッグからにした。過去のパトレイバー関連の商品化の例を見ると、劇中で活躍した人気のレイバーが優先して発売されるという予定調和のようなものがあったが、そこをあえて崩すために「イングラムと並べて楽しくなるような遊びの幅が広がる機体として、TV版の第1話にも登場するブルドッグを第1弾のラインナップにチョイスしました」と髙木氏は語る。
とはいえ、シリーズの初手でいきなりブルドッグに開発にコストをかけると価格も上がってしまい、今後のシリーズを展開するときに、全て同じ設計でやっていくことを考えるとそれも難しいため、ブルドッグに関しては比較的簡素な設計にすることは企画段階から決めていて、公式Twitterなどでもその仕様をユーザーにアナウンスしている。実際キットのブルドッグは手や脚のパーツを共通にしたり、可動域を控えめにしたりと、意図的に設計上の簡易化がはかられている。
MODEROIDで展開されるパトレイバーのシリーズは、同社のロボットホビーブランド「メカスマ」を統括する田中ヒロ氏による企画で、その後髙木氏に企画が引き継がれている。「機動警察パトレイバー」は古くからの人気作品であり、シリーズ展開を見込めるため、最初の企画段階からヘルダイバー~グリフォンまでのラインナップは決まっていたのだとか。
レイバーの設計やデザインに関して、特にプロポーションや可動は、原型を手がけるチームが作品に造詣も深くかなりこだわって作っていると髙木氏は語る。特にプロポーションに関しては、メカデザイナーの出渕裕氏が直接監修している。
出渕氏による監修は各アイテムごとに2度ほど行われたが、改修の要望があったときはそのつど理論的な理由を提示してくれたという。特にスケール感に関しての指摘は的確で、例えば“ナンバープレートの比率は実車に合わせてほしい”、“2号機の頭部は1号機の頭にバイザーを被せてた設定なので、大きめに設計してほしい”といった理論的かつ具体的な指示のおかげで、設計チームにそれを確実にフィードバックさせることができ、1/60のスケールモデルとして完成度を高めることができたという。
その他にも、イングラムの装甲の肉厚に関して、1/1スケールから1/60に落とし込んだ時の、実物と成型時の厚さをできるだけ近いものとするために、肩などの肉厚が目立つところはできるだけ薄く見えるように処理がしてあったりする。ちなみに両膝の裏側にあるブロックのパーツを大小用意することで、膝の曲がり具合を変えられるという仕様は、出渕氏の監修コメントを受けて生まれたアイデアだそうだ。
一方、イングラムの合わせ目がほとんど目立たない設計などは、設計チームのこだわりで、これらが上手く融合した結果、総合的に完成度の高い完成度の高いレイバー2体のキットが完成。今後のシリーズも同様の形で手がけていくとのことだ。
作る楽しみと完成させて遊ぶ楽しみを両立させた、MODEROIDパトレイバーシリーズ
髙木氏は「もともとMODEROIDは“組み立てるアクションフィギュア”という思想が強く、プラモデルの醍醐味である“作って完成させる”というところから一歩先の、“完成させて遊ぶ”というのがコンセプトなんです」と述べていて、このパトレイバーシリーズもそのコンセプトに準じて設計されている。劇中の設定に近い形でのポージングを可能としていて、引き出し式の肩関節や、上下にスライドする股関節など、工夫を凝らした設計がもたらされていることはレビューでも触れた通りだ。
このパトレイバーシリーズはMODEROIDの中でも、よりホビーユーザー向けに特化したラインナップで、合体メカ系のMODEROIDはPS、ABS、POMといった素材が混在するのに対し、こちらは外装はほぼPSで、強度が必要な関節部を中心にABSを使っていて、組み立て前後の塗装や改造がしやすい仕様になっている。
イングラムのシールドやアンテナなど一部塗装が必要なところがあるのもやはりそれがゆえんで、「付属の水転写デカールはあくまでマーキング用で、色分けのためのデカールはあえて付けていません」とのこと。例えばシールドも、パーツで色分けすることもできなくはないが、その結果厚みが出てしまい、スケール感を損なってしまう可能性もあったため、今回の形に落ち着いた。
逆に積極的に作り込みたいというユーザーのために、塗装済みのクリアパーツの他に未塗装のものが余分に付属したり、TV版・劇場版・リブート版の3種類を作れる水転写デカールが用意されていたりするという配慮もある。
「AV-0ピースメーカー」は、パトレイバーシリーズの新たなチャレンジ
そして気になる今後のラインナップについても聞いてみた。前述の通り、公式では既にこの2月に「ARL-99ヘルダイバー」、3月に「AV-X0零式」が発売されることがアナウンスされていて、「THE合体展」では「TYPE-J9グリフォン」が企画中ということを弊誌でもお伝えしている。
そして先日開催された「ワンホビ32」では、このグリフォンの「アクアユニットセット」の他、「AV-0ピースメーカー」、「HAL-X10」、「98式特型指揮車+99式特型レイバーキャリア」といったラインナップが発表され、ファンを大きく沸かせた。
グリフォンに関しては、「MODEROIDパトレイバーシリーズの中でも、出渕さんに『このグリフォンとてもはいい』とおっしゃっていただきました」と、お墨付きをいただいたことを髙木氏は明かす。イングラムと同様に、頭部などにクリアパーツを採用し、可動にもかなりこだわって作られているとのこと。
今回発表されたピースメーカーやHAL-X10に関しては、過去に立体化された例があまりないが、このパトレイバーのシリーズ発売以降のリクエストが多かったレイバーで、それを受けて今回企画に至ったとのこと。
「MODEROIDシリーズは全体的に、“こういうところを攻めるんだ!?”とよく言われることがあるんですが、当然ながら何の理由もなく選んでいるわけではなく(笑)、商品化希望アンケートやユーザーの方からの意見を踏まえたうえで商品化をしているので、その結果幅広いラインナップに繋がっているんです」と髙木氏。今後もユーザーの要望は企画検討の参考にしていくとのことなので、アンケートなど機会が設けられたときは、積極的に商品化希望の声を届けていくのがいいかもしれない。
髙木氏が個人的にチャレンジしてみたい機体があるかを聞いてみると、「実はピースメーカーは、私にとって私にとってやりたかったアイテムだったりします」と返答。「これまで立体化にはなかなか恵まれないレイバーだったので、イングラムを経てピースメーカーへと至るにあたり、デザインやディティールにどんな意図があったのかを出渕さんにお話を伺いながら、それをプラモデルとしてどう仕上げられるかは、挑戦してみたかったことですね」と続ける。
ピースメーカーの立体化にあたり、零式からの開発系譜の流れを感じさせるとともに情報量の密度を上げるために出渕氏の監修の元、これまでのラインナップでは元々のデザイン画を元にブラッシュアップしていく作業だったのが、ピースメーカーに関しては元々の設定になかったディティールも盛り込んでいくという作業を進めているそうだ。
最後に髙木氏は、「グリフォンを発表した段階で、“MODEROIDのパトレイバーは一区切りかな”と考えられた方も多いようですが、そこで終わりではないということはお知せできたかと思います。やるべきラインナップだけでなく、これまで立体化に恵まれなかったものもご覧いただけたので、今後のパトレイバーシリーズの未来が広がったのではないでしょうか」と語った。
ブルドッグのような方向性も、今回の発売でユーザーにある程度受け入れられたことで、それをきっかけとして次の展開にも繋げていきたいという旨を述べ、インタビューを締めくくってくれた。
髙木氏の話す通り、「ワンホビ32」での展示は、MODEROIDのパトレイバーシリーズの今後が楽しみになるラインナップであった。個人的にはブルドック準拠の作業用レイバーがやさらに充実してくれれば嬉しいので、イベントや仕事の機会も含め、機会があるときにその要望を届けていきたいと思っている。