レビュー
ハセガワ「『戦闘メカ ザブングル』ザブングル」レビュー
プラモデルとは何かを考えさせられた、ハイディテールの大型キット
2023年5月3日 00:00
- 【「戦闘メカ ザブングル」 ザブングル】
- 開発・発売元:ハセガワ
- 4月1日発売
- 価格7,590円(税込)
- スケール:1/72
- ジャンル:プラモデル
- サイズ:全高259mm×全幅175.5mm
ハセガワが贈る「戦闘メカ ザブングル」シリーズの最新アイテム「ザブングル」が4月1日に発売となった。筆者による弊誌レビューで扱った昨年12月発売の「アイアンギアー」に続く第2弾で、スケールは1/72、完成時の全高259mmと、かなりボリュームのあるキットとなる。
昨年の「戦闘メカ ザブングル」放映40周年を期に、ハセガワが発表したザブングルは、これまでの立体化で重要視されてきた合体変形機構を備えず、ディテールやプロポーションを重視したキットで、その発売後は思わぬ形でSNS上のトレンドとなり、ユーザーのプラモデルに対する定義が議論されるところまで発展した。いろいろな意味でプラモデルファンの間に波紋を呼んだこのキットのレビューをお届けしていきたい。
ザブングルを、あえて変形なしの大型スケールでプラモデル化
「戦闘メカ ザブングル」の主役機のザブングル(設定上はザブングル・タイプとも呼称)は、ブングル・スキッパーとブングル・ローバーなる2台の車輌からの合体・変形機構を備えた最新のウォーカーマシンだ。支配者階級イノセントからキャリング・カーゴ一家へと供与された2機のうち1機を主人公のジロン・アモスが盗賊団のサンドラットとともに強奪。
後にジロンはエルチに代替わりしたカーゴ一家に合流し、奪ったザブングルを引き続き搭乗して活躍する。キッド・ホーラらとの戦いで主翼を失い、変形もできなくなったジロン用の通称“サブ・ザブングル”と、エルチらが駆る無傷のメイン機の2機の主役機が活躍するという、当時としては珍しいシーンも描かれた。
全高17.8mとウォーカーマシンの中でも大型な人間型機体で、このキットでは1/72というビッグスケールにより、完成時のサイズは全高259mm、全幅175.5mmとかなり大きい。パーツのサイズと数に合わせてパッケージも大きく、比較してみると第1弾のアイアンギアーのそれよりも大きかった。店頭でパッケージを見かけて驚いた人もいたのではないだろうか。
ランナーは全部で20枚。クリアーパーツを含め成形色は7色で、色分けにより素組みでも設定に近いカラーリングで完成させることが可能だ。組み立てに接着剤は必要としていないが、実際に組み立ててみると外れやすいところもあったので、用意しておくといいかもしれない
組み立ては脚部からスタート。いわゆるフレームの構造ではないが、可動により見え隠れする内部パーツにもディテールが施されているなど、組み立て過程も楽しむプラモデルとしての設計にはぬかりがない。「おっ」と思ったのはタイヤの構造で、3枚にスライスしたようなパーツを合わせると綺麗なトレッドパターンが現れる。
このタイヤをつや消し黒のマーカーなどで簡単に塗装するだけでも、かなり見栄えがよくなるはずだ。また脚部の折り畳まれた翼も見どころで、その断面を別パーツにしてディテールを表現するなど、航空機モデルを得意とするハセガワの強みが出ている。
腕はサブ・ザブングルを作る場合、いくつかのパーツを変更する必要がある。接着をせずに組み立てれば完成後に差し替えることもできそうだが、完成後の前腕先端のパーツがとにかく外れやすいため、接着してしまう選択肢もある。このあたりは完成してから判断するといい。
胴体の組み立ては胸部から。ザブングルのトレードマークともいえる胸の意匠も、パーツによる色分けはバッチリだ。腹部背中側にエンジンが露出するなど、このキットならではのデザインも見られ、ここもまたスケールモデル的である。背中の翼は内部の連結パーツによって左右が連動して動く仕組みだが、歯車などではなく棒状のパーツで連結されているので、どちらか一方だけで動かそうとすると、内部でパーツが外れてしまうことがあった。完成後に動かすときは両方の翼を持って動かすのが確実だ。
頭部は1/72というビッグスケールならではのコクピットを再現している。簡素ではあるものの、ハンドルや座席の背もたれなどのディテールがあり、搭乗者のジロン、エルチ、ラグのバストアップフィギュアも付属している。キャノピーのクリアパーツの透明度が高く、コクピット内天井のパーツが白成形なので、これを塗装しなければ内部が比較的明るく見える構造となっている。頭頂部とキャノピーは接着しなければ取り外しもできるので、搭乗者を乗せ替えることも可能だ。
付属の武器はライフルのみで、フル装備時のザブングルを思い浮かべると若干寂しい気もするが、この1/72スケールでのフル装備はボリュームが過ぎる観もあり、間違いなく価格にも影響すると思われ、仕様としては妥当な線といえる。
素組みでも組み立てられるが、接着など多少の手間をかけるだけで印象が変わる
最後に完成した全てのパーツを組み付けるわけだが、脚部の取り付けが結構大変だった。脚部を支える股関節のブロックは直径3mmほどのシャフト1本で接続されていて、さらにポリキャップとジョイントの合わせが固いため、脚部をはめ込もうとすると棒状関節がたわんでしまうのだ。スカートの部分を開いて、上からブロックを押さえることで何とかはめ込むことができたのだが、この仕様には少々不安があった。
全てを組み付けた姿は想像以上にマッシブで、これまで各社から立体化されたザブングルのどれとも違うバランスだ。変形しない関係で頭部が大きめに造形されていて、前述の通りコクピット内部の搭乗者の姿を覗くことができる演出も嬉しい。またこのサイズに合わせて各所のディテールにもハセガワならではの魅力が現れていて、手に取って組み立ててみると、その密度を認識できるはず。今回の作例では一部しか貼っていないが、マーキング用のデカールもスケールモデル的なデザインで、その魅力をさらに引き立ててくれるはず。
その一方、完成後のポージングにはかなり苦労させたれた。前述の前腕パーツは手首を取り付けるとさらに外れやすくなり、手首を固定する内部のポリキャップに向きがあるため、中を見ないとはめることができず、外れるたびにストレスが溜まった。ジロン機へのパーツ差し替えが難しくなるが、筆者はここを接着してしまっている。他にも腕や腰のタイヤ&フェンダーなど、外れやすいパーツは多い。また脚部の大きさと重量に股関節が耐えられず、手に持ったときにふらつくのも気になったところだ。
近年各社から発売されているプラモデルは、組み立ててから動かすことが前提のものも多く、中には“組み立てるアクションフィギュア”と呼べるような商品もあるわけだが、このザブングルは総合的にそこまでは至っていない、あくまでプラモデルの範疇という印象を受けた。
この商品はプラモデルなので、仕様としてはそれでいいのだが、肩関節の引き出しや股関節のスイングなど、可動ギミックに工夫が見られるぶん、それらに対して全体の設計が追いついていないのが非常に惜しいと感じられた。特に近年の可動式のプラモデルを作ったことがあると「ここはこう動くだろう」と動かしてみても、それが思うように動かなかったりしてストレスに繋がることもあった。
こうした気になる部分をどう捉えるかで、このキットの評価は大きく変わり、発売直後のSNSでの声も、そのあたりを踏まえての声が上がっていたと予測している。完成したザブングル自体のプロポーションは非常によく、何よりそのサイズ感は、これまで立体化されたザブングルにはなかった大きな魅力だ。
何度も言うがこの製品はプラモデルなので、作り手が手を入れることでより光ることは間違いなく、接着や補強など簡単な作業だけでも印象はずいぶん変わるので、作ることを楽しむ余裕がある人はこの連休中にでもぜひ挑戦していただきたいもの。またハセガワには今回のユーザーからの大きな反響をぜひ次のシリーズに反映させて、次回作を開発してもらいたいと心から思う。
(C)創通・サンライズ