インタビュー
ハセガワ「『戦闘メカ ザブングル』 ザブングル」開発者インタビュー
シリーズを見据えたハセガワの新たな挑戦。ウォーカーマシンは今後も1/72で検討!?
2023年5月31日 12:00
- 【「戦闘メカ ザブングル」 ザブングル】
- 4月1日発売
- 価格:7,590円(税込)
- サイズ:全高259mm、全幅175.5mm
ハセガワは昨年12月より、「戦闘メカ ザブングル」のプラモデルを同社「CREATOR WORKS」シリーズにて展開している。第1弾の「アイアンギアー」に続き、今年4月にはファン待望の主役ウォーカーマシン「ザブングル」を発売。1/72というビッグスケールに加え、ハセガワならではの設計によるディテールやプロポーションが映え、本格的な色分け成形や精密なデカールなども好評を得ている。
その一方で、上腕や前腕、股関節など、特定のパーツが外れやすかったり、独自の構造をした関節や全体の重量などから、ポージングがしにくいという声も聞かれた。特に素組みで完成させたときの印象について他社のプラモデルと比較されるなどして、発売直後のSNSではトレンドに上がり、プラモデルファン同士の議論にも発展した。
筆者は弊誌にて、このザブングルのレビューをお届けしている。個人的には満足度の高いキットではあったのだが、実際に組み立ててみると指摘された点に対しても一部理解ができるという感想を持った。このレビューを踏まえ、5月13日より一般公開された「第61回静岡ホビーショー」にて、ハセガワの開発担当者にインタビューを行った。
話を聞いたのは、ハセガワ企画開発部 企画グループ 企画開発 課長の国分智氏と、企画開発部 開発グループ 第一設計 早川純氏。商品企画担当の国分氏は、「ザブングル」シリーズでは版元との交渉が主な役目。そして早川氏はこのザブングルの設計担当者で、主にキャラクターものの設計を手がけている。インタビューでは開発チームがこのザブングルに込めた想いと、発売後の反響を受けての気持ちなども語ってもらった。
企画段階では1/144スケールの予定が1/72スケールへと変更に。書籍「マスターファイル ウォーカーマシン ザブングル」のエッセンスを盛り込んだデザイン
――まずはハセガワさんが「戦闘メカザブングル」をプラモデルでシリーズ展開されることになった経緯からお聞かせいただけますか。
国分氏:実は結構前の話になるんですが、弊社が商品展開しているサンライズさん版権ものとして「ザブングル」の前に「ダーティペア」があって、その前には「クラッシャージョウ」シリーズがありました。
2019年1月に発売した最初のラインナップである「ファイター1」もこの早川が設計担当だったんですが、そこからさらに前の2014年頃だったでしょうか、今後の商品展開について相談するために、サンライズさんの版権担当の方に弊社まで来ていただいたんです。我々の世代ですと、サンライズさんの作品には「ガンダム」以外にも魅力的なロボットメカもたくさんあって、いつかそのどれかをプラモデルでやってみたいという話をしていたんです。
――「クラッシャージョウ」や「ダーティペア」は、飛行機や宇宙船のキットがメインでしたね。
国分氏:そうなんです。そこから次にどれをやるかというときに、いよいよロボットものやってみようかという話になったんです。弊社でも「マクロス」や「バーチャロン」、「マシーネンクリーガー」などで、人型のメカを手がけていて、多少なりノウハウも積めましたので、営業からもぜひやってみようということで、満を持して「ザブングル」をやることになったんです。
――ロボットということですが、第1弾はランドシップの「アイアンギアー」でした。
国分氏:実はラインナップとして、ザブングルをやりつつランドシップもやろうということで、最初から2本立ての企画でスタートしたんです。同時期の開発ではあったのですが、版元さんとの調整などもあって、ザブングルは少し遅れて発売することになったんです。
――なるほど、そういういきさつがあったんですか。アイアンギアーは発表された昨年の全日本模型ホビーショーで、「変形後のウォーカーマシンの形から設計を起こした」と伺って、そこにハセガワさんの得意な精密なディテール表現などが活きて、非常に完成度の高いキットという印象を受けましたが、実際評判はいかがでしたか?
国分氏:おかげさまで発売後の評判はよかったです。変形してウォーカーマシンになることを意識したうえで主題のランドシップ形態を設計しているので、デザインの整合性がとれていて、「本当に変形しそう」なところにこだわりましたからね。ディテールもスケールに合わせているので、全体的なバランスもよかったと自負しています。
――そして同時進行されていたという本題のザブングルですが、まずは1/72という、これまでのザブングルのプラモデルでは見られなかった大きなスケールだったのはインパクトがありました。
国分氏:新規開発におけるスケールの検討がある中で、最初は1/144スケールで考えていたんですが、版元の創通・サンライズ(現:バンダイナムコフィルムワークス)さんや弊社営業とも色々と検討した結果、スケールモデルで得意なスケールかつ、既存のザブングル商品にはないサイズに挑戦いただきたいという声を受け1/72スケールということに決まったんです。
――スケールとしては当初の1/144単純に倍ですよね。スケール的に大変ではなかったですか?
早川氏:大変でしたね。私はこれまで「バーチャロン」などを担当していたんですが、そのときは1/100スケールだったので、関節周りなど樹脂の肉厚の関係で制限のある箇所にいかに隙間を見つけて要素を盛り込むかのかせめぎ合いをしていたんですが、大きくなると逆に隙間が大きすぎてしまうので、そこをどう埋めるかという反対の悩みが出てきたんです。あとは関節の保持力とか、ビッグスケールならではの難しさもあって……。
――設計は1/144から1/72へとアップスケールしたんですか?
早川氏:設計の段階から、各スケールの簡単なラフは作っていたんです。1/144と1/100を踏まえて「1/72だとこんなに大きくなるけど大丈夫?」と開発と相談をしていまして。
国分氏:その検討のために、一旦開発が止まって発売日をずらしたという経緯もありましたからね。
早川氏:これまでの弊社の各シリーズと同様、変形はオミットするという仕様に決まって、さらに機体のデザインを、書籍の「マスターファイル ウォーカーマシン ザブングル」から参考にさせていただくことになったんです。
国分氏:1/72スケールとなると、アニメだけの設定では情報が少ないですからね。この「マスターファイル」のザブングルの解像度が、プラモデルとして設計するにあたり参考になるところが非常に多かったんです。
――なるほど、それでキットにはGA Graphicさんのクレジットが入っているんですね。
早川氏:GA Graphicさんに正式に協力の許可をいただいて、等身や細部のデザインはこの書籍を参考にしつつ、アニメの設定と弊社の設計のノウハウも踏まえ、創通・サンライズ(現:バンダイナムコフィルムワークス)さんにも監修していただいて、バランスを取ったデザインを反映した形です。
――背面に見えるエンジンや腰のタイヤカバーのノズルなど、オリジナルのザブングルになかった意匠はこの書籍の設定を参考にしたものなんですね。
早川氏:そのあたりは確かにそうですね。あとはタイヤのトレッドパターンとか。アニメだとタイヤだと分かるように線が入っているだけでしたので……。ただし「マスターファイル」の設定をそのまま起こすとなると、金型として作れないところもあったので、プラモデルならではのアレンジも入れています。
――その甲斐あって、タイヤの設計はかなりいい感じでしたね。スライス状に分割されたパーツを合わせるとトレッドパターンが完成する仕様で。
早川氏:ありがとうございます。金型で起こしたときに上手くできるのか少し不安はあったんですが、なんとか上手くできました。
ジロン機の折れた翼の断面が早川氏のこだわり。しかしサブ機なので、選択式のキットでは作られないジレンマも!?
――設計で見ると、パーツの成形色による色分けも、過去のハセガワさんのキットと比較するとかなり細分化されていて、素組みでも違和感のない姿で作れました。同じ時期に発売された「アーマードバルキリー」などと比べても色分けの細分化はずいぶん違っていました。
早川氏:アーマードバルキリーの装甲は追加パーツでして、部分的に従来のバトロイドの金型を使っていることもあって、色分けができないところもあったのですが、今回のザブングルは完全新規の金型で、サイズが大きいぶんパーツの細分化もできたので、可能な限り成形色による色分けを目指しました。バーチャロンの「景清」などでもそれなりの色分けができたので、そのノウハウも活かせました。
色の分割で一つ心残りだったのは、タイヤカウルの赤帯ですね。色分けと同時に接着剤不要のスナップフィットを目指していたので、強度面を考えるとここの色分けが困難で、付属のデカールを貼るか、塗装していただく形としました。
――腰のタイヤのカウルだけは、唯一目立つ合わせ目もありますよね。他に気になるところがなかったぶん、ここの設計は苦労されたのかなという印象を受けました。
早川氏:そうなんですよね……。ここだけは側面ディテールや組立の設計上どうしても1パーツにできませんでした。
――塗装自体は難しい場所ではないですし、デカールでもフォローされているので、完成させてみれば気になるところではないですしね。
早川氏:逆に色分けでこだわったところを挙げるとすると、足の甲とつま先の紺色の部分ですね。実はグッドスマイルカンパニーさんの「MODEROID ザブングル」の試作品が披露されたときに、ここがちゃんと色分けされていたので、うちも色分けはしようということになって。素組みでもできる限り設定画に近づけるために、ランナーを一つ増やしました。
――あれ、でもMODEROIDのザブングルは、素組みだと色分けされていなかったような……!?
早川氏:そうなんですよね(笑)。とはいえ、結果的にキットとしての個性が出せたので、よかったと思っています。
――ランナーを増やすことは大変ではなかったんですか?
早川氏:その段階で設計はほぼ完了していて、いじれるところはほとんどなかったんですが、パーツの色分けでランナーを増やすことは何とかなったので、できることをやりました。素組みのユーザーさんだけでなく、塗装をするユーザーさんに向けて、できるだけパーツ分割をしていたことがいい方向に働きましたね。
――つま先の2つの五角形も、設計段階で分割されていたんですね。
早川氏:そうです。あの部分は奥まっているので、一体化していると塗装しづらいので、そういうところは気にしながらできる限り分割しましたね。
――先ほどのタイヤのトレッドもそうですが、「マスターファイル」のデザインを踏襲していることもあって、全体的にリアル寄りのルックスになっていますよね。実物にあるものではないけど実物を意識した、スケールモデル的な。
国分氏:そこは確かにそうですね。1/72というスケールは、当社にとりましては飛行機で慣れているスケールですし、ディテールに関するノウハウを盛り込むことができたのではないでしょうか。
早川氏:1/72なので、パイロットも載せたんですよね。この大きさですので、頭部のコクピット内もしっかり見えますからね。
――クリアパーツの透明度が高くて、さらに天井の成形色が白だったので、想像以上に中がしっかり見えました。
早川氏:アニメだとバイザーを開けるシーンも多いじゃないですか。クリアパーツを取り付けなければ、開いたシーンも再現できる様に設計しました。
――なるほど、そういうシチュエーションにもできるんですね!
早川氏:ディテール面のこだわりと個人的に自負しているのは、ジロン機の折れた翼ですね。飛行機の翼っぽく中に桁を入れて破損させているのが、ハセガワならではのポイントです。できればジロン機で組んでもらいたいですが、サブ機なのでどうしても後回しになっちゃいますよね(笑)。
――そこは確かにジレンマですね(笑)。そしてもう一つキットのポイントとなったのは、可動面ですが、設計段階から可動も意識されたのでしょうか。
早川氏:これまで当社が発売したロボットものですと、腕が90度より少し深く曲がればいいぐらいの設計が限界でした。先ほどもお話ししましたが、サイズが大きい分ギミックを仕込む余裕があり、設計の段階から肘を180度折り曲げるくらいの可動範囲を実現したいと思っていました。
――実際に組み立ててみると、肩や脚の付け根の関節などに工夫が見られました。
早川氏:パーツ分割やスナップフィットに加えて、可動も考慮した結果として、一部のパーツが外れやすくなったりしてしまったのは反省点でした。外れやすいところは接着していただくのが確実なんですが、スナップフィットをうたっている以上、そこをユーザーさんにゆだねてしまうのは申し訳ないですね。
――接着剤不要のキットは、設計的にも大変なのでしょうか。
早川氏:パーツ同士の嵌合だけで固着させなくてはならないので、ダボなどを作るためのスペースを作らなければなりません。特に可動部などスペースに余裕がない箇所はかなりの工夫が必要になります。
パーツ同士をはめ込むときの堅さの調整もありますよね。AとBをはめるだけなら規定の硬さでできるけど、そこにCをはめようとすると急に硬くなったりして、その調整も難しくなる要因の1つです。
国分氏:実際に形にして検証しなければなりませんからね。固すぎて白化してしまったり、割れてしまうところもあったりしますので。
早川氏:専門的なところだと、同じ金型を使っていても成形するときの条件でも、微妙にパーツに変化が起こることがあるので、その振れ幅分を調整する必要があります。量産の前の最終確認に立ち会って、そこで確認するまで気を抜けないです。
――ハセガワさんのキットで、接着剤を使わないキットってあったんですが?
国分氏:「クラッシャージョウ」のシリーズなどからスナップは採用していました。「バーチャロン」でもスナップの研究はしていましたが、原則として接着が必要な仕様としていました。
「ザブングル」シリーズは今後も継続して展開予定。ウォーカーマシンはザブングルと同じ1/72スケールで検討中!
――そしていよいよ4月に発売となったわけですが、発売後の比較的早いレビューの投稿などから、その大きさやディテールなどが評価された一方、「ガンプラとは違って……」みたいなところで、作りにくいポイントや完成後の遊びにくさなどに批判が集まり、そこを巡ってSNSでトレンドに上がるほどの反響がありました。それを受けてどんな気持ちを持たれましたか?
早川氏:BANDAI SPIRITSさんの「ガンプラ」は、ロボットものを設計するときの目標とするところでもあり、「作りやすくて、完成した後も動かして遊べる」みたいなところはある意味完成形で、私達も今できるハセガワの最大限の技術やノウハウを注いで、そこを突き詰めたつもりでした。
それでもやはりユーザーの反応は正直で、広く拝見してみると、そこまでは至っていなかったということを実感しました。人型である以上、動く関節があれば動かしたいという気持ちは私もわかりますので……。
国分氏:ユーザーさんの視点によって印象が変わることは常に認識していますが、そこに甘えてしまうのもメーカーとしては最善ではないですから、そのあたりは今後も突き詰めて行きたいですよね。
――完成したものが「プラモデル」なのか「アクションフィギュア」なのか、ユーザーの認識にも幅がありますからね。プラモデルに対してどこまで手を加えるかといった部分も、いつもユーザー間で議論となるところですし。
国分氏:このザブングルでは、弊社としてはディテールや形状、色分けといったところに関しては自信を持って出せていて、可動やスナップフィットの部分に関しては、発展途上な部分が目立ってしまったので、そこは課題としてこれから勉強をしていかなければならないと捉えています。
――今回見えてきた今後の課題は、次回作以降に活かされますよね?
国分氏:もちろんです。ハセガワとしても、新規で開発をするのであれば、どんどん進化をしていきたいですからね。
早川氏:設計は私だけではないので、次回私が担当するかはわかりませんが、もし何かやることになるのであれば、今回のことを踏まえて設計に臨みたいです。また私が担当にならなかったとしても、次の担当者にはしっかり繋げたいですね。
――次の「ザブングル」のラインナップとしては、アイアンギアーのバリエーション的なランドシップの「ギア・ギア」が決定していますが、以降のシリーズも継続されるのでしょうか。
国分氏:はい、可能な限り続けていきたいと考えています。ウォーカーマシンについては、ザブングルと同じ1/72スケールで続けていくことを検討しています。
――それは期待できますね! ウォーカーマシンは大小あるので、今回のザブングルぐらいディテールが反映された機体になるのであれば、ぜひ作って並べてみたいです。
国分氏:同スケールでのサイズに関しては、本当に大小の差がありますからね。それでいうとランドシップも大きさが結構違っているので、これからのラインナップをどうするか、慎重に検討していきたいと思います。
――「ザブングル」ファンとして、大いに期待しています。ありがとうございました。
※一部原稿に誤りがあり、修正しました。
(C)創通・サンライズ
協力:GA Graphic