特別企画

“質感を活かした塗装”でガレージキットのアスカの魅力を表現する!

肌、シャツ、ブーツ……塗装と塗料の工夫で生まれるクオリティ

【ゴスパンクアスカ 組立キット】

スケール:1/6(全高24.5cm)

パーツ数:37(服の柄、アイ用専用デカール付き)

原型制作:SUZU (ATOMIC-BOM)

パッケージデザイン:黒てんぐ(天狗のつづら)

製造販売:有限会社アミエ・グラン

価格:15,000円(税別)

 小規模なメーカーや個人が販売する「ガレージキット」という商品があります。ガレージキットは「より作家(メーカー)の想いが伝わるアイテムがある」、「少数の特別な模型である」というところが最大の魅力ではないでしょうか。

 今はフィギュアやプラモデル、プライズアイテムでユニークな商品、マイナーなキャラクターが立体化されることも多くなりましたが、それでも大きな模型メーカーさんが扱わないマイナーなモチーフや、公式設定にはない二次創作的なモチーフのガレージキットは多くあります。筆者にとって「周りの人たちは作ったことのない模型を作ることをできる」というのはとてもワクワクさせられるのです。

 ガレージキットは市販のプラモデルとも違い、製作工程もかなり独特なものがあり、これを紹介するだけでも1本の原稿になってしまいますが、今回は敢えて特“塗装”に特化した紹介をしていきます。筆者は塗装にこだわりを持っていて、テーマを持ってキットを塗装するという取り組みに楽しさを見出しています。

 今回は、有限会社アミエ・グラン製1/6スケールレジン組み立てキット「ゴスパンクアスカ」というキットを使っていきます。「新世紀エヴァンゲリオン」に登場する「惣流・アスカ・ラングレー」がパンクロッカーとなったというシチュエーションのキットです。

 今回筆者はこのキットを“質感の良い塗装”というテーマで作っていこうと思います。筆者の思う“質感の良い塗装”とは“重量感”です。髪の毛、肌、革のジャンパー、軽やかなスカート、ごついブーツやベルト……これらは別々の素材で作られており、それぞれ重さも質感も違うはずです。ガレージキットはレジン製ですが、塗装で全く違う質感を表現できるのではないか、そういうチャレンジを今回語っていきたいと思います。

【ゴスパンクアスカ】
本キットはパンクロッカーのアスカがモチーフになっておりアスカの活発さ、力強さが表現されています

筆者の心を釘付けにしたこのキットを、“質感の良い塗装”というテーマで作る!

 筆者が初めて作ったガレージキットはたまたまリサイクルショップで見つけた「ファイナルファンタジーX-2」のユウナでした。当時はガレージキットの作り方が全くわからずインターネットで調べながらやっていましたが、見事に失敗しました。

 それが悔しくて何体も作っていくうちにその魅力にはまっていきました。そう、ガレージキットはプラモデルとはまた違った独特な工程があります。パーツ選別や、洗浄など、パッケージを開けてすぐ組み立てられ、接着剤も使わないようなプラモデルとはやはり大きく違います。

 今回作っていく「ゴスパンクアスカ」は、パンクロッカー姿の惣流・アスカ・ラングレーがモチーフです。アニメ本編には登場しないコスチュームではありますがアスカの活発なキャラクターをかっこよく表現しているキットと思います。それに何と言っても他に作っている人がいない、珍しさもこのキットの魅力と思います。

【パッケージ】
本キットはパッケージイラストにある二種類のアスカを選んで作るコンパーチブルキットとなっています。今回筆者は二種類を組み合わせてオリジナルの姿で制作する事にしました

 ガレージキットは少量生産のためプラモデルのような素材ではなく、“レジン”という樹脂が使われることが多い。今回のキットもレジン製です。パーツの洗浄、整形、バリやゲート処理、さらには組み立てなど複雑な工程がありますが、今回は敢えて割愛します。今回のテーマである、“塗装”にフォーカスしていきたいと思います。

【組み立て】
ガレージキットの基本工作としてまず煮込むんです。表面についたレジンの離型剤をなくしたり、歪んだパーツを直します
ガレージキットはただ組み立てるのではなく、“軸打ち”という作業をします。軸打ちを行なうことでグラつきを防止し、バラバラになることを防ぐことができます。
仮組です。きっと全体のバランスを確認しておかしいところがないかを最終チェックします。仮組完了後は再度分解し、洗浄して塗装工程に移ります

 今回はあくまで塗装が主役なので、組むことは余り語りません。ではいよいよ塗装を説明していきます。使うツールは「エアブラシ」と「筆」です。エアブラシで全体を塗装し、そこから筆を使って細部を塗っていくというのが筆者のスタイルとなります。エアブラシは「エアテックス製コンプレッサー」と「造形村 プロモデルCハンドピース」を使用しています。

 塗料は手持ちのモノを活用しています。基本的には肌や髪の毛を塗るために「ツヤ消し」、パンク衣装だけに革製品らしい質感を出すため「半光沢」、そしてギターには「光沢」を意識します。またフィギュアでは非常に大事な“目”の塗装にも「光沢」を意識します。極めて基礎的な話ですが、これが質感を生む塗装の大前提となります。

 光沢感の調整は塗装の仕上げに「クリア塗料」を吹きかけることで、質感を変えていきます。クリア塗装には「ツヤ消し」、「光沢」など様々な種類があり、これを上から吹きかけることで、エナメル革の光沢や、肌の質感など“素材感”が演出できるのです。このクリア塗料の使い方は質感を出す大事な要素であり、塗装の保護もしてくれるのです。では各部位の塗装を解説していきましょう。

【エアブラシ】
「造形村 プロモデルCハンドピース」 12,000円(税別)
「エアテックス製コンプレッサー」 21,500円(税別)

 ガレージキットは塗装する際、そのまま色を塗ってしまうと塗料が食い付かず乾燥後に塗料が剥がれてしまいます。そのため、塗装の最初にプライマーと呼ばれる塗料とガレージキットを接着させる塗料を塗布していきます。今回はガイアノーツの「マルチプライマー」を使用しました。

【プライマー】
ガイアノーツの「マルチプライマー」 700円(税別)

アスカならではの栗色の髪を立体感を重視して塗装

 いよいよ塗装をしていきましょう。アスカと言えば栗色の髪の毛が大きな特徴です。髪の毛の色は無論単色ではありません。長いアスカの髪をより印象を強くするため、「髪の毛の根元と毛先の色を濃くする」という事をやっていきます。こうすると髪の毛に立体感が生まれます。

 具体的には、生え際を根元に向かって濃くし、中盤は薄く、そして毛先の方に向かうにつれて再び濃くしていくのです。流れるような髪、アスカのように茶色がかった髪の毛を表現するのに有効な手段と言えます。実際に写真を見て、その雰囲気を確かめていただければと思います。

【髪の塗装】
髪の毛パーツの下地を整えた状態。ここに色を重ねていきます。今回は下地色にガイアノーツの「サーフェイサーエヴォ フレッシュ」を使用しています
髪の毛の影ができる部分にガイアノーツのクリアーブラウンを吹いていきます。この時の色の乗せ方は細かく考えず、色むらも気にせず吹いていきます
髪の毛の仕上げ色としてガイアノーツの「NAZCAシリーズ マンダリンオレンジ」を塗っていきます。この時、一度に色を入れてしまうと影の色が消えてしまうため、遠くから薄く吹き重ねていき全体の色味を整えていきます
最後にガイアノーツの「クリアーブラウン」を毛先と根元に細吹して立体感を出していきます
ガイアノーツの「サーフェイサーエヴォ フレッシュ」 600円(税別)
ガイアノーツの「NAZCAシリーズ マンダリンオレンジ」 350円(税別)

 塗装で立体感を出すとしましたが、アニメでは今回の塗り方のような、はっきりとした陰影はあまりもたせません。筆者がなぜこう言う陰影の強い塗り方をしているのかは、フィギュアとしての表現としての手法だからです。

 陰影をつける上で注意したのは全体のバランス。色味は上塗りで調整します。質感は“ツヤ消し”にするためクレオスの「Mr.カラーGX スーパークリアーⅢ UVカット つや消し」を拭けば髪の毛らしくできますが、クリアでの質感はあくまで“髪の毛らしい表現”。アスカらしい、女の子らしい雰囲気は、“色”が重要です。

 この色合いを出すために、筆者はエアブラシを遠くから、軽く薄く吹きかけて色を載せるようにしています。これにより、微妙な色の変化が生まれ、髪の毛の“色気”が引き立つ、そう思っています。

影を考えた肌の塗装

 フィギュアと言えば非常に大事なのが肌の塗装です。アニメの若い女の子の肌は白人のように白い印象が強いです。特にアスカはクォーターで、日本人キャラクターよりさらに白いんじゃないか、というのが筆者の解釈です。

 プラモデルでは「フレッシュ系」という肌色用の塗料がたくさん出ているのですが、フレッシュ系の塗料の中でも白みの強い色を選択して塗装していきます。こちらも単色のままではのっぺりしてしまうので“どこに影ができるか”、“影は黒ではない”ということを注意しながら塗装していきます。

 筆者は影をつけたいカ所は赤やオレンジに近い色にしています。では写真を使って細かく紹介していきましょう。

【影を考えた肌の塗装】
胴体パーツの下地を整えた状態。ここに色を重ねていきます。髪の毛と同じく下地色にガイアノーツの「サーフェイサーエヴォ フレッシュ」を使用しています
影が出てくる部分にクレオスの「クリアレッド」と「クリアオレンジ」を1:1で調色したものを吹いていきます。ここも髪の毛パーツと同様にムラなどは気にせず吹いていきます
仕上げ色としてガイアノーツの「ノーツフレッシュ」を重ねていきます。ここでも髪の毛パーツと同様に遠くから薄く吹き重ねていき全体の色味を整えていきます。これで肌の塗装は完了です。
クレオスの「クリアレッド」と「クリアオレンジ」 各160円(税別)

 肌と髪の毛は、同じツヤ消し処理になります。今回は髪の毛と肌部分は並べて、一気にクリアを吹きかけました。こういった塗りのテクニックは経験によるものが多く、他の人と大きく違うかも知れません。

 筆者の場合は、基本となる肌色から、少し影がついたところを表現するのに黒を単純に混ぜたりはせず、仕上げ色に対して深みのある色を組み合わせることを考えています。