特別企画

【日本鉄道模型ショー】"第三軌条集電"のデモを発見! 鉄道模型の進化がすごい

職人技が光る奥深い世界

【第47回日本鉄道模型ショー】

10月22、23日開催

会場:大田区産業プラザ

入場料:1,200円

 一般社団法人日本鉄道模型協会(JMRA)は10月22と23日、大田区産業プラザにおいて鉄道模型関連商品の販売イベント「第47回日本鉄道模型ショー」を開催した。日本の鉄道模型業界でもっとも歴史あるイベントのひとつ。HOゲージ以上の規格が多く、天賞堂、エンドウなどトップメーカーから、こだわりのドレスアップパーツメーカー、中古ショップなども名を連ねる。

 筆者は乗り鉄が主で模型鉄ではないけれど、最近、コロナ禍の巣ごもり需要で鉄道模型が盛況と聞き取材した。近年の鉄道模型趣味の情報がアップデートできた気がする。

 なお、編集部の勝田氏が先行してレポートを3本上げているのでこちらも参照していただきたい。筆者からは鉄道ファン目線の発見、注目ポイントを挙げてみたい。

3年ぶりの「日本鉄道模型ショー」は長い行列の人気イベントに

 もう聞き飽きたかも知れないけれど、今年は日本の鉄道が開業して150周年だ。これは1872(明治5)年に新橋~品川間で官営鉄道が正式に開業した年から数えている。ただし、日本の鉄道模型の歴史はもっと古い。なぜなら、1850年代に日本に持ち込まれたから。1853年に長崎に来航したロシアのプチャーチン提督が持ち込んだほか、1854年にペリーが江戸幕府に献上したと伝えられている。

 これらは趣味の製品ではなく、日本に鉄道を売り込むためのサンプル品だ。蒸気機関で動くとはいえ、実物の1/4サイズ。人々は客車の模型にまたがる形で乗車したという。そして翌年に佐賀藩が鉄道模型を作った。これが日本初の国産蒸気機関車だ。佐賀藩すごい! というわけで、今年は日本の鉄道模型伝来169年、鉄道模型製造168年だ。半端だなあ(笑)。来年と再来年は今年より盛り上がりそうだ。

「第47回日本鉄道模型ショー」は大田区産業プラザの2つのフロアで開催された。どちらも黒山の人だかりだ

 鉄道模型は欧米で趣味の王様と呼ばれている。その理由は、このような製品サンプルで大人たちが遊び始めちゃったから。遊ぶ目的で機関車を制作し、販売した。おカネもかかる。時間もかかる。こんな遊びは貴族しかできない。そんなところも王様格だ。やがて、モーター搭載の1番ゲージ(軌間45mm)、O(オー)ゲージ(軌間32mm)、HOゲージ(16.5mm,Half_O)へと小型化、低価格化して普及していく。それでも完成品は高価だから、自作する人が多かった。

 日本の鉄道模型趣味も金持ちの嗜みだったけれど、プラスチック成形技術による量産化と低価格化、Nゲージと呼ばれる9mm軌間規格の普及によって広まっていく。プラレールなど鉄道玩具からステップアップする道筋もあって、間口は広く、奥深い世界になっている。国内鉄道模型イベントも多く、コロナ禍の巣ごもり需要もあって好況という。

6ケタ万円の真鍮製SLは販売する天賞堂が、HOゲージの普及を狙って展開する「T-evolution」シリーズ。新作は東武鉄道の6050系。ディスプレイモデルだが、別途動力ユニットなどを組み込んで走行できる。Nゲージの「鉄道コレクション」のHOゲージ版

 その中でも、「日本鉄道模型ショー」と「鉄道模型ショウ」は歴史がある。初期は共同開催だったけれども、現在は前者がHOスケールメイン、後者がNゲージメインという筆者の認識。そして日本鉄道模型ショーはかなり奥深い世界を見せてくれる。といっても、筆者は実物の鉄道が主な対象で、模型も興味はあるけれど、時間も資金も余裕がない。しかしショーやジオラマを見て楽しむ程度だ。

 10月22日、久しぶりに「日本鉄道模型ショー」を見に行った。場所は京急蒲田駅そばの大田産業プラザだ。コスプレや同人誌販売のイベントが多いところでもある。まずは会場入口の行列に驚く。コロナ禍で2年連続の中止、3年ぶりの待望の開催という背景、入口で体温チェックと名前記入などの手続きがあるとはいえ「コロナ禍の巣ごもり需要もあって好況」は本当だった。

 筆者が大森に住んでいた10年前は待たずに入れた気がする。そしてマニアックな内容に驚いた。鉄道好きのご近所の人と行ったら、なにやらかまぼこ板のようなモノを買い集めて喜んでいた。HOゲージの客車を制作するための屋根だという。車体は紙製だけど、屋根の曲面の自作は難しいそうだ。「日本鉄道模型ショー」はそういうイベントで、初心者には近寄りがたかった(笑)。

感動の「第三軌条集電システム」

 10年前は1階大ホールだったけれど、今回は2階と4階に別れていた。内容で別れているわけではなさそうだ。出展社の傾向は「自作向けパーツ」「掘り出し物販売」が多い。HOゲージの老舗、天賞堂は新作の185系電車をデモ走行させていた。そして小田急ロマンスカー7000形LSEの発売告知。初代3000形、展望車3100形の最終進化形とも言える車両。これは楽しみだ。陳列されている蒸気機関車たちは6桁万円である。憧れだ。

天賞堂は新作の国鉄185系特急電車をデモ走行。特急「踊り子」版と「新幹線リレー号」版がある。新作告知には小田急ロマンスカーLSE。
HOゲージの老舗、エンドウも小田急ロマンスカーSE/SSEの発売を告知

 HOゲージ以上の完成品鉄道模型車両は主に真鍮製、ダイキャスト製、プラスチック製がある。真鍮製はハンドメイドで細かい造形のためかなり高い。ダイキャスト製は金型で成形できるため量産できる。ただし細かい表現に限界があり、真鍮パーツを後付けしてディテールアップしたくなる。プラスチック製は細かな成形ができるけれど、軽い。HOゲージクラスになると、車輪がレールの継ぎ目を通過する音も魅力だから、金属製が人気だ。

 ディテールアップパーツ専門ショップには常に人だかりができていて、強い意思を持って進まないと棚に近づけない。近づいていたところで、そのパーツを何に使うかさっぱり解らない。真鍮製の「ホース? 手すり?」みたいな。しかし来客のレベルは高く「これは何に使うんですか?」なんて訊く人はいない。「○○に取り付ける△△はありますか」と訪ねると「このあたりですね」と案内されて、それを手に取ってじっくり吟味する。そんな景色。真剣勝負である。楽しそうだ。

「アダチの黄箱」という愛称が信頼の証。

 そんな深い世界の中で、すごい製品を見つけた。「18番MODEL」が出展した「第三軌条集電方式」だ。第三軌条集電は日本の地下鉄銀座線などで使われている電力供給方式だ。線路脇に電力用のレール(第三軌条またはサードレール)を設置し、電車側は台車に集電装置を取り付けて電力を受ける。一般的なパンタグラフ集電(架線式)よりトンネルを小さくできるため、主に地下鉄で採用されている。これを鉄道模型で再現した。

第三軌条集電のデモ走行を展示。車両は丸ノ内線

 鉄道模型は実際の鉄道とは異なり、レールで集電する。2本のレールの片方を「+」もう片方を「-」とし、車輪で電気を受けてモーターを回す。パワーユニットで「+」と「-」を逆転すれば逆向きに走る。電化区間の架線柱や第三軌条も製品化されているけれども、これらはアクセサリー、飾りだ。

 ただし、鉄道模型の架線集電方式は実在する。自作で架線集電を実施するモデラーもいるし、ドイツのメルクリン社は架線集電キットを販売している。横浜にある「原鉄道模型博物館」の1番ゲージも架線集電方式で、架線にはNゲージのレールを転用している。

台車の横に突出した赤い部分が集電装置

 ところが第三軌条方式にチャレンジする人は少ない。前出のメルクリン社は線路の中央に電流用の突起を作る三線式だけれども、これはリバース形の線路を作るときの配線の手間を省くためで現実的ではなかった。

 18番MODELは本格的な第三軌条を実現する。惜しむらくは軌間が18mmという特殊規格だ。採用会社は少なく、市販の線路は同社の直線のみ。車両の完成品がない。18mm軌間は日本の鉄道の1/80サイズとのことだけど、ほとんど普及しておらず、自作頼みとなっている。

 第三軌条方式は感電防止のため、プラットホーム直下に第三軌条がこないように左右の位置を入れ替える。この時に車両側が一時的に停電する。そのため、昔の丸ノ内線や銀座線は一瞬だけ車内が暗くなり非常灯になった。現在は改良されているけれど、第三軌条方式を模型化するなら、この仕掛けは再現したい。そのためには車両ことに海路を作る必要があるとのこと。

 18番MODELは18mmゲージを普及させたいようだけれど、このシステムはHOゲージにも応用できそうだ。今後の進化に期待したい。

2D/3Dプリンターの表現力

 HOゲージでは「紙」という素材も主力だ。紙工作というとマス目の工作用紙や小学校の図工の時間を思い出す。現在放送中のNHK連続テレビ小説『舞い上がれ!』でも子役時代の主人公が竹ひごと紙で飛行機を作っていた。あのイメージ。

 しかし、鉄道模型の紙模型は進化している。木やプラスチック板で骨組みを作り、紙で車体を作る人もいて、精緻なパーツを再現するキットも販売されていた。市販の完成品では再現されていない部分を紙パーツ製品で追加する人もいるという。紙は重ねることで強度が増し、自分で曲面を加工できる。カラープリンターで出力すれば塗装も不要で、車体番号なども一緒に印刷できる。

HINODE MODELのペーパーキット
完成品(一部市販製品に部品組み付け)。紙とは思えない質感。
東京ジオラマファクトリーのNゲージ用ストラクチャー(建物)はすべてペーパーキット

 3Dプリンター関連の展示を予想していたけれど、意外と少なかった。自作が多い分野だから需要は大きいはず。現段階では鉄道模型の精緻な表現には至らず、立体成型したあとで磨き込み加工などが必要だ。そもそも図面が流通していない。今回は貨車の側面のみ3Dプリンターを採用した製品があった。貨車は同形式でも派生車種が多く、すべて製品化は不可能だ。ただし3Dプリンターなら多品種少量生産が可能だ。もっと注目されて良い分野だと思う。

プラスチック製キット製造販売のホビーモデル。黒い貨車の側面は3Dプリンター製。
【その他の注目出展社】
特価販売も魅力 のぞみ工芸は車体販売価格で動力キット込み。
ミニチュア人形のYFSからはジオラマや列車内に配置する乗客人形が袋詰め。700体で1万1000円。ひとりあたり15.7円! 安い!
こちらは「粉物」専門店のモーリン。ジオラマに欠かせない砂利や草を表現する緑の粉など。線路に敷く砂利「バラスト」は濃い茶色、茶色、灰色の3色あって、古い線路は濃い茶色、交換したばかりの線路は灰色などと使い分ける。「雪」は大理石を削って作るという。ある程度重くないとジオラマに定着しないそうだ。
Zゲージ(軌間6.5mm)を展開するロクハンの新製品たち。Zゲージはドイツのメルクリンが規格を策定した。Nゲージより小さく家庭用レイアウト向き。
かわいいZゲージをさらにかわいく。Zショーティ誕生。PCモニターの脚のまわりを走らせたい。
Zショーティは海外車両も展開。本家メルクリンに愛嬌で勝負だ。
Zゲージ、実は日本では食玩から始まった。ロクハンの歴史もここから。プラッツの掘り出し物コーナーでバラ売りを発見。動力ユニットもある。
浜松の模型店アールクラフトが販売する絶版鉄道模型の数々。シビれますな。ちなみにSANGOは珊瑚模型店で、現在はパーツ販売のみとのこと。こういう掘り出し物があるから鉄道模型イベントは見逃せない。

HOゲージ復権の兆し?

 会場である出展社から「HOケージの客層が若くなっているようだ」と聞いた。HOゲージの金属製完成車両は高価だけれども、プラスチック製や紙製などで低価格化が進む。また、SNSの普及で線路や車両を持ち寄って運転会を楽しむ人も増えているようだ。

 DCC(Digital Command Control)という、デジタル信号で列車を個別に制御するシステムも運転会で普及しつつある。鉄道模型はレールの電圧で列車を制御するため、基本的にひとつの線路で1列車しか運行できない。複数の列車をひとつの線路で同時に走らせるためには、線路をいくつかの区間で絶縁して、列車の侵入にあわせて切り替える必要があった。しかし、DCCを使うと、列車ごとにIDを設定して、直接列車を運行できる。

 HOゲージはサイズが大きく、Nゲージに比べて自宅にレイアウト(ジオラマ)を作りにくい。しかし運転会やレンタルレイアウトによって、車両製作、収集に特化できるようになった。これはNゲージにも言えることで、自宅のジオラマだと短編成の列車しか運行できないけれども、レンタルレイアウトに持ち込めば東海道新幹線の16両編成を走行できる。長編成の列車を購入して楽しめるというわけだ。

 日本鉄道模型ショーの会場にいると、時間がたつほど購入意欲が湧いてくる。ディディエフの江ノ電のジオラマが「お持ち帰り特価39万8000円」だ。本来は80万円超の作品で、超お買い得だという。あぶないあぶない。現金を持っていたらうっかり買ってしまうところだった(強がり)。

会場展示の江ノ電ジオラマは、特価価格の39万8000円。本来は80万円超の作品だ
鉄道メーカー・ロクハンの「e-トレインコントローラー」。通常のものだけでなくDCC対応の車両や機器を動かせる。デジタルスイッチを使うことで複数の車両を管理できるだけでなく、音を鳴らしたり、ライトの点灯などいくつものスイッチを管理させたり連動させることが容易になっている