特別企画

「無可動実銃」と出会える日本唯一の専門店シカゴレジメンタルス

無可動実銃ならではの魅力とは? 広報担当者に聞くシカゴレジメンタルス

――改めてですが、無可動実銃とはどういうものか、説明してください。

佐々木氏:まず、「本物の銃」です。民間で使われていたもの、軍で使われていたもの、どちらも弊社は取り扱っています。これらの実銃に対し、主に発射にまつわる機構を除去したり、主要部品については一部を切除したり、溶接固定することで機能をなくしたものが無可動実銃となります。

 これらの処理に関しては、「再生不可能」にすることが大きな条件となります。たとえどんな加工を行っても発射機能の回復ができないように処理しています。特に銃身は鉄の棒を入れた上で溶接し、閉塞させていますし、ボルトは部分的に切除されていますので銃弾が発射できることはありません。

弊社が販売している無可動実銃は、全て海外で無可動加工を行い、完全に無可動実銃となった状態で輸入し、無可動加工が行われていることを一丁一丁すべて警察さんと税関さんに確認してもらってから販売しています。無可動実銃は「金属製の美術品」という扱いになります。壺や掛け軸、置物などと同じ、美術品です。可動する古式銃とは異なり、登録証などは必要ありません。

 一方、一階で扱っている無可動加工が施されていない古式銃については、各都道府県の教育委員会が交付する登録証が必要となります。登録証に記載されているデータと実物に差異がないかも厳密にチェックして扱っています。

無可動実銃は実射能力をなくしているが、実際に使用されていた本物である
1階の古式銃は機関部も作動する古美術品だ

――無可動実銃を扱っているのは、日本ではシカゴレジメンタルスさんだけなんでしょうか?

佐々木氏:専門店という意味では弊社だけですが、他の商品と一緒に美術品として扱うところはあると思います。継続的にまとまった数を輸入し、取り扱っているのは弊社だけですね。

――とてもユニークで貴重なビジネスだと思います。シカゴレジメンタルスさんはなぜこの無可動実銃を扱うお仕事を始めたのでしょうか?

佐々木氏:前代の社長が40年ほど前にアメリカから軍装品を買い付け、日本で販売するビジネスをはじめました。アメリカで販売されていた旧日本軍の品なども含め、ミリタリー関連の商品を買い付け、利益が見込めるところで販売するようになったんです。前社長は当時日本人で唯一、アメリカで銃器を取り扱うライセンスを保有していた人物でした。

 しかし「アメリカで日本人が銃器を売買する」というのは、人種の問題など非常に高い壁があったとのことです。他のバイヤーと同じ資格を持っているのに対等に扱われない。こういった苦労を乗り越えて、市場を開拓してきました。

実際に使われていたマニュアル、軍装品なども販売されている

――トイガンではなく実銃を手にしたい、という需要があった、ということでしょうか?

佐々木氏:やはり「本物への憧れ」というのは時代を超え、普遍的に存在すると思います。日本の法律に照らし合わせて合法で、安全に実銃を手にしたいという希望を叶えたいという所はこのビジネスの大きな動機です。実際そういったお客さんの需要に応えているからこそ、弊社は30周年を迎えることができました。

 そして提供している商品、無可動実銃に関して改めてですが、商品そのものと、ビジネスの安全性は強調しておきたいと思います。無可動化に関しては、警察さんや税関さんに不可逆的に発射機能を取り除いていることを確認してもらう。商品の安全性に細心の注意を払っています。だからこそ弊社は30年間ビジネスを続けられています。

――シカゴレジメンタルスさんで扱う、無可動実銃の価格帯はどのくらいですか?

佐々木氏:保存状態や、外観、希少性で価格は大きく変わります。低価格のものだと10万円以下のものもあります。現在在庫で一番安いM1カービンが税別で7万5千円です。これは第二次大戦以降イタリアで保管されていた米軍の銃ですね。他にも20万円くらいのもの100万円以上のものなど様々な商品があります。無可動実銃は高いというイメージは持たれると思いますが、なんとか価格を抑えている商品もあります。

第二次大戦でアメリカから持ち込まれ、イタリアで使用されていたM1カービン

――銃によっては、かなり程度の悪い場合などもあると思います。補修なども行うのですか?

佐々木氏:基本的に「そのままが一番価値がある」と考えているので、極力手を加えたりはしません。オリジナルの状態で保存し、お客様へ届けると言うことに重きを置いています。

――やはり無可動実銃はその“来歴”が面白いですね。市場に出まわる理由などバックストーリーがとても面白い。こういったところも工場で生産されるトイガンにはない魅力です。「この時期にこの銃が軍で放出される」といった情報網や、マーケットが世界では存在していると言うことですよね?

佐々木氏:兵器や軍関連の商品を扱う市場はアメリカやヨーロッパでは大きく、弊社は長年の活動でそういった市場に参加することができています。これらは前社長の努力に負うところが大きいです。少しずつコネクションを拡げていったとのことです。

 無可動実銃を購入していただくときは、こういった来歴をわかる範囲でお話をします。中古市場で様々な人の手を渡ってくる場合もあるので、仕入れた時には細かい来歴がわからない場合も当然のようにあります。ただ弊社が仕入れた際に、銃が入っていた箱にロシア語のシールが貼ってあったり、管理番号が打刻されていたり、来歴を調べるためのヒントがあるのです。これらを調べることで「この銃はどういったところから、どういう事情で来たのか?」が推察できることも多いです。

――佐々木さんがこれまでで特に印象に残っているエピソードはありますか?

佐々木氏:マキシム重機関銃は30kg近くの重さがあるため、車輪がついていて人力や馬で牽引して運用した兵器ですが、こちらをご購入いただいた際、お客様が引っ張って帰りたいと希望されまして、もちろん格好は見えない様にしましたが本当に曳いて帰られた事がありました。実際に行軍する感覚を体験されたかったようですね。

 結構商品を持って帰りたいというお客様は多くいらっしゃいます。銃はアサルトライフルでも重いですし、3万円以上のお買い物の送料無料でお送りすることも可能なのですが、ケースなどを用意なさって持って帰られます。「当時の兵士達はこれを担いで持っていたんだから」という、こだわりのお客様は多いです。

大型の銃器も販売されている

――現在、シカゴレジメンタルスさんで一番在庫が潤沢な銃はなんですか?

佐々木氏:ずいぶん在庫は減りましたが、AKMはまだ少し数があります。昨今の情勢もあって今後の入荷は難しいでしょうね。しばらくは貴重になると思います。

 他にはフィンランドの「スオミ KP/-31」という短機関銃の在庫に余裕があります。

――無可動実銃を専門で扱う会社として、シカゴレジメンタルスは唯一無二の存在ですが、佐々木さんがこのお仕事を続けているモチベーションはどういったものがありますか?

佐々木氏:やはり「無可動実銃ならではの魅力」だと思うんです。鉄砲は、ドラマや映画、フィクションにおいて、ヒロイックなものの象徴として出てきますが、実際の銃は工業製品という側面が強く出ているものです。イメージとしての銃は恐ろしさなどもありますが、いざ実際に本物の銃を持ってみると、その銃が作られた時代の工業技術、時代背景、その国の豊かさや、資源の豊富さ、工業水準の高さや低さ、そういったものを確かに感じられます。

 例えばイギリスの「ステン短機関銃」は、「とにかくすぐに銃を作らなくてはいけない」、という時代背景の下に生産された銃です。最低限の設備で、最低限のパーツ数で作られた銃なんです。時代や状況が違えば、もっといい銃をきちんと作れたはずなのに、そうできなかった。これはその時代に造られたステン短機関銃を持ってみなければ実感できない。逆に言えば「持てばわかる」のです。ステンを持って調べてみると、「これでもう完成ということにしちゃって良いの?」と思ってしまいます。そうした気づきを得ることできますし、正に歴史の一部を手にできるのです。

 また他の銃で、銃に刻まれた刻印を見ると1917年とある。第一次大戦に使われていた銃が目の前にあるわけです。その時代のものが、100年の時を経て目の前にある。これは実物だからこそ生まれる感慨だと思います。だからこそ当時のものをできるだけ手を加えずそのままお客様に届ける、ということが大事だと思っています。

 さらに最も重視することはその商品が安全で、合法であること。お客様が安全に無可動実銃を手にできる。そのことをこれからも最大の価値としてこの仕事をやっていきたいと考えています。お客様が安全に、安心して長く趣味を楽しめる。これが一番大事です。

――最後に読者へのメッセージをお願いします。

佐々木氏:弊社はブログやTwitterでも情報を発信していますし、お客様も紹介していただいてくれるのですが、やはり実際に見ていただかないと伝わらないところがあると思います。昨今のトイガンは精巧でリアルですが、無可動実銃はまた違うもので、実銃にしかない魅力があります。

 最もはっきり無可動実銃の魅力を伝えられるのは“持ってもらうこと”なんですが、現在店舗では展示物に対して手を触れることはご遠慮いただいております。しかしミリタリー系のイベントでは体験コーナーなども用意しています。ぜひそちらで無可動実銃をお手にとって体験していただければと思います。4月29日に開催されるサムズミリタリ屋さん主催で行われる日本最大級のミリタリーショー「V(ヴィクトリー)ショー」にも出展予定です。また4月は仙台のイベントもございます。ぜひ弊社の告知にも注目してください。

 無可動実銃は動かないため、物足りなく感じる部分も確かにあります。しかしプレイバリューとは異なる実銃ならではの圧倒的なリアリティがあります。ぜひ興味を持っていただければ幸いです。

――ありがとうございました

 とても内容の濃い取材だった。何よりも楽しいのは、佐々木氏が語ってくれる各商品のバックストーリーだ。実物を前にしているとそのストーリーの重みが違う。そして商品立ちはその歴史を証明するものなのだ。筆者は正直に言えば、新製品、最先端のものに惹かれるのだが、今回の取材で“古いもの”の良さに触れられたと感じた。

 作り手が様々な思い入れとこだわりに基づいて、最新の技術を使い、遊ぶことを考えて生み出したトイガンは魅力的な商品だ。一方、無可動実銃は、本当に武器として製造され、長い時とふとした偶然で発射機能を排除された形でシカゴレジメンタルスの店頭に並ぶこととなった。トイガンとは全く違う存在だが、「銃への憧れ」という意味でトイガンに近い存在である。ストックが、構造が、重さが、質感が、やはり独特だ。資料としての価値も高い。トイガンファン以外にも興味を持ってもらいたい商品である。