特別企画
「無可動実銃」と出会える日本唯一の専門店シカゴレジメンタルス
射撃機能を取り除いた"実銃"を、安全かつ合法的に手にできるガンショップ
2023年3月2日 00:00
- 【シカゴレジメンタルス東京上野本店】
- 場所:東京都台東区上野1-12-7(The シカゴビル)
- 営業時間: 12:00PM~19:30PM
「無可動実銃」というものをご存じだろうか? ジャンルとしては美術品となる。AK-47やMP5、M1ガーランドをはじめとした、アサルトライフル、サブマシンガンなど本物の“実銃”の実射のためのメカニズムを除去し、銃身を鉄製の棒で封印したものだ。当たり前だがその外観は実銃そのもの、無可動加工されているとはいえ、海外で使用されていた実銃をその手にできるのだ。
これらの銃はアメリカやヨーロッパの市場に出まわっているものを「シカゴレジメンタルス」が買い付け、無可動加工した上で日本に輸入、販売を行っている。各国の軍隊から放出されたものや、民間で使われていた狩猟用や保安用の銃などもある。様々な事情から市場に流れてきた銃を買い付ける。店舗の品揃えは第二次大戦で使われていたような装備から、試作銃など非常にバラエティー豊かである。
この無可動実銃を日本で専門に扱っているのが東京・上野と大阪市・中央区に店舗を構えるシカゴレジメンタルスである。今回は東京上野本店を取材し、無可動実銃の魅力を聞かせてもらった。
昨今ではトイガンも非常に精巧なものになっており、エアソフトガンはBB弾が発射できるし、モデルガンもその外観や雰囲気に強いこだわりを持って製作されている。トイガンに較べ、無可動実銃とはどんなもので、その魅力は何なのか? 無可動実銃を販売しているシカゴレジメンタルスはどんなお店なのか? シカゴレジメンタルス広報の佐々木勇太氏に話を聞いた。
全4フロアに無可動実銃やミリタリーグッズが満載のシカゴレジメンタルス東京上野本店
改めて「無可動実銃の定義」から説明していきたい。無可動実銃とは“弾丸発射にまつわる機構を取り除いた実銃”となる。この加工を具体的に挙げれば、「鉄製の棒が銃口から薬室まで挿入されて塞がっており溶接によって抜けなくなっていること」、「薬室は溶接によって塞がっており装填は出来ないこと」、「ボルトの一部若しくは半分を削除して使用不可能にし、機関部本体に溶接で固定されていること」などをはじめとして、発射機構を使えないように加工しているのだ。
日本に無可動実銃を輸入するためには警察と税関両方の許可が必要となる。シカゴレジメンタルスでは、海外の自社工場で銃の無可動加工を行い、それらを税関と警察両方の立ち合いの下、1丁1丁全ての銃に対して検査を受けて承認を得た後、店舗での販売を行っている。シカゴレジメンタルスが輸入した無可動実銃は、発射機能を一切持たない安全な金属製美術品として扱われるため、国内での販売についても制限などはなく、ユーザーは特に届け出などもせずに店舗で商品を購入し手にすることができる。
無可動実銃は、内部的な加工だけでなく、外観からも無可動実銃であるということが一目でわかるような加工が施されている。例えば、AKM(AK-47の改良型)の場合、本来は常にリコイルスプリングが作用しているため、ボルトキャリアが後退した状態では固定されないのだが、無可動実銃の場合は内部の無可動加工が確認できるよう、あえて後退した状態で溶接するといった工夫もしているとのこと。弾倉の取り外しや、ストックの折りたたみなど発射に関係ない部分の機能は確保されている。
説明を受けながら商品を見たが、やはり“実在感”が圧倒的だ。金属の質感、ストックのすり減り具合や、傷、それは実際に使われていた“本物”でしか出せない味だ。高価なモデルガンなどは金属を練り込んだヘビイウェイト樹脂に、実銃と同じようにさび止めを施す「ブルーイング」処理を行うことで、実銃さながらの外見を演出しているが、本物はそれとはひと味違う。様々な過程を経てこのお店までたどり着くにあたった、“物語”を感じさせる。
シカゴレジメンタルスは日本国内で無可動実銃の取り扱いを始めて今年で30周年に当たるという。日本に無可動実銃の文化を広めたいという思いで前社長がビジネスを開始してからは40年ほどになるとのこと。前社長はまず銃を仕入れるためのコネクションを確立させ、税関や警察との長期にわたる綿密な交渉の末、無可動実銃を輸入・販売するビジネスを立ちあげた。現在シカゴレジメンタルスには、古今東西世界中で使用されていた本物の銃が、安全な加工を施され店舗に並ぶようになっている。東京では以前は日暮里に店舗を構えていたが、2010年に移転して現在の上野での営業となったとのこと。
シカゴレジメンタルスでは世界情勢を受けてその品揃えが変わってくる。現在店舗に入っている中で数が多い商品の1つがAK系の自動小銃だが、ユーゴ内戦に介入したNATOが保管していたものが放出され市場に出てきたとのことだが、こういったエピソードを聞きながら展示されている無可動実銃を見るのは、たまらなく楽しい。
AKMがずらりと並ぶ、お客を出迎える2階
シカゴレジメンタルス上野店は全4フロア。1階は主に都道府県教育委員会交付の銃砲刀剣類登録証が付いた古式銃を販売・展示しているショールームとなっており、事前の予約が必要だ。それ以外の、2階、3階、4階の売り場は、誰もが訪れて、見ることができる。ただし無可動実銃を手に取ると言ったことは商品の保護の観点からできない。シカゴレジメンタルスはミリタリー関連の展示即売会などにも出展しており、この際に体験コーナーなども用意しているとのことだ。
実際に各フロアの販売品や特徴を紹介していこう。2階は入口にずらりとAK系の自動小銃が並んでいる。壁側にはウィンチェスターライフルなどちょっと古式の西部開拓時代や、南北戦争時代のライフルなども確認できる。奥の壁にはMP5など、比較的新しい銃も並んでいる。
サブマシンガンの品揃えが充実している3階、民間仕様のショットガンも
3階はよりコンパクトな銃が並ぶ。この階で品揃えが多いのは第二次大戦にソ連が使用していたサブマシンガン「PPSh-41」。円形の弾倉が特徴的だ。値段は110,000円~176,000円ほどだという。3階はサブマシンガンと、ショットガンが多い。軍用だけでなく、アメリカから来た民生のものもあるとのこと。
また、この階のガラスケースの中には「ダミーカートリッジ」が多数置かれている。薬莢内に火薬は入っておらず、薬莢尾部の火薬を発火させるための“雷管”は既に使用されているか、取り外されているため、弾薬として全く機能しなくなっているものだ。
この店舗では本物の材料を使った、火薬などの一切入っていないダミーカートリッジを購入できる。さらには重機関銃で使用する弾薬を束ねるためのベルトなども販売している。ベルトとダミーカートリッジを組み合わせた“弾帯”は、同じく無可動の重機関銃にセットすることも可能だ。
3階の商品でちょっと面白い経緯を持つのが1つのショットガンで、黄色いシールが貼られている。このシールなど詳細を調べていくと、実はこのショットガンはブルガリアの銀行の備品だったとのこと。装備の刷新で中古銃市場に流れ、この店で販売されることになったのだという。マーケットで流通する銃は様々な経緯を辿っているため、販売する業者が出自を追い切れていないものもある。メンテナンスの際などで刻印などを調べ、出自がわかることもあるとのこと。
銃のクリーニングキット、弾倉ポーチ、ホルスター、バッグなど軍の放出品なども販売されている。また兵士が参照するための銃のマニュアルなどもある。シカゴレジメンタルスは無可動実銃はもちろん、それ以外の様々な小物も販売している。さらにとても持ち運べないような大型の武器も加工を施して販売を行っている。
4階には重機関銃やヘルメット、さらにはメッサーシュミットの計器パネルも
4階は大型の商品が並ぶ。鉄条網を切るワイヤーカッターは戦車の備品だ。そして機関銃だ。第一次大戦で戦場を一変させたイギリスの「ヴィッカース重機関銃」も販売されているのだ。巨大な兵器はかなりの迫力だ。そしてこの兵器が稼動しているような戦場には近づきたくないな、という恐れも感じさせる。軽機関銃などの大型の武器も並んでいる。
「未使用品」の無可動実銃があるのにも注目だ。試作品や、何らかの理由でほとんど使用されなかったり、配備されなかった銃が、そのまま市場に出まわり、無可動加工を施されてシカゴレジメンタルスに来たという。展示されているアサルトライフルの1つは、「FN SCAR」という名称のFN社の銃だが、展示されている商品には米軍でトライアルに参加した際の「MK16 MOD0」という形式が刻印されている。本当に貴重な品だ。
展示されている帝政ドイツのヘルメットは、第一次大戦に使用されていた布製のもの。このデザインのヘルメットは元々は南米の牛からとれる革を使用した革製のものだったが、戦争で供給ルートが断たれ布製が出まわるようになったという。
もう1つ注目商品がケースの中に展示されている戦闘機のパネルである。この戦闘機は、世界最初の実戦配備されたジェット戦闘機「メッサーシュミット Me262」のものだという。戦闘機の知識を少し持っている筆者にとって、それがどれだけ貴重ですごいものか本当に驚いた。置いてある商品は計器板そのものはレプリカだが、使用されている計器類はすべて本物とのことだ。スゴイお宝である。
古式銃など明治以前の「古美術品」が並ぶ1階
そして1階だ。こちらに入室するには事前の予約が必要となる。1階は「古美術品」扱いの古式銃の展示・販売がメインとなる。古美術品は無可動実銃とは異なり、“日本刀”などと同じ扱いとなる。所有するためには各都道府県の教育委員会が交付する「銃砲刀剣類登録証」が必要で、「文化財」として扱われる。教育委員会への所有者変更届を出すことで、誰でも個人所有することが可能だ。
薬莢普及以前の「パーカッションリボルバー」は西部劇でもおなじみの銃だが、古美術品としての認定を受けているという。パーカッションリボルバーとは、シリンダーに火薬を詰め、その上に丸い鉛玉を詰めて、銃についているレバーで弾と火薬をぴったりとシリンダーの奥に詰めた上で火花が火薬に燃え移らないようにグリスで蓋をする。この状態でシリンダー尾部にパーカッション・キャップ(発火薬)をセット、この発火薬をハンマーで叩くことで鉛玉を発射する銃だ。南北戦争や、西部開拓時代に使われた銃で、もちろんリロードなどたやすくできない。薬莢が普及するのは開拓時代の後半なのだ。
実は明治初期に、日本政府が全国にある銃を管理するための一斉調査を行った歴史があり、各藩、すべての世帯に所有している銃を申請し、登録する動きがあった。このときの刻印がある銃は、古美術品としての認定を受けやすいとのことだ。ただ、シカゴレジメンタルスに展示されているものでも150年以上の年月を経ているものなので、実射性能が失われた美術品も多いとのこと。
1階で注目なのがウィンチェスターM66、通称「イエローボーイ」と呼ばれるライフルだ。機構部分が金色の砲金で製作されているところからこの名がついている。このライフルは拳銃弾を使用することから広く出まわった。
1階の商品は文化財でもあるため他のフロアに比べると高額な商品が多い。100万円から300万円ほどの銃や、日本刀が展示されている。「イエローボーイ」は保存状態も非常に良く、資料的価値も高いため、500万円を超えるとのこと。お店を訪れる際は、1階フロアも見ておきたいところだ。1階だけはフロアの見学に予約が必要なので、気をつけたい。
今回紹介できた内容は店舗の魅力のほんの一部だ。次ページではシカゴレジメンタルスの成り立ちや、無可動実銃の魅力など、ディテールに踏み込んだインタビューをしていきたい。