特別企画

実物大動くガンダム、ラストシューティング! 3年3ヶ月の稼動を終える「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA GRAND FINALE ~To the New Stage~」レポート

【GUNDAM FACTORY YOKOHAMA GRAND FINALE ~To the New Stage~】

3月31日開催

会場:山下ふ頭

 Evolving Gは2020年12月19日よりオープンした「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」の最終日となる2024年3月31日、最後のイベント「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA GRAND FINALE ~To the New Stage~」を開催した。

 会場には1,500人のファンが訪れ、最後の「動くガンダム」の勇姿を見届けた。なお、2020年12月19日から2024年3月31日までの約3年3ヶ月の来場者数は延べ175万人以上としている。最終日の本イベントでは最後の起動実験及び今回のみの特別演出も行なわれる。また、本イベントの内容についてはYouTubeでもライブ配信された。アーカイブも残っており、現時点では視聴が行なえる状態で公開されている。

【GUNDAM FACTORY YOKOHAMA GRAND FINALE~To the New Stage~】
会場の山下ふ頭「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」
ふ頭の手前には山下公園があるが、公園からでもガンダムの勇姿は確認できるくらい、全長18mのサイズはデカい
会場の様子。1,500人のファンで溢れんばかりの賑わいを見せていた

「ロボットには足があった方がいい」、3年間でかなり進化したガンダムの"演技"

 イベントはステージ両端に設置された大型ディスプレイを使用して、「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」開催中の振り返り映像からスタート。横浜市が実施したイベントなどの想い出を振り返ったほか、観光名所として動くガンダムを見に訪れた海外からの観光客の感想や、ガンダムをあまり知らない子供たちが大興奮していた様子などが紹介された。幅広い層からの支持があった事が実感できるムービーだった。

 次にトークセッションとして、GGC(ガンダムグローバルチャレンジ)クリエイティブディレクターの川原氏、テクニカルディレクター石井氏、システムディレクター吉崎氏の3人とメディアアーティストの落合陽一氏が動くガンダムについて語った。

 メディアアーティストの落合氏は、“みんなの友達”、1人の“ガンダム好きっ子”として登壇。自身でも動く展示物をよく作るという体験なども交え、「こういった動く展示物で困るのは保守・運用で、2~3日ならともかく3年3ヶ月もの間、しかも立地上、海からの潮風で関節などが傷みやすい環境でよくやったなぁと思っている」と語った。

 これに対して石井氏は「当初は1年の予定だったが、コロナ過の影響などで会期の延長などもあり、気が付けば3年が経過していた。中味が産業用の機械で固めているというのもあり、大きなトラブルなく動いてくれたのは感謝しかない」とコメントした。なお、モーターやギアなど、故障した時に備えて準備はしていたが、ほぼ3年間使うことなく乗り越えたという。

ステージ両端の大型ディスプレイでこれまでのイベントなどを振り返った
本日イベントにて登壇したGGC(ガンダムグローバルチャレンジ)クリエイティブディレクターの川原氏、メディアアーティストの落合陽一氏、富野由悠季氏、テクニカルディレクター石井氏、システムディレクター吉崎氏
登壇中の様子

 ここで石井氏から落合氏に対して、「今回の『GUNDAM FACTORY YOKOHAMA』の動くガンダムから、何かクリエィティビティが喚起された事はあるか」との質問が出ると、落合氏は「オープン前に見させてもらったが、動いている物と言うのはすごくインパクトがあると感じた。また、自分でも2025年の博覧会に向けて動く建築物を作っているので、その凄さを実感する」と率直な感想を語った。また自身でも仏像制作などを手掛けている点について触れ、「巨大な人型を見ると、人間は面白いスケール感で物を考えるのだなと感じた。例えば奈良の大仏が動き出したらどうしようなど、そのようなイマジネーションが喚起された」とした。

 石井氏はこれに返す形で「頭を付けるのは最後の最後の工程。実際のコンピューターは別の場所にあるので、頭自体は何も入っておらず空っぽなので、立場的にはもっと動作のテストなどの開発に注力したかったが、式典で実際に頭を乗せてみると、その瞬間にガンダムになる。機械から人型になる事で存在感が大きく変わったのでそこは(落合氏と)同じ感想を持った」とした。

 ここで落合氏は吉崎氏の操作により、ガンダムが目線を向けてくる点について触れると、吉崎氏は「目線の話ですね?超こだわりポイントです」と自信たっぷりの表情で力強く語る。

 こうしたシーンのエピソードとしては、川原氏がシーン設定を行ない、それに合わせて様々な方の演出、脚色を通してから吉崎氏の元に届くので、それを見て吉崎氏がここは真っすぐ前を見て、自分で考えて動いているんだな、とかお客さんと語り合ってるんだな、など考えながら見渡したり、下を向くなど実際の動作をさせているという。

 川原氏は3年間で吉崎氏のガンダムの“演技力”がかなり向上している点について絶賛。特に手先の動作がかなり器用だという点について触れると、吉崎氏は「川原氏の顔色を伺いながらやっていた。メーカーなどと相談しながら、安全な許容範囲内で動作するように進めておいて、最後の最後で川原氏への報告と同時に僅かに当初の予定より早い動作にするなどを繰り返す事で、徐々に当初予定以上の動作ができるようになっていった」という裏話も披露した。

 ここで、動くガンダムの演出にはいくつかの種類があるが、ガンダムに搭載する自立型AIの絡んだ演出の意図について聞かれると川原氏は「RX-78F00は謎のガンダムという設定になっているが、そこに搭載されてたであろう自立型AIに“とある方”の人格が降りてくるという設定を考えていたので、それが今夜披露されるかも」と含みを持たせる形で回答した。

 今回のGGCを終えて、次は何をやってみたいか、具体的なビジョンはあるかという質問に、石井氏は「ガンダムが好きな理由は搭乗型ロボットだからだったが、今回は安全面や開発期間などから搭乗型にできなかったので、次こそは搭乗型にチャレンジしたい。そして個人的にはジオンの方が好きなので動くザクに挑戦したい」とした。

 吉崎氏は「常に巨大ロボットを作りたいと生きてきたので今回の参画は喜びだった。そして実際に作ってみると見えた事があって、目標がはっきりしたのは非常に大きい。やってみて分かったのはエンジニア目線で見ると、足は必要だなということ」とし、会場の笑いを誘う。

 川原氏は「次はもうちょっと異なる演出空間で、ガンダムを中心としながら色々な演出をやってみたい」とした。

 こうしたディレクターたちの話を聞いたうえで、落合氏にどのような物を見てみたいか聞くと「バーチャルリアリティーが大分よくなってきているので、そういった物とコラボレーションすることで、もっと速度の限界のない物も作れるのかなと思った」とした。また「動いている物が好きなので、動きに加えてLEDなどによる光の演出も加えて、サイコフレームが光って動くといった流動的な物がほしい」とした。

 最後は会場と配信視聴者に向けて、感謝の言葉を投げかけてトークセッションは締めくくられた。

起動前の富野監督の挨拶、「皆のおかげで実現できた」

 続いてはいよいよ最終起動実験が行なわれるのだが、その前に機動戦士ガンダム総監督の富野氏からも挨拶があった。「機動戦士ガンダムという作品を地方のテレビ局から発信させていただいて45年経ちました。その間に作品としては色々と紆余曲折がありまして、しかも20年経ったところで色々考えるところがありまして、その後のシリーズ化は全て若い世代の方に任せて現在に至っております」とシリーズについて語る。

 続けて「皆さんがすでにご存知の通り、アニメとか漫画、ノベルスだけではなく、ガンプラと呼ばれるようなグッズが文化的な拡大を持って展開するという様相を社会に対してもたらしました。今、とてもめんどくさい言い方をしましたけれども、その背景があったおかげで大仏様のようなこの造形を実際に建設することができて、おかげさまで工学的な問題を現実的に実験することができ、そういう機会を手に入れられたということで、本当にいい経験をさせていただきました」と実現した事について感謝した。

富野氏より実験開始前の挨拶が行なわれた

 また「具体的な学びというものがあったという意味では本当に有意義なイベントだったと思っています。このようなことができた1番重要なことは、この場所(山下ふ頭)を貸していただけたからできたんです。この場所がなければ、実を言うとこういうものは作れませんでした。そういう意味で、まず、ここの場所を提供することをお許しいただいた関係各位の各機関の協力に対しては、本当に心から感謝いたしいたしております」とし、山下ふ頭が借りれた事への感謝を述べた。

 そして「その上で、この計画を技術的に実現するために、いくつもの会社のご協力を得ました。そういう関係会社には本当に敬意を表しますと同時に、技術的なことを克服して来ましたスタッフ、先ほど登壇されました3人の方だけではないんです。かなり膨大な数のスタッフのがまさに汗水流した努力があったおかげでこういうものが実現できました」とし、各関係者にも謝意を述べた。

 加えて「もっと重要な話があります。このようなプロジェクトが実現できたのは、今日皆さんここにいらしてらっしゃるような皆さん方がいたからですし、今回配信でこのイベントを見てらっしゃるファンの方がいたおかげでこういうことが実現できました。そういう意味では“絵空事”でない経験をさせてもらいまして、本当に社会的な勉強もできたと同時に皆さん方のお顔を拝見することもできて、これ以後、その技術というものをどういう風に行使していかなければならないかっていうことをそれぞれの立場の方が検討することができたっていう、そういう場所を手に入れることができましたので、本当にありがたく思っております」とファンに向けても感謝の意を示した。

 ここで含みある言い回しで「1つ問題がありまして、今日これからも一応稼働させてもらいますが、昨日あたりもちょっときちんと動かなかった。ええ、大変だったんです。今日も一応ファイナルだから無事に終わらせるつもりでおりますが……機械モノです。 何かありましたら笑ってやってください」と意味深な発言をして見せた。

 最後に「アニメでしか物を考えることができなかった僕のような立場の人間が、リアリズム、つまり社会っていうもの、それから皆さん方がいるからっていうことで、こういうことができたっていうことも本当に学習させていただきました。そういう機会を手に入れさせていただきまして、本当にありがたく思います。本当に心から感謝いたします。ありがとうございました」とし、脱帽して観客に向けて頭を下げた。

起動実験中に緊急事態発生?謎の自立型AIの正体とは?

 いよいよ最後となる起動実験がスタート!全ての照明が暗転した会場にはガンダムを収納する外壁部の薄暗く青いLEDのみがぼんやりと点灯する中で、最終起動実験を行なうアナウンスが響く。会場に訪れたファンたちは見学にやってきた人たちという設定でナレーションが進められ、カウントダウンが開始。カウントダウンとともに青色LEDは段々と明るさを増し、カウントに合わせて点滅して、臨場感を高めていく。

【「動く実物大ガンダム」、最後の起動実験!】

 カウントダウンを終えると薄暗い中でガンダムを固定していたストッパーが解除され、パイロットとの会話を経ていよいよ起動である。音声とBGM、特にガンダム第1話でも使用されたガンダムが初めて大地に立った時のBGMとともにガンダムに備える各LEDが点灯していき、ガンダムが動き出す。その後はBGMに合わせて白色のスポットライトが当たるなど、見ているだけでテンションが上がる。

 その後は、過去の起動実験中にも発生した「RX-78F00」に宿った謎の自立型AIによる暴走か、と思われるような演出や、謎の自立型AIとパイロットとの会話など、背景設定も絡めたストーリー性を感じさせる演出が展開し、単に動くガンダムを見ているだけ以上の感慨深さがあった。ここではその詳細については省くので、興味がある人は動画などで確認してみてほしい。

 起動実験の物語が一通り終わると、その後は花火とドローンによるアートショーが展開し、最後の起動実験を盛り上げた。最後は起動実験を終えたガンダムが静かにその灯を消すことで、3年3ヶ月続いた起動実験は無事に幕を下ろしたのである。

起動実験中に緊急事態!
自立型AIとパイロットとの会話を交えつつ静かに立ち上がるガンダム
空には花火だけでなく、アニメの名場面などがドローンアートで再現された
ドローンアートによるガンダムはこの後、動くガンダムと同じように動いて見せた
最後はガンダムのバックに大量の花火が派手に上がった
起動実験を終えたガンダムは本体のLEDランプなどが全て消え、動作を停止した

「ジャンプさせろと言ったら袋叩きにあった」最後に"富野節"炸裂

 閉幕後、メディア向けの囲み取材も行なわれた。ここでは再び富野氏が登場したほか、ガンダム40周年テーマ曲「THE BEYOND」を手掛けたLUNA SEAのSUGIZO氏、劇場版「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」の主題歌などを務める西川貴教氏も加えて3人への代表質問にそれぞれが回答する運びとなった。

 イベントの感想について富野氏は「いや、こんなに素晴らしいものを見せていただけると思わなかったので、本当夢のようで嬉しいですっていうのはほとんど嘘です」といきなり富野氏らしい一言からスタート。

 続けて「一番覚えてるのは、この企画が始まった時にジャンプくらいさせろって言いました。ええ、技術員たちから本当に袋叩きにあいまして、現実的にはこんなものしかできないんだよっていうことで、ずっと我慢した数年間を過ごしましたが、嬉しいこともあるのは本当に僕よりもずっと若い方、つまり子供たちが本当に喜んでくれて、こういうものを自分たちはまた追いかけるぞっていう顔を見せてもらえて、そういう会場を設定してくれたということは本当に嬉しいと思いました。“絵空事”でしかものを考えてこなかった人間が、具体的に社会の中にこういうものを作ってもらうことによって何が起こるかっていうことを教えてもらった。この7、8年っていうのは本当に勉強させてもらいまして、そういう意味では、なんか少し大人になったのかなっていう実感を出してもらっているというのが年寄りからの感想です。本当にこういう機会をいただきまして、ありがたく思っています」とした。

フォトセッションでは落合陽一氏に加えて、囲み取材に対応してくれたSUGIZO氏、富野由悠季氏、西川貴教氏、さらに小室哲哉氏の姿も!
囲み取材の様子
ガンダムと並ぶ3人
囲み取材前の富野氏の様子

 西川氏は「昨今はAIだったりVRだったり、そういった技術は進んでいるんですけど、やっぱり実際に物を作っていく日本の物づくりの素晴らしさっていうのはきちんと踏襲されて行くべきだと思いますし、そういったものの大切さをこういったところから我々は学ぼうと思う事ができたと思う」とした。

 SUGIZO氏は「感慨深かったのは、10年前にこの動くガンダム人生が始まった頃から、この最終地点にこうやって、しかも10年前では到底考えられなかったAIやドローンなどの技術で、今、最も時代を象徴するエンターテイメントを見せてもらった」とした。

 最後に今、そしてこれからガンダムに期待することについて聞かれると、富野氏は「舞台では言い忘れてましたが、ガンダムは実を言うと“帰るところがある”んです。 だから、これが実のファイナルではありません。それで、ネクストっていうものを必ず開拓してくれるのは、ガンダムシリーズだということは確信しておりますので、そういうものがまた新たに発生するように応援してくださるとありがたく思います」とし、別のプロジェクトが進行しているような含みを見せた。

 西川氏は「監督もおっしゃってましたけど、こういう実物大のガンダムを見て、小さな子たちがものづくりをやりたいとか新しいことに挑戦してみたいって言ってくれるその姿が、本当に素晴らしかったのでそういったものを我々も、今後またいろんなことを通じて感じてもらえるようなこと、その勇気をたくさんいただいたような感じがしました」とした。

 SUGIZO氏は「僕も同意で、ガンダムは子供たちにこれだけ素敵な影響を与えてきた。子供たちはこのガンダムを見て夢を持った。今日このグランドファイナルを見させてもらって、さらに未来の希望を感じました。同時にガンダム45周年、まだまだこれから走り続けられるっていう、子供の頃から僕が見てきた最強のエンターテイメントであり、このカルチャーがまだまだこれから、よりパワーアップしてくることに僕も楽しみです。1ファンとして 今後とても期待しています」として、囲み取材を締めくくった。

実物大動くガンダムは復活して欲しい、よりたくさんの人に見て欲しい!

 個人的には、実物大のガンダムは2009年の「機動戦士ガンダム」30周年企画の一環として、お台場の潮風公園にて全長18mの実物大ガンダムが建造されて公開された事が印象深い。筆者も見に行ったが、観光地であるお台場に、ロボットアニメのロボットが1/1スケールのリアルサイズで展示されるのは、イマジネーションのみならず、様々な感覚が刺激され、シンプルな感動以上の何かが胸の奥からこみあげて来たことを覚えている。

 その後、2014年から40周年に向けてのプロジェクトの一環として「Gundam Global Challenge」が始動し、2020年12月に無事完成を迎えた。当初は1年の公開予定だったが、コロナの影響などもあり、開催期間の延長などを経て3年以上をこの地で過ごす事となった。

 筆者はこの3年間、動くガンダムを見る事はかなわず、今回が最初で最後のガンダムとなったが、やはり実際のメカとしての挙動の細部までじっくり見るなら昼間の方がよかったと改めて後悔した。恐らく筆者と同様、いつまでもやっていると錯覚して見に来なかった人も多くいるだろう。もちろん今回のような夜間の暗闇を活かしたライトアップの演出も心地よいビジュアルとなっていたので、会期中に昼と夜の2回来ておくべきだったと改めて痛感した。

ライトアップで各部位が光るのも魅力
全長18mもあるため、会場外からでもバッチリ撮れるのは楽しい
終了後の「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」を眺めながら、またどこかで展示される日を願うのであった

 今回建造されたガンダムの今後の行く先などについては、現段階では確定情報はない。富野氏の意味深な発言や、西川貴教氏がX投稿にて「GUNDAM FACTORY SHIGA」などと呟いているが、少なくともこちらについては当然冗談と思われるので、今後、別のどこかで再度開催される事があるなら、その時こそは2回以上足を運びたい。そう思わせてくれるだけのインパクトや圧倒的なスケール感が、リアルな等身大ロボットのビジュアルとその挙動には感じられると思う。

 ともあれ3年3ヶ月もの長い間、お疲れさまでした!