特別企画
第15回「遊戯王」宇宙最強カード列伝! その存在は“最強にして最悪”……遊戯王を牛耳るゴキブリ「増殖するG」は必要悪なのか!?
2024年9月17日 00:00
「MD(マスターデュエル)」環境であれば「ティアラメンツ」デッキも「G受けの良い」展開系テーマの代表と言えるだろう。展開の基盤となる「ティアラメンツ・キトカロス」の融合召喚に合わせて「増殖するG」を打っても1枚しかドローできず、その場合は展開プランを諦めて妨害能力のある罠カード「壱世壊に奏でる哀唱」をサーチすれば最低限の妨害を用意可能な受けの強さが魅力的だ。相手ターン中に「壱世壊に奏でる哀唱」を使って「ティアラメンツ・キトカロス」を墓地に送れば大量の墓地肥やしから相手ターン中に展開が可能になるため、「増殖するG」の効果を切らした上で妨害を用意できたりもする。
実際直近で開催された遊戯王の世界大会「WCS2024」のMD部門では大会ルール的にも立ち位置の強い「ティアラメンツ」デッキの使用率が非常に高く、「増殖するG」を受けてから展開をシフトする光景が何度も見受けられた。
「増殖するG」の有無で展開デッキの中でもコンパクトに展開や妨害を用意できる所に強味を見出せることが1つのゲーム性となっており、遊戯王を面白くしている要因になっているともいえるのだ。
また「増殖するG」によって生まれる独自の駆け引きがゲーム性を深めているのは事実としてある。
例えばバトルフェイズを行なえる後攻1ターン目以降の「増殖するG」に関しては、相手をそのターンにキルできるのであればその後の方針として、相手にドローされるとしても展開を続ける事が視野に入るのだ。
その際に重要になるのが“無駄な特殊召喚をしない事”だったり、ドローされる中で“相手の手札誘発による妨害を自分の展開が何枚貫通できるのか”という計算だったりと、非常に高度なプレイと駆け引きが要求されることになる。他にも自分のデッキがロングゲームを苦手とするタイプの場合は無理やりにでもキルを狙うムーヴをデッキ内に投入しておいたり、見えてるカード的に相手のデッキが時間をかけても大丈夫だと判断できる場合は逆にあえて何もしなかったり等……「増殖するG」によって生まれる思考の攻防には独自の面白さが存在しているのだ。
他にも「増殖するG」が絶対に存在し続けるからこそ生まれる“使う側の弱点”も存在しているのが面白い。それが“デッキ切れ”だ。特殊召喚を続けることで、相手に何度もドローをさせてデッキを削り切るという手段である。
現代遊戯王はやろうと思えば無限ループを駆使して無限に特殊召喚を行なう事も容易なため「増殖するG」に対するメタとしてデッキ内にそのギミックを入れるプレーヤーも存在していた。何よりも恐ろしいのがワンチャンそんな無限コンボをしなくても現代カードのパワーなら相手のデッキ分(基本40数枚)を引き切らせるほどの特殊召喚を行なえるテーマがチラホラ存在するという事だろう。勿論その間に相手からは引いた手札誘発の妨害を受ける事になるので成功するかはギャンブルにはなるが、「増殖するG」の対抗策として非常に有効な手段だったりする。
どの道「増殖するG」を撃たれ中途半端な展開でターンを渡しても勝てないと判断した場合は、可能性に賭けて展開を走り切るという選択を考慮するのも戦略の1つになっているのだ。
「増殖するG」の存在は健全か不健全か……その答えは!!!
ここまで「増殖するG」が生み出したゲーム性と駆け引きの面白さを紹介した上で、筆者の結論を述べさせて頂く。
「増殖するGの存在は“かなり不健全”!!! ただし“ただ存在を消すだけだともっと不健全”である!!!」これが筆者の持論だ。いや、正直どんなに面白い駆け引きが生まれてるとは言ってもね、多くのプレーヤーはもう「増殖するG」ありきの遊戯王を10年以上やってるのよな……。個人的な意見にはなるが、面白いけど流石にそろそろ多少の変化は欲しいと思っている。
それにどんなに特有の面白さがあった所で、「増殖するG」が存在する事でゲームにならないゲームが多数発生している事も事実なのである。
先行ハンドの中に対抗策がない状態で「増殖するG」を撃たれればほぼ負けが確定するパターンも少なく無く、何より酷いのは先行で最強展開していたプレーヤーが「増殖するG」を追い打ちして来た場合だ。もう相当な事が起こらない限り、勝負がひっくり返ることはない。言ってしまえば「エクゾディアよりも勝率の高いEXWINカード」と言っても差支えないほど、実質的に「増殖するG」がゲームエンドに持っていく場面が多すぎるのである。
トーナメントシーンを想定しないカジュアル環境の場合においても、最近では手札誘発の存在は受け入れられ始めたが「増殖するG」だけは入れないパターンがあるほど、ある種のエチケット・暗黙の了解として外される事も珍しくない。
ではTCG環境のように「増殖するG」を禁止カードにすれば解決するのかと言われれば、絶対そうならないのが現状の難しいポイントとなっている。
前述した通り現在のOCG環境は「増殖するG」ありきでカードを作り続けた結果、展開力のインフレが凄まじいことになっている。もう並大抵の手札誘発を1~2枚を打つ程度では余裕で展開を貫通される事は当たり前で、もっと言えば「デモンスミス」や「アザミナ」のように誘発を事前にケアする妨害モンスターをコンパクトな展開で用意できるギミックまで増え始めている。
実際直近で行なわれた「WCS2024」のオフィシャルカードゲーム部門では、OCGとTCGのリミットレギュレーションが組み合わさった結果、「増殖するG」が禁止な上で「デモンスミス」やほぼフルパワーの「ユベル」を使用できたため、先行プレーヤーが手札誘発を2~3枚貫通して展開を押し通すゲームが数多く見受けられた。
今回の世界大会の結果を鑑みるに、現代遊戯王は今「増殖するG以外相手の先行展開を確実に抑制できる手札誘発が無い」状態に陥り始めているのである。この状態で「増殖するG」だけが禁止になったら……どうなるかは想像が容易いだろう。存在しているとゲーム性が縛られるが、規制をかけてもゲームが崩壊しかねないという、何とも気難しい存在に「増殖するG」はなってしまったと言える。
しかし、この状況は最近生み出されたカード達によって打開され始めていたりする!
新時代の手札誘発シリーズである「マルチャミー」や「ドミナス」シリーズの登場によって「増殖するGの後任になり得る手札誘発」が生まれ始めたのだ。現状どちらのシリーズも特定のタイプのデッキにしか刺さりが良く無かったり、そもそも投入されるデッキの種類が限られるなど一種の縛りが見受けられるが、能力自体が手札誘発の中でも強力な事でリスクとリターンが見合った素晴らしい調整のカードとなっている。
筆者の個人的な展望はここから先、この系統の手札誘発シリーズが増え続けて将来的に「『増殖するG』が規制を受けても他の手札誘発の選択肢が沢山あるから大丈夫」という段階まで調整できれば、晴れて「増殖するG」が抱えていた問題は解決されると思っている。
高速化した遊戯王を調整するのはとんでもなく至難の技となるが、直近のカードを見るに今後行なわれる公式の環境調整には大いに期待して良いだろう。
という訳で今回は遊戯王の中でもトップレベルで訳ありなカード「増殖するG」について現状を振り返ってみた。
何だか最後は少しネガティブ内容をツラツラと書いてしまった気もするが、下手に嫌いにならず特有の面白さと難しさを秘めたカードって事で1つ丸く収めてくれると嬉しい。
実際このカードに殺された事と助けられた事が半々なプレーヤーがほとんどだと思うので、今後も気兼ねなく撃って撃たれてを楽しんでほしい。今後もその生涯が終わるまで役に立ってもらうぞゴキブリィ!!!
こんな感じで今後も(色んな意味で)ヤバすぎるカードの紹介記事を書いていく予定なので、その時はチェックしてくれると嬉しい! それではグッッッッ爆アドォォォ!!!
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