特別企画

第15回「遊戯王」宇宙最強カード列伝! その存在は“最強にして最悪”……遊戯王を牛耳るゴキブリ「増殖するG」は必要悪なのか!?

【増殖するG】

2011年9月17日 登場

 爆アドォォォ!アドえもんです!筆者は普段YouTubeにて遊戯王を中心にカードゲーム動画を投稿している愉快でうるさいオジサンだ。

 今回もウルトラ歴史を持つ「遊戯王」カードの中で特に名高い連中を生まれた日に合わせて紹介する企画「宇宙最強カード列伝」第15回をやっていこう! 今日のカードは皆が絶対お世話になった事がある“あの虫さん”だ!

 現代遊戯王では必需品となった手札誘発の中でも最強の効果を持ち、この十数年間で片時もトーナメントシーンから消える事が無かった圧倒的強者である。「遊戯王の最強カードはマジシャンでもドラゴンでも無くゴキブリ」と揶揄されたことがあったが、プレーヤーからすれば笑い事ではないレベルで遊戯王を(良くも悪くも)歪め、環境を牛耳っている存在だ。

 13年前の今日、2011年9月17日発売「EXTRA PACK Volume 4」にて登場した「増殖するG(増G)」が本日の主役カードになるぞ!

お ま た せ

プレーヤーA:「チェーン増Gで。通りますか?」
プレーヤーB:「通ります。ターン終了で」

 直近の数年間で何回このやり取りを聞いてきたことか!!!!!!!!!! 最強カード列伝の中でも本当に今までも現在もこれからも「最強」と呼べる存在が登場だ!

 「単純すぎる能力故に最強」という現代の遊戯王にあまりにもマッチしたその能力で何人ものデュエリストを助け、殺戮の限りを尽くしてきたゴキブリなのである。

 このカードの存在が遊戯王を大きく歪めていると力説するプレーヤーも少なく無く、実際トーナメントシーンではこのカードに対して“どれだけ耐性があるのか”がデッキパワーの指標の1つになるレベルであり、間違いなく現代遊戯王を象徴する1枚だと言っていい。

 今回は改めてこの「増殖するG」の存在がどれほど遊戯王というゲームに影響を与えてしまっているのか、その歴史や背景を振り返りながら彼の存在は“正義”なのか“悪”なのか徹底的に討論してやろうと思うぜ!

特殊召喚したら1ドロー! ただそれだけが強いと言われた「増殖するG」の歴史

 もう今更説明する必要も無いとは思うが、一応改めて「増殖するG」のスペックを確認していこう。

 地属性・昆虫族のレベル2モンスターで、お互いのターンに自身を手札から捨てる事で「相手がモンスターを特殊召喚する度に1ドローする」という効果をそのターンの間、適用する事ができる。

 1度効果の発動が通るとドローを行なう処理は「効果処理」となるため、一般的な無効妨害などでは防ぐことができない。現代では対策カードが増えた事でピンと来ないかもしれないが、フリーチェーンでどのフェイズ・どのタイミングでも効果を発動できる自由度の高さから、勝負の序盤では発動を止める方法も限定されるという強味も持っている。

 遊戯王における手札1枚の価値は他ゲームの比にならないほど重たいという話は以前したので割愛するが、その中で相手に大量の手札アドバンテージを与えてしまう可能性があるこのカードが弱い訳がなく、発動すれば実質的に1ターン相手の行動を抑制およびスキップできる能力と言っても過言ではないのだ。記事冒頭の「プレーヤーAとプレーヤーBのやり取り」の例はここに繋がってくる。「増殖するG」は強力故に、打たれたプレーヤーは何もせずにターンを終了せざるを得ない状況になる事も少なく無いのだ。

 遊戯王における手札1枚の価値についてはこちらの記事で紹介している!

今となっては全てのデュエリストが知っているであろう効果。対面のデッキ次第では実質EXターンを貰える効果を手札からいつでも発動できると考えたら化け物すぎる

 その歴史を辿ると元々は海外先行カードとして生まれた。日本に来日した2011年はエクシーズ期ではあるものの、現代のような誰もが超展開を行なうゲームではなく、汎用的な罠カードを取り入れた動きの少ないデッキが環境で活躍していた。その事もあってか、当初は“環境や対面によっては入る”位のサイドデッキ向けカードだった。

 「代行天使」→「ゼンマイ」→「聖刻」などのテーマが活躍する時代の中では、一定の活躍はしつつも同じ手札誘発だとスローテンポのデッキにも刺さりが良く万能な「エフェクト・ヴェーラー」の方がメインボードに優先されていた印象があるほどである。

 しかし時代が進むにつれて遊戯王のゲーム性はドンドン高速化し、エクシーズ後期では1ターンに何度も特殊召喚を行ない強固な盤面を形成するのが当たり前になる。さらに環境が大きく変化した第9期に差し掛かると、相手の行動を妨害するカードを大量展開で用意する現代の“先行制圧ゲーム”へと大きく姿を変えた。この頃を境に、ゲーム性が特殊召喚に依存し始めた事で「増殖するG」は必須カードへと変化していったのだ。

個人的に「増殖するG」のメインボード採用が常駐化するイメージが着いたのが「征竜」環境が皮切りなイメージ。第9期まで時代が進むともう現代と同じぐらいの感覚で増Gを打っていた記憶があるなぁ……
ちなみに、「~~するG」というカードは複数存在し、最初にカード化された「黒光りするG」に次いで2番目に登場したGである

 という事でそこからの活躍はもう現代に至るまで何も変わらない。すなわち2014年初頭から始まった9期以降の遊戯王は“特殊召喚をするのが当たり前”の環境に突入するため「増殖するG」が休めるタイミングは現代までほぼ存在しなくなる。

 リミットレギュレーションに関しては、第10期となる2017年10月1日の改定にて1度準制限カードになっているのだが、その3カ月後には爆速で制限解除されているのが特徴的だ。この結果が示す事として、もう当時の段階で「ほぼ全てのデッキに投入される最強のメタカード」でありながらも「増殖するGが無いと展開力の高いカードが多すぎてパワーバランスが取れない」という事態に既になっていたという事がわかる。それ以降「増殖するG」が規制を受けていない事からも察して頂けるかと思うが、現行の日本遊戯王環境は“この状態が一生続いている”と言っていい。

 この規制を受けていない状況は「増殖するG」を語る上で重要な点になるので、ぜひ頭の片隅に入れておいてほしい。

 そして面白いのが生まれ故郷であるアメリカの「遊戯王TCG」環境では「増殖するG」が2016年に準制限カード、2017年に制限カード、2018年には禁止カードにまで至っているという事だ。

 生まれ故郷で禁止カードになっているのは少し面白いが、この「増殖するG」の禁止化を境に日本遊戯王環境であるOCGと、海外環境であるTCGは全く異なるゲーム性を歩む事になる。簡単に言えば「増殖するG」を3枚使用できるOCG環境は今までと変わらずに展開力をインフレさせる形で新たなカードが作られているが、TCGの場合は日本で許されてる展開カードや展開のゴールとなる妨害カードにいくつもの規制が入る形になっている。

 もちろん一概に原因がそれだけとは言えないが、結論を言うと「増殖するG」があるか無いかで他のカードの存在(規制の状況)が左右される事態にまで陥っているレベルで「増殖するG」は遊戯王というゲームに影響を与えているのだ。

直近の海外リミットレギュレーションで大きな話題となったのが「デモンスミス」や「アポロウーサ」などの規制だ。他にもTCG環境では展開のゴールでよく使われる「フルール・ド・バロネス」や「ヴァレルロード・S・ドラゴン」が既に禁止になっているので、展開力の高さで最終的に汎用妨害になってしまうカードが軒並み規制を受けている

 そんな海外環境を大きく分かつ原因にもなっている「増殖するG」だが、日本では“まだまだ元気に3枚使用できる”ので基本的にはどのデッキにも3枚投入され続けている。

 相性が良かろうか悪かろうがデッキに入るカードなので、相性の良いカードをオススメする事自体が難しいのだが、強いて言えば最近は様々な方法でこのカードへのアクセスが可能になってきているのがオシャレポイントになるだろう。

 例えば昆虫デッキであれば「共振虫」から「応戦するG」を経由する事でサーチが容易だったり、「スプライト」であれば「ギガンティック・スプライト」で場に出力した「増殖するG」をデッキ的にも相性の良い「鬼ガエル」でバウンスする事で実質的なサーチが行なえたりなど、ステータス面を活かしたコンボはいくつか存在しているのでぜひ開拓してみて欲しい。

単純にぶん投げて使うのではなく、コンボの中に取り入れてると結構クールなのも事実
ステータスを上手く生かした自由なサーチ方法は遊戯王ならではの面白味と言えるしね!

表裏一体! トーナメントシーンにおける「増殖するG」の面白さと窮屈さ

 ある程度彼の歴史を紹介した所で現在の話をしたいと思う。現状でも「増殖するG」を3枚使用できるOCG環境ではこのカードを中心に様々な事象が定着化しているので紹介したい。

 まずデッキ構築面について。基本的に大量展開を行なうデッキが当たり前となった現代遊戯王において、特殊召喚は避けられない事から「増殖するG」への対策として「灰流うらら」、「墓穴の指名者」、「抹殺の指名者」の3枚はほぼ必需品となっている。場合によっては腐る事が多い「抹殺の指名者」が採用されないことはあっても、残りの2枚は汎用的に強い能力を持っているので、「増殖するG」が少しでも重いデッキは固定枠で投入されていると言っても過言ではない。

 良いか悪いかはさておき、これらのカードに関しては「増殖するG」がこの世から消えたアメリカのTCG環境においてはデッキへの投入が少し減る傾向にあったため、「増殖するG」の存在によって強さが担保されている状態ともいえる。順当に単体として強いながらも「増殖するG」によって現状は固定枠にされてしまっているとも考えられるのだ。

この2枚と「増殖するG」で空中戦をしてからが試合開始と言っても良い程よく見るトリオ。先行側の動きをほぼ確実に止められるカードが「増殖するG」しか無い中で、対策カードが結構な枚数あるのも後攻プレーヤーからすれば残酷な話なのだが……皆後攻になったらお祈りしながら「増殖するG」を投げてるぜ……

 また前述したが、「増殖するG」が環境に与えている影響として、このカードに対してどれだけの耐性があるかがデッキパワーを評価する上での指標の1つになっている点が上げられる。俗に言う「G受けの良さ」という奴である。

 例えばテーマ単位で「増殖するG」に滅法強い「ふわんだりぃず」や「神碑(ルーン)」といったデッキタイプは、テーマ単体で強力ながらも、特殊召喚を多用しないため「G受けの良さ」も影響してトーナメントシーンへ頻繁に顔を出している。相手のデッキにほぼ確実に入っているであろう誘発カードを腐らせる事が遊戯王においてどれだけ強力なのかを世に示したテーマ達なのだ。

 この2つは特殊なテーマ性と合わさってヘイトを集めやすいデッキタイプではあるものの、メタゲーム的視点から見た場合にこれらのデッキが常にワンチャンを持ち続けているのは「増殖するGに強い」という部分が大きく作用しているからと考えられる。やっぱり悪いのは「増殖するG」なのかも......と思ってしまう要因の1つだ。

通常召喚で多面展開と妨害を行なう「ふわんだりぃず」と、現代で唯一のデッキロス&永続カードによるロックを仕掛ける「神碑」は「増殖するG」がほぼ効かない! 「増殖するG」が当たり前の環境でデュエルしてる中、有効に働かないこの手のタイプのデッキに当たった時の悔しさったら無いぜ……!

 「G受けの良さ」はこれら以外の一般的な展開デッキにおいても重要な要素となっている。「増殖するG」が通ってしまった場合にどれだけ相手に手札を引かれずに妥協盤面を形成できるかがデッキパワーの指標になっているのだ。

 この手の展開で一番目にする機会が多いのが「No.41 泥睡魔獣バグースカ」などが挙げられる。ランク4を作るだけなら1~2枚程度しかカードを引かれず、その上で対面によっては詰むレベルのロック能力をお手軽に準備する事ができる。直近では特殊召喚を行なわずにレベル4を供給できる「幸魂」の登場や、OCG環境で猛威を振るっているランク4テーマ「ライゼオル」が唐突な特殊召喚を得意としているなど、「G受け」に強いランク4を作れるギミックが増えている印象だ。

妥協盤面の王様「No.41 泥睡魔獣バグースカ」はロック性能の高さと出しやすさが見合って無い事で有名! ランク4という史上最高に出しやすいランク体かつ、特殊召喚回数も抑えられるのだから弱い訳が無い
効果を発動せずに特殊召喚できる「ライゼオル」や、召喚で横伸ばしが可能な「幸魂」など「増殖するG」の穴を突ける効果を持ったモンスターがレベル4には多いのも「バグースカ」の「G受けの良さ」に繋がっている

 次のページでは「遊戯王マスターデュエル」における「G受けの良い」テーマ紹介や、先日開催された「WCS2024」の試合内容についても触れていく。