特集

【年末特集】PSAショックでポケカバブルついに崩壊! 2023年TCG業界のトレンドを振り返る

「ONE PIECE」や「シャドバエボルヴ」は好調も、「Vividz」など終了するタイトルも

 2023年も残すところわずかだ。ここ数年のTCG業界の最大の話題といえば、やはりポケモンカードゲームの急騰だが、そのポケカバブルも今年大きな出来事があり、価格が大きく下落する事態となっている。また、大型新規タイトル「UNION ARENA」の登場や昨年販売が開始されたばかりの「Vividz」がサービス休止を発表するなど、さまざまな出来事があった。そこで、ポケカバブルが本当に終了したのか、明暗を分けたタイトルとは何か、2023年のTCG業界を振り返り、筆者が気になったTCG業界の話題を4つ挙げてみたい。

PSAショックでバブル崩壊。価格が急落したポケモンカードゲーム

 数年前からポケモンカードゲーム(以下ポケカ)の新弾の入手が争奪戦となり、レアリティの高いカードや過去の限定カードが高騰している。一種バブルのような状況であったが、2023年6月についに“高騰”から“急落”にトレンドが変化し、ポケカバブルも終焉を迎えて、ようやく市場が正常化しつつある。まずは、こちらのグラフを見てほしい。

 ポケカのフリマ価格を調査しているXアカウント「みんなのポケカ相場」が公開しているポケカ指数チャートを見れば、5月から6月にかけて急騰した価格が6月後半以降一気に下落していることがわかる。

【ポケカ指標チャート 2023年12月26日】

 また、2023年7月からのデータしかないが、ポケカ当たり.jpが公開している「ポッ経平均225」でも、7月以降、ポケカの高額カードの平均価格が大きく下落していることがわかる。事実上、ポケカバブルが崩壊したといってもよいだろう。その理由は以下のように推察される。

【ポッ経平均225 2023年12月28日】

 そもそもなぜ、ポケカが高騰するようになったのだろうか? 秋葉原のポケカ専門店「晴れる屋2」の渡辺翔店長にポケカ高騰の理由を取材し、その内容をまとめた記事を3月に書いたが、その記事では触れていない高騰の理由の一つとして、PSA鑑定品の価格が急上昇したことが挙げられる。PSAとは、世界最大のTCG真贋鑑定・グレーディングサービスを行なっている会社であり、世界中のTCGコレクターから高い支持を得ている。PSAが行なっているグレーディングとは、カードの真贋を判定してその状態を最高10点の10段階で評価し、現在の状態を維持するために特別なケースで保管するサービスである。

【PSA鑑定済みカード】
PSA鑑定済みカードはプラスチックケースの中に封入され、ケースが接着されているため、ケースを壊さずに取り出すことはできない

 PSAの最高グレードであるPSA10は、傷などが一切無い完璧なカードに与えられず、非常に貴重かつ高価になる。ポケカでも、PSA9以上のカードは、鑑定されていないカードに比べて流通価格が数倍になる。PSA10が狙えそうなカードを自分でPSA鑑定に出し、PSA10がとれればそれをTCGショップに売ることで、その差額を稼ぐ人々もいる。TCGショップもPSA鑑定品コーナーを設けるところが多く、目玉商品的な扱いを受けていた。しかし、今年の6月、多くのTCGショップが一斉にポケカのPSA鑑定品の買い取りを中止したのだ。

【ドラゴンスターの買取中止告知】

 いわばPSAショックともいえる出来事であり、6月を境にポケカの価格はPSA鑑定品、未鑑定品ともに大きく下落した。

 ショップがPSA鑑定品の買い取りを一時的に中止した理由としては、「PSA鑑定品の偽物が見つかった」「PSA鑑定に出していたカードが一斉に戻ってきて、市場がだぶついた」「次の新弾を購入するためのキャッシュを確保するため買い取りを中止した」などが考えられる。実際は、これらの複合的な理由によるものだと思われる。

 また、以前は、ポケカの新弾発売日にはTCGショップに長蛇の列ができており、過酷な争奪戦が繰り広げられていたが、その状況も変わりつつある。これは、ポケカを生産している株式会社ポケモンの努力の賜物といえる。株式会社ポケモンのWebサイトにはポケカの累計製造枚数が出ているが、それによると2020年度末の累計製造枚数は341億枚以上、2021年度末の累計製造枚数は432億枚以上、2022年度末の累計製造枚数は529億枚以上となっている。2021年度には91億枚、2022年度には97億枚のポケカが製造されていることになり、品薄を解消するために工場フル稼働でポケカの生産量を増やすことに注力しているのだ。2023年度は100億枚を超えるポケカを製造する可能性が高い。もちろん、ポケカは今も売り切れが続出しており、買いたいときに買えるという状況ではないが、需給状況も改善しつつある。ポケカを純粋にTCGとしてプレイしたい人にとって嬉しい状況になってきたといえるだろう。

【ポケモンカードゲーム】
絵違いのパラレルカードが多く存在することがポケモンカードゲームの特徴

鳴り物入りで登場した「UNION ARENA」の現状

 2023年にもいくつかの新規TCGが登場しているが、その中でも大型タイトルとして話題になったのがバンダイから2023年3月に発売された「UNION ARENA」である。「UNION ARENA」は、さまざまなマンガやゲームに登場するキャラクターたちが、作品の垣根を越えて戦えるTCGであり、コンセプトはブシロードの「ヴァイシュシュバルツ」と似ている。バンダイは多くのIPの権利を持っており、満を持してオールスターTCGを投入したといえる。

 第1弾として「コードギアス 反逆のルルーシュ」「呪術廻戦」「HUNTER×HUNTER」の3タイトルが参戦し、その後4月に「アイドルマスター シャイニーカラーズ」と「鬼滅の刃」、5月に「Tales of ARISE」と「転生したらスライムだった件」、6月に「僕とロボコ」と「僕のヒーローアカデミア」、7月に「銀魂」、9月に「BLEACH 千年血戦篇」と「ブルーロック」、10月に「鉄拳7」、12月に「Dr.STONE」が加わった。

 発売から9ヶ月で、著名な14タイトルが参戦しており、豪華なラインナップを誇る。2024年1月には「ソードアート・オンライン」も登場予定であり、さすがバンダイといったところだが、2022年に同じくバンダイから発売されたONE PIECEカードゲームに比べると、イマイチ盛り上がりにかける印象だ。

 個人的には、この種のさまざまなタイトルのキャラクターで遊べるオールスターTCGは、そのタイトルのファンによるコレクション要素が強くなってしまい、あまり大会に参加しようという人は多くないのだろう。「UNION ARENA」は、2024年にも多くのタイトルが登場する予定であり、今後に期待したい。

【UNION ARENA】
「UNION ARENA」の「NEW CARD SELECTION 呪術廻戦」のカード

年の瀬にサービス休止を発表した「Vividz」

 新規タイトルがあれば、展開を終了するタイトルもあるのが、TCG業界の常だ。2023年12月26日にサービス終了が発表されたタイトルが、ブロッコリーが2022年8月に発売した「Vividz」である。「Vividz」は、ブロッコリーが10年振りにリリースした新作TCGとして注目されたが、約1年半という短命に終わった。疾走体感TCGと銘打った「Vividz」は、相手のライフをゼロにすれば勝利という一般的なTCGとは異なり、相手より先に「3つのミッションを達成」すれば勝ちという、ミッションクリア型TCGとでもいうべきユニークなシステムを採用していたが、既存TCGに慣れたプレイヤーにはあまり受け入れられなかったようだ。

 正確にいえば、Vividzは制作休止という発表であり、今後再開の可能性がないわけではないが、雑誌の休刊と同じくほぼ終了と考えてよいだろう。オフライン、オンラインともに公式大会は2024年2月29日まで開催される予定であり、またWebサイトに無料で使えるフリーカードが掲載される予定だ。

【Vividz】
「Vividz」発表会での試遊の様子

「ONE PIECEカードゲーム」と「Shadowverse EVOLVE」は好調を維持

 2022年7月にバンダイから登場した「ONE PIECEカードゲーム」は、昨年に続き好調なようだ。こちらも一時期はポケカ並みに入手困難であったが、最近は生産量を増やしたのか、大分買いやすくなっている。「ONE PIECEカードゲーム」の日本一を決める「ONE PIECEカードゲーム チャンピオンシップ2023」の予選が各地で開催されているが、こちらも盛況であり、カジュアルから競技層まで多くのプレイヤーを持つTCGとして根付いた感がある。

【ONE PIECEカードゲーム】
「ONE PIECEカードゲーム」では、ONE PIECEの人気のキャラクターたちが多数登場する

 また、2022年4月にブシロードから発売された「Shadowverse EVLOVE」も、12月に第8弾ブースターパック「次元混沌」が発売されるなど、こちらも順調な展開を見せている。公認ジャッジ試験も2回行なわれており、カジュアルなイベントから真剣勝負の場である「Shadowverse EVOLVE Championship」、日本一を決める「Shadowverse EVOLVE Japan Championship」まで、多くの大会が開催されており、カジュアルに遊びたい人から大きな大会で勝ちたいという人まで、幅広い層の受け皿ができている。有名DCG「Shadowverse」を元に誕生したTCGなので当初から知名度は高いのだが、運営や開発もしっかりしており、安心して遊べるTCGとなっている。

【Shadowverse EVOLVE】
「Shadowverse EVOLVE」の最新弾「次元混沌」のカード

 なお、TCG界で何かと話題を集めている「ゲートルーラー」だが、運営は継続しており、2023年10月27日に第6弾ブースター「神と魔王」が発売され、2023年12月から対戦イベント「ウィンターフェス」も開催されている。2024年春には第7弾が発売予定だが、第7弾は通常のブースターパック形式ではなく、約80種類のカードがすべてセットになったコンプリートセット販売のみになる見込みだという。TCGというより、LCG(Living Card Game)と呼ばれる固定カードプールで遊ぶアナログゲームに近い売り方である。

【ゲートルーラー】
「ゲートルーラー ウィンターフェス」の参加賞としてもらえるプロモカード

 最後に2023年のTCG界を総括しておくと、ポケカについては、異常な高騰が終了し、プレイヤーにとってより健全な環境に近づきつつあるといえる。「Vividz」がサービス終了したのは残念だが、「UNION ARENA」のような大型タイトルも登場しており、今後さらに市場が伸びる可能性もある。コロナ禍も落ち着いたことで、TCGで実際に遊ぶプレイヤーも増え、3,000~4,000名規模の大型大会も複数のタイトルで実施された。

 来年2024年も、概ねこの流れが継続すると予想される。TCGを投資対象や転売対象にする人は減っていき、プレイヤーにとってはありがたい環境になるだろう。2024年にも新規タイトルは登場するだろうし、サービス終了の憂き目にあうTCGも出てきそうだ。秋葉原などに乱立したTCGショップも整理されていくのではないだろうか。