インタビュー

「LCP」、「グロック17 Gen.4」……新製品のお披露目をオンラインで行なう東京マルイの意図とは? ユーザーの疑問に答える親しみやすさと今後の戦略

 「マルフェスONLINE」。東京マルイが年に一度開催している自社イベント「東京マルイフェスティバル」の名を冠するYouTube配信番組をご存じだろうか?

 東京マルイが公式YouTubeチャンネル内で配信している「マルデカ宣伝本部」とリンクする形で配信された「マルフェスONLINE」では、東京マルイの新たな挑戦となる手の平サイズの小型さでありながら他のガスガンに引けを取らない射撃性能を持つ「固定スライドガスガン コンパクトキャリーシリーズ」を始め、拡張性の高さがウリのガスブローバックガン「FNX-45 Tactical Black」、そして強力なブローバックとグリップの調整が楽しめる「グロック17 Gen4」の3商品が一気に紹介された。

 この番組では、これまで東京マルイが大きなイベントを活用しての新製品発表や、それに伴う説明、試射レンジのデモ体験などを行なっていたが、新型コロナ感染防止の自粛を受け、これらをオンラインで実施された。これまで東京マルイはこういった新商品の紹介をイベントで大きく行なっていたのだが、それをオンラインで開催する意図、その狙いはとても興味のある所である。今回のインタビューでは東京マルイのオンライン戦略についてフォーカスしていきたい。

東京マルイ広報の島村優氏
ミリタリーVTuberの彩まよいさんの自身のチャンネルでは、サバゲーのフィールドや、装備などを話題にしている。チャンネルは6月13日に2周年を迎えたとのこと

 「マルデカ宣伝本部」は東京マルイの名物広報である島村優氏と、ミリタリーVTuberの彩まよいさんの掛け合いで行なわれるゆるくて明るい雰囲気が魅力の番組で、新製品の紹介に留まらずこれまでの東京マルイの活動の裏話や、商品の開発秘話、さらには視聴者からの疑問に答えるなど"親しみやすさ"を前面に押し出している。

 今後も東京マルイは「マルデカ宣伝本部」に加え、静岡ホビーショーや、全日本ホビーショーで行なっていたような新製品紹介イベントをオンライン化する「マルフェスONLINE」の2つを柱として番組展開を行なっていくという。

 「東京マルイが変わろうとしている」ということをファンは予感し始めていると思う。サバイバルゲームの人気を後押しに、エアガンという独特の魅力のある商品をいかにユーザーにアピールしていくか。東京マルイは様々な方法でその課題に挑んでいる。「オンラインへの取り組み」もその一環だ。本稿では、東京マルイが考えるオンライン戦略と、そこに込めた島村氏の想い、裏話などを取り上げていきたい。

【LCP】
【ボディガード】
東京マルイの新たな挑戦となる「固定スライドガスガン コンパクトキャリーシリーズ」の2丁。手のひらサイズの小ささだが、他のガスガンに負けない射撃性能、10発の装弾数があり、サバイバルゲームのサブウェポンとしても充分な性能を持つ。現在発売日と価格は未定だが、低価格を目指すという

ただの商品紹介にとどまらない、こだわりや開発の歴史も明るく語る番組

 まずは番組を例にとってその内容を紹介していこう。「マルデカ宣伝本部」は、島村氏と、彩さんが掛け合いで行なっていく流れで、第4回は5月28日に発売された「グロック17 Gen.4」の魅力を強くプッシュした。

【東京マルイ初のグロック第4世代! 「グロック17 Gen.4」特集!】
「マルデカ宣伝本部」の最新版では新製品「グロック17 Gen.4」の紹介。パッケージの作り込みなども熱く語っている

 この番組では冒頭からガスブローバックガン「グロック17 Gen.4」の紹介はせずに、前回で紹介した東京マルイの新しい挑戦となる手のひらに収まる「固定スライドガスガン コンパクトキャリーシリーズ」の"マガジンの仕様について"の解説からのスタートだ。「コンパクトキャリーシリーズ」の最初の展開として「LCP」と「ボディガード」2丁が発表され、こちらのマガジンボディは同一だが、底面のパーツが異なるため互換性はないと言うことを告知するものだった。

 これは前回の放送での視聴者のコメントや、島村氏が「説明が足りなかった」と感じたことで説明を行った部分だ。このように「マルデカ宣伝本部」は商品の紹介をしながら、コメントで寄せられた質問や、より細かい仕様の説明を行なっていくと島村氏は語った。「マルデカ宣伝本部」は隔週の放送予定。スピーディーな情報発信を目指していくとのこと。

 メインとなる「グロック17 Gen.4」の紹介は30分近くたっぷり行なっている。ガスブローバックガスガン「グロック19」で開発された新しいブローバックエンジンによる強烈な反動、4種類のバックストラップによる"握り心地"の調整を行なうことで生まれるフィット感、グリップ力を増すドットパターンによるグリップなど、思わず欲しくなってしまうセールスポイントが語られていく。

【グロック17 Gen4】
5月28日に発売された「グロック17 Gen4」。クリップ後部のバックストラップをつけることで握り心地が変えられ、ユーザーの最適のポジションを追求できる

 ストラップの交換の仕方を細かく紹介したり、ストラップにつけられた"ビーバーテイル"の解説、ビーバーテイルが銃の後部につくことで射撃時のスライドが手に当たることを防ぐといったポイントも紹介された。そんな中でも彩さんは突然島村氏に「ビーバーの顔芸をやってくれ」と要求、島村氏は困惑しながらも応えると言った、ゆるい感じも印象的だ。

 ミリタリー色の強いエアソフトガンの紹介はどうしても固く専門的になりがちだが、彩さんの突っ込み、島村氏のダジャレや突っ込まれた時のしどろもどろになる感じなど、全体的に明るく親しみやすい雰囲気となっている。会話の流れは島村氏が書き起こしているとのことだが、彩りさんがその内容にもツッコミを入れる所も面白い。

 「東京マルイオリジナルデザインの『グロック26 アドバンス』がアニメ『攻殻機動隊』に使われた」といったこぼれ話的なエピソードや、これまでの「グロック」シリーズ商品を一同に並べるなど新製品だけでなく、東京マルイの"歴史"にも触れ、エアソフトガンファンには非常に興味深い番組となっている。次回が楽しみになる内容の濃い番組だ。

ずらりと並んだ東京マルイのグロックシリーズ。シリーズを一気に並べる光景が撮れるのも番組の魅力だろう

PV製作のノウハウを活用、動画配信でにエアソフトガンの魅力を届けたい

 そして「マルデカ宣伝本部」での大きな注目は5月15日に行なわれた「マルフェスOnline」である。

 東京マルイが1年に1度行なっていた大型イベント「東京マルイフェスティバル」。その名を冠する「マルフェスOnline」ではイベントの大きな目玉である新製品紹介を「マルデカ宣伝本部」の放送枠を大きく拡張してオンラインで行なうというものだ。この番組では特に、東京マルイのオンラインへの"本気"が感じられた。

【マルフェスONLINE開催!次期新製品ついに発表!】
無機質に商品を紹介するだけではなく、積極的にダジャレを盛り込んだり、島村氏の絵心をネタにしたり、視聴者に楽しんでもらおうという雰囲気が伝わってくる

 今回の「マルフェスOnline」は、「マルデカ宣伝本部【出張版】」、「新製品コーナー」、「射撃コーナー」の3本の動画で構成され、「固定スライドガスガン コンパクトキャリーシリーズ」の「LCP」と「ボディガード」、ガスブローバックガン「FNX-45 Tactical Black」、「グロック17 Gen4」の4つの商品が紹介された。

 「マルデカ宣伝本部【出張版】」ではこれまでの「マルデカ宣伝本部」と同じノリで、島村氏と、彩さんが掛け合い新商品を紹介。さらに東京マルイではおなじみとなった非常にカッコイイPV制作の裏話なども行なわれた。

 「新製品コーナー」ではイベントでの島村氏の姿が楽しめる。立て板に水の勢いで商品の特徴を語る島村氏の姿は、会場イベントそのままだ。そして「射撃コーナー」では新製品の試射のために作られたシューティングレンジで、新商品の射撃性能を見ることができた。東京マルイのこれからの商品にググっと期待が高まる番組だった。

【新たにラインナップに加わる次期新製品を、詳しくご紹介!】
商品を紹介する島村氏。まよいさんとの掛け合いはまだ固いところが見えるが、こちらでは立て板に水のなめらかな語り口で新商品を紹介している

【マル秘シューティングレンジで、開発中の次期新製品を実射!】
シューティングレンジでの実射。新製品の射撃性能をしっかりと見ることができる。

 これまでイベントでのみ行なっていた新製品紹介を、オンラインで積極的に行なう。この姿勢は東京マルイの新たな姿勢を強く印象づけるが、そのスタートはあくまで「新型コロナウイルスによる国内感染拡大を防止するための自粛」がきっかけになっているという。元々東京マルイはホビーショーや、ゲームショー、東京コミコンなどイベントに積極的に出展し、ユーザーにアピールするメーカーではある。しかしそこに新しい戦略を盛り込もうと島村氏は考えていた。

 その1つが、「小規模な東京マルイ単独イベント」である。東京マルイは昨今「東京マルイフェスティバル」を開催していたが、違う形でユーザーに来てもらうイベントを考えていた。2020年は予定されていた静岡ホビーショーには出展せず、独自イベントを予定していたという。

 しかし「新型コロナウイルスによる国内感染拡大を防止するための自粛」で様々なイベントが中止となった。静岡ホビーショーもその1つだ。東京マルイもまた予定していたイベントを断念せざるを得なくなった。そこで考えたのが「オンラインでの新商品紹介、『マルフェスONLINE』の構想」だったという。その構想と共に、「マルデカ宣伝本部」がスタートとなるのである。

【FNX-45 Tactical Black】
タンカラーの「FNX-45 タクティカル」のブラックバージョン。「マイクロプロサイト」や「CQフラッシュ」、「タクティカルサイレンザー」に対応している拡張性の高さがセールスポイント

 「東京マルイフェスティバル」等でのステージ運営の経験や、収録のノウハウを持っているのは、東京マルイの強みだと島村氏は語った。東京マルイは「プロモーションビデオ(PV)」を自社スタッフのみで作っている。このPVは「東京マルイフェスティバル」の目玉の1つと言える。島村氏をはじめとした関係者が出演し、射撃シーンのみならず、カーチェイスシーンやヘリコプターが飛ぶシーンなどまで盛り込まれる非常に豪華なモノだ。これを自社スタッフだけで撮影しているのだという。

 「最初はカメラ好きの社員の私物のカメラで撮影していたんですが、『もっと本格的にやりたい』と盛り上がりまして、会社の経費で買ってもらい、そして撮影のノウハウも蓄積していったんです」と島村氏は語った。「マルフェスONLINE」でも語られているが、島村氏のゆるい感じの絵コンテを本格的なモノにリファインし、かなり力を込めて凝ったPVをほとんど社内スタッフで撮影できるようになったという。

【東京マルイ[次世代電動ガン]AKストーム】
かなりカッコイイ「AKストーム」のPV。こういった本格的な映像も社内で撮影しているという

 このスタッフの"経験"があったからこそスムーズに「マルフェスONLINE」が収録できているという。収録、放送に関して外部スタッフの協力を殆ど求めず、社内のスタッフで運用しているとのこと。実は東京マルイは5月くらいに、小規模な出展による展示を予定していたのだが、自粛せざるを得なくなった。そこでオンラインでの公開に踏み切ったのだが、準備期間が短い間で実現できたのはこういった事情があったためだと島村氏は語った。

 こういった事情で始めた配信だが、今のところは「収録」という形で行なっている。ただ島村氏の目指すところは「読者のコメントに答えたい」というところがある。リアルタイムでの応対はまだ場慣れの部分も含めて難しいが、今後閲覧ユーザーからの質問、疑問に答え、親しみやすい番組を目指していくとのことだ。

 放送は隔週を目安に木曜配信を目指していく。新製品の紹介は目玉の1つだが、目指すのは「よりわかりやすいエアガン」だという。ガスガンと電動ガンの違い。「次世代電動ガン」とはどんなものか? 何気なく使っている専門用語の解説。銃の特徴や気をつけるところなど、ハードルを低く、わかりやすい内容にしていきたいという。

 「実はこの自粛の動きの中、家にいる人が多くなり、そこで家で遊べるものとして、新たにエアガンを手にする人も多かったようで、直接弊社に質問が来たんです。『買ったはいいけどどう遊んで良いかわからない』、『ガスの入れ方がわからない』。番組ではこういった初心者さん相手にも情報を発して行ければ良いなと考えています」と島村氏は語った。

 撮影の苦労話としては「とにかく番組収録時、カメラを見ながら相手としゃべるのが苦手」と島村氏は言う。「マルフェスONLINE」の内の「新製品コーナー」では立て板に水の勢いで新商品を紹介する島村氏だが、VTuberの彩さんとの掛け合いはまだ間合いがつかめず苦戦する部分も多いとのことだ。自分のペースでしゃべるのは馴れているが、バーチャルな相手との会話はもう少し勉強したいという。

 「お客さんが見えない」というのも島村氏が逆に緊張してしまうとのこと。ステージ上で来場者の顔や反応を見ながら新商品を紹介するのは島村氏としてはコツも掴んでいるところがある。しかし配信番組はリズムも雰囲気も違う。いずれは視聴者のコメントにリアルタイムで答えていくような方法もやってみたいと島村氏は語った。

ポーズをお願いするとピシリと決めた姿を見せてくれる島村氏。こういったノリの良さとこだわりが番組に面白さをもたらしている

 今後の番組の内容として、島村氏は「今年は比較的見せられるものが多い」という。商品の開発には数カ月、商品によっては数年の期間が必要となる。こもためどうしても新商品の発表は"波"があるが、今年は比較的目玉となる商品が出せる時期だという。まだ明かせないが自信作もあるとのことで、「期待して欲しいです」と島村氏は強調した。

 番組の配信内容は、新製品の情報公開、発売後だからできる商品の使い心地などの紹介、遊び方の提案。今後は"ゲスト"の登場も考えている。開発者達を登場させて、設計や機構の開発、さらにはデザインなど掘り下げた話もできる。意図的に商品の"チラ見せ"などもできるので期待して欲しいとのこと。今後も「マルデカ宣伝本部」は注目である。

 「昨年までは大きなイベントを柱として情報発信を考えていましたが、それは逆に"縛り"でもある。今年は皆さんに情報を出す機会を増やし、色々な情報を出していきたいと思っています。情報を出すタイミングも自分達のペースでできるようになる。これまで以上に"チラ見せ"をしてファンの皆さんの予想や期待を聞くこともできるようになる。ですからネタは尽きませんね(笑)。隔週のタイミングで配信を続けていこうと思っています」と島村氏は語った。

ユーザーが商品を手にできるイベントの大きな魅力

 この自粛の流れは新しい流れを生み出している。現在東京マルイはイベントでの出展ができない中、様々な形でユーザーに情報を届けるため配信などの計画を進めている。「マルデカ宣伝本部」は隔週での更新、他にも専門誌・月刊アームズマガジンの公式webでも「最注目! 東京マルイ名銃コレクション」という番組をスタート。こちらは過去に発売した製品の良さを改めて認識するという番組となる。このようにメディアとの連携企画も進めてるとのことだ。

 「コロナの自粛の後、皆さんの生活は変化するんじゃないかと思っています。テレワークが中心となり、職場やイベントへの取り組みも変わってくる。サバイバルゲームを遊んでいた方達がちゃんとゲーム場に戻っていただけるかが心配なところもあります。また前のように盛り上がって欲しい。……実は私達もイベントノウハウの勘をきちんと取り戻していきたいとも思っています。ノウハウを忘れてしまうのが心配です」と島村氏は語った。東京マルイにとってイベントは大事だ。配信とイベント2つの方向でユーザーにアピールしていきたいという。

【東京マルイフェスティバル6】
東京マルイは様々な会場に出展しているが、単独イベント「東京マルイフェスティバル」はやはり力が一番入っている

 イベントの最大の強みは「来場者が来て、実際に商品に触れるところ」だと島村氏は語る。商品を手に取った時の重さ、グリップの感触。近くで見る銃の雰囲気や、サイトをのぞいた時の視点。細かいデザインのチェック、引き金を引いた時のトリガープルの感覚や、ブローバックの衝撃。

 さらにシューティングレンジでの弾の飛ぶ感じがある。これらはやはり商品を買う以外では、会場でしか得られない。だからこそファンは会場に足を運ぶし、それまでエアガンを知らなかった人に面白さを感じてもらえる。その感触を体験してもらえる会場イベントはやはり東京マルイにとって大事なものだと島村氏は強調した。

 「エアガンには、画面や写真ではやはり伝えきれない魅力があります。たくさんエアガンを持っているような人でも、やはり会場で触るのは楽しいと思うんですよ。特に新製品を触ってみたいという気持ちはとてもわかります」。

 東京マルイ社内や店舗側からも「店舗に発売前の試遊サンプルを置くのは?」という意見もあったが、まず試遊品を置く店舗を選ぶ基準は何か? ということがある。スタッフがきちんと銃をメンテナンスし、一番良い状態で触ってもらいたい。商品を触った上で浮かぶ質問をスタッフがきちんと答えたい。東京マルイが届けたい商品の感触を実現する場所としては、やはりイベント会場が最適解なのだという。

 「もっと多くの地方でイベントをしたい」というのも島村氏の夢だ。大型のキャラバンカーを作って全国を回る計画も過去にはあったとのことだ。「10トンのウイングルーフの荷台にですね、新製品を壁に掛けて、さらにシューティングレンジまで用意している。ルーフがガーッと開くとそれらが出てくるわけですよ。カッコイイでしょう? すげえカッコイイと思うんですよ(笑)」。"移動秘密基地"という、島村氏が大好きなアイディアだったという。残念ながらこの計画は進まなかったが、地方でのイベントは考えていきたいとのことだ。

 東京マルイはミリタリーイベント以外にも東京ゲームショーや、東京コミコン、さらには車好きが集う東京オートサロンや、大阪オートメッセといったイベントにも積極的に出展を行なっている。エアガンをより多く知ってもらうために、「東京マルイ」を知らないような、エアガン初心者に自社の存在、商品の魅力をアピールしたい、というところは、東京マルイの大きな意図である。

 現在は番組配信に力を入れている東京マルイだが、やはり「来場者の顔を直接見て、商品を触ってもらいたい」という想いは強い。実際、自粛前は面白い計画も立てていて、これが発表できないのは残念だと島村氏は語った。。

 まだ今後の状況はわからないが、様々なイベントを望むユーザーの声は強い。イベントが可能な状況になれば、東京マルイは来場者との交流ができる出展を積極的に行なっていきたい。そして配信も行なっていく。より多くのチャンネルでユーザーへ情報を届けていきたいとのことだ。

【シューティングレンジ】
人気の高いイベントでのシューティングレンジ。エアソフトガンを撃てるというのは、特にそれまで触ったことのない人には強烈な体験だ

より幅広くなるユーザーのニーズにどう応えるかが課題

 ユーザー層の広がり、という視点では4月3日に発売された、ブローバックガスガン「AM .45 バージョン・レン “ヴォーパル・バニー”」は大きな反響を得たアイテムだ。ピンク色のカスタムガンというかなり強烈な見た目のこのアイテムは、TVアニメにもなった小説「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」の主人公・レンが使うハンドガンだ。

【ヴォーパル・バニー】
4月3日に発売された、ブローバックガスガン「AM .45 バージョン・レン “ヴォーパル・バニー”」。TVアニメにもなった小説「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」の主人公・レンが使うハンドガンだ

 「アニメ(正確には小説)が原作の銃」というのは、現実の銃がモデルの商品と比べて売れ行きが予想しにくい。また工場での生産数には上限がある。一方で人気の原作の銃であり、しかもレンはこの銃を両手で持つ「2丁拳銃」で戦うため、ユーザーも2丁揃えたがるという背景があった。結果として初期ロットはアッという間に完売という人気となった。品薄の状態となり、「手に入らなかった、買えなかった」というユーザーの声も大きくなってしまった。ただ、本商品は完全限定商品ではなく、2次生産分も生産体制に入ったのでもう少しで店頭に並ぶとのことだ。

 島村氏はカプコンの「バイオハザード」シリーズとのコラボレーションを積極的に進め、ユーザーからも評価を得たノウハウがある。今回の「ヴォーパル・バニー」は発売前から手応えを掴んでいたが、「販売チャンネル」というところではもう1つ突き抜けられなかったという。小説・アニメが原作なだけに、「ヴォーパル・バニー」をアニメショップに置きたいと思い、そのための活動も行なったが、「弾が出る商品はNG」として、販売ができなかった。

 「ヴォーパル・バニー」は見た目はピンクだが、原作者もミリタリー知識が豊富でそのカスタムにはミリタリーファンの注目も高かった。内部構造は東京マルイならではの高いクオリティで、実射性能、リコイルの強さ、銃としての説得力なども"本格的"である。その高いポテンシャルは島村氏の予想通り人気を得たのだが、初動ではうまくユーザーに届けられなかったという想いを島村氏は持っているという。

 次世代電動ガン「AKストーム」もユーザーから評価を受けた商品だ。アサルトライフルを代表する銃の1つである「AK-47」に現代的な回収を施したというモチーフの電動ガンだが東京マルイ側はかなり自信があったが流通側からの反応は弱かった。

【AKストーム】
AK47に東京マルイ・オリジナルの現代化カスタムを施した、次世代電動ガン「AKストーム」

 東京マルイはリコイル(反動)のない電動ガン「AK47 ヴェータ・スペツナズ」を2001年に発売しヒットしている。CQB(近接戦闘)仕様のカスタムで取り回しが良くファンの評価が高かった。「AKストーム」はこのラインを受け継ぐ商品であり、東京マルイとしては手応えがあったが、その思いは中々伝わらなかった。

 初動が鈍かった原因を島村氏は「ユーザーの期待が流通側に伝わる時間が短かった」と分析している。「AKストーム」はいわば"隠し球"として用意していた商品で、イベントでいきなり発表して注目を集める戦略だった。しかしイベントが中止になり多くの人達に派手に発表する機会を逃してしまった。

【AK47 ヴェータ・スペツナズ】
人気を博した電動ガン「AK47 ヴェータ・スペツナズ」

 会場で商品に対して期待の目を向けるユーザーの反応こそが、商品の魅力のバロメーターである。「AKストーム」を会場でアピールできなかったのは残念だと島村氏は語った。こういった事情があり初期出荷は抑えめだったが、発売後は思っていたように人気となり完売する流れになった。購入したユーザーの評判が良かったのだ。ユーザーの熱意を販売・流通にどう伝えていくかも新しい時代の販売戦略のテーマと言えそうだ。

 また「サバイバルゲームの自粛」は東京マルイにとってはつらい。サバイバルゲーマー達が楽しそうに新製品で活躍する姿はこの上もない商品アピールになる。買ったユーザーもうれしい。周りも盛り上がり、「俺も欲しい」と思う。この流れは商品の魅力が伝わる大事な流れだ。新型コロナ感染拡大の現在の状況が一刻も早く改善し、皆がサバイバルゲームを楽しみ、イベントを開催できる状況になって欲しいと、島村氏は言葉を重ねた。

 最後になるが、実は東京マルイのWebサイトにあった、「新型コロナウイルス感染拡大防止のための医療支援について」という項目が気になったので、調べてみると、この新型コロナ感染拡大の状況を受け、東京マルイは公益社団法人東京医師会など、医療機関へゴーグルの提供を行なっていた。あまり知られていないが、この事について島村氏に聞いた。

 「東京マルイの関係者はもとより、当社のファンの皆様、そして全てのエアソフトガンのファンの皆様も、新型コロナウイルス対策に対して何かお役にたてないかという"想い"は存在していたと思います。4月中旬ごろだったと思いますが、弊社社長が知人のドクターにその"想い"を伝えて、エアソフトガン用のゴーグルが医療現場で果たして使えるものなのか、実際に調べてもらう事にしたのです。その結果、LサイズだけでなくSサイズのゴーグルも女性の医師や看護婦の皆さんに大変好評であるという評価をいただきました。このような経緯があり、この度、これらのゴーグルを医療現場にご提供する機会をいただく事が出来ました。繰り返しになりますが、今回のご支援はエアソフトガンファンの皆さんの"想い"があってこそ実現出来た事だと考えています」。と島村氏はコメントした。

 東京マルイという会社全体の"想い"。厳格なまでにこだわるモノづくりの姿勢だけでなく、このような社会への取り組みの姿勢を見せてくれることは、エアソフトガン業界のイメージアップにも繋がる。こういったところも東京マルイを応援したくなる理由の1つなのではないだ。

 島村氏はユーザーへのメッセージとして「これからも色々な情報を配信で取り上げていきます。皆様の声にもできるだけ応えていこうと思っていますし、質問や要望もコメントで書き込んでください。ぜひ配信番組を見てもらって書き込んで欲しいです」と語りかけた。

 いつもそうだが、インタビューの時は島村氏のバイタリティーと、アイディアの多さに圧倒される。様々な苦労話もあるが、やはり楽しいものをユーザーに見せたい、東京マルイの商品で遊んでもらいたいという熱意が強く伝わってくる。「マルデカ宣伝本部」はまさに島村氏のエネルギーや、浮かんだ細かなアイディアを実現できる場所だ。今後の展開にも注目していきたい。