インタビュー

人類の革新始まる!? 「脳活動でザクを動かす」、川島隆太博士インタビュー

「俺はザクを動かせるニュータイプだ!」、この楽しさが安らぎをもたらす

 そして「ザク」である。「ZEONIC TECHNICS」は今回のプロジェクトに際し、わざわざミニチュアザクを「サイコミュ・システム試験用ザク」に開発・投入しているところが楽しい。このザクの特徴は手が平手になっていること。指の先には砲門がある。そう、「サイコミュ・システム試験用ザク」はニュータイプ専用モビルスーツ「ジオング」のプロトタイプとなったという説もある。今回のプロジェクトにぴったりのチョイスだ。

 今回のシステムは厳密には「思考でメカを動かす」、というタイプのブレインマシンインターフェースとは異なる。この思考でメカを動かす「ブレインマシンインターフェース」は様々な国で研究が進められているが、現時点ではまだうまくいっていないという。オペレーターが限られるとのことだ。訓練を積んだ人が思考で動かす方法を成功させても、他の人で同じような操作ができない場合が多い。人それぞれで思考の仕方がことなるなど様々な要因があるとのこと。

 しかしNeUのセンサーは普遍性がある。ザクは誰でもちょっとした練習で動かせることが可能だと川島博士は言う。

今回のテストのために開発されたザク。ちゃんと「サイコミュ・システム試験型」になっているところが楽しい
背面もしっかりと再現されていた

 ここで改めて、「ZEONIC TECHNICS」はどういうものなのかを説明しておきたい。「ZEONIC TECHNICS」は「機動戦士ガンダム」の世界観を活かした、ザク(ザクII)を開発した会社“ジオニック社”の“技術者向け研修キット”というコンセプトで、ユーザーは、“研修生”として、MS・ザクを開発しようというコンセプトで、ロボティクス、プログラミングが学べるというユニークなアプローチの教材である。

 教材となるザクは全身17個のサーボモーターを搭載。これらをプログラムで制御することで様々なアクションを可能とする。「ザクにこんなアクションをさせたい」という想いを自身のプログラムで実現するのだ。プログラムそのものはスマートフォンやタブレットで設定できる簡易なものから、PCを使ってより細かく設定できるものまで用意されている。その動作を「プログラムチップ」として設定し、これらをどのように動かしていくかを組み合わせることで、ロボット制御、プログラム技術を学ぶのだ。

 楽しいのはその世界観。アプリのBGMやインターフェース、ザクの起動音など様々な所に「ガンダム文化」が活かされている。「自分の手でザクを制御し、動かせる!」ロボット技術者となる夢を実感できる教材である。現在は残念ながら購入受付は終了しており、入手はできない。

 今回のザクを動かすシステムはセンサーと「ZEONIC TECHNICS」の「プログラム制御」を組み合わせている。「脳活動でザクを動かす」という目的のため、脳活動センサーに連動した特別プログラムを用意している。脳活動は“段階”を設定しており、脳活動がさらに活発になると第2プログラムが走り違う動作をするのだ。

 「機動戦士ガンダム」の場合は、ブレインマシンインターフェースとして「サイコミュ」という設定が存在する。「ニュータイプ」という新たな能力を開花させた人が、手足を使わず思念のみでメカを動かし攻撃をする。まるで念動力を使ったかのような描写は作中のニュータイプの設定に新たな側面を加えた。

 人類の革新たるニュータイプになれば、思念でメカを動かせる! そういうロマンを目で見せようというのが今回のプロジェクトだ。実際センサーをつけてザクを見つめていると、不意にザクがセンサーを発光させ行動を開始するその絵はたまらない魅力だ。「俺も思念でザクを動かしてみたい!」そう強く思わせる魅力がある。

プログラムのインターフェース。脳活動が活発になると次の動作に移行する

 額の正面にセンサーをつけた場合は、集中せずあれこれ考えている状態の時にザクは動く。逆に額の横にセンサーをつけた場合は集中力が増すと動く。どちらの状態でも自分の脳の状態でザクが動くという状況は脳のストレスを低減させる効果があるという。

 ちなみに川島博士の場合は、額にセンサーをつけ「何かを考えている状態の時にザクを動かす」という形でザクを動かしている。この場合集中力が増すと額の脳活動は停止してしまいザクは動作が止まる。このアクションをさせるため、動作を停止させるには「頭の中で音楽を流す」と脳がリラックスし、脳活動が低下する事で停止させることがコツだという。ただリラックスする事はデモンストレーションで難しい場合がある。

 今回動画でザクの操作の実演を見せてくれたのはNeUのクリエイションワークユニット シニアマネージャーの星野剛史氏。星野氏は“名パイロット”として実演して見せてくれた。星野氏は額の横にセンサーをつけ、集中した時の脳活動を探知させるようにしている。自分が追い込まれた状態を想像することで脳活動を活発にさせるとのことだ。

【これがニュータイプ能力の発現!? 手を使わず、脳活動でザクを動かす】

 星野氏がセンサーを側頭部につけ、自分が追い詰められた状態を想像する。そうするとタブレット画面の「脳活動レベル」がドンドン上がっていく。一段階目に達すると「第1プログラム」が始動。まず脳活動を検知するとモノアイが効果音とともに光り、プログラムが作動する。ザクは歩行を開始する。

 星野氏がさらに集中力を上げ脳活動がさらに活発になると「第2プログラム」が始動、「サイコミュ・システム試験用ザク」はその手が「ジオング」同様のメガ粒子砲になっているため、“貫手”のような特有のモーションを繰り出す。第1プログラムで移動、第2プログラムで攻撃と、ニュータイプになって戦っているような風景が現出する。これはとてもカッコイイ。

 脳活動が活発になると“ゲージ”が上がりロボットが動き出すという、このプロセスが最高なのだ。「ある心の状態でプログラムが発動」というところでは、「機動武闘伝Gガンダム」の操縦者の怒りの感情で発動する「怒りのスーパーモード」や、明鏡止水の心境で発動すると機体が金色に輝く「真のスーパーモード」といった描写がある。「逆襲のシャア」でもクェスがファンネルを動かす際に精神を集中させるシーンもある。「心を一定に保つとロボットが動く」という描写は、やはり興奮させられる。

 キャラクターの感情に合わせ、ロボットがそれに応えるように動く、というのは「ガンダム」に限らずロボットアニメではよく見られる。人とロボットが心を1つにする“人機一体”というのはとてもロマン溢れるものである。

 なにより、「ロボットを動かすために脳活動をコントロールする」という行動そのものがロボットアニメの世界そのままだ。今回のシステムはシンプルなものだが、ひょっとしたらこの先にブレインマシンインターフェースの未来があるかもしれない。“実用的な思念操縦”の第一歩を目撃できたかも知れない。

ザクを動かす名パイロット。NeUのクリエイションワークユニット シニアマネージャーの星野剛史氏

 このカッコ良さを自分の脳活動で実現する、その爽快感こそがストレス低減になるのだ。「脳活動のコントロールはそれ自体、人間のストレスを軽減される事がテストでも実証されている。「ニュータイプになったぞ!」とザクをコントロールすることでストレスを軽減させる効果を期待できるのです」と川島博士は語った。

 川島博士はさらに「今の段階ではある心の状態、脳活動をするとプログラムが動くというものですが、例えばこの研究が進めば『右に動け』と思えば右に動くような、そういうシステムも開発できるかも知れません科学はそういう方向に進んでいくはずなんです」と言葉を重ねた。とてもワクワクさせられる未来だ。

 可能性の1つとして「センサーを増やす」というアイディアを川島博士は持っている。右に動かしたければこのような脳活動、左に動かしたければこうと、より細かく脳活動を頭の様々な部位で検知し、それをプログラムと結びつければ「ブレイン マシン インターフェース」は実現できるかもしれない。現在でも脳活動のレベルでの段階も設定可能で、今後研究を進めていけばユニークなシステムを構築できるだろうと川島博士は語った。

特定の脳活動を検出すると、まずモノアイが効果音とともに光る。この“演出”がたまらないのだ