インタビュー

「Ghost of Tsushima」の“冥人”をアクションフィギュアに! 「figma境井仁」開発者インタビュー

 マックスファクトリーはアクションフィギュア「figma境井仁」を2021年8月に発売する。価格は11,000円(税込)。11月27日より受注を開始している。

 境井仁は、プレイステーション 4向けアクションゲーム「Ghost of Tsushima」の主人公。蒙古が襲来した対馬を舞台に仁は蒙古を撃退し、民を救うための戦いを繰り広げる。今や対馬を支配する蒙古に対し、夜の闇や物陰に身を隠し、その命を奪う凄惨な戦いを繰り広げる仁は「誉れを尊ぶ武士」ではなく、冥府から蘇った伝説の怪物「冥人(くろうど)」としてその名を知られていく……。

 フィギュアはこのゲームを象徴する装備とも言える「冥人の鎧」を身につけた姿で表現している。筆者は先日開催されたフィギュア新作発表イベント「ワンホビギャラリー 2020 AUTUMN」で本商品の試作品を目にし、そのカッコ良さにしびれた。

 今回さらに彩色された試作品を見ることができ、開発担当を務めるマックスファクトリー企画部の坂井氏に話を聞くことができた。フィギュアの魅力、そして込められた想いを聞いていきたい。

【figma境井仁】
「figma境井仁」。「Ghost of Tsushima」の主人公をアクションフィギュアとして表現。姿を再現したのみならず、アクションフィギュアとして高いプレイバリューがある

ゲームの3Dデータをアクションフィギュア向けに関節を仕込む

 まず少しだけゲームの説明をしておこう。「Ghost of Tsushima」は蒙古が占領された対馬を冒険するアクションアドベンチャーである。暴虐の限りを尽くし民を苦しめる蒙古軍に対し、仁はたった1人で立ち向かう。多数の敵が待ち受ける拠点に忍び込み、物陰に隠れ暗殺していくステルス要素、正面から戦いを挑みバッタバッタとなぎ倒すチャンバラアクション、さらに手裏剣や爆薬、煙玉を使って敵を翻弄する戦い方もできる。

 様々な因縁を持つ人物と関わりながら仁は戦いを進めていく。独特の価値観で描かれる「武士道」、非常に詳細な資料によるリアルに描かれた時代描写、美しい対馬の風景など見所のたっぷりのゲームだ。この日本の情緒溢れるゲームを開発したのはアメリカの開発会社Sucker Punch Productionsというところも興味深いところ。日本の時代劇映画のオマージュもたっぷり込められて、非常に楽しい。今回の「figma境井仁」はその「Ghost of Tsushima」の主人公をfigmaフォーマットで見事に再現している。

【ゲーム内スクリーンショット】
「Ghost of Tsushima」のスクリーンショット。美しい対馬の地を舞台に、この地を制圧した蒙古兵に立ち向かうアクション

 最初に質問したのは、この「figma境井仁」が生まれた経緯。本商品は「Ghost of Tsushima」が発売される前、メディアにゲームの具体的なイメージが大きく発表された、2018年のロサンジェルスで開催されたE3でのPV公開と同時期に「こういうゲームの主人公をfigmaにしないか?」とゲームの発売元のSIE(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)から連絡があったという。

 マックスファクトリーはフロム・ソフトウェアのプレイステーション 4/Xbox One/PC用アクションゲーム「SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE」の主人公である隻腕の忍者「狼(おおかみ)」をfigmaにした「figma 隻狼」も手がけており、担当者は坂井氏だった。「凝った鎧を身につけた侍ゲームの主人公」というテーマで、「figma境井仁」も坂井氏が担当することとなった。

 「figma境井仁」はゲーム内の詳細な3Dモデルデータを元にして作られている。そのデータや詳細な資料は開発元のSucker Punch Productionsから提供されていたが、実際のゲームをプレイするまでは「このキャラクターがゲームでどう動くか」というのはPVで推測するしかなかったという。

【「Ghost of Tsushima」「冥人(くろうど)」トレーラー】

 figmaは「アクションフィギュア」である。提供された3Dデータをそのままフィギュア化しても最大の魅力である「可動」は表現できない。3Dデータをどう“figma化”していくかはマックスファクトリーの経験と、これまでのfigmaが培った様々な技術を活用していくこととなる。「ゲームの中で仁はどう動くか?」これらはまさにユーザーと同じ目線で公開されるPVを見ながら関節構造の設計や、可動位置の分割等を考えていったとのことだ。

【ゲーム内の冥人の鎧】
トップ画面とゲーム内の冥人の鎧の姿。鎧は強化することで姿が変わる。figmaは2段階目の強化の姿を再現している

 「3Dモデルを提供いただいているので、他の版権ものフィギュアで生じる“解釈の違い”や“アレンジによる大きく変わってしまうイメージ”というものは生じにくくなります。このデザインで使われる労力は実かかなり大きく、本物(ゲーム)と同じデータで作るというのは、立体化する上で助かるところは多いです。しかし関節をどう仕込むか、それがオリジナルデザインをどう変化させてしまうかが課題となる。結果として必要な箇所には手を加えて、figmaとしています」と坂井氏は語った。

 特に大きく手を入れたのは肩の部分。刀を両手で構えたり、振りかぶったり、肩を引き出すことができるように、可動範囲を大きく設計している。腕の付け根部分に引き出し関節を仕込み、ここを引き出すことでぐいっと方を前に出すことが可能になっているという。

【腕の可動のこだわり】
特に肩の可動は力が入っている。腕の付け根だけでなく、背中部分から腕を前に引き出せるように関節が設定されている

 もう1つ「figma境井仁」の工夫ポイントが腰から腿を覆う防具「草摺(くさずり)」と腿に張り付く形の防具「佩楯(はいだて)」の表現。本来は別々のパーツだが、今回は敢えて一体化し、胴体との接続部分に布を使うことで動かした時の自然な雰囲気を演出している。

 可動部分に布を使うというのはfigmaでは初めての試みだという。自然に草摺が曲がり、佩楯と重なる独特の雰囲気が作り出せたという。現在は試作品の段階で、これから工場での量産をテストするところだが、これがうまく行けば今後の活用にも期待ができるギミックだと坂井氏は語った。こういった技法は海外フィギュアで見られるものも参考にしているとのこと。

 改めて全身を見てみる。やはり圧倒されるのは塗装の細かさだ。製品版でもこれだけの塗り分けは行なっていくという首に巻いたマントの留め具。胸に巻き付けたロープ、くくりつけた手裏剣に、鎧の金具、日本刀の鞘に描かれた境井家の家紋など本当に塗装が細かい。これだけの精密な塗装を、およそ15.5cm、1/12スケールのfigmaので実現しているのだ。チェックするほどにその細かさは圧倒される。

【布を使った草摺の表現】
胴から腿を覆う「草摺」。太ももの防具「佩楯」と一体化させ、胴とのつなぎ目に布を使うことで自然なシルエットを形成

 塗装は“質感”にこだわっており、全体的に汚れた雰囲気などは「拭き取り塗装」という技法を使うとのこと。塗装された表面に、薄い茶色などの塗装を施し、布などで荒く拭き取ると、影の部分が濃くなったり、こすられた跡が残るような、汚れが付着した荒々しい雰囲気になる。

 figmaは中国の工場で作られており、こういう処理が得意な工場に仕事をお願いしてるとのこと。拭き取り処理は全身を同じ工程でするのではなく、鉄の表面、布の表面、木の表面……それらの素材を表現するために塗料や工程を工夫する。モデラー達のテクニックのような塗装の工夫を製品で実現しているとのことだ。

【塗装で材質の違いを再現】
アップで見るとその塗装の塗り分けに驚かされる

「このキャラクターをfigmaにできて良かった」ゲームの楽しさを再現できる工夫

 そしてやはり“顔”である。実際の人物をモデルにしたフィギュアはその顔の表現が非常に難しい。昨今ではデジタル印刷による技法が向上しており、以前とは段違いのリアルな顔の造形を実現することができている。マックスファクトリーの場合はこの技法を「3D彩色」という名称で呼んでいる。

 3D彩色は、立体物に印刷できるインクジェット式プリンターで行なう。それは紫外線でインクを硬化・付着させる印刷技術で、プリンターは業務用の非常に高価で精密なもので、写真をそのままフィギュアの表面に貼り付けたような印刷が可能となり、実際の人物をそのまま縮小した雰囲気を持つ顔を実現できる。もちろん写真をそのまま使うだけではダメで、その印刷データは独特のノウハウによる加工が必要となる。

【リアルな顔の表現】
実写タイプの顔の表現はこれまでのフィギュアでは苦手なところだった。近年のプリンター技術やノウハウの蓄積で、その精度は格段に上がっている

 こういった技術は欧米の彫りの深い人物の再現度は得意だが、日本を含めたアジア系ののっぺりとした顔の表現はまだ難しい。「figma境井仁」の場合はゲームのデータをそのまま活用できるが、いざ立体物にして“らしく見せる”ためにはかなり試行錯誤をしたとのこと。

 顔をリアルにするのは、服や装備は負けないほどにリアルにしなくてはいけない。顔のクオリティが全身の精密さを左右するのだと坂井氏は語る。そして冥人の恐ろしさを象徴する面頬も付属するパーツとしては面頬ををつけた顔パーツで、後頭部を残して交換する、他のfigmaの表情パーツを変えるのと同じ感覚だ。

 もう1つ面白いのがマントの表現だ。これは実際の布を使っている。針金などの骨組みは使っていないのではためく感じなどは刀の鞘に引っかけるなど工夫をして欲しいとのこと。今回フィギュアの見本写真を撮るために、坂井氏は時間を掛けてこのマントが作るシルエットを時間を掛けて調整したという。長時間飾る時は台座や両面テープの使用がお勧めとのこと。

【はためくマントの楽しさ】
布を使ったマント。針金などはないので、シルエットを保つには工夫が必要

 ちなみにマントは縁がボロボロになっているが、これは坂井氏が手でほぐしたとのこと。この表現はどうしても均一化が難しいので製品版では布は切りそろえられており、ユーザーが好みに合わせてほぐして雰囲気を出す仕様にするという。手で簡単にほぐれる素材になる。

 坂井氏自身「Ghost of Tsushima」は発売日に購入し、かなり力を込めてプレイしたという。メインストーリーをクリアし、やりこみ要素はこれからという感じだという。とても楽しんでプレイした。いざゲームをプレイするとまた境井仁への印象は変わった。

 「ストーリーはシビアですし、中心となるストーリーは重厚でありながら、我々が考えさせられる、とても現代的なテーマがある。コミカルな部分もありとても奥深い。正直、設定画でキャラクターを見ると『ただの侍』にしかみえず、どういうキャラクターかつかめなかった。しかしプレイすると、『冥人』となった理由、全身に装備された武器の意味……さまざまな情報がわかってくる。ゲームのキャラクターとしてここまで皆から好かれる人物だとは、本当にプレイするまでわかりませんでした。このキャラクターをfigmaにできて良かったなと、今はホントに思いますね」と坂井氏は語った。

 「Ghost of Tsushima」のゲームの面白さ、発売後のユーザーの反応、ストーリーや世界観、キャラクターの人気……。それは舞台となった対馬への観光をユーザーが求めるほどに大きくなった。坂井氏は「ぜひこのfigmaを持って対馬に観光に行って、色んな所に立たせて写真を撮って貰いたいですね。figmaを前に一句詠んで欲しいです」と語った。

「Ghost of Tsushima」への想いを強く込めたフィギュア、そのディテールこそが見所

 改めて坂井氏に「figma境井仁」の個人的に気に入っているところを質問したが、坂井氏は「ディテールの密度感」と応えた。約15.5cmのfigmaにあらん限りの情報をぎっちり詰め込んで境井仁を表現している。

 「写真だともっと大きいフィギュアだと感じられると思うんです。これが手にした時の心地よさ。充実感はぜひ購入して感じて欲しいと思います」。試作品を手にした坂井氏は手の中で何度も動かして「いいなあ」といいながらずっと笑みを浮かべていたという。とても共感できる風景だ。

【セット内容】
弓も付属。刀は刀身を鞘に収められないが、柄パーツを外すことで抜刀状態を再現できる

 ゲーム内でも大きな意味を持つ「冥人の鎧」を装備した仁。細かい装備品や、ゲーム内ではどこに隠し持っているかわからない様々な道具を実はしっかり装備していることも確認できる。鎧を補強する鎖や、素材、激しい戦いで痛んでいるところなど、改めてゲームのデザイナーの想いも実感できる。ゲーム内では激しい戦いが続く上、画面越しだと細かい造形がチェックできない。じっくりと境井仁をチェックできる、というのもfigmaの楽しさだろう。

 また、グッドスマイルカンパニーのオンラインショップで予約をすると、特典として「特製台座」が付属する。「Ghost of Tsushima」のロゴがプリントされた特別製だ。こちらもチェックしたいところだ。

 「Ghost of Tsushima」はリソースを消費することで装備を強化できる。今回figma化したのは1段階だけ強化した鎧。このためまだ傷ついた箇所が確認できるが、この後さらに強化すると立派になっていく。また刀や全体のカラーリングもゲームでは変更できる。敢えてこの姿をゲームで再現し見比べてみるのも楽しそうだ。

【グッスマオンライン特典】
グッドスマイルカンパニーのオンラインショップで予約をすると、特典として「特製台座」が付属する

 「Ghost of Tsushima」は細かいカスタマイズ要素があり、様々な服装、カラーリング、刀の鞘やかぶり物などが変更できる。残念ながら今のところそういったバリエーション展開は考えていない。この「figma境井仁」の反響の如何によっては企画が通るかも知れない。

 坂井氏は“あくまで夢”と強調した上で、画面が白黒になる「クロサワモード」で商品のカラーバリエーションがあったら素晴らしいのではないか、と思っているとのこと。そしてさらに妄想(願望)を暴走させて、バリエーション展開するなら敵となる「蒙古兵」の商品化をしたいという想いも語った。もちろんこれが実現することは難しいが、坂井氏の話を聞くと様々な期待がふくらんでいく。「冥人と何かを対決させる、そういう楽しさはfigmaだからこそですね。アニメキャラやロボットなど、様々なフィギュアやプラモデルと組み合わせたり、色々遊んで欲しいです」と坂井氏は語った。

 そして「figma境井仁」の商品写真も坂井氏がこだわりまくったところ。冥人の雰囲気を出すために敢えて合成ではなく、ドライアイスの煙を使っての撮影もしたという。他の商品以上にこだわった7時間に及ぶ撮影になったという。

【こだわりの商品写真】
ドライアイスを使って「冥人」の雰囲気を演出
【多彩なポーズ】

 商品ページもこだわるだけこだわっており、クロサワモードのような仕掛けを準備しているので、是非チェックして欲しいとのことだ。

公式ページ https://www.goodsmile.info/ja/product/10352/

 最後にユーザーへのメッセージとして坂井氏は「僕自身ゲームの大ファンです。ファンの1人としてカッコイイフィギュアが欲しいという願いを込めてfigmaを実現させました。ぜひご予約いただき、手元に届くのを楽しみにして下さい」。

 非常にカッコ良く、楽しいフィギュアだ。「Ghost of Tsushima」は筆者も大いにハマリ、1週目の殆どの要素を巡った。やはりいくつもの方を使い、敵をうまく対処するのが楽しい。剣にこだわる人もあれば、敢えて蹴りや、ステルスキルにこだわるのも良い。プレーヤーによって、figmaで取らせたいポーズは大きく変わってくるだろう。

 1万以上という価格はこれまでのfigmaと比べ高価にも感じるが、商品写真を見れば納得というもの。冥人の鎧を装備した仁をここまで見事に再現しているのは、やはり驚きである。この魅力的な主人公をアクションフィギュアで手にできる喜びは、やはり非常に大きい。

【ゲーム内のポーズを再現しよう!】
ゲーム内の仁は多彩な剣技、アクションを見せてくれる。これらをfigmaで再現したくなる