インタビュー
人類の革新始まる!? 「脳活動でザクを動かす」、川島隆太博士インタビュー
脳活動を高めるとザクが歩き、さらに活発にすると攻撃モーション発動!
2020年11月11日 10:56

「脳活動でザクを動かす」。非常にゾクゾクさせられる言葉だ。「機動戦士ガンダム」の世界にはニュータイプと呼ばれる人類が、その脳から検出される感応波で“意志”や“思念”を伝搬させ、物体を制御する「サイコミュ」という技術がある。「機動戦士ガンダム」シリーズに限らず、超能力のように思考で機械を動かせるというのは夢の技術であり、いつか実現して欲しいものの1つだ。
この「サイコミュ」をイメージさせる試作プロジェクトが今回行なわれた。バンダイが開発したミニチュアザクをプログラムで動かすSTEM教材「ZEONIC TECHNICS」を、脳活動を計測できるセンサーと組み合わせ、「操縦者が手を使うことなくザクを動かす」というシステムを試験開発したのだ。脳科学を活用し、生活に役立てようという企業NeUと、バンダイのコラボレーションである。
リラックスした時、集中した時など特定の脳活動を検知することでザクが動く。その脳活動がさらに活発になると違ったアクションをする。それは「思考コントロール」とは違うものだが、自分の脳活動を検知しロボが動くというのは、とても興奮させられる風景だ。
今回、NeUの取締役CTOを務める川島隆太博士にインタビューを行なった。川島博士はDS用脳活性化ソフト「脳を鍛える大人のDSトレーニング」シリーズで知られている。NeUは東北大学加齢医学研究所 川島研究室の「認知脳科学知見」と、日立ハイテクの「携帯型脳計測技術」を活用する東北大学+日立ハイテクによる脳科学カンパニーである。
本稿ではNeUがどのように脳科学を実社会に活かすための活動をしているか、その技術でどのようにザクを動かしたか、こういった技術が我々の生活をどう変えていく可能性があるか、そういった話を聞いていきたい。
脳活動を検知するセンサーが変える、新しい「脳トレ」と生活
まず、「脳波」とはどんなものか、そういった基礎的なことを川島博士に質問してみた。脳波というと人間の脳から電波のようなものが出ているイメージがあるが、実際には違う。脳を含めた人間の神経は微弱な電気信号で活動をしている。その電位差、どのように電気が巡っているかを検知することで脳がどう活動しているかがわかるのだ。この脳活動を脳波と呼んでいるのである。
脳内の電気信号を測定するのには、頭皮から計測できる。しかし頭皮から計測できる電位差は非常に微弱で、髪の毛があると計測が難しいため、昔の脳波測定は髪の毛を全て剃って行なうものもあった。そういった研究の成果で、様々な人間の行動時に脳のどんな部分が活動しているのか、脳の部位と働きが解明されてきた。
脳活動の測定方法には、MRIという技術がある。これは脳へ酸素を運ぶヘモグロビンの活動を検知する装置で、ヘモグロビンが酸素を放出する際に磁場が乱れる。MRIはこの磁場の乱れを検知することができる。しかしMRIは非常に大きな装置で、メンテナンス費用もかかり、コストも大きい。
川島博士はもっと日常的に、気軽に脳活動を検知する方法を模索していた。その中で「脳の血管の活動」に目をつけた。脳が働くためには「エネルギー」が必要となる。栄養や酸素を必要とし、エネルギーを供給するための血液の活動が活発になっていく。このため脳が活動すると血流の流れが速くなる。NeUは近赤外線を額から体内に投射し、戻ってくる光を検知するセンサーを使うことでこの脳の活動を検知することができるセンサーを開発した。
「手のひらを太陽に」の歌の通り、人間の手を太陽にかざすと手が赤く見える。これは人間の肉体が赤の光を通過する事を示している。NeUが開発したセンサーはこの人体の特性を活用し、近赤外線を投射、人体は水分を多量に含んでいるのでわずかに光は反射しセンサーに感知される。しかし赤血球に含まれるヘモグロビンが多いとそこで赤い光は吸収され戻ってこなくなる。脳活動が活発になると検知される反射光が少くなる。この仕組みにより、脳の活動を検知しよう、というのがNeUの「脳活動計測装置」の基本となる。
NeUはいくつかのセンサーをすでに開発しているが、最新のものは80×40×13mm(横×縦×奥行き)で重さ30gという小ささを実現した。手のひらに乗る小さなサイズのセンサーで肌が露出している部分、額につけることで前頭前野の脳活動を検知することが可能だ。従来の技術よりずっと手軽に、そしてノイズを少なく検知できる技術を非常に小さな機械で実現したのである。
このセンサーで検知する前頭前野の活動こそが川島博士が「脳トレ」で推奨しているところだ。前頭葉は短期記憶、注意力、思考、意思決定、行動の抑制といった部分を司る。この前頭葉を活発にすることができれば集中力の増加、新しいことを取り入れる意欲、思考力の向上などが見込める。「脳トレ」はまさにそういった前頭葉を「鍛える」という考え方で生まれている。
「ただ単にボケ防止、と捉えられることもありますが、実は違う。若い人でもトレーニングを行えばパフォーマンスが上がる。子供のうちから鍛えておけば学習の効率も上がるわけです。あまり大きく宣伝すると強制してしまいいそうなので強くは言いませんが、データとしてははっきり出ている」と川島博士は語る。筋肉と同じように、脳も鍛えることで能力は向上する、というのが川島博士の理論であり、それを向上させる方法を提示する「ブレインフィットネス」というのが、NeUが提示する新しい価値観である。
ゲームと“脳トレ”を組み合わせたところに川島博士の理論が受け入れられたところもある。川島博士がこの理論を提唱し始めたのは2000年の初め。この時期は賛同者は殆どいなかったという。しかしいまや「脳トレ」は多くの人が知るタイトルとなった。NeUではこれをさらに脳活動を計測できるセンサーを活用してより効率的にしようという「ブレイントレーニング」を推奨している。ビジネスはすでに始まっており、このセンサーとアプリを連動させたコースを販売している。