インタビュー

誕生から54年、常に今の子ども達の心をつかみ続ける「リカちゃん」の“現代性”

常に最先端、進化し続けるリカちゃんの“ファッション”の秘密

 「リカちゃん」は1967年に生まれ、50年以上も子ども達に親しまれている「玩具」を代表するブランドの1つだ。“着せ替え人形”というジャンルで、様々な服を着せて遊ぶ。「リカちゃん」と聞いて“懐かしい”という感情を抱く人もいるのではないだろうか? しかしそれは違う。子どもは“懐かしい”とか“歴史”を感じて自分の玩具を選ばない。新しさ、今自分が興味のあるものに惹かれるのだ。「リカちゃん」が今も存在し続けているのは、今の子どもたちにとって魅力的な存在だからだ。

 お気に入りのアイスクリームショップの店員、親と行くスーパーのお客さん、ドレスをまとったお姫様に、元気な友達……。「リカちゃん」は服を変えることで様々な役割を演じる。そして、子ども達の興味のある「生活」を再現するだけでなく、様々な「あこがれ」を提示してくれる存在だ。キラキラした服、おしゃれな服、「こんなおしゃれをしてみたい」、「リカちゃんにこんな姿をさせてみたい」。「リカちゃん」の対象年齢は3歳。幼稚園などに入り、家族以外の人にふれあう機会も多くなり、急速に成長し、様々な知識を吸収していく子どもに応える多彩なリカちゃんの服は、まさに今の価値観に合った“旬”のものでなくてはいけない。立ち止まってはいけないのだ。

 これらのファッションはどう決められ、作り手のこだわりはどこか? 進化し、変化していくユーザーの価値観に対し、リカちゃんとして大事にしているところはどこだろうか? 今回、リカちゃんのメインテーマである着せ替え人形、そしてファッションについて、タカラトミーで「リカちゃん」のマーケティングを担当するリカちゃん事業部ブランドマーケティング課課長の向井里奈氏に「進化し続けるリカちゃん」について話を伺った。

「リカちゃん」のマーケティングを担当するリカちゃん事業部ブランドマーケティング課課長の向井里奈氏

現代のファッションを積極的に取り入れ、進化していく「リカちゃん」

 「リカちゃん」は“今”を積極的に取り入れていく存在である。具体例としてまず“生活”にフォーカスした「お店屋さんシリーズ」の「リカちゃんリカペイでピッ!おかいものパーク」を紹介したい。

 2020年6月に発売した「リカちゃんリカペイでピッ!おかいものパーク」はスーパーマーケットを再現した「お店遊び」ができる商品だ。お店の中にある商品をかごに入れてレジまで持って行き、1つ1つセルフレジで読み取らせ、最後にリカちゃんの持つICカード「リカペイ」で支払うという、非常に細かい再現がされていた。

【リカペイでピッ!おかいものパーク】
「リカちゃんリカペイでピッ!おかいものパーク」、2020年6月20日発売、価格は7,678円(税込)

 もう1つ、2021年4月の「リカちゃんもくもくジュージューにぎやかバーベキュー」は“キャンプ”をテーマにした商品。コロナ禍のなか、旅行の自粛が求められるなか“外”への憧れが増したこと、その前に流行となった「キャンプブーム」に応えた商品だ。大型のグリルを中心に、肉のミニチュア、トングなどの小物がリアルで楽しい。

 キャンプ用具のメーカー「コールマン」とコラボしており、ロゴの入ったバックや、メーカーを象徴する赤いアウトドアワゴンもついていて、コールマンを知っている人はにやりとしてしまうだろう。このグリルは超音波で水を水蒸気化し、肉を焼いた煙を水蒸気で再現するという驚きの演出装置まで搭載されている。

【もくもくジュージューにぎやかバーベキュー】
「もくもくジュージューにぎやかバーベキュー」、2021年4月29日発売、価格は6,578円(税込)

 「リカちゃん」はこのように“時代の空気”を取り入れることに貪欲だ。紹介した大型商品は「ICカード」、「無人レジ」、「キャンプブーム」など現代の子ども達が見ていたり、興味のあることに積極的に応えている。そして“時代性”を最も強く取り入れているのが“ファッション”だ。

「『リカちゃん』の大きな軸として、着せ替え人形があります。ドールハウスに加え、お洋服のみの販売も年間数十種類販売しています。夏ならば水着などのスポーティーなアイテム、冬は上着など上に羽織るものがついた暖かそうなもの。基本的に1年を通じて、色々な服を展開しています」(向井氏)

 「お店屋さん」をテーマにした商品に合わせたショップ店員の制服や学校の制服、そして、「パジャマ」もある。リカちゃんは“生活”が大きなテーマだ。生活する普段着だけではなく、寝るための服もある。例えばパジャマは定番のシチュエーションだがリカちゃんのファッションにおいては「今年もこの時期だからパジャマを出そう」という固定されたスケジュールではなく、数年おきにトレンドや流行が変わってきたな、という時にその雰囲気を取り入れたデザインを発売している。「パジャマを新しいものにしよう、というのはおしゃれな人でも数年おきだと思うんです。人間のお洋服と感覚は近いと思います」とのことだ。

 リカちゃんの洋服をテーマにした商品構成はリカちゃん人形と洋服がセットの「ドールシリーズ」と、衣装のみの「ドレスシリーズ」がある。ドールシリーズに関してはリカちゃんの“入門”も意識したワンピースやパーティードレスが多く、パジャマなどより細かいシチュエーションや制服、季節のファッションなど、デザインのバリエーションを広く展開しているのがドレスシリーズとなる。

 さらに「リカちゃん」は「鬼滅の刃」や現実のファッションブランドとのコラボなど、「着せ替え人形の代表的存在」として様々な展開をしている。「ロングセラー商品だからこそ時流を積極的に取り上げていきたいと思っています。いつの時代でも、今のお子様に寄り添うのが『リカちゃん』です。常に現在のお子様の目線と合わせる、現在のトレンドを取り入れる、古びない、というのは一番気をつけたいポイントだと思っています」と向井氏は語った。

公式ページでの商品カタログ。様々な衣装がある

 特にファッション関係は常に最新の情報を取り入れるため、向井氏自身も原宿の竹下通りや、新大久保など若者の集まる、子ども達にも憧れの場所は頻繁に訪れ、街を行く人達の服装や、人気のアパレルショップをチェックしている。ファッション誌などは子ども向けのものから大人向けまで幅広く購読しているし、他にも様々な形で情報を取り入れている。子ども服に限らずトレンドをチェックしているとのことだ。

 子ども達へのリサーチもしっかり行なっている。定期的に子どもの興味や、今好きなものなどを聞くという。アンケート形式の時もあれば、子どもと担当者が対面形式話を聞くこともある。「今どんなキャラクターが好きか、学校での話題は何か、お出かけスポットはどこか」などなど、子どもの生の声を聞くことはリカちゃん誕生のころからずっと大切にしていることだという。

【リカちゃんLD-01だいすきリカちゃんギフトセット】
「リカちゃんLD-01だいすきリカちゃんギフトセット」、2017年3月18日、価格は5,478円(税込)。"入門用"といえるリカちゃんのドールと複数の衣装のセット。特にピンクのワンピースはリカちゃんの基本と言えるかわいらしい衣装だ

 リカちゃんのデザインスケッチを見せて「どれが好きか」を聞くこともしている。また、インターネットを通じたアンケートなども行なっている。こういった「子ども達の今の興味を聞く体勢」をしっかり調えているところも、ロングセラー商品を支えるシステムとなっているのだ。

 ちなみに、11月に発売されたドレスセット「リカちゃんLW-17フィールザウィンド」はシックなコートの下に、黒いセーターと落ち着いたチェック柄のスカートとずいぶん大人っぽい出で立ちだ。このようにデザインに“幅”を持たせているのもリカちゃんのファッションの特徴。落ち着いた衣装を盛り込むことでラインナップの個性がより際立つ。大人っぽい洋服はお母さんが「これ子どもに良いかも」と手に取る場合もあるとのこと。

「かつてリカちゃんが好きで、ご自身もファッションが好き。そう言う親御さんも多いと思います。ラインナップはそういう現実にありそうな憧れを感じさせる服もあります。お子様と一緒に楽しんでもらえればという想いも込めています」(向井氏)。

 このようにリカちゃんのファッションは様々な要素を盛り込み、決して古びない、新しさを取り入れて展開し続けている。続いてリカちゃんの服の方向性について掘り下げていこう。

【リカちゃんLW-17フィールザウィンド】
「リカちゃんLW-17フィールザウィンド」、2021年10月16日発売、価格は2,750円(税込)

「これが好き」、リカちゃんの服を子どもは直観で選ぶ

 「リカちゃん」の服は現実を考えるとやはり奇抜なデザインが多い。大きなモチーフや、キラキラした飾り、虹色に光る生地など、そこには「オモチャらしさ」があり、それでいて派手なだけでなく大人も感心しそうな飾りの細かさや、「着せ替え人形の服のデザイン」として納得させられるバランスもあるように感じる。こういったバランスのコツや、リカちゃんならではの服のデザインとは、どういったものなのだろう?

「実際の子ども服をリカちゃんサイズにしただけだとあまりかわいらしくなかったりするんです。人形が着た時にシルエットがふんわりするとか、大きなアクセサリーなどは、現実の服では動きにくくなってしまう。リカちゃんだから実現できるデザインの服も多くあります」(向井氏)

 大きなキラキラ光るストーン、リボン、レース、大きくて派手な花柄……。着るには少し勇気がいるデザイン要素もリカちゃんが着ると途端にかわいらしい世界観になる。「リカちゃんだから似合う服」というのはあり、そこに面白さが生まれるバランスがある。

 リカちゃんは子どもにとって、自分であり、友達であり、「リカちゃん自身」であるという。子どもが着てみたい服、友達の着せてみたい服、リカちゃん自身が着飾り、お人形として、オモチャとしての“姿”を楽しむ。その距離感は時間や気持ちで様々に変化しながら服を着たリカちゃんを楽しむ。

 時にリカちゃんは子どもと同じだったり、お母さんだったり、店員さんとして働くお姉さんだったり、動物病院の先生だったりする。リカちゃんの顔かたち、身長は変わらないまま、年齢やシチュエーションが衣装によって変わる。着せ替え遊びの面白さを考えてリカちゃんの服はデザインされている。子ども達の様々な思いを受け止めてくれる存在なのだ。

【リカちゃんならではの服】
「だいすきリカちゃんギフトセット」のピンクのワンピース。ピンクのワンピースを基本として、大きなリボン、クリスタルの飾り、Liccaの名前が描かれたスカートなど、まさにリカちゃんならではの服と言える

 2017年に発売された「リカちゃんLD-01だいすきリカちゃんギフトセット」はまさにリカちゃんの“入門用”としてぴったりのセットで、シンプルなワンピースと、お姫様のようなドレス、そしてレースとリボンが配置されたピンクのワンピースがセットとなっている。特に「ピンクのワンのピース」はリカちゃんのイメージを象徴するかわいらしい服なのだが、スカートの縁に「Licca」と名前が書いてあるという、ある意味コテコテの衣装だ。

 「自分の名前を服の模様として書くのか」と大人目線だとツッコミを入れてしまうが、まさに「リカちゃん」だからこそできる「THE・リカちゃんの服」という感じで、リカちゃんの服装、「リカちゃん人形のイメージ」として本当にぴったりだ。ピンクのフリルのついた服に黒いリボンの飾りという色合いはただかわいらしいのではなく、独特の大人っぽい色合いがモダンな雰囲気も与えている。こういった独特のバランスが「リカちゃん」の服のデザインの奥深さといえるだろう。

「着れそうで着れない服というバランスは大事かもしれません。着てみたいけど派手だったり、そもそも売っているようなお店がわからなかったりもする。自分の出来ないことがリカちゃんを通じてできる。リカちゃんのドレスのラインナップを提示する上で“あこがれ”は大事なことだと思います」(向井氏)

 もちろんデザインが凝っているだけでなく、「子どもの玩具」としてもしっかり考えられている。リカちゃんのにはワンピースが多くラインナップされており、背中のマジックテープを外すと左右にしっかり分かれる。これは3歳からでも簡単に着せ替えができるための工夫だ。

 多彩なラインナップをユーザーにどう提示するか? という点では「カタログ」も大事だ。たくさんの服を見せて、その広がりを感じてもらうように心がけている。店頭でもたくさんの服があることをアピールするディスプレイフォーマットを作り、おもちゃ屋で並べている。色々な服が次々と画面に出てくるプロモーションビデオを作成している。実際のファッションショップのように様々な服を見せることで、「選ぶ楽しさ」も提示しているとのことだ。

 一方で、子どもの目にとまりやすいデザインとしては“シンプルな特徴”も大事だ。12月29日には「リカちゃん」のドレスシリーズが一気に4つ発売される。「リカちゃんLW-01ジョイフルフラワー」、「リカちゃんLW-02シャイニースカイ」、「リカちゃんLW-03スウィートチェリー」、「リカちゃんLW-04カラフルスター」。この4つは子どもが直感で“好き”を選ぶポイントを盛り込んでいる。

 ジョイフルフラワーはたくさんの花の絵があしらわれた花柄。シャイニースカイは冬らしい透き通った青い色に銀の大きなアクセサリーと白いリボン、スィートチェリーはサクランボのイラストと胸元のハート型のアクセサリーが目を惹くし、カラフルスターは黄色の明るい雰囲気だ。色やアクセサリー、シルエット、レースの印象など、子どもは色やパーツなどの特徴で直感的に選ぶ。「お店に行くと子ども達は『これが良い』、『これが好き』って指をさすんです。迷う前にパーツとか色とか、直観で選ぶ子どもも多いです。そのためわかりやすい特徴も大事にしています」と向井氏は語った。

【12月29日に発売されるドレスセット】
「リカちゃんLW-01ジョイフルフラワー」。価格は1,320円(税込)。花柄がとても華やかなドレスだ
「リカちゃんLW-02シャイニースカイ」。価格は1,320円(税込)。冬にぴったりな青い衣装。大きな銀のアクセサリーやレースなど、大人っぽい雰囲気だ
「リカちゃんLW-03スウィートチェリー」。価格は1,320円(税込)。サクランボ柄、紫の色合いがかわいらしい服
「リカちゃんLW-04カラフルスター」。価格は1,320円(税込)。明るい雰囲気のポップな衣装だ