インタビュー

誕生から54年、常に今の子ども達の心をつかみ続ける「リカちゃん」の“現代性”

バランスや生地へのこだわり。開発者の想いのこもったリカちゃんのドレス

 より細かく、具体的にリカちゃんのドレスを見ていこう。向井氏はこのインタビューのためにいくつかの服のデザイナーのこだわりを聞いてきたという。向井氏自身は「リカちゃん」のマーケティング担当として、ユーザーにリカちゃんのイメージをどうアピールしていくか、どの時期にどんな商品を投入していくか、全体的な戦略として「リカちゃん」というブランドの方向性をどう定めていくかなど全体的なプロデュースを行なっている。一方でデザインを担当する開発チームは各服などに強い思いや工夫を込めて商品を開発しているのだ。

 「リカちゃん」の服のデザインは本当に現実の服を作るのと同じで、デザイン画を作成しここから試行錯誤をしていく。ある意味現実の服以上にシビアなところがあり、デザイン画は子どもが選ぶ「人気投票」で吟味され、その上位しか実際の商品にならないという。

 いくつかの服のディテールを見ていこう。12月29日発売の商品の1つ「リカちゃんLW-03スウィートチェリー」でデザイナーが大事にしていた要素は“昨今の流行である透け感”。胸から肩のところが肌の部分が透けて見えるシースルーデザインとなっている。またスカートの裾部分も編み目が粗く透けるような雰囲気がある。この裾部分は2色の生地を重ねているところもポイントだ。

【リカちゃんLW-03スウィートチェリー】
大きな胸の飾りが印象的。肩部分の布のバランスも工夫したとのこと
布が重なったスカートの縁。サクランボがハートになっているのもポイント

 メインの薄紫の生地にはかわいらしいサクランボの絵のプリント。よく見るとハート型のサクランボもあるなど、遊び心を加えている。胸元にはピンクのクリスタルのブローチにレースの飾り。現実の服とみれば大きめだが、リカちゃんの服としてはインパクトを出す大きさながら全体のバランスをしっかり取っている。

 一方、薄紫の生地とサクランボの色やデザインや、サクランボをどの程度際立たせるか。胸から上のシースルー素材も服全体を見た時に多すぎてもいけないし、少ないのも寂しい……。こういった様々なところでの比率や組み合わせは苦労しているとのことだ。

 最新のファッションを常にチェックしている開発チームだが、最先端の流行が実際の子ども達のファッションに反映されるには数年の時間がかかるというのが体感だという。数年前には「ゆめかわ」というデザインテイストが流行った。淡いパステル調で「夢のようにかわいい」というデザインラインだ。

 ファッション誌やTVで“ゆめかわ”が取り上げられ、アンテナの高い女の子を中心に“ゆめかわ”なデザインを取り入れた服で街を闊歩するようになった現象は、「リカちゃん」企画チームもきちんとチェックしていたとのこと。

 そのゆめかわ要素を取り入れた一例が「リカちゃんLW-16もこもこガーリーコーデ」淡い色の上着はお腹にポケットがついていている。白くゆったり膨らんだ袖はゆめかわファッションのかわいらしさ。スカートはピンクと水色のツートンのチュール生地となっている。

【リカちゃんLW-16もこもこガーリーコーデ】
「リカちゃんLW-16もこもこガーリーコーデ」、フリースのように見えるモコモコ素材の服がかわいらしい。耳当ての素材も注目ポイント

 このドレスは“生地選び”にかなり苦労したとのこと。フリース素材の洋服をイメージしているが、リカちゃんサイズでは実際のフリースを使うと生地が厚すぎてゴワゴワになってしまう。リカちゃんサイズでフリースに見せる素材を選定した。耳当てはさらに毛足の長いものだが、こちらも素材を吟味したとのこと。

 花柄をプリントする印刷技術にも驚かされる。柄物のプリントは小さいとおしとやかな印象に、大きいと元気な雰囲気が強まるなどのノウハウも活かされている。「リカちゃんLW-16もこもこガーリーコーデ」は2021年10月発売の商品だが、売り上げは好評とのことだ。

 「リカちゃんLW-17フィールザウィンド」のコートはある意味定番の秋冬モノの上着だが現代風のデザインを取り入れて細かいところまで作り込んでいる。シンプルだが黒いセーターも大人っぽいのだが、チェックのスカートが地味にならないように印象的を強める色合いになっている。チェック柄も定番だが、あえてこのこの服装に合わせる。また、印象的な淡い色の合わせ方にも工夫したという。

 この商品のコンセプトは「リアルクローズ」。現実世界で着ていても違和感のないドレスデザインとなっている。ただやはり派手な色ではっと目を惹く要素が多い服の方が特に小さな子どもは好むとのことだ。

【リカちゃんLW-17フィールザウィンド】
現実にありそうな大人っぽい取り合わせだ

 “リアルクローズ”の対極と言えるのが11月に発売された「リカちゃんゆめみるお姫さまロイヤルウエディングリカちゃん」。クリスマスプレゼント向け商品でもあり、非常に豪華な衣装だ。「お姫様」という絵本のお姫様のような豪華なドレスを見せるシリーズのとても豪華な商品である。

 幾重も重なった布のボリューム感。光を当てると虹色に光るキラキラした素材が使われレースのオーバースカートが後ろ姿も豪華にしてくれる。ティアラとベールもあって、本当に豪華な、子どもが憧れる夢の世界を具現化したようなドレスだ。ドールとセットの商品であり、リカちゃんの髪の縦ロールもものすごく豪華。担当者の気合いが感じられる。

 ちなみにドールに関しては基本ボディや頭は「リカちゃん」の場合は同一。しかしドレスに合わせて各商品は髪型だけでなく、“メイク”で違いを出しているとのこと。アイシャドウを入れていたり、リップにパールが入ったりしている。こういった細かいこだわりも気がつくと感心させられる点だ。

 もう1つ“豆知識”として、リカちゃんの目は正面ではなく少し左方向を見ている。子どもはリカちゃんで遊ぶ時手に人形を持って対面させることが多いが、こちらをまっすぐ見つめていると視線が感じられ、遊びにくい。少しだけ目線がずれていることで、気軽に正面にリカちゃんを構えられるのではないか、とも言われているそうだ。こういった話も今回、取材をしてはじめて知った。

【リカちゃんゆめみるお姫さまロイヤルウエディングリカちゃん】
「リカちゃんゆめみるお姫さまロイヤルウエディングリカちゃん」は非常に豪華な衣装。後ろ姿もアピールポイントだという

「リカちゃんが好き」という気持ちにずっと寄り添っていく存在に

 積極的に“今”を取り入れる「リカちゃん」だが、2020年から大きなチャレンジを行なっている。「#Licca(ハッシュタグリカ)」シリーズは、これまでの身長22cmのフォーマットから27cmに、年齢は「リカちゃん」が11歳なのに対し、「#Licca」は17歳という設定だ。読者モデルをやっていて、インスタグラマーであるという。10月には新製品「リカちゃん#Licca#ポップティーン」、「リカちゃん#Licca#パピーパピーウォーク」が発売された。

 「リカちゃん」は3歳以上から遊べる玩具だが、購買層は未就学児。未就学児の憧れとして11歳のリカちゃんを展開しているが、#Liccaのメインの購入層は小学生。小学生が憧れる存在として「高校生のリカちゃん」を提示した形になる。リカちゃんと#Liccaを並べてみると顔の大きさは変わらないもの、足はすらりと長く、まさにモデルのような体型となっている。

【#Licca】
「リカちゃん#Licca#ポップティーン」
「リカちゃん#Licca#パピーパピーウォーク」
右がリカちゃん。身長や体のバランスがはっきり異なる

 「タカラトミーとしては『小学生になっても、もちろんそのあともずっとリカちゃんで楽しんで欲しい』という想いがあり、より上のターゲットを意識した商品としました。子どもは1歳で大きく価値観を変える。例えば、8歳では従来のリカちゃんは子どもっぽいと感じてしまう子もいます。そういったお客様にできるだけ長く寄り添うリカちゃんを提示したい。#Liccaにはそういう想いを持っています」と向井氏は語った。

 #Liccaはテレビや雑誌で見る最先端のファッションを着こなす女の子だ。髪の毛を染めたり、濃いめのメイク、ドレスもどことなく個性的だ。常識の殻を破るようなちょっとパンクな雰囲気もある。ファッションや自己表現に積極的な女の子という雰囲気が強い。11歳のリカちゃん以上に大人びた“お姉さん”的な存在である。

 「リカちゃん」だけでなく「プラレール」や「トミカ」の開発者と話していると“卒業”というワードが出てくる。「おもちゃは卒業しなくてもいいと思っている。『#Licca』はずっと楽しんでいてね」、という子どもたちへのメッセージでもある。

【#Licca】
髪の毛を染めていたり大人っぽい雰囲気だ
脚はキレイに見える角度でセットされているので、飾って楽しむ要素が強調されている

 一方筆者は「大人向けホビー商品」に触れる機会が多い。大人向けホビーは、プラモデルやフィギュアなどをより凝った、ある意味“理屈”でカッコ良さやかわいらしさを提示し、商品によってはユーザー自身が技術を高めてそのテーマを突き詰める楽しさがある。「リカちゃん」のファッションへのこだわり、デザイン、精密で凝った表現などは大人も感心させられるところがある。「リカちゃん」という商品はそういった“大人”のユーザーを意識しているのだろうか?

「スタンダードな『リカちゃん』のターゲットは未就学の子どもを意識しています。一方『スタイリッシュリカ』シリーズは大人の方をターゲットにした商品シリーズです。また、、SNSの展開や企画など、商品以外のやりかたで「大人のリカちゃんファン」に寄り添うという方法もあるのではないかと、様々な施策も行なっています。現実にあるファッションブランドとのコラボを行なったり、Twitterの発信などでも『リカちゃん』の世界観を表現しています。お人形としてのリカちゃんからは一度卒業してしまったとしても、リカちゃんというキャラクターは人生をともに歩く……。ちょっと大げさですが(笑)、ずっと寄り添ってくれると思っています。また、そういう風にお客様に思っていただけるようにしていきたい、そこが大事だと思います。……本当に大事ですね、それこそ子どものように『ずっと皆さんにリカちゃんが愛されて欲しい』とすごくシンプルに思っていますね」(向井氏)

 コメントをしてからさらに向井氏は「責任がありますね。『リカちゃん』というブランドは来年には55年目になり、過去から受け継いでいる『リカちゃん』を守りながら進化させていかなければならない。ここに責任を感じています。難しいですがやっていこうと思います」と言葉を重ねた。

 最後に読者へのメッセージとして向井氏は「『リカちゃん』をあまり知らない人や、卒業してしまった方も、現在のおしゃれを取り入れて進化しているリカちゃんには驚いてもらえると思います。SNSやYouTubeも見ていただき、その進化を確認していただければと思います。興味を持ってもらえれば、きっと楽しいと思います」と語った。

【【リカちゃん】公式YouTubeチャンネルはじまります】
リカちゃんは現代的な要素を取り入れ、進化し続けている

 今回、やはり「リカちゃん」の最新商品のその作りの細かさ、表現の面白さにまず驚かされた。そして子ども達の心をつかむ工夫、玩具ならではのアプローチ、リカちゃんだからこそ出来るファッションなど、興味深い話が多かった。ロングセラー商品ならではのしっかりしたノウハウや、”現在”をどれだけ取り入れるかの工夫なども興味深いところだ。改めて「玩具の世界は面白い」と実感できたインタビューだった。