レビュー
「プラレールリアルクラス」レビュー
2023年6月21日 00:00
東京オリンピック時代を走った新ロマンスカー3100形の「ここがリアルクラス」
3100形の実車は1964年東京オリンピックの前年、1963年だった。小田急電鉄は先代のロマンスカー3000形で大成功を収め、箱根方面の特急列車が足りなくなっていた。そこで特急車両の増備と進化を目指して3100形が作られた。「ロマンスカー」は座席が映画館のカップル向け「ロマンスシート」と同様になっているから。3000形はSE(Super Express)と呼ばれた。これに対して3100形はNSE(New Super Express)だ。
なんと言っても3100形の特徴は先頭車両だ。1階席は展望席を配置し、運転席は2階に上げた。この展望室構造は戦後すぐに小田急電鉄内で検討されていたけれども、なかなか実現には至らず、惜しくも1961年に誕生した名古屋鉄道のパノラマカーに先を越されてしまった。
3100形を語る前に先代の3000形を知ってほしい。終戦後、戦時合併した東急電鉄から小田急電鉄が独立した。小田急電鉄は戦後復興と経営改善という背景のもと、国鉄と競争関係にあった新宿~小田原間を1時間以内で結ぶ構想を打ち立てた。そのためにスペインの特急車両「タルゴ」を参考として「連接車体」「流線形先頭車」「カルダン駆動方式」を開発した。
「連接車体」は、車両の連結部に台車を置く方式だ。車両ひとつひとつは短くなるけれども、車体の重心が低くなり、曲線区間を高速で通過できるという特長がある。また、車端部に車輪があるため、曲線区間に入るときの大きな揺れを抑えられ、乗り心地が大きく改善される。「流線形先頭車」は新幹線車両やスポーツカーのように、先端を小さくして空気を後方に流しやすくして、空気抵抗を減らす。
「カルダン駆動方式」は、モーターの回転力が自在継手(カルダンギア)を介して車軸に伝わる方式だ。それまでは吊り掛け式といって、モーターを台車と車軸の上に固定(吊り掛け)し、モーターの回転力は大小の歯車を介して車軸に伝えた。これに対してカルダン駆動はモーターを台車に固定するため動軸の負担が少ない。また、車輪から伝わる衝撃がモーターへ伝わりにくいため、走行安定性にすぐれている。現代の電車はほとんどカルダン駆動式だ。
これらの技術をすべて使って作られた電車が3000形だった。誕生は1957年。国鉄の技術協力もあって、国鉄東海道線の試験走行で時速145kmを達成し、狭軌(軌間1067mm:日本の在来線規格)の世界記録を作った。この時のデータは国鉄に提供し、東海道新幹線0系電車に引き継がれていく。
3100形は3000形の性能を継承しつつ、他社の新型特急より優れた魅力と居住性を持つ車両を目指した。戦後復興から高度成長期となった日本では、大手私鉄が次々と看板特急を作っていた。1956年に登場した東武鉄道のデラックスロマンスカー、1958年に誕生した近畿日本鉄道の2階建てビスタカー、そして2061年に名古屋鉄道がパノラマカーを登場させた。これらの私鉄特急は子ども向けの絵本に登場した。私を始め、電車好きの子どもたちにとって、私鉄特急は憧れの的だった。その上を行く車両として3100形は生まれた。
「プラレール リアルクラス」の3100形は、特徴的な先頭車の2階建て構造をしっかりと再現している。展望室の屋根部分は丸みをおびた傾斜、展望室窓下の張り出しもちゃんと造形されていた。鑑賞パーツは運転席がしっかりと造形されており再現度が高い。ヘッドライト部は一体成形されており、真っ直ぐ前に突き出している。曲線が多用されている先頭車のなかで、ライト回りの銀色が目立ち、全体を引き締めている。
座席パーツを見ると、こちらは185系と違って座席間のセンターアームレストがない。愛し合う2人の間に遮るものは必要ない。これこそロマンスシートだし、こうでなくてはロマンスカーと言えない。じつは、このあとに登場するロマンスカーの中にはセンターアームレスト付きの座席もあった。しかし最新型の70000形GSEはセンターアームレストなし。きちんと伝統が守られている。
車体の塗装もグレー、バーミリオンオレンジに加え、細いホワイトの帯がきれいに入っている。ドアの溝のなかもしっかり色が入っている。窓のクリアパーツのうち、運転席は隅に銀色を巡らしており、展望室部分には細いピラーに銀色が入る。ここは塗装だけではなく、立体成型したピラーになっていた。実際に手に取ってさわってほしい。丁寧な造形を指先で感じられるはずだ。
屋根上のクーラーは、3100形の登場時はなかった。車体の重心を下げるため、床下に機器をまとめたからだ。しかし冷房能力の不足が問題となり、1977年から1978年にかけて屋根上に冷房機が増設されている。「プラレール リアルクラス」の3100形は冷房改造後の姿である。小田急電鉄が引退後に保存していた編成で、3100形の最後の姿だ。
「リアル」と冠しているけれど、3100形は連接車体を再現していない。企画開発者インタビューでそこを直撃したけれども、モーター付き車両の構造上、連接車体にするとかなり見栄えが悪くなる。むしろプラレールのマナーを守ったほうが潔いと感じた。蒸気機関車のD51だってプラレールでは2軸だ。「プラレールらしさを保つ」ほうが大切だ。
鑑賞モードで走行可能なレイアウトを作りたくなる
鉄道模型にも鑑賞専用の製品がある。しかしモーターも終電可能な車輪もない。やっぱり走らせようと思ったら別売のモーターキットと車輪が必要だ。しかし「プラレール リアルクラス」はモーターを取り付け済み。プラレールはモーターのない「テコロジーシリーズ」もあるけれど、それ以外は「走らせて遊ぶおもちゃ」という基本をしっかり押さえていて、「プラレール リアルクラス」はけして例外ではない。
近年、「プラレールで○○駅を再現しました」という写真がSNSでバズったり、鉄道イベインとの目玉のひとつが大きなプラレールレイアウトだったりする。公共施設の会議室を使った大規模な運転会もある。プラレールファンの裾野は広く、とくにおとなの活躍が目立っている。そんなおとなを「プラレーラー」と言うそうた。私はこうしたユーザーの界隈を「おとなプラレール」と呼んでいる。
今までもプラレールには高級品があって、たとえば「クルーズトレインDXシリーズTWILIGHT EXPRESS瑞風(6両セット)」や「クルーズトレインDXシリーズ TRAINSUITE四季島(6両セット)」などが発売されていた。単価の高い商品が一定数売れていることも、「プラレール リアルクラス」の誕生に結びついていそうだ。「プラレール博」などのイベントで「165系急行形電車(湘南色)」が発売されたけれど、これはもう完全におとな向けと言っていい。
プラレールファン主催の運転会に「プラレール リアルクラス」を持ち込んだら注目されるだろう。「プラレール リアルクラス」は飾っても楽しいし、走らせてもやっぱり楽しい。