特別企画

「タミヤグランプリ全日本選手権2020」での勝利の鍵は“タイヤ”! 夏のコースは灼熱! 過酷なレースをどんなタイヤで攻略するか

8月8日配信

8月20日にアーカイブ配信開始

 筆者が毎回楽しみにしているタミヤのRCカー配信番組「タミヤRC LIVE」。今回のテーマは「タミヤグランプリ全日本選手権攻略法」だ。タミヤのRCカーによるグランプリ「タミヤグランプリ全日本選手権2020」は専用コースを実車に換算すると300~400km/hという高速で走り抜けていくレース。1980年代のRCカーブームを東北の片田舎で経験した筆者は、「タミヤサーキットのグランプリ出場」に憧れがある。

 配信では「タミヤグランプリ全日本選手権」のレギュレーションや注意点など、これからグランプリに参加したい人に向けた情報もたっぷり扱っていたのだが、びっくりしたのは「タイヤ」の話。1時間の収録番組のうち、尺の半分を使ってタイヤの話をしているのだ。でも実はタイヤってとても重要で、これこそがグランプリのカギを握るのだ。今回は、配信で語られたタイヤの話を可能な限りかみ砕いてご紹介したい。

 「タミヤグランプリ全日本選手権」は夏に開催される。夏のレース場のアスファルトは気温以上の高熱となる。その高熱のアスファルトの上をスケールスピードで実車以上のスピードで走るタイヤは極めて過酷な状況に直面する。しかもカーブの多い複雑なコースでコースを何分もノンストップで走るのだ。コースとの摩擦でタイヤはゴムが柔らかくなる「熱ダレ」を起こし、グリップ力も変わってくる。選手はできるだけコンディションが変わらないタイヤセッティングを考えなければならない。

 「タミヤグランプリで勝つためにはどういったタイヤ選択が良いのか?」このタイヤの検証を行なうのはの前住諭氏。世界的なRCカーグランプリでも活躍した前住氏は、世界戦で活躍できるRCカー開発とレース活動を行なうTRF(タミヤレーシングファクトリー)をまとめる人物である。前住氏の経験とこれまでの研究によるタイヤ分析を紹介していきたい。

【「タミヤグランプリ全日本選手権攻略法」】
放送はおなじみのタミヤの前住諭氏、砂原陸氏

グリップを考えた溝と幅、スピードのピークを考えたホイールの直径……多彩なタイヤの選択肢

 タミヤはRCユーザー向けに極めて丁寧な解説ページを用意している。タミヤのRCカーには実車さながらの様々なタイヤがある。オフロード用、市販車を再現するタイヤ、そしてレースカーを再現する高性能なもの、様々な商品が発売されている。RCカーの場合、サーキット走行用、駐車場や公園などで走るタイヤ、カーペットの上を走るタイヤと、こちらも細かく用意されている。

細かく設定されたタミヤのRC向けタイヤ。レギュレーションはこの中から規定される

 昔のRCカーではミニ四駆でもお馴染みの「スポンジタイヤ」。だった。しかし今や実車さながらにミゾがモールドされたゴム製「ラジアルタイヤ」、実車のレース用そのものと言っていいミゾ無しの「スリックタイヤ」がラインナップされている。

 大ざっぱには、綺麗な路面ではスリック、公道の様な比較的荒れた路面ではラジアルという使い分けになるが、さらに幅と直径の違う「ナロータイヤ」、「ミディアムナロータイヤ」がラインナップされている。

 径の違い、タイヤの幅の違いはそのまま「求める走りの違い」となる。幅が広くて大径の「ナロータイヤ」はトップスピード重視で、一方ナローより2mm狭く小径の「ミディアムナロー」はコーナリングでのレスポンスが良くなる。

溝があるのがラジアルタイヤ
タイヤの径、幅が変われば特性も変わる

 また、RCカーは圧縮した気体を入れる実車と違い、タイヤの中が空洞になっている(パンクはしない)のも特徴だ。そして気体の代わりにスポンジや成形品の「タイヤインナー」を装着する。レースカーがタイヤの圧を変えてセッティングするのと同様、インナーの硬さによって走りの特性が変わってくる。

 インナーが柔らかければ路面の状態にフレキシブルに対応するし、硬ければクイックレスポンスになる。実車のレースでも路面の状態や温度、天候などでタイヤを変え、それにセッティングを合わせるが、RCカーにおいても同様に行なう事が可能なのである。

インナーの硬さはグリップ力や、挙動の安定に関わってくる

 スケールスピードで実車を越えるRCカーは、タイヤへの負担は実車以上に大きいと言える。しかも実車と違って各種センサーでタイヤの状態を逐一知る事もなく、レース中にピットインして交換という訳にもいかない。RCカーレースにおいては、ある意味でよりシビアな選択を、ドライバーでありチーフメカニックであり、チームオーナーでもある自分が決める事になるのだ。

熱いアスファルトを走るための選択で、あえて「カーペット用」をチョイスするその真意とは?

 とは言っても、タイヤはダンパーやギアから比べると“メカ感”に薄い気がする。「メカを弄りたい! 」という欲求からすると、実は筆者としては余り重要視していなかったことは事実だ。しかし、「タミヤグランプリ全日本選手権攻略法」での前住氏の“研究”は筆者にタイヤ選びの奥深さ、レースのアプローチの楽しさを教えてくれた。

【「タミヤグランプリ全日本選手権攻略法」、後半はずっとタイヤの話】

 TRF(タミヤレーシングファクトリー)前住諭氏による、炎天下のアスファルトコースにおける4種類のタイヤの比較映像。世界を舞台に闘いつつ、タミヤ製品の開発にも携わる前住諭氏だが、今回挑むのは、気温35度という猛暑日に、表面温度が50度ほどに上昇する炎天下のアスファルトのコース。走行を重ねることで熱ダレ(ゴムが柔らかくなる)を起こすという過酷な条件でベストなタイヤを見つける実証テストとなった。

 最初に登場したのが「レーシングラジアルタイヤ」。これは公道を走る実車のタイヤ同様、表面にミゾがモールドされているタイプ。「タイヤの滑り出しの動きがマイルドでコントロールしやすい」、「ホコリや砂利が浮いた路面や凸凹のある路面ではスリックタイヤよりも好グリップ」との事で、通常の使用法として、タミヤでは公園や駐車場などでの使用を推奨している。

 そのタイヤで加熱したレース場を走らせる前住氏。スタートすると、あの前住諭氏が「イン開けない僕が開けてる。寄り切れない」と感想を漏らす。ようやく3周目で思った通りの走行に持っていけたという。その上での感想は、「普通に走行できる」、「可も無く不可も無く」というところ。レースでの標準的なタイヤと言える「レーシングラジアルタイヤ」はオールマイティーな強さがあると言えるだろう。

レーシングラジアルタイヤでの走行。少しグリップが甘く、最初はインを開けてしまったという

 次が「ファイバーモールドタイヤ ミディアムナロー タイプA」ミゾのないスリックタイヤの内側に、伸びに強いアラミド繊維のベルトを一体成形したの「ファイバーモールド」で、ミディアムナローは幅が24mmと、ナロータイヤより2mm狭小で、コーナーでの挙動がクイックという特徴がある。

 タイヤの直径もレーシングラジアルより小さく、直線スピードでは譲るものの、コーナリング性能に勝る。また、タイプAは路面温度が変化してもグリップ性能が年間を通して変わらない様に出来ているという。

 ただし、夏場の高温時にはタイプB3が別途用意されており、今回のような路面状況は想定外であり、常識的には使用を避けるタイヤとなっている。

 その為、前住諭氏が「なんと、真夏にタイプAですよ」と強調、タミヤの砂原陸氏も同意していた。「いきなりスピンするんじゃないか?」というコメントもあったが、いざ走り出すと、コーナーで最初からクイックに曲がっていく。これは前住氏ならではのテクニックも大きいと思う。配信ではスムーズに走行しているものの、「走ってるい間にタイヤの温度があがり、挙動が重くなる」とのこと。

 また、タイヤの中に実車の圧縮空気代わりに入れる「タイヤインナー」は、「ハード」タイプを使用。「ソフト」だと曲がりすぎてしまうとのことだが、本来は柔らかいとマシンの挙動が穏やかになり、硬いと反応が向上する事になっている。路面の凹凸がダイレクトに車体に伝わって挙動を乱してしまう事もあるという。路面温度が想定以上にあがる事で、通常とは違う判断が求められる事になる様だ。

グリップ力が高いミディアムナロー タイプAを真夏の環境下で使う。強いグリップはスピンの可能性も高い。後半は熱のせいか曲がらなくなったという

 続いて「ファイバーモールドタイヤ ミディアムナロー タイプB3」。まずは前後共ミディアムの「タイヤインナー」を入れた状態で走行。「B3」は真夏用と謳われるだけあって、新品のタイヤにもかかわらず、1周目、いきなりのラップは最速を叩き出す運転し易さを見せた。

 「コーナーの安定感が抜群」で、「スゴく良いな……」と前住諭氏思わず漏らすほどの走行を見せた。続いてリアの「タイヤインナー」をソフトに交換して走行。より安定感が増して、「一番フィーリングが良かった」とのこと。流石にこの時期用に設計されているタイヤだけに、期待通りの性能を発揮したという結論だった。

夏場を想定し、グリップ力が高いミディアムナロー タイプB3でインナーも変えての走行。非常に安定した走行ができたという

 そして最後が「ファイバーモールドタイヤ ミディアムナロー タイプC2」。砂原氏が「タイプC2ですか?」と驚くのも無理はない。「C2」は、室内サーキットやカーペットのコース用に開発されたタイヤなのである。アスファルト路面向きのタイヤよりゴム質が柔らかく、屋外での使用は想定外。このタイヤに前住氏は、タイヤインナーに柔らかいミディアムを入れてのスタート。

 「まともに走らないんじゃないの?」と筆者ならずとも思っただろうが、予想に反して、しっかりグリップ。砂原氏も「速い!」と驚きの声を上げた。ホイルの直径がラジアルタイヤと、タイプA、Bの中間にあたるサイズなので、この径の大きさによって高速域が伸びるとのこと。曲がる時に若干アンダーステア(ステアリングの切れ角より内側に曲がる)が出るものの、オススメできる走行を見せた、と前原氏は語った。

ミディアムナロー タイプC2はアスファルト路面での走行を想定していないタイヤ。しかしサーキットでの走りも軽快で、前住氏は実はオススメだという。タイヤの径が比較的大きいため直線に強く、カーブでのロスをカバーできるとのこと

 4種5パターンのタイヤで、コースを3周したタイムはそれぞれ、

「レーシングラジアルタイヤ」
1分1秒6

「ファイバーモールドタイヤ ミディアムナロー タイプA」
1分00秒78

「ファイバーモールドタイヤ ミディアムナロー タイプB3」(いずれの「タイヤインナー」でもほぼ同タイム)
0分59秒8

「ファイバーモールドタイヤ ミディアムナロー タイプC2」
1分00秒3

となった。

 これを受けて前住諭氏の総評としては、炎天下のアスファルト上でセッティングを出す自信が無い場合、取りあえず「スリップする気配がゼロ」な「ファイバーモールドタイヤ ミディアムナロー タイプC2」を選べば間違いがない、という結論を出した。

 タイヤの開発にも携わっている前住諭氏が、「タイプC2」をカーペット上で何度も試走する一方、アスファルトでの実走経験はほとんど無い中で、過酷な条件下でいざ走らせてみたら新たな発見があったというのは、やはりタイヤの奥深さを感じさせてくれた。

 さらに配信では他に前住諭氏はTC-01シャーシの実走を披露。前後で表面の減り具合の違うタイヤを使う、あるいは練習後、レギュレーションで認められている「タミヤ純正RCクリーナー」を使い、リアは綺麗に掃除をし、フロントは少し汚れている程度に留めることで旋回性が変わってくる等、走り込まないと解らない貴重なアドバイスを伝授した。

 「レーシングラジアルタイヤ」、「ノーマルインナー」、「ミディアムナローホイール」の完全ワンメイクによるフォーミュラEクラスだが、レギュレーション内での創意工夫、経験に裏打ちされた変更が可能なのだ。ここに使えるタイヤ、インナーが増えると選択肢や組み合わせが無数に拡がっていく事になる。

ホイールやインナーも様々な選択肢がある

 また、狭いカーペット路面では逆にタイプAが合う場合があったり、ホイルも素材によって色が変わっており、「悩んだら中間の白」との提言もあった。セッティングでどっちか迷った時は中間を選ぶ事で、大外れにはならないので修正が可能、という実車レースの原則が、RCカーにも通用するという事が実感できた。

 以上、筆者はレギュレーションである程度限られているからと楽観視していたが、どうも、「タイヤ沼」にハマりそうな予感に今から震えている。RCカーの奥深さを再認識し、筆者としても雲を掴む様だった夢の実現に一歩近付いた気持ちである。次は自分のマシンで実感してみたい。筆者の心にその思いが強く刻まれた。