特別企画

杉山淳一の「鉄道ジオラマ旅情」、第4回:山梨県都留市「山梨県立リニア見学センター どきどきリニア館」 猛スピードで走るリニア、どうやって動かしている?

今回の旅:「山梨県立リニア見学センター どきどきリニア館」

所在地: 山梨県都留市小形山2381
開館時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は翌火曜日) 12月6日(日)までは毎日開館
入館料:一般・大学生420円 高校生 310円 小中学生 200円 就学前児童 無料
アクセス:JR中央線大月駅よりリニア見学センター行路線バスで15分

 10月19日、JR東海はリニアモーターカー(以下、リニア)中央新幹線山梨実験線で「L0系」改良型車両の報道機関向け試乗会を開催した。この日は隣接する有料見学施設「どきどきリニア館」も報道関係者に無料公開されていた。JR東海としては、試乗・撮影だけではなく、もっとリニア中央新幹線の知識を深めてほしいという意図があっただろう。「どきどきリニア館」にとっても、PRの機会だ。そして報道関係者も展望フロアから走行写真を撮影できる。三方良しだ。

【ジオラマ全景】
全長(幅)17メートルのワイドビューに山梨県の名所を満載。リニア中央新幹線の線路が一直線に貫く

 「どきどきリニア館」の3階に展望フロアがあり、同じフロアに大きなジオラマがあった。全長約17m、最大奥行きは約8メートル。テーマは「リニア中央新幹線開業後の山梨県」だ。中央の高架をリニア新幹線が走り抜け、地上は中央本線、身延線、富士急行の電車が走る。風景は山梨県の名所を散りばめ、約12分の展示運転で各所にスポットライトを当てて紹介する。もっと簡素なジオラマを予想していたら本格的だ。この日は閉館間際の訪問だったため、後日あらためて取材させていただいた。

 リニア中央新幹線山梨実験線はJR東海の施設だ。この実験線はそのままリニア中央新幹線の本線になる。実験線に隣接して、「山梨県立リニア見学センター」がある。こちらは山梨県の施設で「わくわくやまなし館」、「どきどきリニア館」の2棟で構成されている。「わくわくやまなし館」は1996年に建てられ入場無料。ミュージアムショップ、観光情報センター、屋内展望室がある。「どきどきリニア館」は2014年に新館として建てられ、上記の通り入館料が必要。1階に2003年に最高速度581km/hを記録した試験車両(MLX01-2)の実物を展示するなど、リニアに関する博物館となっている。

【リニア試験車両】
どきどきリニア館1階に試験車両の実物(MLX01-2)を展示
リニア試験車両「L0系」の改良型「950番台」先頭車

 公共交通機関の交通アクセスは、JR中央本線大月駅から富士急バスの「県立リニア見学センター行き」がおおむね1時間に1本程度、所要時間は15分。大月駅から富士急行の電車に乗り、禾生駅から徒歩13分。ただし道のりは丘越えになるので、ハイキング感覚で。大月駅からバスをオススメする。

 無料駐車場が広いので、ドライブの目的地としてもオススメだ。少し離れた笛吹市の「リニアの見える丘」、「花鳥山展望台」にも行ってみよう。ここは実験線の地上区間で、走行風景がよく見える。2020年11月現在、「花鳥山展望台」からは新しい改良型試験車の先頭車、「リニアの見える丘」からは初代L0系の先頭車を観られる。なお、試験走行の有無はJR東海の公式サイトで確認しておこう。

 午前中は笛吹市、午後は都留市の山梨県立リニア見学センターへ。飲食施設はないけれど、見学センターのそばに「道の駅つる」があるので、ランチタイムはここで。リニアを満喫する日帰りドライブを楽しんでほしい。

【各施設】
笛吹市の花鳥山展望台。リニア見学センターから高速道路経由で40分ほど。新しい先頭車を撮れる
花鳥山展望台からクルマで10分ほどの「リニアの見える丘展望台」から。こちらは旧型先頭車側。やや遠いので望遠レンズ推奨
【500km/hで走る】
わくわくやまなし館から撮影。時速500キロで通過する

【著者近況】

11月は大井川鐵道満喫ツアーに参加、アプト式機関車研修庫で作業ピットに潜り、車両側の歯車を間近に見られて感激。この歯車とレール側のギザギザを噛み合わせて急勾配を登る仕組み。今回の取材の山梨県ドライブも好天に恵まれ楽しかった。乗り鉄だどクルマも好き

風景重視のジオラマを、猛スピードでリニアが通り抜ける

 「どきどきリニア館」のジオラマも「風景重視型」で線路配置はシンプルだ。中央本線の複線の線路が大きく周回し、左手に大月駅、右手に甲府駅を再現している。大月駅から富士急行線の電車が発着して、リニアの線路を潜って山の裏手に回る。そこには富士急ハイランドや山中湖がある。甲府駅からは身延線の線路があり、こちらもリニアの線路を潜って奥へ。そこには身延山久遠寺があり、ロープウェイも見える。

【山梨県立リニア見学センター新館「どきどきリニア館」】
最後半の3分20秒当たりで、リニアならではの速さをジオラマで再現しているのが見える見ることができる
【風景重視型のジオラマ】
どきどきリニア館3階展望ロビーから。同じフロアにジオラマがある
ジオラマ配置図。中央本線の周回線路は半分以上の線路を隠し、往復運転に見せる
ジオラマルーム入口から。手前左が富士急ハイランド、右側が大月駅

 実はこのほかに小海線のディーゼルカーも走っているけれど、線路が短くてわかりにくい。毎時10分、30分、50分に約8分間の演出運転があり、その序盤にひょっこり顔を出す。右手の山の牧場の上、注意深く探してみよう。

 リニア中央新幹線はジオラマの中央部で一直線に貫いている。ここは複線で、ものすごい速さですれ違い、ときどき中央に構えた「山梨県駅」に停車する。大月駅寄りにはJR東海の実験棟と、ここ「山梨県立リニア見学センター」が再現されている。

 リニア列車があまりにも速く、リアリティを感じるけれど、この走行は鉄道模型の常識を越えている。いったいどんな仕掛けだろう。まさか本当に磁気浮上式で走行しているのか。そういえば2015年にタカラトミーは磁力で浮上走行する「リニアライナー 超電導リニアL0系スペシャルセット」を発売した。2020年にはノエルコーポレーションがNゲージサイズの磁気浮上式「Nリニア」を発表している。

【どきどきリニア館】
手前が甲府駅。奥の左側がリニア中央新幹線山梨県駅のイメージ。背面のスクリーンは富士山や空を映すほか、演出に合わせた動画を再生する
リニア見学センター付近を通過するリニア試験車両。速い! 下の線路は富士急行線。奥が富士山駅
一直線のリニア軌道を試験車両が通過。ワイヤーケーブルと磁石で走る
山梨県駅で停車するリニア車両。撮影のチャンスは一瞬
リニア試験車両、闇を貫く白い矢のごとし
【ホビーメーカーのリニアも】
タカラトミー製「リニアライナー」を使ったミニジオラマ
ノエルコーポレーション「Nリニア」を紹介するジオラマ。期間限定展示とのこと

リニアのような速さを実現している秘密に迫る

 さて、このジオラマのリニアの仕掛けはどうなっているか。センター長の大神田氏に聞いた。仕掛けはとても単純で、ワイヤーと磁石を使っている。軌道の表面は滑りやすいアクリル製、リニア車両の底もアクリル製で、鉄の部品を埋め込んでいる。軌道のウラに磁石つきのワイヤーがあって、ワイヤーを高速で巻き取ると車両が滑っていく。

 仕掛けとしてはケーブルカーである。ただし、磁石を使っているから、いちおう磁力で動いているというオチかもしれない。ワイヤーの巻取り装置はジオラマの両端にある。

 しかし、このケーブルカー方式だと、リニア列車はそれぞれの軌道を行なったり来たり。つまり、右側通行と左側通行の繰り返しになる。それではリアリティに欠ける。

 そこで、もう1つ工夫して左側通行に固定してある。列車が両端のワイヤー巻き取り部に到着すると、列車をまるごとスライドさせて、常に左側から発車できるようになっている。実際の鉄道車両工場で車両をスライドさせる「トラバーサー」と同じ仕組みだ。仕組みは単純だけど仕掛けは大がかり。このおかげで、リニア新幹線は常に左側通行で走っている。ジオラマで当たり前に見える風景を実現するために、そこまでやるかと感心した。

【ジオラマ百景】
JR東海の試験センター、山梨県立リニア見学センター付近。手前は「道の駅つる」。この写真は報道試乗会時で、ジオラマがハロウィン装飾されていた
大月駅。人形たちが風景を盛り上げる
富士急行5000形「トーマスランド号」2019年に引退した。オレンジの建物は都留文科大学。道には八朔祭の山車

 もうひとつ、中央本線の列車の入れ替わりにも注目だ。複線の外周はスーパーあずさ「E351系」とかいじ「257系」、内周は中央線快速E233系と257系が走る。1つのエンドレスで2列車を走らせ、しかも駅に停車させている。これはジオラマの奥の隠れた場所に待避線を置き、ポイントを切り替えて列車を切り替えている。待避線は山梨県駅の下あたりだろう。耳を澄ませばポイントの作動音が聞こえる。

 大神田センター長によると、目下の課題は車両の更新だという。今年、リニア車両は改良型が登場して実験走行が始まっている。中央本線も新型特急車両E353系が登場した。富士急行トーマスランド号も去年引退した車両だ。これはかわいいからそのままでもいいと思うけれど、2018年に新型車による「トーマスランド20周年記念号」がデビューしているし、このジオラマは緑が多いから、真っ赤な富士山ビュー特急も似合いそうだ。

【ジオラマ百景】
桜並木を行く身延線。JR東海の313系電車
夜景も美しい
富士急ハイランドのアトラクションも動く
山中湖の水陸両用バス「KABA」が進水する
甲府駅ですれ違うE257系電車。現在は伊豆方面「踊り子」で活躍中
トーマスランド号と八朔まつり

 「合同会社丹青やまなし」は丹青社グループの非連結子会社だ。本連載第2回で紹介した敦賀赤レンガ倉庫ジオラマも丹青社だった。風景の作り込みには納得だ。敦賀市は赤レンガジオラマを制作するにあたり、このリニアのジオラマで手応えを感じたのだろう。

 ゆったりとした線路配置の中で、風景の作り込みは緻密だ。前述の富士急ハイランドや山中湖のほか、桃畑、川中島合戦、石和温泉、昇仙峡、清里牧場、甲府市役所、米倉山太陽光発電所など50カ所以上のビューポイントを盛り込んだ。演出プログラムでは、自動アナウンスに合わせて、それぞれのポイントにスポットライトを当てつつ、奥の壁に実際の風景を映し出す。列車の走行も含めて、演出はすべてコンピュータで集中管理している。
 ジオラマが広いから、各スポットを目線で追い切れない。山の向こうは見えないから、ジオラマの前を左右に走ってみたくなる。それはさすがに大人げないから、2回、3回と分けて見学した。同じフロアに実物のリニア走行を眺められる見学ラウンジがあり、走行実験が始まると館内アナウンスで知らせてくれる。実物のリニアを見て、ジオラマを見て、また実物の走行を見て、ジオラマに戻る。忙しいし、楽しい。

【ジオラマ百景】
中央線特別快速のE233系電車。実車は大月駅まで運用され、富士急行線にの乗り入れる
特急「スーパーあずさ」で活躍したE351系電車
ワイナリーでは収穫祭が行なわれている
川中島合戦イベントと足湯
清里の牧場と、その上を走る小海線の車両。登場は一瞬
甲府駅前では信玄公祭の武者行列が行なわれている
隠れキャラ(?)、ハイジとサンタクロース
甲府市街の風景。交通事故などコネタも……
大月駅で発車を待つトーマスランド号、人形たちが楽しそう