特別企画
【ちょい組み】スケールモデル「1/48 ソビエト中戦車 T-34-85」
ドイツ戦車ファンとして、にっくきソ連ベストセラー戦車の後期モデルを組んでみる
2021年3月19日 12:00
- 2月6日ごろ発売
- 価格:2,090円(税込)
戦車が好きである。刀でもスプーンでもDualSenseでも何でも良いが、錐揉むようにひとつの機能に特化させた“ツール”は、例外なく美しい。戦車もまさにそうで、クルマと名が付きながら、居住性や速度、燃費など、場合によっては防弾性能まで実に様々なものを犠牲にしながら、前線で敵に砲弾を撃ち込むというその一点のみにこだわり、特異な進化を続けてきた。戦車は、それ自体が極めて美しいツールであり、味わい深いオブジェクトだと言える。
筆者の場合、子ども時代、その関心の矛先は、主に書籍やゲームに向かった。「なんだよ、スケールモデルじゃないのかよ!」と思われたかも知れないが、本当にそうだったのだから仕方がない。当時、行きつけの駄菓子屋で、虎の子の数十円を、駄菓子に費やすのか、アーケードゲーム数プレイなのか、それともパッチンやキン消し、あるいはスーパーボールで一気に使ってしまうのかという、人生の究極の選択を日々迫られていた子どもにとって、スケールモデルは高すぎた。
長じてからは、引き続きゲームで“戦車分”を満たしつつ、仕事にかこつけて本物を見に行くようになった。ボービントン、クビンカ、ワルシャワ、コブレンツ、スターリンライン……。戦車が主役の祭典TANKFESTも取材した。ご興味のある方は、過去のレポートを下記に掲載しておくのでぜひご覧頂きたいが、戦車はやはり実物に勝るものはない。圧倒的な存在感、重量感。ドイツ戦車独自のツィンメリットコーティングの荒々しさ、あるいは戦場の傷痕を今に遺す弾痕や貫通痕。これらはやはり現地に行って触れてみないとわからない。
今後も機会があれば、世界随一のドイツ戦車コレクションがあるムンスター戦車博物館や、世界唯一のティーガーIIの完動品が存在するソミュール戦車博物館、それからすでに2度行ってるがまだ全然見足りないボービントン戦車博物館はあと10回ぐらい行きたいと思っている。ただ、新型コロナの影響で、通常の美術館や博物館と同様に多くの戦車博物館も休館中で、以前のように気軽に行くことができなくなった。
さて、前置きが長くなったが、こうした中、私の中で俄然盛り上がってきているのがスケールモデルだ。ただ、このちょい組みに記事を書くことは当初躊躇った。曲がりなりにも媒体責任者が、スケールモデルビギナーであることを衆目に晒すのはいかがなものか、というわけだ。ただ、HOBBY Watchは、玄人のためだけに創刊したホビーメディアではなく、筆者のように興味はあるがこれまで縁がなかった、あるいはずいぶん昔に引退してしまったというホビーファン予備軍にも十分楽しんで貰えるものを目指している。であれば、私の下手くそな素組みにも若干の価値があるのではないかと考えた。今回は玄人の組み立ての見事さではなく、組み立ての楽しさ、おもしろさを前面に押し出す形で、ちょい組みをお届けすることにしたい。
ドイツ戦車の不倶戴天の敵「T-34」
今回組むのはタイトルにもあるとおり、「ソビエト中戦車 T-34-85」である。選定理由は単純で、戦車を扱っているタミヤのミリタリーミニチュアシリーズの中でもっとも新しいモデルだから。これを読んで興味を持った方がすぐ手に入れて楽しさを共有できるのが「ちょい組み」の基本だ。「ソビエト中戦車 T-34-85」は2月6日発売で、価格は2090円(税込)となっている。
ちなみにこの戦車、好き嫌いで言えば、大嫌いな戦車だ。理由には憎たらしいほど強いからだ。筆者はドイツ戦車ファンなので、どうしてもドイツ戦車の視点から見てしまうが、T-34は同世代で見ると頭ふたつほど飛び抜けて強い。攻めては41.2口径の76.2mm砲、守っては装甲を傾斜して配置することで、本来の装甲厚以上の防御力を発揮できる避弾経始の概念を導入した傾斜装甲、走っては軽戦車並に早い54km/hと、走攻守揃っており、同世代のIII号戦車やIV号戦車ではまるで歯が立たない。これはもう過去、様々なゲームで何千回、何万回と戦ってきた筆者が言うのだから間違いない。
しかし、そこは当時世界最高の技術力を誇るドイツ軍であり、ティーガーやパンター、フェルディナントを相次いで投入することで1943年のクルスクの戦車戦をなんとか凌ぎきる。こうしたドイツ軍の新鋭戦車に対抗すべく生まれた改良モデルがT-34に53口径85mm砲を搭載したT-34-85シリーズである。
改良型といいつつ、実際は主砲のみならず、主砲を格納し、運用するための砲塔、それを支えるための履帯やエンジンも変わっており、新型といって差し支えない進化を遂げている。とりわけ小憎たらしいのは、防盾(前面装甲)の厚さだ。90mmとされており、しかもデザイン的にもティーガーやパンターのように防盾として追加装甲を取り付けたタイプではなく、砲塔と完全に一体化しており、その優美な流線型の砲塔デザインは、傾斜装甲とも相まって非常に美しい。T-34-85は、その後のIS-2やIS-3に続く、優美で美しいソ連戦車の幕開けといえる(異論は認める)。
1/48ミリタリーミニチュアシリーズ「ソビエト中戦車 T-34-85」
「ソビエト中戦車 T-34-85」は、そうしたT-34-85の魅力を1/48サイズで堪能できるキットだ。タミヤには、1/48ミリタリーミニチュアシリーズから、1/16ビッグタンクシリーズまで、複数のサイズ展開が存在し、モーターで駆動するモーターライズ仕様や、内装も含めて組み立てるディスプレイモデルなど、模型のタミヤらしい豊富かつ重厚なラインナップを誇る。1/48ミリタリーミニチュアシリーズは、知識ばかりで技術がからっきしの筆者のようなビギナーでも手が出しやすいシリーズだ。
何と言っても安く、わずか2,090円。ニッパー、ピンセット、接着剤の3点あれば組める。ニッパーはハサミやカッターナイフでもいいが、取り回しのしやすさはニッパーが段違いに良い。ピンセットは、薬箱に入ってるような先端がギザギザのものでは用をなさない、先が鋭く尖った、ミリ単位のオブジェクトをしっかり掴めるホビー用のピンセットが好ましい。
接着剤については、当初、商品ページの案内に従い「タミヤ多用途接着剤(クリヤー)」を用意したが、スタッフに「1/48でそれは使いにくいですよ」と諭されたので、六角瓶の「タミヤセメント」と、四角瓶の「タミヤセメント(流し込みタイプ)」を追加購入して製作に臨んだが、スタッフのアドバイスを取り入れて大正解だった。瓶タイプの接着剤は、キャップに筆が付いており、細かいところにもピンポイントで接着剤が届く。準備が整ったところで早速組んでいこう。