特別企画

プラモデル写真を100倍ステキに仕上げよう!

「創彩少女庭園」の世界観を表現する撮影&画像処理とは?

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 愛好家にとって、きれいに製作できたプラモデルを写真に撮って人に見てもらいたい、と思うのは自然なこと。ネットには、ガンプラを筆頭に自動車や鉄道、飛行機、戦車などのプラモデル写真があふれているし、SNSが普及した現代ならより手軽に写真を多くの人に見てもらうことができる。特に、きれいなだけでなく独自の世界観を表現したようなプラモデル写真を見て、自分もそんな写真に仕上げたいと思う人も少なくないだろう。

 そこで、各種プラモデルに精通し、自ら製作から写真撮影、そしてレタッチまで行うHOBBY Watchでおなじみ勝田哲也さんに協力をいただき、プラモデル写真を仕上げるまでをレポートする。

 本記事の取材は7月中旬に都内スタジオで行われた。勝田さんにはあらかじめプラモデルを製作してもらい、それを勝田さんが普段撮影しているのと似た条件で撮影する。カメラ機材は一眼レフカメラを用いRAW(※)で撮影。それをAdobe Photoshop LightroomClassic(以下Lightroom)でRAW現像、調整を行った。今回は勝田さんの要望を聞きながら取材者と共にRAW現像を行った。

※デジタルカメラなどではJPEGだけでなくRAWという画像ファイル形式でも記録できる。RAWを画像調整してJPEGなどに変換することをRAW現像という。RAW現像では写真の明るさや色味などを大胆に変えることができ、なおかつ画像調整による画質劣化も起きにくい。

繊細な造形や質感を追求した「創彩少女庭園」

 今回取り上げたプラモデル写真の被写体となるのは、コトブキヤのプラモデル「創彩少女庭園」シリーズから「結城 まどか」と「小鳥遊 暦」の2体。勝田さんによれば、2021年に登場した『創彩少女庭園』は画期的なものだという。少し長くなるが勝田さんの説明を引用する。

 「美少女+メカというのは1980年代後半からあるジャンルですが、立体物としては満足のいくものではありませんでした。2000年中盤以降に技術が進化し、はじめはフィギュアとして立体化されました。その成果を取り込む形でコトブキヤが”フレームアームズ・ガール”や”メガミデバイス”というプラモデルとして世に送り出します。それまでは難しかった顔や手足などの生身の部分を繊細な造形で表現したのです。

それによりプラモデルに興味のなかったフィギュアファンやイラストファンも取り込み、新たな市場が開拓されました。その後、コトブキヤは“メカ抜きの美少女のプラモデル化”という新しいジャンルに挑戦します。さらなる繊細な美少女表現を求め、華奢な手足の造形と共に、肌のやわらかさや布のざらつきなどといった異なる質感を追求しました。それが形となったのが、イラストレーターの森倉円氏が描く繊細で美しい箱絵の世界をプラモデルとして再現した『創彩少女庭園』なのです」。

 思い入れたっぷりに語る勝田さんの言葉は熱かった。その思いを可能な限り写真仕上げに反映していく。

「結城 まどか」と「小鳥遊 暦」の撮影

 勝田さんがプラモデルなどを撮影する際は主に一眼レフカメラとマクロレンズを使用する。光源は上、左、右、正面の4方向からで、スタンドなどの照明を当てて強い影を出さないようしている。また、手前から奥までピントの合う範囲が広がるようにレンズの絞りを絞って撮影しているという。「細部まできちんと見せたい(勝田さん)」というのがそのような撮影法を採る理由だ。

 また、絞りを絞るとそのぶんシャッタースピードが遅くなってぶれやすいので、三脚やレリーズも積極的に使っている。ハイクオリティの写真に仕上げたいならば、やはりていねいに撮影をし、素材としてきれいな写真を残しておきたい。プラモデルへの愛情、そして独自の世界観を表現するために、勝田さんのように撮影で手間を惜しまない姿勢も大事だ。

撮影前にプラモデルのポーズを決める。首や腕、脚が自由に動くので、いろいろなポーズを取ることができる
スタジオでのセッティングの様子。ライティングは、左右からの照明と写真には写っていないが上部にもひとつライトが配置されている。カメラはしっかりとした三脚にセットする
撮影する勝田さん。カメラの撮影モードは「絞り優先モード」か「マニュアル」で。構図を決めたら、顔部分を拡大表示し瞳にピントを合わせる。オートフォーカスで瞳にピントが合わない場合はマニュアル操作でピントを合わせる。レンズの絞りを変えて何枚も撮っておき、写真のセレクト段階でより適切な写真を選ぶようにしている
絞りを絞るとシャッタースピードが遅くなり、シャッターボタンを押す操作によってカメラがブレやすくなる。ブレが気になる場合は、写真のようなカメラに触れずにシャッターを切れるレリーズを使うか、ボタンを押してから数秒後にシャッターが切れるカメラのセルフタイマーを使う
肉眼では見えにくくても、撮影した写真を拡大すると小さなホコリがたくさん付いていることもある。ホコリが気になったらブラシなどでやさしく拭き取っておこう。ただ、実際にはそれでもホコリが残るので、最終的にRAW現像やレタッチで消すことになる

「小鳥遊 暦」の写真

「小鳥遊 暦」の写真。撮影データは、ISO400、シャッタースピードは1/30秒、絞りはF11。絞り値をやや大きくすることでピントの合う前後の範囲を広げた
このような撮影用のグレーカードを配置した写真を撮っておくと、RAW現像時に色の基準(ホワイトバランス)を合わせやすくなる。グレーカードはカメラ店などで購入可能だ。なお、グレーカードは白い紙でも代用できる

「結城 まどか」の写真

こちらは「結城 まどか」の写真。撮影データは、ISO400、シャッタースピードは1/6秒、絞りはF16。絞り値を大きめにしているので、ピントの合う前後範囲も広めだ
ライトの位置を変えたり、被写体の位置を変えたりすると、撮影条件が変わり色も変化しやすい。色(ホワイトバランス)の基準を合わせるために、その都度グレーカードを配置した写真を撮っておく

コラム:絞りの値を小さくするとボケが大きくなり柔らかな雰囲気に

 参考までに、これらは絞り値を小さく(F2.8)設定して撮った写真。絞り値を小さくするほどピントの合う範囲が狭くなり、ボケが強調されてやわらかな雰囲気になる。また、ヒトの目はピントの合う部分に視線が向きやすいので、ピントの合った瞳や顔に視線を誘導する効果が期待できる。

 さらに、ボケが大きくなるぶん、ゲート跡やパーツの合わせ目などは目立ちにくくなる。絞りを絞って細部までシャープに見せるか、絞りを絞らずにボケを強調するかは好みや表現したいイメージ次第。撮影時に段階的に絞り値を変えて撮影しておけば、表現の方向性が変わっても対応できる。

プラモデル写真の基本的なRAW現像

 それでは、写真をチェックし、必要な調整や修正をしていこう。「小鳥遊 暦」に登場を願う。今回、撮影自体はていねいに行われているので、RAW現像で行うのは、全体的な色(ホワイトバランス)や明るさの調整、ゲート跡やパーツ同士の合わせ目を目立たなくすること、そしてゴミやホコリを消すことなどが主な内容となる。

 ここで使うのは写真愛好家にもユーザーが多いLightroomだ。写真をきれいにするというだけでなく、大胆なイメージ処理も可能な多機能なRAW現像ソフトだ。Lightroomを使うのは初めてという勝田さんに操作方法を説明しながら、写真を仕上げていくさまをレポートする。

 はじめに写真全体の色を調整する。照明の色やカメラの設定によって、期待通りの色になっていないことがあるからだが、これには「ホワイトバランス」という機能を利用する。

 次に明るさの調整だが、主人公のプラモデルだけでなく背景なども考慮しながら明るさを調整する。Lightroomでは全体的な明るさだけでなく、暗い部分を明るくしたり、明るい部分を暗くしたりといった調整も可能だ。撮影段階でうまくライティングできなかった部分をフォローする。

 プラモデル特有のゲート跡やパーツの合わせ目も、簡単な操作で目立たなくすることができる。ただ、大きなゲート跡が残っているような場合、うまく修正できないこともあるので、プラモデル自体の製作はやはり慎重かつていねいに行っておきたい。

 最後にゴミやホコリの除去。よりきれいに仕上げるためには、撮影前にブロアーでゴミやホコリを吹き飛ばしたり、ブラシで払うなど、できる限りの下準備をしておきたい。

基本的な調整内容

・ホワイトバランス:写真の全体的な色合いを調整する
・明るさ:全体的な明るさだけでなく、肌や髪、衣装などが明るすぎたり暗すぎたりしていないかなどもチェックし、必要に応じて調整する
・ゲート跡やパーツの合わせ目:ランナーから切り出す際に残ってしまうゲート跡を極力許目立たなくする
・パーツの合わせ目:合わせ目を消すことでプラモデル写真の完成度も高まる
・ゴミ、ホコリ:可能な限りゴミやホコリは消しておく

01 ホワイトバランスを整える

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 まずはホワイトバランスを調整する。撮影時の照明の色によって写真の色が不自然になっているため、それを整えていく。最初にグレーカードを写し込んだ写真を表示し、そのグレーカードの情報をもとに色合いをノーマルな状態にする。この作業自体はワンタッチで終わる。次に作品として仕上げたい写真に切り替え、同じ設定を適用することですべての写真の色を整えられる。

グレーカードを写し込んだ写真を表示したら「現像」モジュールに切り替え、「基本補正」パネルにあるスポイトの形をしたツール(「ホワイトバランス選択」ツール)でグレーカード部分をクリックする。

写真の色合いが変化し、黄色がかっていた色を直すことができた。続いて画面左にある「コピー」をクリックして、いま行った変更内容を複製し、同じ設定で撮影した別の写真にも適用していく

「設定をコピー」の画面。どの項目をコピーするかを指定できる。今回はホワイトバランスの調整しか行っていないので、各項目のチェックの確認が面倒なら「全てをチェック」を押してもよい。「コピー」ボタンをクリックしてこの画面を閉じる。

次に、作品として仕上げたい写真を表示する

「ペースト」をクリックすると、あっという間に先ほどの写真と同じ色合いになる。写真を見て「補正前の黄色がかった色合いが好み」という人もいるかもしれないが、このような商品を紹介するための写真の場合は、正しい色を再現することを重視する。

02 明るさを調整する

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スーツケース部分を明るくする

 次に明るさを見ていこう。今回、勝田さんが撮影時にきちんとライティングをしているため、ほとんど気になるところはない。あえて調整するとすれば、腰掛けているスーツケースが少し暗いことだろうか。そのスーツケースを明るくしてみよう。

 Lightroomでは写真の階調全体の明るさを調整するだけでなく、作例のスーツケースのような少し暗い階調を重点的に調整できる機能もある。それが「シャドウ」というパラメーターだ(逆に少し明るい階調を重点的に調整できる「ハイライト」というパラメーターもある)。

 「シャドウ」の初期値は「0」だが、このスライダーをプラス方向(右)に調整するとシャドウ階調が明るく、マイナス方向(左)に調整すると暗くなる。ここでは明るくするためにスライダーを右に動かして「+25」にした。

03 ゲート跡をきれいにする

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 プラモデルでは、パーツを切り出した際のゲート跡がどうしても気になる。本来ならニッパーやヤスリなどを使ってゲート跡を処理することが理想だろう。しかし、きれいに処理したと思っても、組み合わせてみたらゲート跡が目立つ……、あるいは処理しすぎてその部分が凹んでしまったりということも無きにしも非ず……。

 プラモデル本体を処理するのが理想ではあるけれど、「細かな作業が苦手だがきれいなプラモデル写真を上げたい」だとか、「写真を早くSNSにアップして見てもらいたい」といった場合は、Lightroomの「スポット修正」ツールという機能を試してみよう。まるで魔法のように瞬く間にゲート跡を処理してくれる便利なツールだ。上の2枚の写真を見比べてほしい。

 Before写真では、髪の毛にゲート跡が残っているのがハッキリとわかる。しかし、修正後のAfter写真を見ると、ゲート跡だとは分からないレベルに消えている。わずか1分足らずの作業でここまで仕上げることができ、勝田さんも「これはスゴイ!」「これは便利!」を連呼していた。

 消したいゲート跡を拡大表示しておく。ゲート跡の処理に使うのは「スポット修正」ツールだ。「スポット修正」ツールを選んだら、「修復」を選んで修正したい箇所に合わせて「サイズ」を調整する。また「不透明度」は「100」でいいだろう。「ぼかし」は修正箇所に合わせて調整するがここでは「80」とした。

 「スポット修正」ツールで消したい部分を完全に隠すようにドラッグする。これはドラッグ直後の状態。

 ドラッグするとすぐに修正が反映される。2つの囲み線が表示されるが、修正範囲と参照範囲を示している。つまり参照範囲の画像を修正範囲にコピー&ペーストしているというわけだ。ただし設定で「修復」を選んでいるので、単なるコピー&ペーストではなく「馴染ませる」処理が働く。単なるコピー&ペーストだと輪郭やテクスチャがつながらないことが多いが「修復」の機能によりゲート跡がもともとなかったかのように処理をしてくれる。積極的に活用したい機能の1つだ。他に気になるゲート跡があれば、画面をスクロールして続けて処理をする。最後に「完了」ボタンを押して操作を終える。

 もし結果が芳しくない場合は、参照範囲の囲み線をドラッグして移動してみよう。参照範囲が変われば結果も変わり、よりきれいに処理される場合もある。なお「スポット修正」ツールの処理そのものを取り消したいときはキーボードの「del」キーを押す。

04 パーツの合わせ目を消す

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 パーツの合わせ目もプラモデルならではの悩み。実物のプラモデルに対してなら、すき間に接着剤を流し込んだり、それをカッターや紙やすりで均したりすることが多い。ただ、紙やすりなどをかけてしまうと表面がざらついてしまうので、その後の塗装が必要になる。今回取り上げている「創彩少女庭園」のプラモデルは、肌の質感がしっかり再現されているので、紙やすりなどをかけて質感が失われることは避けたい。ではどうすればいいのだろうか。もちろん活躍するのはLightroomだ。

 使う機能はゲート跡の処理と同じ「スポット修正」ツール。合わせ目に沿ってドラッグするだけで、最初からなかったかのように合わせ目が見事に消える。勝田さんが感心する「創彩少女庭園」の肌の質感もきちんと再現されていることに注目してほしい。

 作業をするためにパーツの合わせ目部分を拡大表示する。これは左足。中央縦に合わせ目のラインがはっきりと見える。「スポット修正」ツールを選び「修復」を選択。消したい部分がぎりぎり隠れるくらいのサイズに設定し、周りとなじみやすくするために「ぼかし」を「50」とした。

 合わせ目部分を隠すように「スポット修正」ツールでドラッグする。ここでは一度のドラッグで済ませているが、ドラッグの距離が長くなると操作しにくくなるので、何回かに分けてドラッグしてもかまわない。

 ドラッグをやめると縦長の2つの囲み線が表示される。ゲート跡の処理と同じように修正範囲と参照範囲を示す囲み線だ。もし仕上がりに不満があれば、参照範囲の囲み線をドラッグして様子を見てみる。それでもうまくいかない場合は、キーボードの「del」キーを押していったん操作を取り消し、「サイズ」や「ぼかし」の値を変えてやり直す。最後に「完了」ボタンを押して操作を終える。今回、勝田さんが行った限り、他の合わせ目部分も含めてほぼ完璧に消すことができたことを報告しておこう。

05 ゴミやホコリを消す

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 最後にゴミやホコリを消す作業だ。撮影時にどんなに注意しても、どんなにブロアーで吹いたりブラシで払ったりしても、ついてしまうのがゴミやホコリ。今回も撮影前に勝田さんがブラシで拭き払っていたが、撮影した写真を見るとやはり数カ所でゴミやホコリが見つかった。プラモデルに付着したゴミやホコリが見つかると、興醒めしたりがっかりした気分になったりする。基本的なRAW現像の仕上げとして念入りにゴミやホコリは消しておこう。

 そのゴミやホコリを消すのもやはり「スポット修正」ツールだ。消したい箇所に合わせてクリックしたり、ドラッグしたりするだけでゴミやホコリを簡単に消してくれる。画面をスクロールして写真のすみずみまでチェックし、ゴミやホコリは消しておきたい。ただし、あとで消せるからといって肉眼で目立つほどにゴミやホコリがついたまま撮影するのは避けた方がいい。

 拡大表示をし、プラモデル全体をくまなくスクロールしてゴミやホコリがないか確認しよう。意外に大きなゴミやホコリが見つかることもある。これはスーツケースについた繊維らしきホコリ。

 「スポット修正」ツールを選ぶ。「修復」モードにしてゴミやホコリの大きさに合わせて「サイズ」を調整する。また「不透明度」は「100」、「ぼかし」は「50」程度としてホコリの部分をドラッグする。もし点のようなホコリやゴミであればクリックでもよい。

 ドラッグをやめると修正範囲と参照範囲の2つの囲み線が表示されゴミが消える。このようなゴミであればほぼ完璧に消してくれるはず。うまく消えないのはドラッグした範囲がずれているか、「サイズ」の値が小さすぎるか、あるいは「ぼかし」の値が大きすぎることが考えられる。操作や設定を見直してやり直そう。