特別企画

プラモデル写真を100倍ステキに仕上げよう!

自分なりのイメージや世界観を展開する

 最後に自分なりのイメージを写真に落とし込んでみよう。とはいってもRAW現像ソフトであるLightroomでは明るさや色などでしかイメージを表現できない。それでも色や明るさの表現は無限と言ってもよく、機能を駆使することで思い描くイメージを形にすることができる。ここではその一例として勝田さんが仕上げた写真を紹介する。そのイメージは「ノスタルジックな夏の夕暮れ」だ。

 イメージだけだと抽象的に感じるが、そのイメージを分解していく。まずは「夏の夕暮れ」。これは黄赤みを帯びた色合いにすることで、その効果を狙うことができる。実際でも夕暮れどきに写真を撮ると黄赤みを帯びるが、そのような色合いを目指す。

 もう1つの「ノスタルジック」は、写真の周辺を暗くすることでその印象を誘いたい。古いレンズは写真の周辺が暗くなりがちで、それがレトロ感やノスタルジック感を呼び起こす。

 このように表現したいイメージを分解して逆算できるようになればしめたもの。あとは、それぞれの表現にあった機能を割り当てれば良い。1つめの「黄赤みを帯びた色合い」は「ホワイトバランス」という機能で調整できるし、2つめの「写真周辺部を暗くする」は「切り抜き後の周辺光量調整」という機能が利用できる。

 どちらの処理も操作自体は簡単だ。思い描くイメージや世界観をその場ですぐに試して確認できるというのは、表現の方向性を確認する上で好都合。何度でもやり直しができるので、臆せずさまざまな調整を試してほしい。勝田さんもいろいろと試行錯誤をしたのちに今回のイメージに落ち着いた。初めはどう表現していいかわからず、手探りになるとは思うが、試行錯誤を繰り返すことで表現の引き出しが増えていく。勝田さんも、機能が豊富でやり直しの簡単なLightroomを使うことで「プラモデル写真の表現に無限の可能性を感じた」という。

01 ホワイトバランスを調整してアンバー調に

処理前
処理後

 アンバーというのは黄赤の琥珀色のことで、セピア色にも似た懐かしい印象を呼び起こす色合いだ。本記事の前編では「製品の色を正しく再現する」という目的で色かぶりのない状態をよしとしたが、イメージを広げるためにその制限を解除し、自由に色を利用していく。ここでは「基本補正」パネルの「WB(ホワイトバランス)」にある「色温度」と「色かぶり補正」を使った。「色温度」はスライダーを左にずらすと青みが強まり、右にずらすとアンバーが強くなる。また「色かぶり補正」はスライダーを左にずらすと緑が強くなり、右にずらすとマゼンタが強くなる。他にも色を調整する機能はたくさんあるが、まずはこの2つが基本と考えていいだろう。

 「基本補正」パネルで「色温度:6000」「色かぶり補正:+10」とする。これだけでアンバー調の色合いになる。

 「夕暮れ」というイメージに合わせて少し暗くしておこう。「露光量:-0.30」とした。

02 写真の周囲を暗くしてノスタルジック感を強調する

処理前
処理後

 ノスタルジーを感じさせるわかりやすい手法のひとつが写真の周辺を暗くすることだ。最近のレンズではそうでもないが、古い(設計)のレンズでは周辺が暗く写るものが多かった。そのような印象が刷り込まれているせいか、周辺部が暗いと見る人にノスタルジーを呼び起こすようだ。周辺部を暗くするには瞳の調整で使った「円形グラデーション」も利用できるが、ここではもう少し簡単に操作できる「切り抜き後の周辺光量調整」という機能を使っている。

 「効果」パネルを開き「スタイル」を「カラー優先」に変える。「適用量」をマイナスに調整すると周辺部を暗くできる。「中心点」はその範囲を調整し、「丸み」はその形、「ぼかし」で暗さのグラデーションを調整する。作例では「適用量:-25」「中心点:60」として完成とした。

コラム:「結城 まどか」の作例

処理前
処理後

 勝田さんには「結城 まどか」の写真もRAW現像してもらった。使った機能は「小鳥遊 暦」を仕上げたのと同じ「スポット修正」ツールや「ブラシ」がメイン。1つ違うのは、太陽をイメージさせる左上からのライト。これは「マスク」機能の「線形グラデーション」で表現している。それぞれ写真を拡大して見ることができるので、違いをじっくりと確認してほしい。

〇処理内容
・ゲート跡を隠す
・合わせ目を消す
・ゴミやホコリを消す
・暗く見える髪の毛を明るくする
・向かって左上から光を照らす
・ヘアピンを彩色する
・スクールバッグの持ち手をグレーにする

Lightroomを活用することでプラモデルの楽しみ方は大きく広がる

 これまであまりRAW現像を行ってこなかった勝田さんだが、今回のチャレンジを経てRAW現像に対する意識が変わったようだ。RAW現像というと敷居が高く難しく思われがちだが、実際にLightroomを使ってみた勝田さんは「写真調整に必要な機能がわかりやすく整理されていて初めてでも簡単に使えました」との感想を持ったという。ご自分の仕事でも十分に使えることがわかったため、取材後すぐにLightroomのサブスクリプション契約をしたほどだ。

 今回の記事で見てきたように、プラモデル写真をLightroomで処理することのメリットは多い。1つは撮影の技術や機材不足を補えるということ。プロの現場では何灯もの照明を使ってライティングをするが一般家庭で機材を揃えるのは難しいし、照明が増えるに従って扱いも難しくなる。Lightroomを使えば「プロの撮影を再現」とまではいかないけれども、SNSなどで人に見せるのに十分なクオリティの写真に仕上げることができる。

 もう1つは、ゲート跡やバリ、合わせ目などの処理ができること。プラモデルは好きでも、細かな処理が苦手という人もいるだろう。ゲート跡やバリを削ったりヤスリがけをしてみたものの、かえって汚くなってしまった、という経験を持つ人は多いのではないだろうか。「プラモデルの製作技術は一朝一夕には身につかないので、技術を習得するまでの間、写真だけでもきれいに仕上げられるのは愛好者にとってはうれしいはず」と勝田さん。Lightroomではそのようなゲート跡や合わせ目の処理を何度でも気が済むまでやり直すことができる。

 さらに、そのような処理をする際、Lightroomでは拡大して見ることになるので、ゲート跡やバリの様子をつぶさに確認することになる。それはきっとプラモデル本体のゲート跡などの処理にも役立つはずだ。バーチャル(写真)とリアルを相互に行き来することでプラモデルへの理解も深まりそうだ。

 彩色ができることも大きなメリットだ。無色のパーツに彩色することも、また着色済みのパーツの色を変えることもできる。1つのプラモデルから、色の異なるバリエーション写真を作るなんてことも簡単だ。また、写真全体の色合いや明るさを変えるなどのイメージ表現も世界観を広げてくれる。プラモデルの楽しみ方が大きく広がっていくようではないか。

 さらに、思い描くイメージをすぐに試してみることができるのもLightroomならでは。たとえば「このような色で塗装をしたらどうなるだろう?」というシミュレーションとして使ってもいい。写真として完成させてもいいし、またそこで得たイメージを実際のプラモデル製作に反映してもいいわけだ。

 このようにLightroomを使うことで、プラモデルの楽しみ方は大きく広がる。「プラモデル本体が作品であることは間違いないですが、プラモデル写真もまた別の形での作品です。Lightroomがあればプラモデルを一体製作するだけで何倍も楽しめそうです」とLightroomへの期待が膨らむ勝田さんであった。

【完成写真】
勝田哲也、HOBBY/GAME Watchで執筆しているフリーのホビー/ゲームライター。レビュー、取材、インタビューなどさまざまな記事を執筆している。