特別企画
【ちょい組み】「ザ・スナップキット トヨタ スプリンタートレノ」
「頭文字D」で注目を集めた名車をその手で組み立てる楽しさ
2023年1月17日 00:00
- 【トヨタ スプリンタートレノ(ハイフラッシュツートン)】
- 2022年12月20日発売
- 価格:1,980円
- スケール:1/32
- パーツ数:36
アオシマはプラモデル「ザ・スナップキット」シリーズで「トヨタ スプリンタートレノ(ハイフラッシュツートン)」を12月20日に発売した。価格は1,980円。
モチーフとなっているのは、AE86、4代目スプリンタートレノ、コミック「頭文字D」の主人公藤原拓海の乗る車としても知られている。今回筆者が組み立てた「ハイフラッシュツートン」は赤と黒のツートンだが、「パンダトレノ」と呼ばれる白と黒の「ハイテックツートン」も同時に発売された。
AE86と言えば、先日の「東京オートサロン 2023」で、水素エンジンとバッテリEV化した2台が出展されたことが記憶に新しい。「既在の車もカーボンニュートラル化できる」というのがアピールポイントだが、実験車のサイドにはそれぞれ「水素エンジン」と、「電気じどう車」の文字が描かれており、文字レイアウトは拓海の乗るハチロクに描かれた「藤原とうふ店(自家用)」を意識した文字並びになっていて、改めて「頭文字D」の人気を実感させられた。AE86は多くの人の記憶に残る車となっているのだ。
このAE86の魅力を手軽に充分に楽しめるのが「ザ・スナップキット トヨタ スプリンタートレノ」である。36パーツというプラモデルとしては非常に少ない部品数、しかも接着剤不要のスナップキットでありながら、塗装不要でハイクオリティなカーモデルを手にできる。今回は本キットを組み立てていきたい。弊誌では同シリーズの「ザ・スナップキット ニッサン R33スカイラインGT-R(ブラック)」もレビューしているので、こちらも合わせて楽しんで欲しい。
前駆流行時にあえて後輪駆動、改造のしやすさでドリフト車としての人気を確立
キットの前に「AE86 4代目スプリンタートレノ」について紹介していきたい。元々「トレノ」という名称は「トヨタ・カローラ・スプリンタークーペ」から生まれた。大衆車であるカローラのスポーツカー仕様として、1.5L~1.6Lクラスのエンジンを搭載、小型のスポーツカートして開発された。
スプリンタークーペの区分ではスポーツモデルから一般向けの車種も含まれていたので、1972年、スプリンタークーペの中でより高性能なモデルに「スプリンタートレノ」という名称が与えられた。同時に「カローラレビン」というブランドも生まれた。「トレノとレビンは車台を共通する姉妹車である。2つの車の違いはわずかで、AE86の場合はライトの形状が違う程度である。
1983年にAE86/AE85の4代目スプリンタートレノが発売される。当時の日本の小型車のトレンドが前輪駆動(FF)を多く採用する中、レビンは後輪駆動(FR)を採用、足回りは先代を流用するシンプルなものだったが、だからこそ改造が容易で、AE86に採用された4A-GEUエンジンもチューニング志向の強いユーザーに大いに受けたという。
AE86の人気の理由の1つがFRのスポーツカーとしての"ドリフトのしやすさ"。特に「ドリフトキング」の異名を持つ土屋圭市氏がAE86でドリフト走行を披露し、大きく認知度を上げた。そして何といっても、コミック「頭文字D」の主人公藤原拓海の乗る車で「ハチロク」という名は一気に浸透した。漫画で憧れたファン達が中古車としてトレノを求めた。元々ドリフトを楽しむ車として人気があったが、「頭文字D」のヒットでプレミア価格で取引されるようになり、チューニングの素体としても高い人気を持つ車となっている。
やはりAE86スプリンタートレノと言えば「頭文字D」の人気が欠かせないだろう。GT-RやRX-7といった高性能スポーツカーを駆るライバルに対し、拓海の優れたテクニックと、「ボロ車」であるAE86スプリンタートレノの特性を活かした走りで対抗、勝っていく展開は、強い爽快感と車とドリフト走行への憧れを抱く。そして拓海の成長に合わせ車も様々な改良が施されていく。プラモデルを見ながら、思わずコミックの様々な場面を思い出してしまうだろう。
シールやクリアパーツを使うことで、実車の魅力を実感させるプラモデルに
プラモデルを組み立てていこう。「ザ・スナップキット」の大きな特徴に「シール」がある。メタリックな輝きのあるシールを車体に貼り付けることで、従来のプラモデルとはひと味違う「完成品のミニカーのようなリッチな質感」が生まれるのだ。
「トヨタ スプリンタートレノ(ハイフラッシュツートン)」の場合特徴的な赤と黒のツートンカラーはシールで表現している。赤い車体のタイヤ周りとサイドにシールを貼り付けていくことで、赤と黒に色分けされた車体のカラーが完成する。つやのある赤い本体に黒いシールで特徴的なツートンカラーが完成する。
窓枠もシールを貼ることで境界線が生まれる。縁にシールを貼ったクリア素材のパーツと、ボディをくっつけることで、グッと"実車感"が増す。シールは窓枠、ライト、ホイールなど本来は塗装が必要な場所に貼り付けることで質感を大きくアップさせる。さらにロゴやエンブレムなど細かい部分の装飾もこのシールでカバーできる。2mmほどの大きさに細かく文字が書かれているようなマークもシールを貼り付けるだけで表現できる。
ただ一方で、このシールが難易度を上げている部分もある。窓枠や、スプリンタートレノならではのツートンの黒いカラーリングもシールなためかなり広い範囲のシールを貼らなくてはならない。角度がちょっとずれたりすると目立ってしまうため、慎重かつ大胆に貼り付けなければならない。
シールを貼るにはやはりピンセットが必須だ。細かいシールに使うのはもちろん、大きなシールはピンセットで押したり、細かく動かすことでしっかり貼れる。「ザ・スナップキット」は初心者用プラモデルであるが、きれいに仕上げたければピンセットやニッパーといった道具や、手元を照らせるライトなど、プラモデルを作るための道具はそれなりにそろえて挑戦して欲しい。
室内は1パーツで表現されており、折りたたむことでバスタブ型になる。これを車体に取り付けることで、AE86スプリンタートレノならではのコンパクトな車内が再現できる。目を惹くインジケーターなどはシールで再現されているので、車内をのぞき込む楽しさもある。
「ザ・スナップキット」シリーズはシャーシそのものはシンプルだ。土台にタイヤ、ホイール、シャフトを取り付けるだけ。車高は通常タイプとローダウンにできる。今回は車高の低いローダウンで組み立てた。
ボディとシャーシを組み合わせたところでリアバンパー部分を組み上げる。特にテールライトに関しては、光沢を放つシールにクリアパーツをかぶせることでリッチな雰囲気が生まれる。車体に組み込むことで、バンパーのシャープな造型も相まって自分で組み立てたことでの満足感が実感できる。
ライトは開いた状態と閉じた状態を選択できる。今回は開いた状態での組立をした。こちらも内部に銀の金属質感があるシールを貼ってクリアパーツで覆うので、小さいながら本物の車のライトのような質感で組み上がる。ライトをフロントグリル、バンパーと一体化したパーツに組み込み、車体に取り付ければ完成だ。
鮮やかなボディカラーが楽しい完成形。1980年代の車らしさが魅力のボディライン
完成した「トヨタ スプリンタートレノ(ハイフラッシュツートン)」を様々な角度から撮影していこう。このキットはやはり"赤"がいい。ボディの鮮やかな赤はいかにもスポーツカーらしいし、黒とのコントラストも際立つ。"赤いスポーツカー"というのは、それだけで憧れを生む魅力がある。
そしてやはりこの車から匂い立つ1980年代の車の雰囲気が良い。この時代ならではの角張ったデザイン、独特のかっこよさを持ったライトの形状……。今の車とはひと味違う、ある意味クラッシックさがある風貌は独特の空気がある。プラモデルを眺めながら、この車が新車として走っていた時代に想いをはせてしまう。
「トヨタ スプリンタートレノ(ハイフラッシュツートン)」は、この車に思い入れを持つ人にオススメのプラモデルである。そして以前のレビューとの繰り返しになるが、まだ「ザ・スナップキット」シリーズに触れたことがない人には、ぜひ一度挑戦して欲しい。
車への憧れを持つ人はもちろん、カーモデルは初めてという人達もこのユニークなプロダクトは興味を持ってもらえると思う。従来のスケールモデルや、ガンプラともひと味違う、「よりカッコイイ完成品を最小限の作業で作ってもらおう」という開発者の挑戦心を感じてもらえると思う。「ザ・スナップキット」は完成した車を眺めるのが楽しいのだ。
高級ミニカーが持っている「実車の魅力を凝縮した模型」が手の中にあることをきちんと感じられるプラモデルである。シール貼りは少し難易度が高いが、模型スキルが高くなくても満足できる完成品になる。複数の商品を作ることで簡素化を目指しながらも各社に強い思い入れとその車のファンの心の琴線を震わせるクオリティを実現していることがしっかり実感できる。「ザ・スナップキット」というプロダクトの面白さを実感させてくれるプラモデルだ。