特別企画
【ホビーショップ訪問】桶川市の老舗のおもちゃ屋「おぢいさんの店」
「BEYBLADE X」の面白さこそが、ボランティアやお客さんとのつながりの"核”
2025年2月26日 00:00
- 【おもちゃのデパート おぢいさんの店】
- 住所:埼玉県桶川市南1丁目6-5
2月15日、埼玉県桶川市のおもちゃ屋「おもちゃのデパート おぢいさんの店」はタカラトミーの対戦型ホビー「BEYBLADE X(ベイブレード エックス)」を使った公式大会「バルサカップG3大会(オープン)」を開催した。
この大会では120名を超える参加者が集まり、さらにはユーザー主催の大会「S1イベント」も開催され、大きく盛り上がった。「おぢいさんの店」店長の田中肇氏は会場設営から司会進行、来場者の誘導と積極的にイベントを運営した。そしてこのイベントで特筆すべきはボランティアの活躍である。彼らは積極的に田中氏を手伝うだけでなく、イベント進行、そして競技に必要不可欠なジャッジを担当し、イベントを成功に導いた。現在、「おぢいさんの店」ではほぼ毎週こういったイベントを行っているという。
ボランティアと主催者は強い信頼関係があるからこそ、スムーズで楽しいイベント進行が可能なのだ。弊誌ではイベントレポートを行っているが、本稿では改めて今回イベントを主催した「おぢいさんの店」を取材した。
現在、個人経営のおもちゃ屋は大型店舗、家電量販店、ネット販売など玩具を扱う店舗が増えた上に、少子化の影響もあり、かつては1つの町にいくつかのおもちゃ屋があった状況から、その数を減らしている。その中で「おぢいさんの店」は「BEYBLADE X」による強固なコミュニティで盛り上がりを見せており、“お客さんとのつながり”がお店を支えているという。「おぢいさんの店」はどんな店舗で、「BEYBLADE X」とコミュニティはお店にどのような影響をもたらしているのだろうか? 田中氏に話を聞いた。
「BEYBLADE X」と「トミカ」に注力、昭和20年から続く老舗のおもちゃ屋
「おぢいさんの店」の創業は昭和20年、1945年からとなる。現店長・田中肇氏のひいおじいさんが始めたお店だという。お店には歴史を語る写真を貼ったボードもある。戦後、敗戦により何もなくなってしまった時代、道路の端で戸板をしき、色々なものを販売していた。屋号や店の名前はなく、皆から「あのおぢいさんがやっているお店」と呼ばれた。それがそのまま、今のお店の名前「おぢいさんの店」になったという。
その後玩具店となり田中氏の祖父が社長を務めた。現在は田中氏の叔父が社長を務めており、田中氏は現店長として店を運営している。「現代の玩具店はなかなか厳しいですが、なんとか続いています」と田中氏は語った。
田中氏が子供時代は子供も多く、桶川にはいくつもおもちゃ屋さんがあった。しかし現在、「1つの町に1つのおもちゃ屋さんはない」という現状だ。大型玩具店の進出、家電量販店など玩具を扱う店が増えたこと、ネットでの流通もあり、さらに少子化という状況も重なって、独立した玩具店の経営は厳しい。現在、桶川では中古の玩具を扱うお店はあるが、新品の玩具がメインのお店は「おぢいさんの店」だけだという。
「おぢいさんの店」は最新の玩具を取りそろえるだけでなく、低価格の玩具、パズル、ぬいぐるみ、パーティーグッズなど棚に色とりどりの玩具が並ぶ、筆者が子供の頃に憧れた玩具店そのままだ。この限られたスペースにあらん限りの玩具がぎっしり並ぶ風景は、自分が子供になったかのようなワクワクさせられる空間である。
「おぢいさんの店」では1階は様々な子供向け玩具を並べ、”昭和の玩具屋”を思わせるレイアウトだ。その中で大きなコーナーが設定されているのが「BEYBLADE X」と「トミカ」である。トミカは定番のものから、「トミカプレミアム」、「ロングタイプトミカ」など非常に充実しており、お店の1/5近くの面積が「トミカ」コーナーであり、1,000種類以上品揃えがあるという。
昨今の玩具店は子供だけでなく、大人の固定客も大事なお客様で、特に「トミカ」に関しては熱心なファンもいて、「おぢいさんの店」の看板商品の1つだという。非常に豊富でバラエティに富んだ品揃えで、魅力だと感じた。
2階は模型コーナー。プラモデルに加え、ミニ四駆やトイガンも扱っている。また、以前仕入れたという「アメコミフィギュア」も多く取り扱っており、探せばお宝も眠っていそうな雰囲気だ。昨今では2階はいつでも対戦が楽しめる「ベイブレード対戦台」が常備されており、人気スポットとなっている。
店舗を見て「おや?」と思ったのは「コンピューターゲーム」コーナーが見当たらなかったこと。おもちゃ屋にはしっかりしたゲーム販売コーナーがあるというイメージを持っていたが、「おぢいさんの店」にはそれがなかったのだ。
1980年代、ファミコン登場からは玩具メーカーにとってコンピューターゲームは黒船であり、一時期ゲームの人気に押され、既存の玩具が売れなくなった時代があった。一方販売店であるおもちゃ屋はコンピュータゲームという新しい玩具ジャンルとそれを求める新しいお客さんが増え、大いに売り上げを増した。
田中氏も子供のころ「ドラゴンクエストIII」の大ブームで自分のお店が盛り上がったことを覚えているという。しかしそれから時代が経ち、家電量販店やダウンロード販売などゲームの販売方法は変化し、「ゲームを買いにおもちゃ屋に行く」という流れは減ってしまった。「おぢいさんの店」もかつては大きかったゲーム売り場はなくなり、現在は注文販売のみを行っているという。
お客さんやボランティア達と楽しい空間が作れる核は「BEYBLADE X」の面白さ
「おぢいさんの店」はまるで昭和の時代に戻ったかのような懐かしさと、現代のおもちゃ屋としての活気を感じる店舗だが、現在「おぢいさんの店」を支えているのが、「BEYBLADE X」の商品と、積極的に開催する公式大会だ。
「BEYBLADE X」は2023年7月にスタートした新シリーズ。「おぢいさんの店」では前シリーズの「ベイブレード バースト」から人気は高かったが、今回はさらに高い人気があるという。もちろんそれ以前のシリーズも人気ではあったが、「バースト」、「X」で人気が跳ね上がった印象があるとのこと。
「BEYBLADE X」はまさにお店のお客さんが作り出したムーブメントだ。この人気に応えるため、2階の売り場面積を調整し、対戦が楽しめるスペースを作った。休日などは子供達だけでなく、大人も混じって対戦を繰り広げている。
「おぢいさんの店」では、積極的に「BEYBLADE X」のイベントを行っている。公式大会「G3大会」は、小学生限定大会「レギュラー」と、大人も参加できる「オープン」を積極的に開催、昨今では事前募集で定員いっぱいになり、当日枠はキャンセルを考えた少しだけ用意しているとのこと。
事前募集ではあえて「店舗を訪れて申し込み」という形にしている。会場となる桶川市に一度来てもらい、きちんと参加ができることを確認してほしいということと、それだけの熱意があれば当日キャンセルを防げるというわけだ。申込券は店舗での割引券も兼ねており、参加者のメリットにしている。また、イベント当日には「BEYBLADE X」関連商品のセールも行うので、試合に参加する前後での買い物や、試合を観戦し「BEYBLADE X」に興味を持った人へのサービスも行っている。
大会の運営にはボランティアの協力が必須だ。「おぢいさんの店」が安定したイベント運営が行えているのは、ボランティアあってこそだ。「うちは本当にボランティアさんに恵まれています」と田中氏は語った。
ボランティアは20人以上。20~50代の方もいて、「ベイブレード」が好きで、難しいジャッジもすすんでやってくれる上、参加者の整理、誘導など、大会運営を重ねることで一緒にノウハウを学び、成長してきた。ボランティア同士はSNSなどを通じて連絡を取り合っているが「おぢいさんの店」は交流の場としても機能している。ボランティアが積極的に協力してくれるからこそ、100人を超えるイベント運営が可能だ。
ボランティアと協力してイベントを運営するのは、通常の販売業務とはひと味違ったモチベーションを田中氏にもたらしてくれているという。だからこそイベント運営は、来てくれる人はもちろん、ボランティアが楽しくイベントに取り組めるように環境作りも大事だと田中氏は語った。
参加者は時には「お客さん」という意識でボランティアに接することもあるが、ボランティアは善意でイベントを運営している。自分本位の行動をする参加者には毅然とした態度でボランティアを守るために行動もする。子供達がはしゃぎすぎないように気を配ることも必要だ。ボランティアが田中氏を“仲間”として信頼してくれるからこそ、田中氏はそこに応えたいと思っている。
ボランティアはその名の通り無償である。彼らの最大のメリットは「公正なジャッジの元で試合ができること」。ベイブレードの試合は時には勝敗が微妙な場合もあり、そのことでトラブルにも繋がりかねない。ボランティアとして運営に関わることで、ルールがしっかりした、納得のできる試合が楽しめる"場"を自ら作り出すことができる。自分たちが「BEYBLADE X」を楽しむためにこそ、ボランティアとしてしっかり試合を運営をすることが必要なのである。
そして、何よりボランティア、そして参加者との絆の核になるのが「BEYBLADE X」の面白さなのだと田中氏は語る。人と人、2人の人が対面することでその楽しさが発揮される「対戦型ホビー」であること。そして電池がいらないことも大事だ。「せっかく機会があるのに電池がなくなって遊べなくなった」ということがない。
「BEYBLADE X」を遊ぶために、「おぢいさんの店」に行こう! このエネルギーが、今現在、お店にお客さんを呼んでいる。お店に来ると友達だけではなく、「BEYBLADE X」を遊んでいる人たちと、大人も子供も楽しめるのだ。女性プレーヤーも多く、最近は外国の人も訪れ、対戦しているという。「BEYBLADE X」はお店に活気を与えてくれている。
最後にお客さんに対し、田中氏は「大人も子供も、女性の方も、外国の方でも誰でも楽しめるのが『BEYBLADE X』の素晴らしいところだと思っています。そして遊びやすいけど、強くなるためにはシュートの仕方やベイの選択など、工夫が必要で、どこまでも奥が深い。『BEYBLADE X』はまだまだ盛り上がりますし、新しいベイも出てきます。ボランティアさん、お客さんも来ていただいていて、大会も大きく盛り上がっています。これからでも楽しめます。ぜひお店に来てください」とメッセージを送った。
筆者は大人になってからも「おもちゃ屋」が好きだった。しかし個人経営のお店はどんどん少なくなり、筆者が外出時に訪れる場所も家電量販店などが多くなっていった。「おぢいさんの店」は久しぶりに訪れたおもちゃ屋と言っていい。こういったお店がきちんと運営されているのはうれしく、懐かしい気持ちになった。
「BEYBLADE X」とファン達がこういった個人経営のおもちゃ屋さんを支えている、という話はとても良かった。大会運営という、お店経営とは別のノウハウを求められる役割を、その競技が大好きなボランティアと力を合わせこなしている。参加者の子供達やその親たちとも協力し、試行錯誤しながら「楽しい大会」を実現している現在の姿は、多くの人にとって大切な思い出となる素晴らしい時間だと、取材を通じて確認できた。今後もこういった活動を応援していきたい。