インタビュー

大人のための会員制カードゲームサロン「不知火」が秋葉原にオープン!

「不知火」はカードゲームという文化に対する挑戦と作品の一つ

――それでは本題に移りますが、会員制カードゲームサロン「不知火」をオープンすることを決めた理由は何でしょうか?

中条氏: 「不知火」もある種、カードゲームという文化に対する挑戦と作品の一つだと思っています。これまでメーカーであったり、コンサルであったり、いろんな立場でカードゲーム業界を見てきた中で実感したのが、最近カードゲームの主体が「換金性」になってきている、ということです。換金性の高い玩具としてのカードゲームが注目されており、「高く売れる希少なカード」と「強いカード」に価値を集約させる方向で市場が構成されていて、メーカーの商品や売り方の形も、近年その風潮に合わせて変わっています。

 トレーディングの枠を超えて、競技すら「お金儲けの手段」になりつつあり、カードゲームの「体験」や「交流」に価値を感じていた人の肩身が狭くなっている状況がある。別にお金儲けがしたくてカードゲームをしているわけでも、最強になりたくてカードゲームをしているわけでもない。そういった方々は、日々「換金性」の波に飲まれていく中で、言語化しようのない息苦しさを感じているんじゃないでしょうか。

 「換金性」を否定するわけではないんですが、カードゲームってそれのみじゃないよね、という話です。僕は「カードゲームを通した交流と体験」という、原初的な楽しさに価値をつけたかった。その実現には自分でお金を出して、自分の考えで空間を作らなきゃいけない。それが「不知火」を作ろうと思ったきっかけですね。

――やはり最大の特徴は、会員制ということですよね。TCGバーとかボードゲームカフェなどはいくつもありますが、会員制とか大人限定というのはあまり聞いたことがないです。

中条氏: あえてフリースペースではなくて、“サロン”という、いわゆる同好の士が集う集会所という体を取らせていただきました。会員制にして年会費をいただいているのは、不知火会員なら信じてみてもいいんじゃないか、信用していいんじゃないかという空気感を会員内で作るためです。その目標自体は、プレオープンで、ゲートルーラーを主体に運営をした日については、すでに成功しています。12人お客さんがいたとしたら、普通のフリースペースってそれぞれのグループ内で遊んで終わりじゃないですか。不知火だと、全員が他の11人と遊んでいるんですよ。

――なるほど、素晴らしいですね。

中条氏: はい。ただこの遊戯環境を一般的なフリースペースとか、SNSで募ったオフ会で叶えられるか、というと割と厳しいんじゃないか、と思います。そこに関してはやっぱり価値観の違いですよね。不知火会員には、強さのみを求める人、換金性のみを求める人が居なくて、カードゲームをもっと純粋に楽しみたいよっていう人が多い。彼らがカードゲームを純粋に楽しみたいって思ったときに、それを実現できる場所はなかなか無いし、それを実現できる方法もあまり考えられてはいませんでした。

 不知火の特徴は、会員同士が持ち込んだ「楽しい体験」を共有し合えることです。なので、スペースを借りることがメインではなくて、交流がメインのお店だということを強調しています。

 僕はもうこれからはクローズドコミュニティの時代だと思っています。カードゲームってSNSと相性良すぎるんです。良くも悪くも情報インフラのホビーなので。情報を得るためにはアンテナを高くしないといけないが、見たくない物や価値観の異なる物まで受信してしまいます。インターネットやSNSは人を繋げ過ぎてしまう。この辺の話題に興味のある方は「永遠の9月」でググってください。話が若干逸れましたが、価値観が同じ人が集まる不知火はクローズドコミュニティであり、言ってしまえばシェルターでもあります。それを実現するための会員制ですね。

【不知火でのプレイの様子】
テーブル席でデュエマをプレイしているところ。テーブルが広いので快適だ
座敷スペースでゲートルーラーをプレイしているところ。畳の上でTCGをプレイするのも楽しい

「場所がない人」「知ってほしい人」「体験したい人」がターゲット

――「不知火」のターゲットとしてはどのような方を想定していますか?

中条氏: 不知火のユーザーさんは3属性に分けられると思います。1番目が安心して遊びたい人、安心して遊べる場所がない人。人によってカードゲームを羽を伸ばして遊べる環境って違いますよね。イオンのフードコートとか、マックとかで遊べる人もいれば、カードショップで遊ぶことすら無理な人もいる。不知火は基本的に「どんな人でも安心して遊びやすい」空間の形成を心掛けています。やはりそこも会員制ならでは、だと思います。薄利多売、誰でも来てねではそうはいかない。

 2番目は知ってほしい人。俺はこういう遊びを持ってるんだよ、俺はこの遊びがすごい楽しいと思っていて、みんなにも体験してもらいたいよっていう人。ちなみにVIP会員さんはだいたいこの2番目の方が該当します。オフ会とかを自分でやっていて、不知火を本拠地にして活動したい、不知火の会員さんに参加して欲しい、っていう方々です。

 3番目は2つ目の人が持ってくる楽しさを体験したい人。僕は〇〇プレーヤーだから〇〇をやりに来るよじゃなくて、いや、実は本音を言うと××もちょっと気になってるけど、最新環境を追うのはキツいな~とか、△△は昔のならわかるんだよねみたいな方が割といるんですよね。そういった方々にここに来ればいろんなオフ会とかいろんな遊びに参加できると思ってもらえると嬉しいです。

 1番目の人が2番目の人の理想的な遊び相手で、それで場が立つから3番目の人も楽しめる。相互作用的にそれぞれの求めている物が結びついていくことで、独自のコミュニティ形成ができると考えています。

後ろめたい部分をなくすために風俗営業許可を取る

――「不知火」は、風俗営業の許可を取るそうですが、他のTCGバーなどで、風俗営業許可を取っているところはあまりきいたことがありません。そのメリット、デメリットについて教えてください。

中条氏: 僕も専門家ではないんですが、お客さんが「このサービスを受けられる!」と思って来店されると、それがそのお店のサービスになるわけですね。バーはお酒を飲みに行くというのが主目的のお店なので、マスターと談笑するために行ってるわけじゃない、みたいな理由で風俗営業許可はいらないんですが、スナックとかホストクラブとかキャバクラとかっていうのは、そこのスタッフとお話をするためにお客様が来店するところなんですよね。

 で、事例があるんですけど、TCGバーなどで、カードゲームをお客さんがお客さんと遊ぶ場合と、店員と遊ぶ場合では認識が違ってくるんですね。お客さんがその店員と遊ぶことを目的として来る場合は、店員と遊びに来てますよね。それって、キャバクラやホストクラブと同じですよね?というのが今の法解釈だそうです。風俗営業許可は、いるっていうより取らないと後ろめたい部分がある状態でお客さんと関わり続けなければいけないことになってしまいます。

――風俗営業許可を取ることのデメリットとしては、18歳未満は入れないということですか。

中条氏: そうですね。そこはもともとそういう理念(筆者注:18歳以上を対象にしていること)だったので。ただ、ここに関しては正直不知火自体はすごい前から考えていたことで、コロナウイルスがなければ、カジノ法案とかの段階で定義されると思っていたんですよね。実際、カードゲームって、凄く定義が難しくて、YouTubeでトランプのカードを映すと「ギャンブルだ!未成年に見せるな!」と判定されてしまう国もある。トランプを使ってゲームをしているってことは当然賭けてるよね?ギャンブルだよね?ということ。カードゲーム=ギャンブルor接待みたいな。

 不知火はそうじゃない、いわゆる参加費を取って、豪華賞品を奪い合いみたいな場でもないので、本来で言うと後ろめたいことは何もないんですが、ここに関しては、文化に法が追いついてないので、法にこちらからおもねるしかない段階かなとは思っております。たぶん、カジノ化法案とかが正式に通っていて、アミューズメントカジノとかありますよね?あれどうなるんです?っていう話とか、いわゆる遊技機、パチンコとかその辺の業界も関わってくる話の中で、いや、こいつらはただ遊んでるだけだぞっていうことが定義されれば、(風俗営業許可は)いらなくなると思います。

――ちょっとあくまで過渡期というか、まだ時代に法律が追いついていない形なんですね。

中条氏: それが固まってくれそうな雰囲気が出始めてるな~と思ったら、コロナで大変なことになってしまいましたという形ですね。まぁなので風俗営業許可を取りますけど、なんかセクシーでラグジュアリーなお姉ちゃんが出てきて~みたいな感じではないです。

――クラウドファンディングでの説明文でも、風俗営業許可を取る予定と書いてありましたよね。

中条氏: はい。その体で来て下さいと。

――だから、スタッフさんとも後ろめたくなく遊べると。

中条氏: 届け出は出すつもりなんですけど、許可が下りるかどうかはまた別の話なので。今の段階でも、出してみた結果、これ風俗営業許可は不要だよって言われる可能性も十分あると思ってます。

3種類ある会員ランクによって融通を利かせられる度合いが違う

――「不知火」の会員は、通常、ゴールド、VIPと3種類ありますが、それぞれどのような特典があるのでしょうか?

中条氏: まず、会員は不知火で開かれる催しやイベントに優先的に参加できます。基本的に会員ランクの高い順から、会員の参加枠、つまり体験の担保が確約されていくわけですね。さらに会員の各会費というのは月額にするとだいたい一番下が月800円ぐらいで、上は月8000円ぐらいなんですけど、それぐらい担保をいただいているので不知火を使って自由なことをやっていいよっていう権利を順番に開放していくような形になります。

 ゴールド会員であれば私物をお預かりしたり、VIP会員であればもっと自由度が上がるという認識で間違いありません。ちょっと一般の会員さんにそれを相談されるといろいろ無茶な相談かなあみたいなことも、いやそもそも月額8000円出していただいてるんでってことで聞けるようになります。会員のランクというのは、融通を利かせられる度合いなんですね。融通を利かせられちゃう人だけ得をするみたいな形にはしたくなくて、あえて最初から会員ランクを作ることにしました。

――では、VIP会員なら、自分でやりたいイベントを企画して場所としてここを使うときに、VIP会員が決めた参加費を取って、会員じゃない人を呼ぶこともできるんですか?

中条氏: はい。基本的に会員は非会員を呼ぶことができるので、それはVIP会員じゃなくてもできます。事前に相談は必要です。

店の名前はヴァンガードとは一切関係ない

――店の名前を「不知火」にした理由は何でしょうか? ヴァンガードからですか?

中条氏: 一応僕がアニメスタッフだった時期の凄く懇意にしていた大好きで思い入れのあるユニットではあるんですけど、「忍竜シラヌイ」は関係ないですね。本当は3年くらい前からこういうお店を構想していたんですが、その名前は「シークレット」なんですよ。隠れて、会員制で、俺たちの知ってる楽しい遊びを共有しようぜってお店なので。

 本当はBARの居抜き物件を探すつもりだったんですが、海鮮居酒屋の居抜き物件として素晴らしい空間を見つけてしまいまして。「ここはシークレットとは違うよなぁ」となり、仲間たちと急いで代案を出し合いました。海上に揺らめく怪し火の蜃気楼、でも手を伸ばせばそこにあるかもしれない、みたいな意味合いを込めて、不知火に決めました。
別の案として「陽炎」ってのもあったんですけど……流石にそっちはモロすぎるだろってことでボツにしました。

――覚えやすいし、いい名前だと思いますよ。店は地下ですが、Wi-Fiなどは利用できるのでしょうか?

中条氏: 予定よりも工事が延びてしまったのですが、3月下旬には使えるようになります。実はこの空間って会員制サロンのためだけに使うんじゃないんですよ。平日のお昼は、僕の「スタジオアックス」を始めとする面子が自由に使う仕事場になります。

 仕事場にしつつ、キッチン設備も立派なので、ゴーストレストランっていうUber Eatsなどの専門店として固定収入を発生させようとも思っていて、そういった諸々をするのにちょっとWi-Fiがないと始まらないので、この空間を4割ぐらいしか活かせてない、4割も活かせていないような状況です。

 プレオープンのときからそのスタンスなんですが、この店はもう自由にみんなが使っていい空間なので、志を同じとする、同志たちが自由に使っていい空間なので、シミュレーションゲーム的にどんどん空間として完成していくのをたぶん1年単位ぐらいで楽しんでいただければ、それはそれで一つのコンテンツなんじゃないのかなと思います。実際、僕も1年後のこの不知火どうなってるかわかりません。まず水槽がまだあるのかないのか。

会員数の目標は150人

――クラウドファンディングが2月末で終わりましたが、現在の会員数は何人くらいなのでしょうか?

中条氏: 現状で、通常会員64名、ゴールド会員8名、VIP会員6名の計78名です。

――会員数の目標は何人くらいですか?

中条氏: 会員数の目標としては、100名いらっしゃるとおそらく暇しないなと、150名いらっしゃるとたぶん、すごく円滑に物事が回るな。200から300名に到達すると、会員でも予約をしないとこれないお店になるなあという認識です。

――そういう意味では、最初の会員数がもう少しいたほうがいいですよね。

中条氏: 実際、規模感で言うとクラウドファンディングで目標金額の200%を超えるというのが、一つの目標ではありました(筆者注:実際は176%で終了)。2月8日で緊急事態宣言が明けてそれからプレオープンが成立していれば、おそらく200%を超えられたんじゃないかなと思ってます。