インタビュー

「ブレードランナーの銃」の水鉄砲最新版「爆水拳銃2.0」登場!

リアルな水鉄砲を作るアルゴ舎の歴史に迫る

【髙木型弐〇一九年式爆水拳銃 Vol.2.0】

メーカー:アルゴ舎

5月下旬発売予定

価格:4,950円

全高:約252cm

素材:本体ABS、トリガーPP、給水キャップPP

 アルゴ舎は水鉄砲「髙木型弐〇一九年式爆水拳銃 Vol.2.0」を5月下旬に発売する。価格は4,950円。

 本銃のモチーフは2014年に発売されたモデルガンの「髙木型弐〇一九年式爆砕拳銃」。このモデルガンは1982年の映画「ブレードランナー」の主人公デッカード警部が持つ「デッカードブラスター」の劇中で使われていた小道具を、エルフィンナイツプロジェクトの高木亮介氏(高ははしごだかと呼ばれる旧字)細かく取材し再現したものだ。

 アルゴ舎は高木氏からこのモデルガンを「安価な水鉄砲」にしようという提案を受けた。この提案を受け小栗氏はただ安価なだけでなく、きちんと「髙木型弐〇一九年式爆砕拳銃」が持つカッコ良さ、構えたくなるリアルなシルエットをできるだけ再現しながら、1296円という価格での提供を実現した。この価格帯とリアルな造型は大いに話題を呼び、大ヒットとなった。そして”モデルガンのようなリアルな水鉄砲”という、アルゴ舎のビジネスが確立する。

 そして今回、“決定版”といえるリニューアル「髙木型弐〇一九年式爆水拳銃 Vol.2.0」が生まれることとなった。今回は、このシリーズが生まれたこれまでの経緯や、アップグレードされた「髙木型弐〇一九年式爆水拳銃 Vol.2.0」の魅力をアルゴ舎の小栗卓二氏と、エルフィンナイツプロジェクトの高木亮介氏に話を聞いた。

今回話を聞いたアルゴ舎の小栗卓二氏(左)と、エルフィンナイツプロジェクトの高木亮介氏
5月発売予定の「髙木型弐〇一九年式爆水拳銃 Vol.2.0」。今回はまず前身である「髙木型弐〇一九年式爆水拳銃」がいかにして生まれたか、その歴史から話を聞いてみた

映画で使用された小道具と、実銃取材から生まれた「髙木型弐〇一九年式爆砕拳銃」

 最初に「ブレードランナー」の「デッカードブラスター」と、高木氏の「髙木型弐〇一九年式爆砕拳銃」の関係性に触れておきたい。1982年の映画「ブレードランナー」が日本のエンターテイメント業界に与えた影響は大きかった。アニメなどでも「キャラクターの持つ銃」としてデッカードブラスターに似た銃のデザインがあったという。

 高木氏は「戦士の銃 コスモドラグーン」と共に、デッカードブラスターの熱心な研究者としても知られている。高木氏は原作の研究を進めながら、デッカードブラスターに影響を受けたアニメキャラクターの銃の商品化や、ガレージキットの原形なども手がけ、コミックやアニメ業界でも研究者として知られるようになった。

【ブレードランナー】
1982年の映画「ブレードランナー」。ディレクターズカットなど様々なバージョンがある

 映画「ブレードランナー」に関しては版権がはっきりしていない部分があり、アメリカ国内や、イタリア、そして日本でも様々なブラスター商品が発売された。機能のないディスプレイモデルや、発火機能のあるモデルガン、BB弾が発射できるエアガンなども発売された。こういった流れもあり、現状でも日本国内においては、「デッカードブラスターをモチーフとした商品」というのが販売されている現状があるという。

 ちなみに水鉄砲である「髙木型弐〇一九年式爆水拳銃」は「ブレードランナーのデッカードブラスターがモチーフ」という記載はせず、あくまでモデルガンの「髙木型」がオリジナルである。

 「髙木型弐〇一九年式爆砕拳銃」はこうした様々な国内・国外メーカーからブラスターが販売される中、MULE(クラフトアップルワークス)から2014年に発売されたのがモデルガン「髙木型弐〇一九年式爆砕拳銃」である。これまでの高木氏の研究の集大成とも言える商品だ。

高木氏はコスモドラグーンと共に、デッカードブラスターの研究者としても知られている

 高木氏はこの「髙木型弐〇一九年式爆砕拳銃」が生まれる経緯を「Blaste読本」という同人誌で発表している。デッカードブラスターは1982年の映画公開当時は資料はほとんどなく、映像でもはっきり写ったカットは少ない。映画ポスターやスチルなどから映画・銃器関係者がそのデザインを探っていった。

 もちろんアメリカでは研究は一層盛んだった。高木氏が得た知識では、銃の基本はリボルバー式拳銃「ブルドッグ」に「スタイヤーライフル」のレシーバーとマガジンケースをかぶせ、飾り付けたものだという。アクション用の小道具(プロップ)のコピーとしての商品は販売されたものの、ディテールは甘かったとのことだ。高木氏は「ヒーロープロップ」という、撮影のアップに使われる精巧なモデル資料を探し求めた。

【髙木型弐〇一九年式爆砕拳銃】
リボルバー型の拳銃に大きなカバー、銃身の下のマガジン、透明の樹脂のグリップ、非常にユニークな形状だ
銃口など独特の形状だ
2つあるトリガー。シリンダーからはカートリッジがのぞく

 そうした中、高木氏は「ブレードランナー」研究家であるマゴノテプロダクツのマッキー氏に誘われ、2009年にアメリカ・ロサンゼルスのオークションに出展されたヒーロープロップを見る機会を得たという。当時パスポートも持っていなかった高木氏は急いで準備して渡米、憧れのヒーロープロップを撮影するだけでなく、実際に触れ細かいところまでデータを収集できたという。

 さらに高木氏はデッカードブラスターの元となる「ブルドッグ」と「スタイヤーライフル」の実銃採寸も行うことができた。北米在住の雑誌「GUN」のライターであるTOSHI氏が実銃を購入、この銃を分解した上で型に置き、シリコンゴムを流し込むことで、実銃を型取りして細部までデータを得たという。

 高木氏はこれまでもデッカードブラスターをモチーフとした精巧なモデルガンやディスプレイガンを手がけていたが、ヒーロープロップの取材と、実銃の採寸により、究極といえるまでにこだわりを込めて作り込んだ商品が誕生することとなる。それがMULE(クラフトアップルワークス)から2014年に発売されたのがモデルガン「髙木型弐〇一九年式爆砕拳銃」なのだ。

 この「髙木型弐〇一九年式爆砕拳銃」は、これまで高木氏が手がけた他の商品では到達できなかったポイントがクリアとなっている。「どのように実銃を加工してプロップを作ったのか?」、「いくつかの撮影資料での矛盾点の解消」、「マガジンの構造と、発光ダイオードの施工方法」……。そしてMULEはモデルガンメーカー・クラフトアップルワークス(CAW)の別ブランド。本格的なモデルガンメーカーとの協力により、発火式の「遊べるモデルガン」として、「髙木型弐〇一九年式爆砕拳銃」は完成したのだ。

細部をチェックするのが楽しい

 ちなみになぜ「爆砕拳銃」という名前なのか? blasterというのは、blast(爆発)からの造語で、「ブレードランナー」でもものに当たったときは爆発する描写があるという。映画「スター・ウォーズ」などからブラスターといえば熱線を放射するSF銃を指す場合もあるが、高木氏は「物を爆発させる銃」としてのデッカードブラスターを捉え、その和名として「爆砕拳銃」という名前を付けたとのこと。そしてその水鉄砲バージョンだから、「爆水拳銃」なのだ。

 高木氏はさらなる計画をアルゴ舎の小栗卓二氏に提案する。「このモデルガンを安価な水鉄砲にしたい」。この2人の想いが「リアルな銃の外見をした水鉄砲」という、新しいビジネスを誕生させるのだ。

1296円で本格的なブラスターが手に入る! 話題を集めた「髙木型弐〇一九年式爆水拳銃」

 「このモデルガンを、安価な水鉄砲にしませんか?」という企画をアルゴ舎に持ち込んだのは高木氏だったという。小栗氏は以前勤めていたフィギュアメーカーの経験を活かし、独自のフィギュア商品を生み出すべく2014年にアルゴ舎を立ち上げた。硬質で細部の表現が可能な「ポリストーン」という素材を使ったフィギュアが特に強みがあるという。中国の工場との交渉にノウハウがあり、商品を生産する技術も持っていたが、水鉄砲を手がけるのは初めてだった。

小栗氏はフィギュア業界のノウハウを活かしつつ、自分たちの作りたい商品を商品化している

 そもそもなぜ水鉄砲だったのか? 銃の玩具、モデルガンやエアガンを発売する場合、日本では銃玩具協会といった業界の協会に入会しなくてはならない。水鉄砲はそういった協会加入の範囲外の商品だった。アルゴ舎は銃玩具が専門業種では無かった為、自由に商品を開発・販売したいと考え、水鉄砲を選んだのだと小栗氏は語った。

 中国には様々な工場がある。フィギュアを作る工場、プラモデルを作る技術がある工場……。小栗氏は中国のスタッフと協力して市場を調査し、中国国内で水鉄砲を作る工場を探し当てた。水鉄砲はポピュラーな玩具だ。少し前までは色々な工場があったが、今は広東省東部にある汕頭市に集まっているという。

【髙木型弐〇一九年式爆水拳銃】
2015年に発売された「髙木型弐〇一九年式爆水拳銃」。1296円という低価格で、映画そのままの大きさの水鉄砲が手に入るのは嬉しい。大ヒットしたのも納得だ

 水鉄砲である「髙木型弐〇一九年式爆水拳銃」製作に当たっては、まず中国に持って行くための3Dデータがなかった。「まず2014年のモデルガン自体、私が作った原型をMULEさんに持ち込み実現しました。CADなどのデータではなく、実物を作る“手原型”という形でした。このためアルゴ舎さんにも、原型と、実際の商品を見せたんです」と高木氏は語った。

 しかも高木氏は「この水鉄砲を500円で売りたい」と話を持ってきたのだという。オリジナルの商品でその値付けは無理だというところで、何とか価格を抑えて1296円まで価格を抑えた形での生産体制にこぎ着けたとのことだ。「これでも高木は高いって言うんですが……それでこの出来ですよ? 安すぎだと思いません?(笑)」と小栗氏はこちらに語りかける。確かに、現在の価値観ではかなり安いと感じる。そしてその低価格は大きな魅力だ。

 原型は良くても、それを水鉄砲化ができるかというのも大きな問題だった。高木氏の「髙木型弐〇一九年式爆砕拳銃」非常に凝った造型のモデルガンだ。これをどこまで安価な水鉄砲として造型できるのか? しかし、中国の工場は小栗氏や高木氏の予想を超える精度で原型の特徴を捉えた商品見本を提示してきたという。

 「最初のテストショットは良いところまで行きました。『こいつらやるな』と思いましたね。ただ、色が問題でした。黒い銃の雰囲気に近い色を使うと、税関で注意されてしまう可能性があった。銃の密造パーツだと思われてしまうかもしれないという心配がありました。そこで最初は透明度の高い材料を使った、一目で水鉄砲だとわかる素材での商品化となったのです」と小栗氏は語った。

 2017年に発売された「髙木型弐〇一九年式爆水拳銃」は大ヒットとなった。1296円という低価格で、映画そのままの大きさの、細部が凝った「ブラスター」が手に入る。しかもモデラー達がこの水鉄砲を素材に改造なども行い、ネット上に作例が発表され、さらに話題となった。最初の商品は2万個の出荷という、玩具としては非常に大きな数字となった。

 そして「どうしてもより本格的な“黒い商品”を出したい」という想いを実現させたのが、「髙木型弐〇壱九年式爆水拳銃 豪華ブラック」である。黒く塗られたこの商品は、未塗装状態の商品を中国から持ってきて、 CM、映画、プロモーションビデオの美術セットデザインや、博物館の展示模型を製作する「サン・ク・アール」の大規模な塗装ブースを使って、一丁一丁塗装を施したという。こちらは3,780円だったが、飛ぶように売れ、今ではユーザー間でプレミア価格がついているという。

【髙木型弐〇壱九年式爆水拳銃 豪華ブラック】
サン・ク・アールが塗装した「豪華ブラック」。500台限定だったが飛ぶように売れ、今ではプレミアム価格になっているとのこと

 この好評が、アルゴ舎に「リアルな外見の水鉄砲」という新しいビジネスをスタートさせることとなるのだ。次ページではアルゴ舎のリアルな水鉄砲の発展、そして今回発売される「髙木型弐〇一九年式爆水拳銃 Vol.2.0」を紹介していきたい。