特別企画

京商エッグ「リビングトレイン」を前に新幹線に想いを馳せる

JR東日本が手がけた7番目のモデルE7系、「リビングトレイン 北陸新幹線 E7系」

 東京駅から北へ向かう新幹線は、東北新幹線、秋田新幹線、山形新幹線、上越新幹線、北陸新幹線と多岐にわたる。これら「東北新幹線系統」は東海道新幹線と異なる進化を遂げた。初代200系こそ0系、100系のデザインを踏襲したけれども、国鉄分割民営化、JRグループの発足によって文化が異なった。それぞれ路線の性格が異なるからだ。東海道新幹線は少品種大量生産、東北新幹線系統は多品種少量生産だ。

 E7系は北陸新幹線の長野~金沢間延伸開業に向けて2013年から製造された。「E7」はJR東日本が手がけた7番目のモデル。「E1系」と「E4系」は二階建て新幹線、「E2系」は200系に変わる標準型。「E3系」と「E6系」はミニ新幹線用、「E5系」は東北・北海道新幹線向けの最速車両だ。E7系は上越新幹線にも投入されており、「E2系」の標準型の役目を引き継いでいる。

【北陸新幹線 E7系】
E7系、北陸新幹線開業前試乗会での撮影
こちらも同じ試乗会での撮影。E7系とE2系(奥)
【北陸新幹線 W7系】
W7系はE7と同形車両だが、シンボルマークなど違いがある。W7はJR西日本、E7は東日本の車両となる。撮影したのは同じく北陸新幹線開業前試乗会の時のもの

 E7系の先頭車両は「鼻」が短くボリューム感がある。「E5系」「E6系」のようなスピード感を過度に強調しない。東京~長野間の「あさま」で使われる「E2系」のような安定感がある。ただし塗装は派手だ。車体色は真白なアイボリーホワイト。上面は藍色に近い空色、帯は金色だ。北陸の伝統文化をイメージしたという。E7系、E6系、E5系は屋根の色でわかるから楽しい。模型向きの車両かもしれない。日暮里駅付近に線路を見渡す歩道があり、子どもたちの人気スポットになっている。

 北陸新幹線は上越妙高駅を境に西側がJR西日本管轄となる。そこでJR西日本も車両を製造した。仕様はまったく同じ。形式名はW7系となった。JR東日本のEastに対してJR西日本のWestだ。それを踏まえて、新幹線好きなら注目してほしいポイントがある。運転席だ。従来の東北新幹線系統に無かったキャノピー風のコクピットデザイン。これは「500系」を踏襲している。東海道新幹線に向けてJR西日本が独自に開発した車両のそれだ。「E7系・W7系」の「カッコ良さ」はここに集約されている。

【リビングトレイン 北陸新幹線 E7系】
上から見ても空色と金色が映える。雅にも見えるし、スニーカーのようにスポーティでもある
運転席は戦闘機のコクピットを思わせる。500系車両のDNAだ

 「E7系・W7系」のカッコ良さの理由のひとつは、工業デザイナーの奥山清行氏が関わったことだ。イタリアのデザイン会社ピニンファリーナ出身。ピニンファリーナはフェラーリやマセラティ、プジョーなどの高級スポーツカーのデザインを手がける会社で、奥山氏はフェラーリの創業55周年記念車「エンツォフェラーリ」を主管。フェラーリの歴史の中で、初めてイタリア人以外のデザイナーとなった。奥山氏は「ケン・オクヤマ」として海外でも活躍中だ。その奥山氏が500系のキャノピーを採用してくれた。新幹線ファンの心をガッチリ掴んだ。

 リビングトレインのE7系は、コクピットを含めて上から眺めて楽しみたい。そばで晩酌をするなら北陸の銘酒とともに。いや、長野県産のワインもいい。千曲川沿岸で醸造所が増えている。

シンボルマークは「輝く未来に向かって突き進む」イメージ。上越新幹線用はこれとは別で、ピンクの帯に「稲穂と朱鷺」のイメージになった
従来の東北新幹線系統に無かったキャノピー風のコクピットデザイン

ライバルは航空機、最高速度320キロのE5系、「リビングトレイン 東北新幹線 E5系」

 JR東日本は東北新幹線で時速360キロ、世界最速の新幹線を目ざしている。東北新幹線の盛岡~新青森延伸開業と、その先の北海道新幹線開業を見据えれば、ライバルが航空機になるからだ。まずはE2系を改造して実験し、最高時速360キロ達成した。しかし、乗り心地や走行安定性などの課題が多く、次の段階で高速運転用試験車「E954型」、愛称「FASTECH 360 S」を製造して実験を重ねた。設計最高時速405キロ、運転最高速度360キロという性能だ。

【東北新幹線 E5系】
E5系、完成披露報道公開にて筆者が撮影した写真

 試験を重ねた結果、速度と営業コスト、乗り心地など総合的に判断して、最高運転速度は時速320キロが妥当と判断される。そこで製造された新形式が「E5系」だ。奇抜な先頭車形状は「ダブルカスプ型」。「FASTECH 360 S」で作られた2種類の先頭車のうち「アローライン」がベースとなっている。斬新に見える形だけれど、2代目2階建て新幹線「E4系」を進化させたようでもある。空力、トンネル突入時の気圧変化軽減効果がある。同じ目的でもN700Sとは違う形になった理由は、降雪時の接雪防止効果があるかもしれない。

 E5系の先頭車両は、運転席から先頭部までの鼻が長く、客席数が少ない。前部乗降扉付近まで屋根が傾斜している。これはN700系と同じコンセプトだ。航空旅客機はどのメーカーも先端部がほぼ同じデザイン。それに対して世界の高速鉄道は先端部の形がそれぞれ。鉄道用車両の空力科学は、まだ進化し続けて、正解に達していないかもしれない。

 リビングトレインでは、この先頭形状のデフォルメが強く、屋根の傾斜が客室上部までかかっている。車体長を短くすれば鋭角デザインが崩れるから、これは正解だと思う。4両編成時に馴染む形といえる。そしてE7系と同様、上から見るとカッコいい。車端部の黄色いペイントは、屋根上を歩いて点検する作業員に端を示す警告色だ。鉄道車両の「安全の配慮」を見つけられて嬉しい。

【リビングトレイン 東北新幹線 E5系】
製品の緑色は光沢があり実車の雰囲気に近い。この緑色だけを見ると鼻先の丸みが強調されて愛嬌を感じる。
屋根の端に黄色のペイント。上から見ないと判らない部分だ

 色と言えば、全体的な塗装も斬新だ。上部の緑は「常盤グリーン」とするオリジナルカラー。JR東日本のコーポレートカラーを元にした分光性塗料で、光の当たり方によって色の深みが変化する。下部は「飛雲ホワイト」と呼ぶ白。帯色はピンクで「はやてピンク」と呼ぶ。「はやて」は「はやぶさ」登場前の東北新幹線の最速列車だ。「はやて」はE2系で運行されており、その車体の帯色を継承している。

 なお、北海道新幹線開業時にJR北海道も同じ仕様の「H5系」を製造した。こちらは帯色が「彩香パープル」と呼ばれる紫色だ。ハスカップやラベンダーの花のイメージ。E7系・W7系は外観が同じ。E5系・H5系は帯色違い。どちらも運用は共通だ。

 E5系は2011年に誕生した最速列車「はやぶさ」用に投入された。近年は増備が進み、東北新幹線の標準車両となりつつある。E5系を窓辺に置き、北への旅に思いを馳せよう。合わせる酒はやはり日本酒、東北の地酒だろう。

先頭車全体で空気抵抗に対応する。鼻の長さを強調したデフォルメだけどカッコいい
E5系の先頭車両は、運転席から先頭部までの鼻が長く、客席数が少ない

 筆者にとって、リビングトレインは「鉄道模型」とは言えない。精密に車両を再現する鉄道模型と較べると、車両は短くデフォルメされている。この玩具感は「気軽に付き合える要素」になった。4両編成のユニットも玩具感を持たせつつ「編成美」を感じられる。先頭車から後尾車へ、屋根の高さや側面の幅がスーッと揃う。ライン塗装も通って美しい。

 Nゲージ鉄道模型は精巧だけど、プラスチック製だから気軽に扱えない。置物にしたって脱線したり、倒したりするとヒヤッとする。その点、金属製のリビングトレインは頑丈で頼もしい。ハタキで叩いたり、掃除機で埃を吸ったり、布でゴシゴシ拭いてもいい。「多少雑に扱っても壊れない」は、部屋に飾るモノ、そして玩具に必要な性能だ。

【4両を並べてみる】
4つの「リビングトレイン」を並べてみた。リビングトレインだからできる豪華な風景だ

 筆者はNゲージ鉄道模型も好きだし、プラレールも好き。もちろん実物も好きだ。でも、鉄道模型を見ればジオラマを作りたくなってしまう。プラレールも部屋中にレールを敷きたくなる。楽しいけれども、模型を見れば模型を楽しみたくなり、プラレールを見ればプラレールを楽しみたくなる。実物への興味、旅へ繋がる方向に気持ちが行きにくい。

 リビングトレインの良さは、金属の質感と光沢が実物を連想させるところだ。視野の片隅にいつも新幹線があって、乗りたい気持ち、乗った思い出が感性を動かす。その意味で、リビングトレインは「乗り鉄」向けの玩具だと思う。乗車した思い出を再生するスイッチとして、リビングトレインを見て、触って、感じてほしい。