特別企画

京商エッグ「リビングトレイン」を前に新幹線に想いを馳せる

手元の小さな車両から浮かび上がる各新幹線のエピソード

【リビングトレイン】

2021年10月9日発売

価格:3,850円(税込)

全長:約400mm

重量:約250g

 筆者が「リビングトレイン」シリーズを、その名の通りリビングの窓辺に並べて、もうすぐ1年になる。当時、最初の販売ルートはコンビニエンスストアだった。「コンビニで新幹線のディスプレイモデルを買える」というだけで面白くて、発売日に買った。カゴの中に「お弁当、フライドチキン、ウーロン茶、柿ピー、新幹線0系車両」を入れた。面白いなあ。それだけでワクワクした。

 窓辺に飾ると、小さいながらに存在感がある。きっと金属製の質感のせいだと思ったけれど、しばらく眺めているうちに、違った感情が生まれた。0系新幹線を見ているけれども、リビングトレインを通じて思い出を見ていた。

 あるときは初めて乗った日が見えた。小学生の僕は祖父と母、叔母、いとこと東京から熱海まで0系のこだまに乗った。目的地は新島の民宿だった。船に乗ったことも含めて、ほかの乗り物は覚えていない。新幹線に乗ったことが嬉しかった。それと、民宿で初めて飲んだ森永ネクターの甘さ。夜中に出てきた大きな蜘蛛。

 あるときは映画『新幹線大爆破』を思い出した。1975年の映画で、新幹線好きなら知る人ぞ知る作品だ。高倉健さんが犯人役。新幹線に爆弾を仕掛けて身代金を要求する。その爆弾は時速80キロ以上で作動し、再び時速80キロ以下になると爆発する。新幹線司令室と犯人の交渉が続くなか、鉄橋の下から列車を高速度撮影すると、爆弾らしき箱が見つかる。

 実はこの映画、当然ながら当時の国鉄の協力は得られず、走行場面が隠しカメラと模型撮影になっている。リビングトレインの車両を持ち上げてひっくり返したときに、映画の緊迫したシーンが脳裏に浮かんだ。

「リビングトレイン」を並べると、新幹線へ様々な想いが浮かぶ、今回はモチーフとなった新幹線を掘り下げていこう

 身の回りに新幹線車両の立体物がある。金属の光沢がある。重さを感じる。それが触媒になって、見る者の記憶を引き出してくれる。それがリビングトレインの秘めたる力かもしれない。「N700S」も「E7系」も「E5系」も同じ。さまざまな記憶が現れては消えていき、心が落ち着く。何かを飾るとはなにか。その意味がわかった気がする。

 今回「リビングトレイン」の魅力を紹介するにあたり、筆者が撮影した新幹線の写真と共に、モチーフとなった車両への想いを語っていきたい。各新幹線のイメージが明確になることで、それらを再現した「リビングトレイン」の製品自体の魅力も深掘りできると思う。なお、HOBBY Watchでは「リビングトレイン」を前回も取り上げている。こちらは手に持った感触や、動力パーツを使った演出など製品の機能を中心に紹介しているので、併せて読んで欲しい。

23年間にわたって製造された新幹線0系、「リビングトレイン 東海道新幹線0系」

 初代東海道新幹線の0系電車。登場時は誰も「0系」とは呼ばなかった。東北新幹線向けの「200系」が登場し、すこしおくれて東海道新幹線も「100系」が誕生した。開発着手順に100系、200系ときて「あれ、じゃあ今までのアイツは何と呼ぶ?」となったときに、「0系」と呼ばれ始めた。形式を示す百の位の数字が無かったからだ。

 最高運転速度210キロ。航空機を思わせるダンゴ鼻。当時の国鉄に無かった白地に青の洗練された姿は、タバコの「ハイライト」にヒントを得たという。日本の鉄道技術の象徴、高度経済成長のシンボルとしても認められただけに、とにかく注目され、逸話も多い。

【0系新幹線】
0系新幹線。こちらは「リビングトレイン」公式ページの写真

 開業初日に山手線の電車に抜かれたという話。上り1番列車の運転士が頑張ってスピードを出し、所定の時刻より早く東京駅に着きそうになった。東京駅では予定の到着時刻に合わせて式典を準備しており、早く着きすぎてはいけない。だから品川あたりからノロノロ運転した。そこで山手線に抜かれてしまう。

 先進国でマイカーや民間航空が普及し始めており「鉄道は遅い、斜陽だ」などと囁かれた頃に、0系電車は時速210キロでぶっ飛ばして見せた。フランスを始め、世界の国鉄が驚愕し、鉄道を見直して高速鉄道に着手する。0系は世界の鉄道史を変えた。

 その功績を称えて、イギリス国立鉄道博物館で0系電車の先頭車が展示されている。1編成につき先頭車は2台ある。もう片方はどこかといえば、愛媛県西条市の「四国鉄道文化館」にある。新幹線計画を推進した国鉄総裁、十河信二ゆかりの地だ。

 0系電車は23年間にわたって3216両も製造された。首都圏の通勤電車並みの大所帯だ。その理由は東海道新幹線の需要に応え続けたから。運行開始時は1編成6両、運行本数は1時間に「ひかり」「こだま」1往復ずつ。しかし利用者は増え続け、運行本数も車両数も増え続けた。また、山陽新幹線開通でも大量に製造した。

【リビングトレイン 東海道新幹線0系】
「ダンゴ鼻」の愛称が付いた先端部。運転席は平面ガラス。スカートの先にちゃんと排障器があって、現実味を盛り上げる
客席の大窓は初代0系だけ採用された

 東海道新幹線車両の寿命は12年から15年程度。鉄道では旧型車両と置き換えに新型車両が登場する事例が多いけれども、東海道新幹線の場合は次世代車両「100系」の開発遅れもあって、引退する0系と新造される0系が交替するという珍事も起きている。

 23年も作り続けると、さすがにマイナーチェンジが行なわれる。0系は38世代にわたって改良が続けられた。リビングトレインの0系は初期型をモチーフとしている。大型窓が特徴で、1975年まで製造された。以降は各座席にひとつという現在のスタイルとなった。

 0系新幹線には食堂車があった。酒の種類も豊富で、ビール、清酒、ウイスキー、ワインが揃っていた。リビングトレインのなかで、もっとも晩酌に合う車両は0系だ。

高倉健さんが演じた爆弾魔が仕掛けたところ……はなかった。車輪はフランジ(凸部)があるけれど絶縁されていないので、電動タイプのNゲージのレールに乗せてはいけない
航空機を思わせるダンゴ鼻。当時の国鉄になかった白地に青の洗練された姿
水槽の上に置いてみた

東海道・山陽新幹線の最新型車両N700S、「リビングトレイン 東海道新幹線N700S」

 2022年現在、N700Sは東海道・山陽新幹線の最新型車両だ。リビングに0系とN700Sを並べれば新幹線の進化を比較できる。N700Sの運行開始は2020年。0系の東海道新幹線の引退は1999年4年だったから、実際に両形式が並ぶことはなかった。実現するとすれば、遠い将来にN700Sが引退し、名古屋の「リニア・鉄道館」で展示されるときだろう。それまではリビングトレインで並べて楽しもう。

【東海道新幹線N700S】
N700S、2018年の浜松工場で公開イベントの時の撮影

 0系からN700Sはどのような進化を遂げただろう。0系の次の100系は、先頭車に鋭角的な顔つきを与え、中間に2階建て車両を組み込んだ。食堂車は1階が調理室、2階が客席。グリーン車は1階が個室、2階が座席。華やかな車両として人気があった。次の300系の先頭車は弾丸のような形状で運転席窓とヘッドラットが横一文字。最高速度を時速270キロに引き上げ、「のぞみ」を誕生させた。

 500系は戦闘機のような鋭角的なフォルム。グレーとブルーの塗色で断面積もひとまわり小さい。スピード感を体現した。この車両はJR西日本が単独で生産し、山陽新幹線で時速300キロを達成した。

 1999年に誕生した700系から、N700Sに繋がる新幹線の新時代となる。700系は東海道新幹線で最高時速270キロ、山陽新幹線を最高時速285キロで走る。しかし先頭車は曲線を使い、スピード感は薄まった。公式にはエアロストリーム型、愛称はカモノハシ。この形は、トンネル突入時の気圧差を和らげるためで、スピードアップには欠かせない。感覚的にはスピード感が無いように見えて、科学的にはスピードアップに貢献する。新幹線の先頭車デザインを語る上で興味深い事例となった。

【リビングトレイン 東海道新幹線N700S】
N700Sの先端部。エッジを効かせたシャープな姿。
車体傾斜システムを搭載したため車体側面が台形に近くなった。傾斜時に線路上の機器に接触しないようにという配慮だ

 2007年に700系の進化型、N700系が登場する。東海道新幹線で時速285キロ、山陽新幹線で時速300キロ。東海道新幹線はすべての車両がN700系以降になった時点で「のぞみ12本ダイヤ」という過密運行を実現した。先頭車両はカモノハシを継承しつつ、屋根の角から先頭中央までエッジを効かせたラインができた。空力的にも進化し、感覚的なスピード感を取り戻した。N700系のマイナーチェンジ版がN700Aだ。主に動力系統の改良で先頭車の形は同じ。側面のステッカーで区別できた。

 N700Sを語るために、これだけの系譜が必要だ。0系、100系、300系、500系、700系と進化し、次は900系にならなかった。鉄道車両で9が付く系統は試験車など業務用だ。黄色い新幹線で人気のドクターイエローが使っている。ならば1000系か、1100系か、となりそうだけど、JR東海は「700」にこだわった。700は東海道新幹線の新時代のブランドだ。その最高峰として、N700Sの側面ロゴは金色が採用された。

 N700Sの先頭車はデュアル・スプリーム・ウィング型と呼ばれる。中央のエッジ部は高くなり、左右にもエッジを効かせた。もはやカモノハシの面影はなく、動物には例えられない。ヘッドライトの面積が少し大きくなり、日産フェアレディZを連想させる。このライトは新幹線車両として初めてLEDが採用された。駅で列車を待っていると、真っ白な光でN700Sだと判る。

 新幹線のライトは前方を照射する機能というより、先頭が白、後尾が赤を示す標識に過ぎない。時速200キロを超えると前方照射で危険を認識してもブレーキが間に合わない。だからこそ線路状態の安全管理と監視が重要だ。新幹線は車両だけで速くなったわけではない。保線、信号、設備を含めた総合力でスピードアップしてきた。

屋根の後端が高くなり、中間車と同じ高さになる。製品ではこの表現はシールだが、ロゴはちゃんと金色だ
N700Sの先頭車はデュアル・スプリーム・ウィング型と呼ばれる。中央のエッジ部は高くなり、左右にもエッジを効かせた

 先頭車の尖端だけではなく、後部も注目してほしい。客席から後部ドアのあたりで屋根が高くなっている。これはN700系以降の仕様で、空力対策のひとつ。つまり、先頭車全体でひとつの流線型となっている。16両編成、時速300キロにかかる空気圧と闘う車両だ。

 新幹線に乗ると、昼でも夜でもビールを飲む人が多い。飲めない私は駅弁になるけれど、食事時ではなくても駅弁を食べたくなる。N700Sの思い出はビールと駅弁かもしれない。リビングトレインのN700Sを見つめ続けるとお腹が空くかも。

 次ページでも「リビングトレイン」のモチーフ元となった新幹線をエピソードと共に語っていきたい。「北陸新幹線 E7系」と、「東北新幹線 E5系」だ。