特集

最短1時間で決着するボードゲーム! 「スピアヘッド」から「ウォーハンマーAoS」を始めよう【夏休み特集】

【ウォーハンマーAoS:スピアヘッド】

7月13日 ルール公開

 みなさんはボードゲームは遊んでいるだろうか。夏休みともなると、友人やコミュニティーの仲間たちと共に何時間も話しながら遊んだり、実際に集まって遊ぶこともあると思う。筆者はここ1年ほど、毎週のようにオンラインでTRPGのセッションをしたり、月に1回はボードゲームを友人と遊んでいる。

 そのボードゲームが「ウォーハンマー:エイジ・オヴ・シグマー」(ウォーハンマーAoS)だ。英国ゲームズワークショップが開発、製造するプラモデルを組み立て、必要ならば塗装し、ハイファンタジーをベースとした世界観を知り、実際に組み立てたプラモデルを動かしながらダイスを振って遊ぶゲームで、7月13日にルールが大幅に改訂された。

 ルール改訂によって、「スピアヘッド」という、いわゆる「構築済みスターターデッキ」を使って遊ぶミニマムなゲームシステムが追加された。「スピアヘッド」のプラモデルセット自体は20,000円前後で購入でき、プラモデル用ニッパーと接着剤があれば組み立てられる。ここに2人用ゲームセット「炎と翡翠ゲームパック」が9,400円。これらと6面ダイス10個程度を購入すればゲームは始められる。塗装も楽しみたいなら必要な分の筆と、塗料5~6色を購入して合計5,000円程度になる。

これは新ルール記念ボックス「スケイヴンタイド」で、価格は37,500円。だが合計100,000円相当のセットが入っている。在庫限りで日本語版も販売中

 大箱のボードゲームを何個も購入したボードゲーマーからしても、この「ウォーハンマー」という趣味は高価に見える。ただ、それ以上にコスパがいい。「スピアヘッド」でしか遊ばないならばプラモデル代はそのままカードゲームでいうデッキ1つを購入しただけだが、「AoS」本編の軍勢を編成するためのデッキパーツとして見ると合計1万円超の割引がされていたり、設定などを記した「コアブック」(10,000円)はそれだけで1週間は読み込めるほど濃厚な設定が書き込まれている。

 また塗料であるシタデルカラーは12ml瓶(大きなものは18ml)で販売されていて1本540円、980円などと高価だが、筆者が1年間バリバリ塗装してやっと1瓶使い切るくらい物持ちがいい。水性エマルジョン系塗料なのでにおいもなく、水で薄められ、丁寧に塗れば発色もいいので様々な塗装に使えるのも魅力だ。塗りおえたプラモデルはカッコよく見栄えがするので、飾っておくと目の保養になる。

 「でもやっぱり高いよね?」と思うのも無理はない。だが「コアブック」と「炎と翡翠ゲームパック」の合計19,400円に、拡張パックとして存在する「スピアヘッド」20,000円前後とみるとどうだろう。

 「スピアヘッド」は10種類以上あり、それぞれが特徴的な能力とステータスを持っている。造形も人間、超人戦士、森エルフ、水エルフ、ハイエルフ、空飛ぶドワーフ、火山ドワーフ、悪魔に魔神とその眷属、ゾンビ、吸血鬼、怨霊、巨人、筋骨隆々のオークと様々で、さらに今後設定資料集の改訂と同時に新たな「スピアヘッド」の発売も予想される。その場合現行の「スピアヘッド」は終売となるはずだ。

 ゲームが遊べないと意味がない! ならば、各地の直営店ウォーハンマーストアや公認販売店を訪ねるといいだろう。ゲームスペースを用意している所も多く、地域のコミュニティーも存在するため、Xなどで探してみるとよい。私たちウォーハンマーを遊ぶ趣味人は、おおよそ日本中どこでもあなたを歓迎する。

 筆者がここまでゲームに誘う理由は「体感としてAoSユーザーが少ないから」というのに尽きる。「ウォーハンマー」にはSFベースの「ウォーハンマー40K」があるが、こちらの方がかなり存在感がある。ただ、「スピアヘッド」の登場によって状況は変わった。とんでもなく遊びやすいのだ。「スピアヘッド」は1時間~長くても2時間で決着が付くが、一方的な結末にはほとんどならない。状況に応じて勝利点を稼ぐか強力なアビリティを発動するかを選べるカードの存在や、倒れたモデルが戦線に復帰するルールがあることが大きい。10個、20個という大量のダイスの目に左右されるハラハラ感はなかなか味わえないものがある。

これは「ストームキャスト・エターナル」と「スケイヴン」の戦闘シーン。「スケイヴン」の歩兵「クランラット」は倒れたモデルが復活する能力を持っているので、体格差で負けそうに見えるが拠点を制圧し「ストームキャスト・エターナル」を押しとどめている

 前置きは長くなったが、今回はみなさんを「ウォーハンマー:エイジ・オヴ・シグマー」と「スピアヘッド」の世界へ誘いたいと思う。夏休みの時間があるときに、ガッツリと組み立てて遊び始めるのがおすすめだ。気になったらお近くの公認販売店や、ウォーハンマーストアを訪ねてほしい。

プラモデルを組み立てる

 ではまずプラモデルを組み立てて、その造形を見てみよう。今回は7月13日に発売した「AoS」新ルール開始を記念したボックス「スケイヴンタイド」で収録された不滅の超人戦士「ストームキャスト・エターナル」と地下に住まう鼠人の群れ「スケイヴン」を組み立てる。新ルール記念ボックスや、8月10日に発売予定の「アルティメットスターターセット」に同梱されるプラモデルは全てプッシュフィットで組み立てやすいが、ほとんどの「ウォーハンマー」プラモデルは接着剤を使うので買っておくとよい。製品によってレジンキャストのものもあるが、その場合は「アロンアルフア」などの瞬間接着剤を使う。

「ストームキャスト・エターナル」の歩兵「リベレイター」のランナー
造形が精巧で、パーツだけ見るとどこがどう組み合わさるのか分からないアクロバティックさもある
「クランラット」のランナー。これだけで20体が完成する
「クロウロード(ノウビースト騎乗)」のランナー。強力なハンドガンと槍で武装し、猛り狂う獣に乗った「スケイヴン」の英雄

 モデルは大体がプラモデルで、ランナーから切り出す必要がある。その後気になるゲート(パーツとランナーをつなぐ部分)をデザインナイフなどで切り落としておくと、組み立て時に不要な凹凸がなくなって見栄えが良くなる。筆者はパーツの切り出しにコトブキヤ「コトブキニッパー」、ゲートを整えるのにタミヤ「モデラーズナイフPRO」を使っている。

「リベレイター」の1体を切り出したもの
アクロバティックな組み立て
完成した「リベレイター」の別の1体
こちらは「ノウビースト」の組み立て。大きなパーツだというのに1~2個のピンしか接続しない豪快さ
というのも、造形の凹凸が組み合わさることで1つのピンしかなくてもきっちりハマるようになっているからだ
「クロウロード(ノウビースト騎乗)」の姿

 組み立ては1~5体で1ユニットのモデルならば1時間ほどで終わったが、「クランラット」は数が多すぎて20体3時間ほど掛かった。モデルの中には違った造形のパーツを組み込むことで、ゲーム中に攻撃回数が増えたり、拠点を制圧しやすくなったり、モデルを復活させる力を強化するものがある他、ただの装飾としても魅力的なパーツ違いが存在する。組み立てていて悩むところだ。

 これらを「スピアヘッド」の種類によって20体(モデル単位)前後組み立てれば、「スピアヘッド」を遊ぶ準備は完了だ。「炎と翡翠ゲームパック」を購入した場合、同梱されているテレイン(情景モデル)も組み立てておく。

「ストームキャスト・エターナル」の「スピアヘッド」。11体のモデルで4つのユニットを構成する
「スケイヴン」の「スピアヘッド」。28体のモデルで5つのユニット
テレイン(情景モデル)の組み立て
テレインが完成。これもゲームで使用する

カッコよく塗装する

 「ウォーハンマー」を遊ぶファンたちは、組み立ててゲームを遊ぶ他にもモデルをペイントして遊ぶことも好きだ。モデルの造形が筆塗りやシタデルカラーを使用したペイントに特化するように凹凸が多いので、立体塗り絵のように塗り進められるのが魅力といえる。

 シタデルカラーを使用したペイントでは、筆者は大まかに「スプレー」、隠蔽力の高い「ベース」、凹凸に応じて流れ込み色味をワントーン落とす「シェード」、ハイライトを加える「レイヤー」、ベースに砂利や泥、芝を足す「ベースデコレート」と進めている。どれもゲームズワークショップが販売しているので、必要なだけ買いそろえよう。なお以下で示す作例はあくまで一例で、どんな色を塗ってもいい。

まず「ケイオスブラック」のスプレーを吹く。ベランダの壁に新聞紙を貼って行なっている
銀色の下地として濃紺「ナイトロード・ブルー」を塗る
盾に「サウザンドサン・ブルー」と「テンプルガード・ブルー」をドライブラシ。専用の筆か使い古した筆を用意し、キッチンペーパーなどにゴシゴシとこすりつけてから塗りたい面をこする
金色と茶色の下地に赤色「メフィストン・レッド」を塗る
金色「リトリビューター・アーマー」を塗る。赤色を下地に使うことで高級感が増す
ラメラーアーマー部分に「レッドベルチャー」、主な鎧部分に「グレイナイト・スティール」を塗る。青色を下地にすると寒色が追加され高貴さが上がる
盾の装飾に「ホワイトスカー」を塗る。発色が弱いカラーなので何度か重ね塗りする
盾の徽章部分に褐色「ラカルス・フレッシュ」を塗る
革部分に焦げ茶「ライノックス・ハイド」を塗る
肩パッド部分にターコイズブルー「サウザンドサン・ブルー」を塗る
赤い房を炎のように塗りたかったので、中心から先にかけて「ドルン・イエロー」、「ワイルドライダーズ・レッド」、「イーヴィルサンズ・スカーレット」、「メフィストン・レッド」、「ライノックス・ハイド」を塗り、炎を表現する
金色部分に「ライクランド・フレッシュシェード」、銀色部分に「ドラケンホフ・ナイトシェード」を塗る。これはフィルタリングに使うシェードカラーで、モデルの色味を1段階切り替えられる
ベースデコレートを行う。砂利「アストログラナイト」を盛り付ける。ベースデコレート用の塗料はペースト状になっており、粒子が含まれているため筆ではなくスクレーパーやヘラを使うとよい
ベースのふちを「サウザンドサン・ブルー」で塗る。これは筆者の趣味。
「リベレイター」のチャンピオン(リーダー)が完成
後ろ姿
5体気合いを入れて塗り込んだもの
同じ要領で「スピアヘッド」に含まれる英雄ユニット「ロード・ヴェリタント」を塗ったもの
後ろ姿
炎の表現

 初めのうちはペイントも大変な作業なので、ゆっくりでいい。いきなり「スピアヘッド」1つを丸々完全に塗ろうとすると息切れするので、ゲームをしながら2カ月くらいをかける気持ちで少しずつ完成へ近づけていくと、週末の趣味をこなしつつ楽しめる。今回のゲームでこのユニットが活躍したから、もっと塗り込むといった指針を持っている人もいる。ペイントの際、スプレー以外の塗料は有機溶剤を使用しないためにおいがなく、筆者は食卓にペイントツールを広げて家族と話しながら塗ることもある。

 筆者は学生の頃からアクリルガッシュを使って絵を描くことがあり、それと同じ要領で水で溶き、混色して遊んでいたが、シタデルカラーはこれに感覚が似ている。大量の色が専用の名前で用意されているので始めは混乱するが、塗ったときの色は瓶から見える色とほとんど同じなので、これを見ながら塗りたい色を揃えていく。

 ちなみにシタデルカラーには塗料の種類によって特徴があり、おおまかに「BASE」は彩度がワントーン落ちているが隠蔽力が高く、発色もいい。「LAYER」は発色力には劣るが彩度が高く、ベースカラーの上に塗ると鮮やかな色を作れる。「SHADE」はウォッシング塗料で、既に塗った色の上にかけることで色味づけを行なえる。この他に「CONTRAST」は水彩塗料のような使い方ができ、白い部分を染めるように色づけられる。この特徴から、黒地のスプレーの上からドライブラシで白や灰色でトーンを作り、コントラストカラーで染めるといった塗り方もある。CONTRASTを使う方法を「コントラストメソッド」というのに対して、ベース、レイヤー、シェードカラーなどで仕上げる方法を「クラシックメソッド」という。

 筆者はクラシックメソッドから始め、一時期簡単にペイントできるコントラストメソッドにハマっていたが、自分の表現方法に合っていたと感じてクラシックメソッドに戻っている。だが必要に応じてコントラストカラーも使用するため、やはり自分に合ったやり方が見つかればそれでよいと思う。

これは別の陣営「マゴットキン・オヴ・ナーグル」のスピアヘッド。全てを塗るのに1カ月はかかっている

ゲームを遊ぶ

 ペイントし終わっていなくても、ゲームは遊んでいい。組み立ててすぐのプラモデル状態でも、スプレーを吹いたままでもいい。「ウォーハンマー」はペイントと組み立てを楽しめるプラモデルであるだけでなく、ボードゲームのコマだからだ。実際、今回一緒に遊んでくれた友人は組み立てたままの状態で持ってきている。

今回最初に遊んだスピアヘッド、「ストームキャスト・エターナル」(左)と「ナイトホーント」(右)

 ゲームルールは公式ページから無料で日本語版をダウンロードできる。判定には6面ダイスを使用し、同じステータスの武器による攻撃や防御などはまとめて判定してよいため、1度に10個~20個ほどのダイスを振ることが多い。そのためウォーハンマーストアなどでは12mm立方の小さなダイスを20個セットで販売している。これを使ってもいいし、新たな資料集やルールの公開に伴って16mmダイスのセットを販売することもある。これは6の目が専用の紋章になっていたり、カラーリングが陣営ごとに特徴付けられたもののため、コレクション性が高いのが特徴だ。

 ダイスを振るのはゲームボード上でもいいが、可能ならばダイストレイを用意したい。トレイはAmazonで1000円もせず購入できるし、ボードゲームショップなどでも売っていることが多い。また距離を測るためのインチメジャーも必要になる。

ダイストレイとインチメジャー。インチメジャーはウォーハンマー公式のもので、1,540円

 ゲームの流れは「指揮と魔法の詠唱」、「移動」、「遠隔攻撃」、「突撃」、「接近戦」、「ターン終了時の行動」と移る。この流れを自分、相手とターンを繰り返し、「スピアヘッド」では4回目の両者のターンが経過するとゲームが終了する。

 移動はインチメジャーを使って、モデルを1個ずつ実際に動かして行なう。これは様々なウォーゲームでも採られている手法だが、自分が組み立て、塗ったモデルが戦場を闊歩するさまはなかなか見ていて面白い。

 遠隔攻撃は、行うモデルと対象のモデルの間に直線を引いて何も遮るものがなければ「射線が通っている」として考えられ、攻撃できるようになる。このとき、味方や敵ユニットを挟んで先のユニットへの攻撃はできないため、弓兵のようなユニットは別の場所に置いておくことが必要となる。なお同じユニット内のモデル同士を通して射線を引く際は関係ない、とルールに記されている。

 そこから敵に突撃する。突撃はダイスを振って移動距離を決定し、敵ユニットに取りつける状態にできるなら突撃が成功する。そこから接近戦を行う。接近戦は味方ユニット、敵ユニットの順番に交互に繰り返す。

突撃が成功しなければ接近戦は原則行えない。敵の3インチ以内に通常の移動で入ってはいけないからだ
接近戦を行って歩兵を倒した英雄。減った体力は10面ダイス、12面ダイスなどの他、専用のカウンターを使って表現することもある

 さて、「ウォーハンマーAoS」で重視されているのは「魔法」と「接近戦」だ。ルールにもそれが現れており、ハイファンタジーの世界で剣と魔法を駆使して接近戦を戦い抜くのがメインで、射撃攻撃も存在するが接近戦を補助する意味合いが強い。またゲームボード上に置かれた「目標マーカー」を争奪して勝利点を獲得するのがメインの遊び方となるが、これを奪うときはほぼ必ず接近戦に持ち込まれる。

 そう、「目標マーカー」を争奪するのが主目標であって、ただ相手のユニットを倒すだけではないのが面白い。ユニットにはモデルごとに「確保力」というステータスがあり、マーカー周囲にいるモデルの確保力の合計が相手の合計を上回ればその目標は自分が確保となる。つまり小さい確保力1のモデルを大量に並べてマーカーを埋め尽くしたり、敵陣側に押し込んだ状態で陣取って耐えきればよい。また戦場のあらゆる場所から相手の近くへユニットを移動させたり、召喚する戦術もあるので、いわゆる「お留守番」としてのユニットも大事になってくる。

マーカーを守っていたが取り囲まれた味方の歩兵。相手の「ナイトホーント」は飛行能力を持っているため、突撃時に回り込むことが可能だ

 そうして「ファンタジー要素を加えた中世スタイルの野戦」を演じるのが「ウォーハンマーAoS」の醍醐味だ。所々に火薬やSF的な要素もあるが、基本的には剣と魔法、人間とエルフとドワーフ、魔神とその眷属といったハイファンタジーの世界観で遊ぶのは面白い。

 「スピアヘッド」でいえば、どんなルールなのかを確認しながらでも2時間程度、慣れれば1時間と少しで1戦が終わるのも手軽に思えた。ゲームボードのサイズは約762×568mmで、大きめのちゃぶ台があれば十分に遊べる。家でもゲームスペースでも、すぐ展開して遊べるのが持ち味といえる。

 筆者が思い描いているのは、この「スピアヘッド」を起点に本編へ向かってコレクションを増やしたり、ゲームを遊んだり、ペイントをするファンが増えることだ。特に「ウォーハンマー」の造形を気に入って、ペイントする人口が増えてくれるとうれしい。貴重な夏休みの余暇を、ボードゲームに熱中して楽しんでみるのはいかがだろう。

【戦場写真】
また場面は変わり腐れた魔神「マゴットキン・オヴ・ナーグル」とドワーフ「ファイアスレイヤー」との戦い。歩兵の魔神が上司に引き連れられ、敵を攻撃した回数や病原菌の数を数えさせられている
スレイヤーの歩兵に取り囲まれるナーグルの歩兵。不利な状況に見えるが……
近寄ってきたスレイヤーを薙ぎ倒し、さらに魔神の援軍も来たことで中央の目標を完全確保
しかし戦場全体で見てみると劣勢で、勝利点の差で負けてしまった