インタビュー

「次世代電動ガン MP5A5」インタビュー"内部機構編"

ガツンとくるリコイルを、サブマシンガンのボディで実現する!

 そして「約300gのウエイト」によるリコイルシステムである。次世代電動ガンの大きな特徴はウエイトを動かすことで擬似的に銃弾を発射した時の反動(リコイル)を再現するところにある。バッテリー駆動の電動ガンは本物の銃とは大きく異なる、ガス式の瞬発力のあるリコイルを電動ガンの特徴でもある持続させながら"リアル感"のあるリコイルを生じさせるには約300gという重さの重りを銃内部で激しく動かす必要があった。

小さなボディに強力なリコイルシステムを内蔵

 しかしMP5A5は"サブマシンガン"である。M4カービンやAK47といったアサルトライフルに比べずっとスペースは限られる。限られたスペースの中に必要な重量のウエイトを入れつつ、本物の銃同様にコッキングレバーを操作できたり、射撃に連動してボルトがフルオープンするといった複雑な機構を実現できたのは、Mシステムによるメカの一部を電子化できたからこそとも言えるのだと、島村氏は語った。

こちらもマルフェスオンラインで公開されたメカボックス。上部の円筒部分でウエイトを動かしリコイルを生じさせる

 単純に大きさだけの問題ではない。ウエイトが激しく動くため銃内部の衝撃もかなり強いものとなる。ウエイト周辺の材質の強度の確保も課題だった。リコイルを強くしようとバネを強くすると周辺の耐久度が持たない。耐久度を上げようにもスペースは限られている。ではその強度に見合う素材の変更はできないか? こういった様々な点を検討しながらリコイルシステムを組み上げていった。「全体のバランス」を考えながらの設計だったと神崎氏は語った。

 また、Mシステムによってスペースが見なおされたことで、セミオート、3点バースト、フルオートを切り替える「セレクターレバー」がメカボックスを貫通できたというのもセールスポイント。MP5A5はセレクターレバーが左右にあるアンビ(アンビテクストラス)仕様になっている。右利き、左利きのどちらでも簡単にセレクターが操作できる。

左右にあるアンビセレクター。メカボックスを貫通してつながっている

 このアンビ構造は銃内部を貫通するシャフトがセレクターをつないでいる構造なのだが、従来の電動ガンはメカボックス内の機構に干渉するため、シャフトが貫通できなかった。そのためギアを介して内部機構を避ける形で左右のセレクターの動きを同調させていた。このためほんのちょっとセレクターを操作する感触に抵抗が生じていて、実銃のセレクター操作の感触を再現できてなかった。「次世代電動ガン MP5A5」は従来の電動ガン製品では実現できてなかった、ガスガンに近いアンビセレクターの操作の感触も再現できるようになったのである。

 電子トリガーとMシステムによる素早く、キレのある射撃。限られたスペースにしっかりと組み込まれたリコイルシステム。これらの特徴を頭に入れながら、"空撃ちモード"による島村氏のデモ射撃を見て欲しい。1発ずつ射撃を行なう「セミオート」、一度トリガーを引くと3発が発射される「三点バースト」、そして引き金を引き続ける間弾が出続ける「フルオート」、いずれも軽快でしっかりした動作がわかるだろう。

【「次世代電動ガン MP5A5」、HKスラップからキレのある射撃!】

 最初にマガジンを装着し、固定されていたボルトを解放するためにコッキングハンドルを手で叩くMP5シリーズならではのアクション「HKスラップ」や、射撃をしながら右手の親指でセレクターを操作するところも見所。セレクターレバーは左右で操作できるアンビ構造なため、島村氏の右手の操作に合わせてこちらを向いている左側面のセレクターが連動しているのも確認できるだろう。島村氏のデモ射撃の後、筆者も撃たせてもらったが、確かに従来の電動ガンと違った感触があった。

 また、「次世代電動ガン MP5A5」は「電子ヒューズ」が搭載されているのもポイントとのこと。ヒューズ管がないので、スペースの効率化が図れ、無駄な接点ロスがなくなったことで、レスポンスが向上していると神崎氏は語った。

「次世代電動ガン MP5A5」に盛り込まれた新技術が、今後の東京マルイを変える!

 「電子トリガー、Mシステム、設計を見なおし、素材の選定から考えたリコイルシステムなど、『次世代電動ガン MP5A5』は従来の"次世代電動ガン"とは別次元の、新しい銃と言えます。東京マルイとしては、次世代電動ガンを超える、新しい銃ができた、ということを宣言したいというところもありました。しかし"新次世代"、"新世代"を名乗るには、もっと何か+αが必要ではないか、そういう議論も生まれたんです」と島村氏は語った。

 本製品に従来と変わらないカテゴリーである「次世代電動ガン」に位置づけたのは、「今後の混乱を避けたい」という意図もあったという。今回新しい名前をつけてカテゴリーを新設しても、それではMシステムだけ搭載した銃はなんと呼ぶか? 今回「次世代電動ガン MP5A5」で開発した新システムは今後の東京マルイの製品に大きな革新をもたらすが、これにより今後のすべての製品が一新されるわけでなく、部分的に取り入れられるケースもある。"新世代"を名乗るには、何かもっと革新的なものが必要なのではないか? そういう意見もあったとのことだ。

 カテゴリーの新設は行なわなかったが、「次世代電動ガン MP5A5」が今後の東京マルイの製品に影響を与えていくのは間違いない。「まず小さいものを作って大きなものに展開していく」という開発思想は「ガスブローバックガン グロック26」でも行なっている。標準である「グロック17」の小型モデルであるグロック26で充分にリコイルが感じられるブローバックエンジンを開発してから、大きいサイズへと展開したのも同様の考え方だという。

「次世代電動ガン MP5A5」の内部には今後の電動ガンの未来を提示するアイディアが詰まっている
今回は従来の製品にはない様々な挑戦を行なったという神崎氏

 ちなみに、島村氏がお気に入りのアイディアは「ツインメカボックス」。「次世代電動ガン マーク46 モッド0」の時に検討された機構で、2つのメカボックスを搭載し強力なりコイルを生じさせようという設計だった。結局製品版では1つのメカボックスで従来の倍の600gのウエイトを動かすという形で完成したため、このシステムは検討で終わっている。こういった何か大きな変化があれば新カテゴリーが生まれるかもしれない。

 神崎氏自身は「ヒントの1つにリポバッテリーがあるのではないか」と語る。リポバッテリーは従来のバッテリーよりも小さく、形も変えられる。また高出力のバッテリーのおかげで、モーターもより小さく、高効率にできる。システム自体を小さくできれば、より実銃の機構の再現にスペースが使えるし、新しいシステムを組み込むことができる。東京マルイ製の純正リポバッテリーが登場すれば、開発の可能性も広がるとのことだ。現時点でのモーターやバッテリーではハンドガン(拳銃)にリコイルシステムを組み込むことは難しい。しかし拳銃よりも大きな銃、コンパクトマシンガンや、サブマシンガンならば可能ではないか? 「次世代電動ガン MP5A5」は今後の様々な可能性を広げてくれた。

 「次世代電動ガン MP5A5」はユーザー達の期待も大きく盛り上げてくれていると島村氏は語った。「MP5A5が次世代になったのなら、この銃も次世代になるのでは?」、「今回よりリアルになったのはとても良い。この銃も現在の東京マルイの技術で出して欲しい」、「新しい銃にも挑戦して欲しい」……。島村氏が面白いと感じているのは「最新の銃を再現して欲しい」という声がある一方で、「ベトナム戦争時代の銃」、「第二次大戦の銃」といった過去の時代の銃を望む声が、若い世代から上がっていることだという。

グリップはモーターを内蔵しているので、実銃よりわずかに太い。モーターが小型化できればグリップはより実銃に近づけられるかもしれない

 これまで過去の銃を望む声は年齢が上のユーザーが多い傾向があったが、ネットゲーム等からサバイバルゲームに入ったユーザーは「このゲームで、自分がメインで使っていた銃が欲しい」という要望を上げてくるとのこと。FPSの人気タイトルである「コールオブデューティー」シリーズは、近未来と共に、ベトナム戦争や第二次大戦を扱っているし、「バトルフィールド」シリーズも第二次大戦モチーフが人気だ。

 サバイバルゲームでも銃のみならず、服や靴、ヘルメットなど当時の装備を再現するこだわりのプレーヤーがいる。ユーザーの要望は様々な方向に広がっている。「様々な進化を経て洗練されてきた現代の銃はどこか似た感じになっているという側面があります。一方過去の銃は設計者やお国柄の個性が強く、"味"がある。ここに魅力があるんだと思います」と島村氏は語った。

 一方で神崎氏によると「古い銃は資料集めが大変だったり、機構や部品が洗練されていない部分があり、エアソフトガンとしての生産が大変なんですよね……今の銃の方が工場での生産効率を考えている。こういったところも過去の銃の味につながっているかもしれません」とのことだ。また、様々なオプション装備に対応したカスタマイズ性、拡張性は企画に適応した現代の銃の大きな楽しみである。銃を選ぶ基準は本当にユーザーによって変わる。現代はそういったたくさんの選択肢が与えられている時代だと言える。

島村氏は「次世代電動ガン MP5A5」が提示する未来に期待して欲しいと語った

 「次世代電動ガン MP5A5」の最後にもう1度アピールしたいセールスポイントとしてとして島村氏は"価格"を挙げた。65,780円(税込)という価格は新技術の投入、外観への強いこだわりと言った様々なポイントから考えるに、"破格"であるという。この価格を設定するために島村氏をはじめスタッフはかなり議論したという。「次世代電動ガン MP5A5」は東京マルイのエアソフトガン開発史から見てもマイルストーンであり、ターニングポイントと言える存在だ。また、「次世代電動ガン MP5」シリーズの起点となる存在である。だからこそできるだけユーザーの手に届く価格を目指したかったとのことだ。

 「『次世代電動ガン MP5A5』は東京マルイにとって"F1マシン"のような存在です。現時点の技術を終結し、作り出せる最高峰のものを作り出した。今後の製品はここで引き上げた技術や、得られた知見を応用して作っていく。僕等東京マルイにとって、こういったF1マシンのような製品を何年か1度に作り、その後の製品全体の水準を引き上げていくんです」と島村氏は語った。

内部機構に関しては、実際に電動ガンを触っていないと伝わらない部分があるかもしれない。しかし海外メーカーが先行して導入しているFETやリポバッテリーに対し、東京マルイならではの安全性と安定性を追求した電子制御、今後の開発を視野に入れた様々な挑戦など、エアソフトガンファン、サバイバルゲームファンにはとても興味深い内容を聞くことができた

 繰り返しになるが、こだわり抜いた外観と、感触まで追求した素材選定、電子トリガーによるキレのある射撃、Mシステムによる電子制御と安全性の徹底、スペースを見なおすことで新しく設計されたリコイルシステム、そしてこれらの新技術によって得られた多くの知見……。「次世代電動ガン MP5A5」が今後東京マルイに、そしてエアソフトガンの世界にどのような未来をもたらすか、注目していきたい。