インタビュー

「次世代電動ガン MP5A5」インタビュー【外観編】

1990年代のMP5A5を素材レベルまで研究、本物の感触を追い求める!

【次世代電動ガン MP5A5】

開発・販売元:東京マルイ

発売日:8月18日発売

価格:65,780円(税込)

種類:次世代電動ガン

全長:
ストック伸ばし時:660mm
ストック縮め時:500mm
銃身長:229mm(インナーバレル長)

重量:3,1000g

装弾数:72発

 4月の「マルフェスONLINE pt.4」で電撃的に発表された「次世代電動ガン MP5A5」は様々なポイントで話題を集めた製品だ。MP5A5はドイツのH&K(ヘッケラー&コッホ)社が開発したサブマシンガン。ストックを縮めれば500mmほどの銃でありながら、72発の装弾数があり、世界中の特殊部隊や対テロ部隊などでも使われている。サバゲーでも人気の銃だ。

 「次世代電動ガン MP5A5」が発表と同時に注目を集めた理由の1つめは"小ささ"である。東京マルイの「次世代電動ガン」はバッテリーでモーターを駆動させ弾を撃ち出す「電動ガン」に、内部でウエイト(重り)を動かすことで実弾を撃っているかのようなリコイル(反動)が楽しめるのだが、アサルトライフルより小さい"サブマシンガン"というジャンルでリコイルショックを実現したこの機構を内部に組み込んだ製品は東京マルイでは今までなかった。

 もう1つが"再現度への期待"である。東京マルイの「電動ガンスタンダードタイプ MP5A5」は軽く扱いやすく人気の商品で、発売は1990年代、30年近く売れ続けているベストセラーだが、現在の視点で見ると「実銃のMP5A5の再現」と言う意味では甘い部分も多い。現代の東京マルイの技術でMP5A5を商品化すればどんなものになるのか? というところにファンは期待している。

 さらに"Mシステム"だ。「次世代電動ガン MP5A5」はこれまでの製品と同じ"次世代電動ガン"という製品名だが実は内部機構が大きく違う。次世代電動ガンではじめてマイコンが各種センサーを使い安全に銃を制御するトリガーシステム「Mシステム」を搭載した。電子トリガー(FET)による反応の向上だけでなく、東京マルイならではの安全性への追及が行なわれている。

「マルフェスONLINE pt.4」での発表、大きな話題を集めた

 「次世代電動ガン MP5A5」は東京マルイの、そしてエアソフトガンの未来を提示する製品と言える。このため弊誌ではこの新製品をテーマに「外観編」、「内部機構編」、「実射レポート」と3回に渡って取り上げていく。第1回目では実銃のMP5A5の雰囲気、質感の再現へのとことんまでのこだわりを取り上げていきたい。

 今回も東京マルイのデカ広報・島村氏に加え、設計・開発を担当した神崎氏へインタビューを行ない、そのディテールを語ってもらった。

東京マルイ広報の島村優氏(向かって左)と設計・開発を担当した神崎嵩士氏

1990年代、「最も輝いていた時代のMP5A5」を追求

 最初に注目していくポイントは「最新次世代電動ガンのモチーフにMP5A5を選んだ理由」だ。MP5A5は"サブマシンガン"というジャンルの銃だ。サブマシンガンとは、ライフル弾ではなく拳銃弾を連射できる銃を指す。軍隊のような大規模戦闘で用いるのではなく、拳銃より高い制圧力が求められる場合に使用される。警察や、対テロリストに使用される。大きさもコンパクトで取り回しがしやすい。

 サバイバルゲームでもサブマシンガンは初心者から女性プレーヤーなどにも人気だ。MP5A5の実銃は3kgを越える重量なのだが、「電動ガンスタンダードタイプ MP5A5」は1.9kgという"軽さ"も人気で、サバイバルゲームの入門機としても人気を博していた。

 このため、「サブマシンガンでリコイルが楽しめる次世代電動ガンを!」という要望はずっとあった。しかしやはりその大きさがネックとなり開発が難しかった。人気の高い「次世代電動ガン ソップモッドM4」が全長803mm(ストック収縮時)、「次世代電動ガン AK47」が全長875mm、対して「次世代電動ガン MP5A5」の全長は500mm(ストック収縮時)である。またフレーム断面積も小さいため、次世代電動ガンとして充分なリコイルを生じさせるシステムを入れることが、これまでの技術では難しかったのである。サブマシンガンで次世代電動ガンが実現できるめどが立ったのが3年前、第1弾として何をモチーフにするかは社内でも議論が重ねられた。

 島村氏は「映画やドラマなどの印象が大きく、僕らの世代の中でサブマシンガンと言えばMP5A5は"テッパン"だというのがやはり大きな理由になります。そしてバリエーションの豊富さです。MP5A5ならば1機種だけでなく、様々なバリエーションが展開できる。MP5A5は1970~80年代の銃という印象も強いですがそこから多くのバリエーションが展開した。最先端の銃をモチーフにしてしまうとバリエーションが少なくなってしまう。新商品の開発には億に近い資金がかかります。1つを開発することで、様々な商品展開を視野に入れているわけです」と語った。

島村氏はMP5の展開について熱く語った
電動ガンスタンダードタイプ MP5シリーズの「MP5-J」。発売は2004年。電動ガンスタンダードタイプの発射サイクルを増した「ハイサイクルカスタム」もあるが、電動ガンスタンダードタイプをベースにしている

 ここでもう少しMP5A5を掘り下げたい。MP5はH&K(ヘッケラー&コッホ)社が開発したサブマシンガンである。同社のアサルトライフル「G3」の発射システムを応用することで、反動を抑え、抜群の命中精度を誇っている。それまでの、弾丸をバラ撒く小火器という概念を覆した革新的サブマシンガンであった。大きさもコンパクトで取り回しが良いため、市街地や建物内で相手と対峙する犯罪や都市型の対テロ作戦への有用性が期待され、ドイツだけでなく、アメリカや日本など様々な法執行機関(警察・対テロ部隊など)で採用されている。

 MP5A5は初期のものから2度目の大規模改修が加えられたバージョン等、伸縮式ストックを装備しているものだが、型式が同じでも年代によって様々な違いがある。製品の設計・開発を担当した神崎氏は「いつのMP5A5にするか?」の議論もかなり白熱したと語った。一口にMP5と言っても、旧西ドイツで使われはじめてからから半世紀以上経っていて、何度か大規模な改修も行なわれている。ライセンス生産やコピー品も含めるとバリエーションは膨大な物になる。

設計、開発を担当した神崎氏。次世代電動ガン「MP5A5」の前に担当したのが「次世代電動ガンAK47」。その前がやはり「次世代電動ガンM4シリーズ」。次世代電動ガンのエキスパートといえる人物だ

 この中で東京マルイが考えヒントとなっているのが映画「ダイハード」、特に「ダイハード2」とのこと。この2つの映画ではMP5A5が効果的に使われる。最初の「ダイハード」では民間モデルが使われていたが、「ダイハード2」では警察用のMP5A5が印象的に残る活躍をする。

 「ダイハード」がヒットした1990年代は、MP5が各国の特殊部隊や対テロ部隊で採用されていた時代でもある。2000年代になると貫通力不足からM4に置き換えられていった(最近また見直されつつある)。いわば、1990年代はMP5が1番輝いていた時代だったと言えるのだ。この頃に使われていたMP5A5を次世代電動ガンのモチーフにしよう、社内でそう決まったとのことだ。

神崎氏から「厳密には、「ダイハード1」のMP5は民間型がベースでになっていまして、MP5A5の登場は「ダイハード2」からになるんですが」とマニアックな考察も
2年がかりで撮影された「次世代電動ガン MP5A5」のPVは、雪中ロケでの収録となった

実銃の樹脂パーツを破砕して成分を分析、本物の"手触り"を実現

 「1番輝いていた時代のMP5A5を再現する」このテーマを掲げ神崎氏は資料の収集を行なった。MP5に関する膨大な1次資料の中から、1990年代ドイツ製の、細部のディテール、工法や材質、寸法に至るまでを調べていったのだ。

「同じMP5であっても、年代によってアッパーレシーバーのスチールプレスの絞りの形状とかも違います。この銃を開発するに当たってもこの年代のドイツ製"無可動実銃"を入手しましたが、内部に手が入っていたり、違う時代の補修パーツが使われていたりする部分がある。このため無可動実銃を完璧に再現しても正解ではないんです。色々な資料を取りそろえ、比較して、ようやく図面が引けるところまで辿り着きました」と神崎氏は製造時の苦労を語った。

 本製品を開発するに当たり「MP5A5を完璧に再現して欲しい」という社内の"プレッシャー"もかなりのものがあったと神崎氏は語った。30年前の「電動ガンスタンダードタイプ MP5A5」は今の価値観で見れば再現度は甘い。だからこそ現時点での最高の再現度を見せて欲しい、社内で「次の商品ではここを再現してくれ」と多くの人から言われたとのことだ。

 「現時点の技術を使って1990年代のMP5A5を再現する」というテーマと共に進められていくプロジェクトの中で、今回最も苦労したのが"樹脂性パーツ"。MP5A5ではバットプレート、ハンドガード、ロアフレーム、セレクター、コッキングハンドル……様々な部分に樹脂パーツを使い、その"手触り"がMP5A5ならではの感触をもたらしている。

 エアソフトガンにおいては金属の使用は本物のようにはできない。だからこそ質感や重さにこだわりながら"最適解"を探っていくのだが、樹脂に関してはとことんまで追及しようというのが「次世代電動ガン MP5A5」の大きな方針になっているという。このため、1990年代のMP5A5で使用されていた樹脂パーツを入手し、粉砕してその成分を調査し、再現するという化学的なアプローチを行なっている。

バットプレートを後ろから。にわかにエアソフトガンとは思えないリアルな質感だ

 この処理を行なう前からMP5A5に使われている樹脂は「ナイロン」に分類される物だという事は判明していたものの、どんな"混ぜ物"をすることで目標の樹脂になるかがわからなかった。粉砕分析は素材メーカーからの提案だったという。その結果「ガラス繊維」など細かい成分と配合の割合がわかり、これを再現することが可能となったが、今度は"成型"するのが難しくなった。ガラス繊維は強度を増すものの金型や成型機を傷つけかねない。これまで使用しているABS樹脂とも違うため、工場側でこの条件で生産してくれるところを探すのも苦労したという。このため生産のめどがつくのにも時間がかかったとのことだ。

 ここまで樹脂にこだわるのは銃を握った感触、見た目の雰囲気を実銃にとことんまで近づけるためだ。「表面のシボ(凸凹の処理)の艶感がスゴい大事なので、何回も調整しました。シボだけで大きく5~6回はやり直しています。行き詰まったポイントの1つとして製品は曲面なのに、加工見本は平面だった。MP5A5のハンドガードやグリップの感触を再現するために、実験用の曲面の金型を新たに用意して、これで調整をしました」と神崎氏は語った。

こだわりの表面処理「シボ」に注目! 神崎氏は以前に「AKストーム」のマガジンウェル(装填口)で使っていた素材に似ているので、その経験も活かせたとのこと

 今回のMP5A5の樹脂部分の処理に関してはあえて実銃と同じように塗装を施していない。だからこそ樹脂の感触そのものが重要だったとのこと。ここまで素材にこだわった経験は神崎氏がこれまで手がけた製品でもなかったという。苦労した反面、これまでの製品では様々な制約で突き詰められない点があったが、今回の樹脂のようにとことんまでこだわることができたのは「けっこうやりたかった事をガッツリとやれた」という充実感を持っているとのことだ。