インタビュー
「超合金」の可能性、企画者・寺野彰氏インタビュー
ずしりと重く、冷たく、ギラリと光る、超合金の魅力は何だろう?
2024年12月28日 00:00
2024年は「超合金50周年」だ。「超合金」とはバンダイの子会社であった「ポピー」が1974年に発売した「マジンガーZ」がスタートとなる合金玩具である。ずしりと重い合金が劇中の「超合金Zで作られた無敵のロボット」を思わせ、子供の心を掴み、50年の時を超える玩具ブランドとなった。
「超合金 ルービックキューブ」、「超合金 CHOGOKIN ROBO 50」、「超合金 超変形 ミッキーマウス by 大河原邦男」……。50周年を記念し、BANDAI SPIRITSコレクターズ事業部からはユニークな超合金玩具が多数販売された。そしてこの流れは記念商品に留まらず、「これからの超合金の可能性」を提示していくブランドになるという。今回、企画者であるコレクターズ事業部の寺野彰氏に話を聞いた。
寺野氏は「超合金40周年」でも超合金と向き合っている。10年の時を経て、再び正面から超合金というブランドを見つめ直した寺野氏がどんなものを生み出し、そしてこれからに繋げていくのだろうか?
超合金50周年、"超合金"のロゴやルービックキューブがロボに変形!
――2024年が「超合金50周年」ということで、様々な商品が発表、販売されましたが、これらはいつ頃からプロジェクトとして動いていたのでしょうか?
寺野氏:私が「超合金50周年記念企画」の担当者になったのは、2023年の4月から。私はコレクターズ事業部で企画者として様々な商品に関わりましたが、数年間別部署で「低年齢層向け商品」を手がけていました。2023年にコレクターズ事業部に戻ってきて、担当をまかされたのが「超合金50周年記念企画」だったんです。
2024年は"超合金50周年"なので、「寺野なんか面白いの頼むよ~」と当時のゼネラルマネージャーから笑顔で言われたんです(笑)。私は2013年に「超合金40周年記念商品」も担当しています。この時は「超合金 ハローキティ」、「超合金 超合体SFロボット 藤子・F・不二雄キャラクターズ」といった商品を担当しただけでなく、イベント「TAMASHII NATION 2013」で超合金をテーマにした展示も担当しました。
――40周年も印象的な商品がたくさん販売されましたね。
寺野氏:私は「超合金ハローキティ」、「超合金超合体SFロボット 藤子・F・不二雄キャラクターズ」、「超合金 Ka signature モンスターハンター G級変形リオレウス」などを担当しました。40周年記念商品の中には私ではない担当で「超合金 太陽の塔ロボ」もありました。今になって思うと、今回の50周年での超合金への想いは「超合金太陽の塔ロボ」のコンセプトに影響を受けているところがあると思っています。
――それはどういうところですか?
寺野氏:まず、2010年代ってまだまだ超合金の展開が"まじめ"だったと当時の私は感じていました。すでに超合金に馴染みがあるお客さんにだけ向けた商品を企画している。当時の私は今まで超合金に触れたこともないお客さん』が手に取る超合金商品を世に出したかったんです。「超合金ハローキティ」は、白くて柔らかそうなキャラクターであるハローキティが、"超合金"になる。そしてターゲットの中心は女性という、従来の超合金商品とは全く違うものを企画しました。「これは話題になるんじゃないか?」という狙いは当たり、「超合金ハローキティ」は話題を集め、ヒット商品となりました。
しかし今になって思えば、まだまだ「キャラクター商品」の範疇だったのではないかと考えています。「超合金太陽の塔ロボ」は、企画者・野中剛さんが立案した企画で、芸術家の岡本太郎氏の「太陽の塔」が巨大ロボットに変形するという商品でしたが、そのコンセプトには「巨大なものへの畏怖」がある。キャラクターとは括られない巨大な建造物である太陽の塔を超合金にしてしまう、こういう発想は当時の僕にはできなかったな、と思っていたんです。
この時の想いが、50周年に繋がっていきます。「50周年、お客さんをびっくりさせるものは何だろう?」そう考える中で、すでに存在するキャラクターを超合金化するだけではなく、超合金というイメージそのものを形にできないか、改めて超合金って何だ? ということを考え始めました。
――「超合金 ルービックキューブ」、「超合金 CHOGOKIN ROBO 50」は"超合金"というイメージの追求、というのは言われてみると納得があります。
寺野氏:11月15日に発売になった「超合金 CHOGOKIN ROBO 50」は超合金というロゴが、ロボットに変形するという非常にユニークな商品ですが、アイディアそのものは玩具企画を手がけるプレックスさんからの提案です。私がプレックスさんと商品企画を相談している中でかなり早い段階で生まれました。
見ていただくのが一番ですが、表は超合金のシンプルなロゴ、そして裏は、もうまんまど変形してロボになるかわかる上に、背中に「ポピー」の刻印がある。見た瞬間、昭和時代の超合金商品へのオマージュであることがわかるデザインなのです。……しかし、企画が出た瞬間では"売り方"を考えていなかった(笑)。このためこのアイディアそのものはしばらく止まっていたんですが、改めて売り方を模索して直営店販売アイテムとして超合金50周年の記念アイテムとして日の目を見ることになりました。
「超合金 CHOGOKIN ROBO 50」はまずCHOGOKINの部分を外すとロックが外れます。これを外して、「超」と「合金」にロゴを分割させることで足が伸び、合金の文字は2つに分かれ足になります。側面の手を本体から分離させ、ロボを立たせ、「超」の文字を回転させると連動し頭が出ます。CHOGOKIN部分は剣になり、これを持たせることで変形が完了します。
変形は極力シンプルに、可動箇所も少なくしています。「マシンロボ600シリーズ」などを思わせる非常にシンプルな変形で、ひじも膝も曲がりません。ひじや膝が動かせると、変形するときに形を整えなくてはいけなくなる。首も回転しちゃうとロゴの回転と同時に頭が出るギミックにひっかかってしまう。「変形」が遊びの中心にならなくなってしまう。変形に遊びを集中させたかったんです。だから極力そういう作業が発生しないようにしました。
もう1つ、「超合金 CHOGOKIN ROBO 50」のこだわりは"合金率"。重量比で95%が合金なため、見た目よりずっしり重く、262gあります。後は"色"ですね。ロゴの部分以外はできるだけ金属色をそのままメッキ処理で出しています。手に持ち、眺めたときに「金属の塊」である、そういう質感を大事にしています。実際の合金の使用率と色で「超合金」であることを強く主張するようにしました。
――変形ギミックは特に、「超」の文字を回転させると頭が出てくるのが良いですよね。
寺野氏:戦隊ロボなどもそうなのですが、変形って足からガチャガチャと変わっていって、最後に頭が出てくるんです。そういう演出を意識しています。後、顔のデザインは縦に「50」の意匠が入っています。超合金50周年記念商品なので。
――「超合金 ルービックキューブ」の方が商品としては先に発売されていますね。
寺野氏:商品化としては「超合金 ルービックキューブ」が先になりました。10月26日発売です。「超合金とは何か?」を考えているとき、関連会社であるメガハウスから「ルービックキューブ50周年」だということを聞いて「これだ!」と思いました。ちょうど私の先輩がメガハウスにいてルービックキューブの企画を考えるという話を聞いたというのも大きいのですが(笑)。色々考えていたことが繋がるきっかけになりました。
ルービックキューブは多くの人が手に持ったことがあるパズルだと思うんです。遊び方を知っている玩具であるからこそ、これがロボットになるのは意外性があります。本商品は、まずぱっと見ただけではルービックキューブそのものの外見をしています。そして変形のキーとなるのは、ガチャッとルービックキューブを捻る動作です。この動作をすることで内部のロックが外れ変形が可能となる。
そしてブロックを引き出し手足になり、頭部を引き起こすと変形が完了します。変形ギミックそのものは違いますが、発想の根本は箱形のライターが変形する「ゴールドライタン」があります。「ゴールドライタン」は一見普通のライターがロボットになる驚きがある。「超合金 ルービックキューブ」も何の変哲もないルービックキューブがロボットになる驚きが、商品最大の特徴なんです。額にはルービックキューブのロゴが輝いています。
――今の時代ですと、もっと手足の長い、スタイリッシュなロボットデザインにするのも良さそうですが。
寺野氏:敢えてレトロ感を狙ったわけではなく、ロボットの外観はルービックキューブのブロック数ありきで逆算で人型にしています。ロボのプロポーションありきで進めるとキューブ状態のパネルに分割が入ってしまい「これは変形するな」と、キューブ状態で"ネタバレ"になってしまうんです。ルービックキューブそのままの外見、変形ギミックは見せない、というのがコンセプトの1つなんです。
もう1つのこだわりは、キューブの内部である黒いフレーム部分、これをダイキャストにしています。超合金なので、もちろん合金玩具であることにこだわりました。設計上非常に大変なのですが、設計担当が頑張って実現しています。変形したとき表に出てくる部分では合金がしっかり印象に残る設計になっています。
――「超合金 ルービックキューブ」、「超合金 CHOGOKIN ROBO 50」どちらもぱっと見て、"玩具"である所が面白いと思いました。昨今のキャラクターの造型を忠実に再現したり、スタイリッシュに表現する"フィギュア"と大きく異なる方向性ですね。
寺野氏:まさにそこが「超合金という商品ブランドの可能性」だと考えました。もちろん「商品として売れる」ということが大前提なのですが、「超合金50周年記念商品」という大きなテーマの中で、「超合金というのはこれでもいい」というのを強く押し出したかった。
ぶっちゃけて言えば、「超合金 CHOGOKIN ROBO 50」は合金使用率95%なんて、本当は必要ないんですよ(笑)。デザイン・工法が制限されますし、コストもかかる。50%でも同様の面白さは出せます。ですが、「超合金50周年記念商品」だから半ば意地になって合金使用率にこだわった。なぜならば、"超合金のシンボル"だからです。ルービックキューブも同じですね、意地になって合金を使って、手に持った重み、触った時の感触で「合金玩具」であることがしっかり伝わるようにしました。
超合金の可能性の幅を広げるために改めて考える「超合金とは何か?」
――そしてここからさらに「超合金とは何だろう」ということを考える商品が続いていくのですね。
寺野氏:そうですが、ここで今回お話ししている超合金への想いというのは、「50周年記念商品で完結するわけではない」ということを強調したいです。今回、50周年記念商品として様々な商品を手がけていきましたが、そこで終わりません。
――それはつまり、寺野さんがプロデュースする「超合金」は、これからお話しする商品も"スタート"でしかなく、これからもどんどん商品が生まれていくというわけですか?
寺野氏:そうです。先ほど聞いていただいた"フィギュア"に限らない、もっと広い可能性を探る動きになります。超合金は変身ベルトに並ぶ「バンダイのすべての玩具の元祖」といえるブランドだと、私は思っています。合金玩具であり、変形トイであり、後には大人向けフィギュアブランドに繋がっていく。また、「聖闘士聖衣大系(セイントクロスシリーズ)」といった「男の子向け着せ替え玩具」という可能性にも繋がっていきます。「超合金」から色々な方向性が生まれました。
「フィギュアブーム」という大きな流れの中で、キャラクターの形を追求する流れが大きな潮流になりました。しかし私は「玩具の可能性ってもっとあるんじゃないか」と考えているんです。例えばフィギュア化の方向に進化した「聖闘士聖衣神話(セイントクロスマイス)EX」は着せ替えの難易度が上がって、玩具としての楽しさの方向性は違ったものになっている。「玩具として遊べる超合金」という方向性ももっと見ていきたい、そう考えているんです。
もちろん「玩具としての楽しさ」は"変形"だけではないのですが、今回は敢えていったんわかりやすくするため、変形を大きな目玉として展開していきました。
――「超合金 ルービックキューブ」、「超合金 CHOGOKIN ROBO 50」は非常にシンプルでわかりやすい変形ですが、2025年4月発送予定の「超合金 あずきバーロボ」は複雑な変形と、可動関節が多い設計ですね?
寺野氏:「超合金 あずきバーロボ」は藤木という別の担当者が進めているものですが、変形前はアイスのあずきバー、変形後は鎧武者を思わせるロボットと、変形でのギャップを面白さとして追求しています。今風のデザインも採り入れて、ロボットのデザインはカッコ良く、ポーズ付けも楽しめる設計です。
「超合金 あずきバーロボ」は「超合金」の"幅"を見せる狙いもあります。"シンプルな変形玩具"という方向性に固執してしまうと面白さが広がらなくなってしまう。自分の感性とはまた違う藤木が求める面白さを追求することで超合金50周年に幅が出るんじゃないかな、と思っています。
――「超合金 あずきバーロボ」の変形した姿は、日本の鎧武者風のデザインでカッコイイですね。
寺野氏:「あずきバー」を販売する井村屋さんは三重県という戦国時代の武将を多く出した地にあります。また、豆をデザートにするという発想も日本的なイメージが強い。そこで「日本ならば鎧武者」という感じで、「旗指物」を背負った鎧武者風のデザインになっています。旗部分はあずきバー形態の外側の一部ですが、裏返すと「井村屋」の文字が輝く旗になるのです。
ほかにも超合金ZIODSを担当していた小西が進めた「ポケットモンスター」をモチーフにした「超合金 テツノツツミ」、「超合金 テツノドクガ」も金属風のポケモンの特徴を活かして立体化しています。ただ金属で作るだけではなく、目が光るなどの玩具としてのギミックも盛り込み、こちらでも"幅"が提示できたと思っています。
――寺野さんの企画に加え、他の担当者の商品も展開していくことで、超合金の可能性を探っていく、という感じでしょうか?
寺野氏:「超合金って何だろう?」というのは、社内でもよく聞かれるんです。40周年の時も色々考えたのですが、50周年でもう一度深く考える機会をもらったことで、考えはよりシンプルになりました。
ポピーから始まって、バンダイ、そしてBANDAI SPIRITSと超合金ブランドの商品を出しています。「超合金とは?」という問いに、私は「バンダイとBANDAI SPIRITSが出す合金を使用した【玩具】」と答える。これでいいや、と思うようになりました。ここから派生して「超合金魂」や「METAL BUILD」、「聖闘士聖衣神話」がある。派生はあるけど根本的な定義は「バンダイとBANDAI SPIRITSが出す合金【玩具】」これだけで良い。
変形するから、着せ替えできるから、合体できるから……。超合金にはそういった"定義づけ"はなく、全部超合金。こう決めることで、よりカオスで幅の広いブランドになってくれると思ったんです。このカオスを意識して企画した商品が、「超合金 超変形 ミッキーマウス by 大河原邦男」、「超合金 ちょーごーきん たまごっちろぼ」、「超合金 TIME TRAIN(仮)」になります。
――「超合金 超変形 ミッキーマウス by 大河原邦男」は非常にユニークな商品ですね。ミッキーマウスが大河原邦男氏ならではの変形をしてヒーロー的な雰囲気を持つロボとなる。変形前の姿がアレンジが極力少ないミッキーマウスの姿なのが、特に印象的でした。
寺野氏:それは大河原先生の意向なんです。「ミッキーが変形してリアルロボに」というコンセプトで大河原先生にデザインをお願いする際、私たちも「超合金ハローキティ」と同じようなロボットアレンジでのミッキーを提案させていただいたんですが、「変形前はできるだけみんなが知っているミッキーマウスの姿にしたい。」というのが大河原先生の考えでした。その方が変形した時のインパクトが大きいですよね。
私自身、昔からバンダイの玩具に関わっているプレックスさんや、大河原邦男さんといったデザイナーさんと超合金でお仕事をしてみたいと思っていたのですが、今回の超合金50周年でその願いが叶いました。言い方がちょっと難しいですが、現在もメカデザインの第一線で活躍しているクリエイターの方と、「本気の悪ふざけをする」というのが、かねてからやりたかったことなんです。その面白さがしっかり前に出た商品になったと思っています。
これは40周年での野中剛さんの「超合金太陽の塔ロボ」の発想の面白さに近づける企画になったかな、と思いました。「超合金太陽の塔ロボ」は岡本太郎記念館の館長である平野暁臣さんから「この超合金は岡本太郎に対する挑戦状だ」という言葉をいただいたそうです。本気だから伝わる「悪ふざけ」という、「超合金 超変形 ミッキーマウス by 大河原邦男」もそういうエネルギーを持った商品になったんじゃないかと思っています。
――もう1つ、「超合金ちょーごーきん たまごっちろぼ」も非常にユニークですね。
寺野氏:「たまごっち」はリバイバルブームで海外でも人気が高い。特に28年前の最初のたまごっちと同じプログラムを再現した「Original Tamagotchi」が人気です。「超合金ちょーごーきん たまごっちろぼ」は、金メッキの特別製「Original Tamagotchi」をお腹に収め、ロボからUFOに変形します。
この企画に関しては、「自分より女性の意見を優先する」という決まりを作って、デザインの方向性やギミック、細部まで全部女性社員の意見を聞いてそれを商品に反映しています。こういう作り方は「超合金ハローキティ」と同じなんです。あのときも女性社員の意見をそのまま反映して企画を進めました。
ジャバラの手足などステレオタイプのロボットのディテールも、ロボット作品になじみのない女性にとっては「ロボットの記号」として捉えられたようです。本体の色味などについても、女性の意見に全幅の信頼を置いた商品です。これもまた「超合金50周年の幅」を提示してくれる商品です。
――そして、ここから「超合金の未来」へと繋がっていくわけですね。
寺野氏:それが映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー パート3」に登場する機関車型タイムマシン「ジュール・ヴェルヌ号」をモチーフとした超合金「超合金TIME TRAIN(仮)」なわけです。TAMASHII NATION 2024で試作品を出展しましたが、これは今回お話しした超合金とは毛色が違って、現時点では比較的フィギュア方向でのアプローチの商品になると思います。
アプローチの仕方、ギミック、金属の使い方、見せ方、細かい仕様は今後公式ページや、リリースでお知らせする形になりますが、ただのフィギュアではなく、映画でのインパクト、魅力が伝わる商品にすべく、企画を進めています。「モチーフの魅力をどう玩具化していくか」が大きなテーマとなります。ある意味「超合金という表現の幅」を大きく感じていただける商品になるよう開発します。
――ジュール・ヴェルヌ号は映画だとまさにラストの驚き、と言う感じで登場シーンも非常に短いですよね? 金属の表現の面白さという所では「デロリアン・タイムマシン」という方向もあったのではないでしょうか?
寺野氏:機関車なのが大きなポイントです。2025年は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」40周年ということで、多くのデロリアンはじめ今関連商品が盛り上がっていますが、「超合金TIME TRAIN(仮)」の企画をユニバーサルさんに持ち込んだとき、「機関車をやるのですか!」と驚かれましたから(笑)。実はジュール・ヴェルヌ号って、マスプロダクトでの商品化って例がないようなのです。だからこそ超合金という手法でジュール・ヴェルヌ号を表現したいと思いました。
――そしてここから先はさらにより多彩な方向性を見せてくれるのですね。
寺野氏:「身近なものが変形する」、「金属の表現を突き詰める」、「モチーフを精巧に表現する」、「他の玩具的なギミックを盛り込む」……。理想を言えば「何でもアリ」に持って行きたい。世の中で一番硬いであろうお菓子「井村屋のあずきバー」を超合金にした。これは、あずきバーにかけ合わせられる超合金というブランドがあったからできた面白さだと思うんです。じゃあ次は何ができるか? ここは面白い挑戦だと思います。
――少し話を超合金そのものにフォーカスしたいと思います。「超合金」はダイキャスト、つまり亜鉛合金を使った商品ですが、例えばさらに固い「鉄」で玩具を作る、というのは超合金の方向性としてはどうなのでしょうか?
寺野氏:我々も「ダイキャスト=亜鉛合金」というニュアンスでよく使用するのですが、本来はダイキャストって金属を金型で作る製法のことです。鉄はダイキャストと全く違う技術が求められます。通常の金型が使えないですし、これまで培った加工技術、表現技術も別な技術、別な設備が必要になるので、コストの面でも難しいですね。玩具で使用できる素材は亜鉛合金やアルミ合金と行った加工しやすい金属ということになりますね。
――超合金というと、やはり金属の魅力。特に「超合金 CHOGOKIN ROBO 50」は合金使用率95%という金属であることの魅力を前面に出した商品です。バンダイ、BANDAI SPIRITSでは無垢の金属フィギュアなども過去に販売していますが、改めて金属であることの魅力、みたいなものは今回超合金を手がけることでどう感じましたか?
寺野氏:……どうなんでしょうね(笑)? 金属って、使いにくいんです。商品化するこちらの立場からすると良いことはたいしてない(笑)。コストがかかる、加工しにくい、塗りにくい、設計しにくい……。難点を上げればキリがないんですが、それを越える魅力を商品に与えてくれるんです。
僕の超合金の師匠の田中ヒロさんは「男の子が革と金属が好きなのは、かつて狩猟民族であったDNAに刻まれた本能だ」と言っていました。それはもう、本能であらがえない魅力があるというんですね。なるほどと(笑)。
まあこれだけではなくて、「超合金マジンガーZ」がなぜ大ヒットしたか、男の子の誰もがほしがったか、といえば「本物感」だったんじゃないかと思うんです。超合金Zで全身が作られた無敵のロボット・マジンガーZ。現実には存在しないロボットだけど、手の中にある金属製のロボット玩具は「本物のマジンガーZ」を感じさせてくれる。金属製のロボットフィギュアは、"本物"を感じさせてくれる。超合金で金属を使う意味の1つは、この感覚があると思っています。
「超合金 ルービックキューブ」のフレームに金属を使う理由は、まるでない(笑)。だけど金属の重みと感触で、「実在感のあるルービックキューブロボ」を実感できる。その感覚が面白い。ここだと思うんです。
……実は私の中で「超合金の魅力」を実感させてくれた商品がこの「メタルジョー」なんです。錠前という、非常に固く、堅牢な物体が、ロボットに変形する。1984年にバンダイから発売された玩具で、非常にシンプルな合金玩具なのですが、これは私の超合金、合金玩具の魅力の原体験を与えてくれた商品です。ここに超合金玩具の魅力のヒントがあると思っています。
――最後にユーザーへのメッセージを。
寺野氏:とにかく1つ、超合金を手に取って欲しいと思います。そこそこ値段が張る商品が多いですが、「重い」、「冷たい」といった感触、変形ギミックのクリック感や、面白さ、こういうのは触れていただくことで伝わります。できれば今回お話しできた商品を一つでも手に取っていただければと思います。
――ありがとうございました。
寺野氏の生み出す超合金は面白い。それは予想を超えていて、ワクワクさせられるアイディアがある。「フィギュアブーム」の中、コレクターズ事業部の商品はロボットの演出や、関節の補強など金属を効果的に使っている。それは「完成品フィギュアブランド」ならではの強みだが、その原点には「超合金」がある。合金玩具でキャラクターをどう表現するか、多くの担当者が試行錯誤してきた。
寺野氏は「超合金」を担当するにあたり、先人達の"表現"そのものを商品の可能性としてフォーカスし、より幅広いユーザーに訴求する商品を模索している。まさか超合金のロゴがロボットになるとは。「たまごっち」を超合金にするとは……。その発想が面白い。
重くて冷たい超合金は遊んでいると、キャラクターフィギュアだけではない、動かす楽しさや、本当のロボットの構造に触れているような"ロマン"があることを、今回のインタビューで改めて実感した。この"超合金ならではの強み"を活かした商品とはどんなものか、これからにも期待したい。