レビュー
海洋堂「ARTPLA エヴァンゲリオン2号機獣化第2形態ザ・ビースト」レビュー
2023年9月25日 00:00
造型・設計者のこだわりを感じながら組み立てていく楽しさ
それでは早速組み立てていこう。最初は腕から。「ARTPLA エヴァンゲリオン2号機」は固定ポーズのプラモデルである。造形物のアレンジは非常に強く、アーティスティックな構図でパーツ1つ1つに迫力がある。これらを組み上げていくことで使徒すら圧倒する力強い2号機のザ・ビーストの姿が組み上がっていく。
右腕は肩を上げ、肘を大きく引き、勢いを付けて使徒につかみかかろうとする姿。ぎゅっと曲がった右肘はしわが寄っていて筋肉のうねりが感じられる。腕はつかみかかろうとする平手だ。指はかぎ爪のように曲げられ、指の関節1つ1つが造型されている。
筋肉のスジや、指の関節、手のひらのしわなどはスミ入れでくっきりと浮かび上がる。今回は「ウォッシング」という手法でスミ入れを行っている。油性塗料である「Mr.ウェザリングカラー マルチブラック」を薄め液で希釈し、全体を洗うかのように塗り、拭き取ることで輪郭を際立たせた。筋肉の造型なども際立つ様に拭き取りは強く行わず微妙な凹凸もきちんと目立つようにしていった。
各パーツは大きめで、それらをブロック状にまとめていって組み上げていく。数パーツを組み合わせることでとどんどん形がしっかりしていく。右腕の時点でわかるのはパーツ分割の巧みさだ。パーツの分割線は造型に合うように考えられているだけでなく、前腕の色が異なるところや、上腕の装甲部分が別パーツになっていて、塗り分けしやすい設計になっている。またエヴァならではの装甲の分割線のスジ彫りはかなり強めになっていて、スミ入れしやすく、塗料を塗っても潰れにくい設計になっている。
左腕は第10使徒に振り下ろされる形になっている。肘を強く曲げた右腕と異なり、肘をまっすぐ伸ばしており、 こちらは肘部分の筋肉の盛り上がりがしっかりと確認できる。生身の体を多数の装甲板で覆った通常のエヴァンゲリオンと異なり、ザ・ビーストとなった2号機の金属部分さえも生体部品になったような表現、エナメルのバックのように筋肉を布で押し包んだような柔らかさと硬質感どちらも感じさせる表現が面白い。
次は足だ。足も腕のように筋肉がパンパンに張り詰め、包んでいる外皮や装甲板を圧迫している形状になっている。膝部分のパーツを組み合わせることで、力を溜めているような腰を落として折り曲げられた右足が組み上がっていく。足首はパーツ分割が多い。これは接地しながらも次に動くことを考えてつま先立ちになっているからだ。肉食獣のような俊敏さを足の接地の形で表現しているのだという。スミ入れを行うことで内圧で装甲を歪ませている装甲の表現や、体を支えるために力がこもっているスネの筋肉の張り、体重を狭い面積で支える足首の形状などがしっかりと確認できる。
左足はさらに深く、ふくらはぎと腿がくっつくほど膝を深く曲げている。こちらも体を支える足首の表現が見事だ。装甲板を際立たせ、スジ彫りが映えるパーツ分割の設計も感心させられるところだ。
次は胴体。コアとなる部分を組み立ててからここに外装を貼っていく。今回コア部分にもスミ入れをしてみたのだが実はこの部分は完全に外装に覆われるため見えなくなってしまう。塗装などもいらないパーツのようだ。
そして「ARTPLA エヴァンゲリオン2号機」の大きな注目ポイントである13本のリミッターが突き出る背中の組立だ。ザ・ビーストとなる2号機は背中の装甲板がはじけ飛び、脊椎の左右からリミッターが抜き出される。直立歩行の"人型"であったエヴァンゲリオンが、このリミッターの解除により、抑えていた獣性をむき出しにし、"人でないもの"に変わっていくその象徴とも言える部位である。
この背中パーツにリミッターを付けるための土台をくっつけていくのだが、この土台パーツが1つ1つ形状が違うのだ。10この穴にはまる10のパーツは厳密に指定されており、しかもこのパーツだけはアルファベットが振られ間違わないように背中パーツと照らし合わせてはめ込むようになっている。凹凸を合わせることで向きも間違わないようにしており、開発者の強いこだわりが感じられる。
背中パーツは生身の体に無理矢理機械を埋め込んだようなかなりグロテスクな雰囲気がある。スミ入れを行うことでこの感じがさらに際立たされるのが楽しい。リミッターの取り付けに先がけ、腰パーツを組み立てる。続いて上半身のベースパーツににこの背中と、体部分を貼り付けていく。ベース部分は外装パーツに完全に覆われてしまう。脇腹からお腹にかけての表現も、皮膚がはじけ飛び、筋繊維がむき出しになったかのような生態的で、グロテスクな表現だ。
腰パーツを付けてから合計13本のリミッターを取り付けていく。ちなみにリミッターはすべて同じパーツで、土台部分のこだわりと対比を成していると感じた。"生え方"が重要なのかもしれない。ザ・ビーストでは左右の肩にさらに4本リミッターが突き出す。普段のエヴァは17本物リミッターで、獣性や凶暴性を押さえ込まれパイロットの意思に従うように作られているのか、という印象も生まれる。
ここから首、胸の装甲貼り付け、頭部、そして倒れた第10使徒の体を使った台座へと組立は続いていく。次章でこれらを解説し、完成品を撮影したい。組み立てることで細部をじっくり楽しみ、その上でそれらが集まった全身像として印象の変化を味わえるのは、プラモデルだからこそだろう。
肥大した胸部、牙をむき出しにした頭部、ザ・ビーストの魅力全開
リミッターが外れた背中部分の組立の次は、首となる。この組はなかなかパーツの組みが複雑でちょっと苦戦した部分だ。ザ・ビーストになった2号機の首は長く伸び、膨らんだ上、ポーズでぐいっと左肩の側頭部がくっつくほどに曲げられている。この迫力ある首を表現するために、複雑なパーツ分割となっている。
組み立て説明書では首部分を組み立ててから胴体の胸部部分、そしてエントリープラグ基部の組立となる。まず、胸部と腹部の装甲板を取り付けていく。「ARTPLA エヴァンゲリオン2号機」では胸部は装甲は止めていたフレーム部分のみが残っていて内部が露出、特徴的なV字型の腹部装甲もかろうじて張り付いているだけで、胸部分の筋肉が著しく肥大している。
肋骨のようなフレームも左右に大きく開き脇腹に張り付いているようになっている。内部の爆発的な力に装甲に覆われていた細見のエヴァのシルエットが完全に崩壊したような描写だ。これは原型師の吉良氏の解釈で、ザ・ビーストとなった2号機は内部電源以上のエネルギーを求め、肺を大きくしこれまで以上の大量の酸素を取り込んでエネルギーに充てているという。肺を極限まで肥大化させ、その呼吸の力でエヴァを形作っていたフレームや装甲板がはじけてしまっている描写なのだ。胸部部分の極端な巨大化と、腰部分のエヴァらしい細くくびれたギャップも面白い。
この生物的な解釈と対をなすのが首の付け根のエントリープラグ周辺の装甲板。ザ・ビーストの激しい動きに合わせて大きく動いているものの元のエヴァンゲリオンの形状を保っている。エヴァンゲリオンのデザインがきちんと残っていることで他の全身が大きく変わってしまったこと、そして元の姿がエヴァンゲリオン2号機だったことを印象づけるパーツと言えるだろう。
そしてザ・ビースト最後のパーツとなるのが頭だ。2号機(弐号機)はTV版では目の部分の装甲が展開し内部から4つの目が露出したが、ザ・ビーストでは初号機や量産型のように目の下の装甲が外れ、中から口が出てくる。"獣"の名前通り、牙の生えた口が大きく開き、中から長い舌が現れる凶暴な姿になる。
「ARTPLA エヴァンゲリオン2号機」では迫力のある頭部を表現している。口はもちろん、劇場版の2号機ならではの額部分の角も迫力のある造型となっている。そして側頭部と目の部分はクリアパーツと通常のパーツの2択となっている。無塗装派には特にクリアパーツは楽しいかもしれない。頭部のアクセントとなってくれる。クリアパーツは塗装が難しいが目のレンズの透明感を出すのに嬉しいパーツである。
これで2号機の各部位は完成したが、次は"台座"を組み立てる。本商品では「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」で2号機の前に立ちはだかった第10使徒がザ・ビーストとなった2号機に倒されるという原作とは異なる展開で立体化している。台座は2号機に引き倒され地面に踏みつけられる第10使徒となっている。原作ではかなわなかった敵を圧倒している2号機の姿は非常にカッコイイ。ザ・ビーストとなった2号機を引き立てる台座である。
台座は大型のパーツ数点で構成されている。のっぺりとした内部部分とザ・ビーストに引き裂かれ内臓を損傷したような傷口の描写の対比が生々しい。地面に押し倒された使徒の顔にはビーストの強烈な打撃によってヒビが入っている。この台座の上にこれまでのパーツを接着した2号機を設置すれば完成だ。
力強いザ・ビーストが使徒を圧倒する劇中とは異なる展開を描いた非常にカッコイイ立体物だ。原型師の吉良氏は「どの角度から見ても必ず見所のあるポージングと造型表現を目指した」という。その言葉そのままのあらゆる角度から見応えのある完成形となっている。
最終ページでは組み立てた完成品をの細部にカメラを向けていきたい。
(C)カラー