インタビュー

東京マルイ、「ガスブローバックショットガン SAIGA-12K」インタビュー

ガスの出力を強化することで3発同時発射を実現! 研究を重ねたチャンバー設計

 次は内部機構に迫っていこう。「ガスブローバックショットガン SAIGA-12K」の大きな特徴は「マガジン」にある。マガジンはBB弾を装填する機能と共に、ガスタンクがある。製品では外側のカバーを外してアルミ製のガスタンクを露出させることが可能だ。BB弾の装弾数は最大45発。3発同時発射なので、1マガジンで15発の射撃が可能となる。

【東京マルイ「ガスブローバックショットガン SAIGA-12K」、迫力のブローバック】

 外のケースを外すことができるのは、アルミ製のガスタンクを手で直接温めることができるようにするためだ。さらにこのタンクには温度を示すことができるシールが貼ってある。このシールは温度によって色が変わる。25度くらいになっていれば、理想的な射撃ができるのだ。シールは外装に貼るとこすれてしまうし、実銃の雰囲気が薄くなってしまう。カバーが外せる今回のマガジンだから採用した面もあるとのこと。

マガジンはカバーを外して内部を露出させることができる。タンクを手で暖めることも可能だ
シールは温度で変化し、タンクの温度を示す
真鍮製のバルブは他のガスガンより大きい
もちろんカバーをつけたまま、ガスの注入や給弾は可能だ

 もちろんカバーをつけたままでガスの補充は可能。外観的な特徴としては真鍮製のバルブがこれまでのガスガンよりはっきりと大きいところも注目だろう。「ガスブローバックショットガン SAIGA-12K」は1発でこれまで以上のガスを必要とする。

 また、通常のガスブローバックガンは1度に噴出されるガスのパワーは、ブローバックに9、射撃に1の割合だが、本製品の場合3発同時発射なので、これまでの割合では弾が全然飛ばなかったとのこと。ガス全体の噴出量を増やし、射撃の方にもガスを割り振ることで、迫力のブローバックと、3発同時を成立させたと島村氏は語った。

 さて、この3発同時発射の機構こそ、「ガスブローバックショットガン SAIGA-12K」の”キモ”である。本製品では大型のガスシリンダーで、ガスを送り込み、3つのチャンバーにセットしたBB弾を撃ち出す。ガスブローバックガンである本製品は、これまでの製品同様部品を分解できる「テイクダウン」が可能だ。分解していくことで実銃の「ボルトアッシー(ボルトと関連部品)」を模した部品を取り出すことができる。この部品に大型のピストンが確認できる。

テイクダウン。マガジンからのガスの噴出で銃を動作させるガスガンは、内部機構を実銃に近い配置にすることができる。この分解・組み立てが楽しいのだ

 「ガスブローバックマシンガン AKM」はブローバックの衝撃を強めるためにハンドガンとは逆型のピストンとなっているが、「ガスブローバックショットガン SAIGA-12K」はハンドガンに近い設計となっているとのこと。

 そしてこのピストンの先にあるノズルに取り付けられているのが、3つのチャンバー(薬室)である。ここにBB弾がセットされ、ノズルから噴出したガスで弾が飛んでいくのだ。ノズルにはバネで動く検出装置が仕掛けられていて、ここでオートストップ機構を作動させるのだ。

 BB弾がなくなることで引き金を引いても弾が出なくなるオートストップ機能。この機構もまた「ガスブローバックマシンガン AKM」とは全く設計が異なるという。「ガスブローバックショットガン SAIGA-12K」は3発のBB弾を同時発射するために、BB弾を装填するチャンバーが3つあり、ここから3本のバレルに弾を送り込む。

今回の開発の最大の注目ポイントであるチャンバー。3つのBB弾がセットされる
真ん中の部分がBB弾を検知するのだ
ブローバックを行なうピストンも大型だ

 「ガスブローバックマシンガン AKM」はマガジンのフォロワー(弾が銃に送り込まれるところ)の位置で弾の有無を検知し、これによりAKシリーズ独特のハンマーダウンを行なわせ、ガスが残っていてもブローバックするような空撃ちをさせないオートストップ機能を作動させていた。

 「ガスブローバックショットガン SAIGA-12K」はフォロワーで判断してしまうと、薬室に弾が残ってしまう場合がある。このため、3つのチャンバーそれぞれにBB弾を検知し、3つ全部のチャンバーにBB弾がなくなった時、オートストップがかかる仕組みになっているという。

 ちなみにBB弾がなくてもブローバックが楽しめる「空撃ちモード」は「ガスブローバックショットガン SAIGA-12K」でももちろん搭載されている。「ガスブローバックマシンガン AKM」は本体側に空撃ちモードに切り替えるスイッチがあったが、こちらはマガジンにスイッチがある。スイッチを入れることで弾が出なくてもブローバックが楽しめるのだ。

 「電動ショットガン AA-12」などでもそうだが、マガジンからの給弾口は1つ、ここから3つのチャンバーに素早く正確に弾をセットしなくてはならない。「ガスブローバックショットガン SAIGA-12K」はフルオートではないものの、きちんと弾をセットする機構ができるまでは苦労したという。

 開発で最大の難関がこの給弾システムだったと島村氏は語る。従来のガスブローバックシステムでの応用が利かず、電動ガンの技術も参考にして組み上げていった。この形に落ち着くまで60個ほどの試作品を重ねたとのこと。部品の形を見て理屈を聞くと「なるほど」とは思うが、改めて考えれば0からこの形にたどり着くというのは、まさに想像もつかない大変さだと感じた。

 ちなみに3つのチャンバーに1つだけ弾が入ってる場合は、弾はスムーズに発射されるものの弾速は落ちる。他の穴からもガスが抜けてしまうためだ。3つの弾を効率よく押し出す時に最もパフォーマンスが高くなる。逆に弾が少なくなると弾速が上がってしまったら危険だ。法律上の弾速の規定を超えないように、この検証もきちんとしているとのことだ。

「ボルトアッシー」。実銃のボルト部分を再現している。こういった部品のこだわりがリアリティをうむのだ
実銃では銃身内部のガスが先端部分をおすことでブローバックを行なう。もちろんガスガンではダミーだが、形状のこだわりが楽しいのだ

 ちなみに「ガスブローバックショットガン SAIGA-12K」は固定HOPとなっている。製品によっては拡散率なども調整できるものもあるが本製品は、拡散率も抑えめで、長い距離を3発のBB弾がまっすぐ飛ぶようにしている。この味付けはサバイバルゲームでは近距離で弾を広げるより、長い距離まで3発が届く方が良いのではないかという判断とのこと。「『電動ショットガン AA-12』は装弾数も多いし電動なので大量の弾をばらまけるのですが、こちらは1マガジンで15回の射撃。ある程度は狙って戦う、というシチュエーションを想定しています」と島村氏は語った。

 このほか内部部品では、ボルトとそれに関連する部品が付属した「ボルトアッシー」は特にモデルガン的内部機構が楽しめるところだ。先端の銀色の部分は実銃だと実弾を発射した時の燃焼ガスの一部を利用しボルトを後退させるさせる仕組みだ。この発射時のガスを使う方法はAKシリーズの大きな特徴となっている。ガスガンではもちろんダミーだが、形状などもしっかり再現している。実銃への知識も増える楽しいこだわりだ。

 またテイクダウンの際はSAIGA-12Kならではの「ダストカバー」も注目ポイント。SAIGA-12Kはチャンバーが大きいためカバーも大きなオリジナルなものとなっている。カバーパーツはプレスで成型し、裏に取り付け用の金具がスポット溶接されている。「ガスブローバックショットガン SAIGA-12K」の部品も実銃同様の溶接を行なっているとのこと。

 「こういった1つ1つの部品がね、大変なんですよ」と島村氏は語る。東京マルイは十年以上前の製品も再生産を行なうが、昨今のリアル志向の製品は部品そのものの生産にも手間がかかり、工場で作るのも大変になっているとのこと。確かに筆者も「ガスブローバックマシンガン AKM」、「次世代電動ガン MP5A5」のインタビューで、実銃の雰囲気をいかに努力して再現しているかを聞いているだけに、その生産の大変さがわかる。

こだわりのダストカバー。部品はスポット溶接されている
トリガー回りの部品のすりあわせなどは「AKM」チームと意見交換が役立ったとのこと

 最新の工場技術や素材を使えばもっと軽くできたり、部品の形に生産効率を求めることもできるかもしれない。しかし、それではだめなのだ。当時の手法、当時の素材に近づけることで、ファンの期待を越える商品を届けることができる。もちろん組み立て工程もそうだ。金属加工、金属の塗装、黒染め、溶接……。以前の製品より遙かに多い工程で製作されている。ユーザーは商品を手にし、モチーフを調べることで、開発者のこだわりに感心し、さらに愛着が深くなる。こういったこだわりに共感してくれる工場もとても大事なのだという。このため再生産のスパンも多くかかってしまう。

 しかしメーカーがこれだけ努力しているからこそ、ユーザーもよりよいものを求めるようになる。高い技術とこだわりで、よりよい製品を届けられるように、開発チームは日夜研究を重ねているとのことだ。昨今の製品は非常に人気が高く、こだわりを評価している手応えも感じていると島村氏は語った。

 今回は「ガスブローバックショットガン」という、東京マルイの初挑戦のジャンルとなった。だからこそ開発陣は得るものが大きかったと島村氏は語る。チャンバーの形などだけでなく、開発にはトラブルもありそれらをどう解決したかは経験値になったとのこと。

 最後に島村氏に読者へのメッセージをお願いした。「僕もショットガンは好きですが、やっぱりサバイバルゲームでショットガンを使うのはかなりこだわりのあるユーザーと言えます。『ガスブローバックショットガン SAIGA-12K』はメインウエポンとして戦える性能も持っていますが、"戦いの幅"としても活用して欲しいですね。アサルトライフルで戦って、次のラウンドでショットガンにしてみる。そういういろいろな戦い方をこの製品で広げて欲しいです」と島村氏は読者に語りかけた。

 今回のインタビューも非常に興味深かった。銃は「火薬を爆発させて弾を発射する」という道具であるが、そのアプローチは様々だ。実銃はこの弾を飛ばす目的に対し、その時代や技術者の思想で様々な機構が採用される。その銃を再現するエアソフトガンは銃のバックボーンや、時代背景も学びながら、再現していくのだ。

 効率や昨今の技術ではなく、当時の技術、雰囲気にチャレンジするというのがとても面白いし、今回は「ガスを使ったブローバックと3発同時発射」という実銃にもない。お手本もない機構を模索し、実現したというところがとても面白い。「ガスブローバックショットガン SAIGA-12K」を手にしたユーザー、購入を検討しているユーザー、すべての人に、この開発のバックストーリーを楽しんで欲しい。