レビュー

ムック「HJメカニクス 装甲騎兵ボトムズ 40th ANNIVERSARY SPECIAL」レビュー

ウェーブの1/24スコープドッグ初お披露目! “最低野郎”必読の特別編

【HJメカニクス 装甲騎兵ボトムズ 40th ANNIVERSARY SPECIAL】

5月31日発売

価格:3,080円

 ホビージャパンはムック「HJメカニクス 装甲騎兵ボトムズ 40th ANNIVERSARY SPECIAL」を5月31日に発売した。この本はアニメ「装甲騎兵ボトムズ」40周年を記念して刊行された。本誌は付録にマックスファクトリーのプラモデル「PLAMAX minimum factory スコープドッグ 炎のさだめ スペシャルバージョン」を同梱している。

【付録プラモデル】
「PLAMAX minimum factory スコープドッグ 炎のさだめ スペシャルバージョン」

 そして本誌の目玉はウェーブの完全新作のプラモデル「1/24 ATM-09-ST スコープドッグ」が誌内で初お披露目されていることだ。ボトムズのプラモデルファンにはこの「1/24」というサイズにピンとくるはずだ。タカラ(現タカラトミー)がアニメ放映中に発売した傑作キットが「1/24スコープドッグ」なのだ。ウェーブがこの伝説と言える「1/24」というサイズにどう挑んだか、プロモデラーの迫力の作例で見ることができる。

 さらにボトムズプラモデルを振り返る企画や、付録プラモデルの作例も収録。本稿ではムックの内容を紹介すると共に、この付録プラモデルも組み立ててみたい。

40年の時を超え今でも愛される「ボトムズ」と主役機「スコープドッグ」とは?

 本誌の内容に触れる前に、簡単にアニメ「装甲騎兵ボトムズ」という作品を紹介しておきたい。「ボトムズ」は1983年のTVアニメ。高橋良輔監督によるミリタリー色の強いアニメで、主人公キリコが謎を追い求めながら自らの運命と闘っていく。彼は戦うことしか知らぬ兵士だったが、仲間達を得て人間性を取り戻していく。

「装甲騎兵ボトムズ」は1983年のアニメ。その後OVAや続編も製作された。外伝などもあり、様々な広がりを見せている

 「ボトムズ」の世界を魅力的にしているのがAT(アーマード・トルーパー)というロボットである。全高4mというアニメロボットとしては小さな機体、足裏のローラーで地面を滑るように高速移動する「ローラーダッシュ」や、前腕がスライドし敵に拳をたたき込む「アームパンチ」、従来のロボットのような顔がなく無機質なレンズのみというデザインなど非常に斬新なアイディアが詰まっていた。主役機「スコープドッグ」は主人公のための特別な機体ではなく、一般兵のための機体であり、戦後のスクラップ場で部品を組み立てられるほどにありふれた量産機だ。

 独特のミリタリーテイストや、量産機が中心となるメカニック、大きな戦いの後の混迷とした時代描写などなど、「ボトムズ」の世界は魅力的であり、様々なロボットアニメの中でも大きな人気を持つ作品である。40年の歴史の中では別の主人公が活躍するOVAや小説などでも展開、キリコの本編後の物語なども描かれている。そして立体物も現在でも最新商品が発売されているのだ。静岡で開催された全日本模型ホビーショーではBANDAI SPIRITSから新作アイテムが発売されることでも話題を集めた。

あえてスコープドッグに特化、ウェーブの最新プラモデルを中心に、歴史を振り返る

 いよいよムックの内容を紹介していこう。この本の主役はウェーブのプラモデル「1/24 ATM-09-ST スコープドッグ」である。ムックではまず、アニメ「装甲騎兵ボトムズ」という物語と、そこから広がる世界を紹介している。この紹介が終わった後、模型誌ならではのたっぷりのボトムズプラモデル紹介に移るのだが、そのトップバッターがウェーブの「1/24 ATM-09-ST スコープドッグ」なのだ。

本誌にて電撃的に発表されたウェーブの「1/24 ATM-09-ST スコープドッグ」。2023年末発売予定だという。価格は未定。ムックではプロモデラーの清水圭氏、NAOKI氏の2人の作例で紹介している

 ウェーブ版「1/24 ATM-09-ST スコープドッグ」は、番組放映時、1983年に発売されたタカラ版「1/24 スコープドッグ」と密接な関係がある。このキットこそ今でも語り継がれる傑作キットなのだ。全高約188mmという大サイズで主役メカスコープドッグを再現。コクピットハッチが開閉し内部のパイロットフィギュアを確認できるほか、パイロットフィギュアの取り出しも可能。カメラの移動、バイザーの開閉、ポリキャップによるスムーズな関節可動と、当時のプラモデル製作技術を一気に押し上げた商品だった。

 加えて「オリジナルアレンジ」が話題を集めた。肩部分の縁取り部分や、足や腕のアーマーには追加装甲を取り付けリベットで固定したモールドがある。アニメの設定画にはないディテールである。こういったアニメのメカをさらにリアルにする処理やプレイバリュー、設計の見事さなどで今でも語り継がれるキットとなった。そしてウェーブはこのタカラ版ボトムズプラモデルの金型を引き継ぎ、一部のパーツを改修した商品なども販売している。現在、ウェーブはボトムズ関連商品を展開するトップメーカーといえる存在だが、その根底にはタカラのボトムズプラモデルがあるのだ。

ディテール、降着ポーズなどキットの魅力を細かく紹介している

 そのウェーブが40周年にぶつけてきたのが完全新作の「1/24 ATM-09-ST スコープドッグ」である。ムックではプロモデラーの清水圭氏、NAOKI氏の2人の作例でこの新作スコープドッグのディテールまで細かく紹介している。プロモデラーのディテールアップ、見事な塗装が施されているが、キットの魅力を紹介する構成となっている。

 「1/24 ATM-09-ST スコープドッグ」では、上半身がきゅっと締まり、腕の付け根が延長されるなど、プロポーションが見直されている。このプロポーションの見直しは可動域の改良も視野に入れている。肩の付け根はボールジョイント、さらに腕の付け根部分は軸関節が仕込まれたことで、武器の両手持ちはもちろん、デザイン上難しかった肩を大きく上に上げて手を広げる動きも可能だ。足の付け根もスライドすることで、腿を前方に曲げたり、降着ポーズのスムーズな動きもできるようになっているという。

 雑誌ではキットの紹介はもちろん、プロモデラーのワンポイントアドバイスも掲載。何よりやはり作例写真が素晴らしい。ぜひムックを手に取ってみて欲しい。

 もちろん内容はこれにとどまらない。"オリジン"と言えるタカラ版「1/24 スコープドッグ」のディテールアップ作例、ウェーブの改修パーツを使用したキットの作例、現在入手しやすいウェーブ版「1/35スコープドッグ」、そしてBANDAI SPIRITSの「1/20 スコープドッグ」も紹介されている。変わり種としてはデフォルメデザインのコトブキヤ「D-スタイル スコープドッグターボカスタム」の作例なども掲載、各商品を並べデザインやアレンジを較べるなどの企画もある。

タカラ版の作例も掲載
歴代キットを並べる企画も

 前述のアニメとしての「ボトムズ」の紹介に加え、スコープドッグも詳細に紹介されており、「ボトムズ」ファンはもちろんだが、そうでない人も興味を持てる内容になっている。今回はあえてスコープドッグに特化した内容になっており、「スコープドッグ立体化の歴史」ともいえる、資料価値も高い本になっている。

 付録であるプラモデル「PLAMAX minimum factory スコープドッグ 炎のさだめ スペシャルバージョン」も作例に加えシリーズもカバーしている。筆者も組み立ててみた。次章で紹介したい。

本誌の付録であるPLAMAX minimum factory スコープドッグ 炎のさだめ スペシャルバージョン」。筆者も実際に作ってみた

大胆なパーツ構成とポーズが楽しいスペシャルバージョンのプラモデル

 「PLAMAX minimum factory」はマックスファクトリーが提示するプラモデルシリーズだ。このシリーズは非常にユニークなコンセプトとなっている。巨大ロボットを10cm前後の小さなフィギュアとしてデザイン、固定ポーズで印象的な場面を演出する。ユーザーはこの小さなプラモデルを組み立て、眺め、コレクションする。

 印象的な場面を演出するために可動プラモデルが難しい様なポーズ、劇中での活躍シーンなど印象的で派手なシーンをモチーフとして選んでいる。成型色にも意味を持たせ無塗装でも飾って楽しく、こだわりのモデラーなら細かく塗り分けも楽しめる、新しいプラモデルの楽しみ方を提示する商品なのである。

 今回、雑誌の付録となっているのは「PLAMAX minimum factory スコープドッグ 炎のさだめ スペシャルバージョン」である。アニメ「装甲騎兵ボトムズ」のオープニングシーンで瓦礫の中に立つスコープドッグの姿をモチーフとしている。"スペシャルバージョン"というのは、スコープドッグの基本色である緑の成型色であるところ。通常販売の「PLAMAX minimum factory スコープドッグ 炎のさだめ」は、オープニングで印象的な夕日のイメージを持たせ、オレンジ色の成型色となっている。

「PLAMAX minimum factory スコープドッグ 炎のさだめ スペシャルバージョン」は特別パッケージに収められている
ランナーは2枚、ディテールもしっかり入っている

 今回の「スペシャルバージョン」は本と一緒に特別パッケージに入れられており、ランナーは2枚。組み立てることで、オープニングの瓦礫の上に立つスコープドッグの姿を再現できる。本誌の作例でも紹介されているが、今回の組立では、プラモデルのディテールを際立たせるウォッシングによるスミ入れを行っていく。

 スミ入れをすることでスコープドッグならではのディテールが浮かび上がる。本プラモデルはディテール表現は深めの溝になっており、スミ入れが映える。また正面や頭部のパネルラインなどはしっかりディテールが入っている一方で、胸のダクトはアウトラインのみだったり、左腕の裏は肉抜き穴を入れていたり、角度を限定して情報の集中を行っている。「見せ方」にこだわる一方で、省略する部分でバランスを取っている印象がある。

スミ入れによりディテールがくっきりと浮かび上がる
ボディ。正面の情報量は多い一方で、側面のダクトのスリットを省略するなど、バランスが感じられる

 またパーツ分割もとてもユニークだ。武器であるヘビィマシンガンと腰アーマーが一体化していたり、足は瓦礫とくっついていたり、パーツを減らし、組立の負荷を減らそうという設計者の意図が伝わってくる。手軽にロボットのカッコ良さを実感できる立体物を生み出そうという「PLAMAX minimum factory」のコンセプトが伝わってくるプラモデルだと感じた。

武器と腰アーマーを一体化している
足も瓦礫と一体化しており、パーツ数を減らしている
台座となる瓦礫はスミ入れが映える

 組み上がったスコープドッグはとてもカッコイイ。周辺に転がっている瓦礫が立っているスコープドッグと同じものなのがいかにも「ボトムズ」らしい、ちょっと虚無的な雰囲気もある。机の横に置いて眺めてみたくなるフィギュアだ。ムックを買った人は是非組み立てて欲しい。

組み上がったスコープドッグ。同じスコープドッグの破片を踏みつけて立つ姿がとても「ボトムズ」らしい
細部をチェックするのが楽しい
左手の裏側は肉抜きされている。腕に覚えのあるモデラーなら埋めてディテールアップするのもありだろう

 「HJメカニクス 装甲騎兵ボトムズ 40th ANNIVERSARY SPECIAL」は、。アニメ40周年にふさわしい記念碑となるべきムックだ。歴史を振り返り、新しい時代の到来を期待する意味でも手にしておきたいところだ。ウェーブの「1/24 ATM-09-ST スコープドッグ」は今後どんな展開を見せてくれるだろうか?

 わがままを言えば今回のムックはスコープドッグに特化していて他のATがないのが寂しかった。「ボトムズ」には様々なATが登場する。それらをカバーした本も読んでみたくなった。

 今回のウェーブ版だけでなく、BANDAI SPIRITS版、three ZEROの完成品フィギュア「ロボ道」シリーズ、マックスファクトリーの1/24プラモデルなど、今後も「ボトムズ」関連はたくさんの新製品が発売予定だ。40年を経ても「ボトムズ愛」は絶えることがない。これからも大いに期待したい。

 なお、本紙はホビージャパン通販サイト「ポストホビーWEBSHOP」でも購入可能だ。こちらも参照して欲しい。

・ポストホビーWEBSHOP