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「エアソフトガン超入門」 第7回:2021年電動ガン30周年に新しい波が来る! 東京マルイが描くエアソフトガンの未来

 「エアソフトガン超入門」では、人気の高いガスブローバックハンドガンをスタートに、ガスブローバックマシンガン、次世代電動ガンと、「エアソフトガン」の種類や機能を紹介してきた。

 「エアソフトガン」は本物の銃をモチーフにしており、実際にBB弾が出る玩具であるため、“危険な玩具”と誤解を受ける部分がある。いたずらや犯罪に使う者などもいて、良くないイメージを持つ人もいる。だからこそメーカーはこう言った偏見を払拭するためにも努力している。

 「銃の玩具なんて!」という見られ方は今でも根強い一方で、サバイバルゲームの認知度も広がり、TV番組などで取りあげられることも多くなってきた。ここ10年、サバイバルゲーム/エアソフトガンの人気は高くなり、これまで以上に多くの人が商品を手にするようになった。そういう中で国内での圧倒的シェアを持つ東京マルイはどういった取り組みをしているのか?

 「エアソフトガン超入門」は今回の7回が一端の最終回となる。そこで今回は「エアソフトガンの未来」というテーマで東京マルイのメーカーとしての取り組み、ユーザーへの働きかけを東京マルイ広報、デカこと島村優氏にインタビューしていきたい。

今回最終回となる「エアソフトガン超入門」。東京マルイ広報、デカこと島村優氏にはエアソフトガンの変化していく状況と未来を語って貰った

 全7回となる「エアソフトガン超入門」。銃の玩具であるエアソフトガンとはどんなものか、ガスブローバックガン、ウエイトを動かして銃の反動を再現した次世代電動ガンなど様々な特性を語り、東京マルイの商品がどのようにファンを獲得していったか。初心者はもちろん、エアソフトガンファンも感心させられる濃い内容となっている。是非お楽しみ頂きたい。

この10年、「サバイバルゲーム」の盛り上がりで大きく変わったエアソフトガンの状況

 2010年あたりから、特に「サバイバルゲーム」の人気が高まってきた。それ以前はエアソフトガンに限らず、銃の玩具は永く「陽の当たらないジャンル」とされてきた。最初に「サバイバルゲーム」が誕生した1980年代後半の一般メディアは「戦争ごっこ」というとらえ方が主流で、ネガティブなイメージが伴うものだった。

 20年以上前は東京マルイユーザーの8割ぐらいは、「お座敷シューター」と呼ばれる、サバイバルゲームはしないで家の中で射撃を楽しんだり、コレクションが中心の人達で、残りの2~3割がサバイバルゲーマーだったのではないかと島村氏は感じている。

 特に女性のユーザーはほとんど居らず、極少数がサバイバルゲームフィールドに来る場合でも、まず男性ゲーマーのガールフレンドだったりして、「連れて来られる」というのが現実でもあった。女性が殆どいないのが当時のエアソフトガンコミュニティだった。1990年代にはエアソフトガンブームがあったものの、史上としては一定数を維持したまま安定していたが、その後、リーマンショックや改正銃刀法のパワー規制が生まれた事もあって、2009年ごろはエアソフトガン市場は縮小していた。

【東京マルイフェスティバル】
2019年11月に開催された「東京マルイフェスティバル6」。非常に盛況で、昨今のエアソフトガンの大きな人気を実感させられる

 しかし2010年くらいを境に状況が変わりだした。サバイバルゲームを“スポーツ”としてアピールすることにより人気が出始めた。改正銃刀法ができたことにより、逆に銃のパワーが明確になりクリーンなプレイが楽しめるようになった。また、昔のサバイバルゲーム上と言えば河川敷や公園がメインだったが、お金を払ってプレイできるフィールドができ、きちんとしたビジネスとして成立し始めた。

 丁度「肉食女子」なる言葉も生まれ、そういう女性がサバゲーを始めだした。そして次々とサバイバルゲームフィールドが生まれた。「サバゲ女子」という言葉も生まれ、女の子だけのグループでサバイバルゲームに参加する人も増えた。TV番組などで取りあげられることも多くなっていった。島村氏はある携帯のTVCMで「街でサバゲ」という言葉を聞いた時、「そこまで一般化したのか」と衝撃を受けたという。

【サバイバルゲームフィールド】
千葉県印西にある「東京サバゲーパーク」。このように運営がきちんとした人気の高いサバゲーフィールドが増えてきた

 こういった変化のきっかけは「ゲーム」や「アニメ」の力も大きかったのではないか、と島村氏は指摘する。積極的に新作が発表されるFPS(一人称視点シューティングゲーム)「コール オブ デューティ(「CoD」)」シリーズの人気。「PUBG」や「フォートナイト」といったサバイバルシューティングゲームの流行、低年齢層にもシューティングゲームの楽しさを提示した「スプラトゥーン」などなど、様々なゲームをプレイしていくことで、シューティングゲームに慣れ親しみ、リアルなサバイバルゲームを遊んでみたいと思う人が増えた。

 そのバックボーンにはゲーム開発者や漫画家、そのスタッフに「銃」が好きという人達も多く、その意思が製作に反映されたのだと思っている。そして多くの芸能人、著名人もメディアを通じサバゲーやエアガンの楽しさをアピールしてくれた。その背景には「銃」、「サバゲー」、「ミリタリー」等のキーワードに、「オタク」、「ネクラ」等のネガティブなイメージが払拭されたからではないだろうか。

【コール オブ デューティ】
最新作の「コール オブ デューティ ブラックオプス コールドウォー」。FPSは日本でも今や大きな人気となった
【スプラトゥーン2】
これまでにない層にFPSの楽しさを提示した「スプラトゥーン」シリーズ

 アニメに関しては2010年にスタートした「ソードアートオンライン」がシューティング要素の強い「ファントム・バレット編」を展開、さらにスピンオフである「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」へ繋がっていく。女の子向けコミック雑誌「なかよし」で「さばげぶっ!」がスタートしたり、ヤングマガジンで「特例措置団体ステラ女学院高等科C3部」が連載されたりと、サバイバルゲームを扱った作品も生まれていく。そしてそれらが後にアニメ化されるなどブームはピークとなる。

【ヴォーパル・バニー】
「AM .45 バージョン・レン “ヴォーパル・バニー”」。「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」に登場する銃をエアソフトガン化したもの。大人気の商品となっている
【さばげぶっ!】
2011年に少女向け漫画雑誌「なかよし」で連載が開始され、TVアニメにもなった

 もちろん、エアソフトガン業界自体もユーザー層を広げる努力はしていた。銃を扱う雑誌「アームズマガジン」が表紙に女の子の写真を掲載するようになるのは男性読者のみならず、女性読者獲得も狙ってだが、既存の読者の一部からは反発があったという。島村氏もことあるごとに「サバイバルゲームはダイエットに最適!」といった口コミ活動をし女性ファン獲得のために奔走した。

【アームズマガジン】
ホビージャパンが出版するトイガンとミリタリーを扱う専門誌。表紙に女性を配しグラビアも掲載。「サバゲ女子」を取りあげ、サバイバルゲームへの積極的な姿勢も特徴

 東京マルイは2006年に東京近郊でのサバイバルゲーム場として、本格的インドアフィールド「BBスポーツフィールド」を開設している。島村氏が広報活動の傍ら自ら建設や内装の改装をし、その力の入れように「7kg痩せた」と語るほどのものだったという。

 男女更衣室、トイレ、6機の大型エアコンを完備。キャットウォークでの立体的な戦闘、壁面の跳弾を防ぐ特殊加工、ライティングのコントロールなど、当時のサバイバルゲーム場としてはトップクラスの施設だった。残念ながら諸般の事情でクローズとなったが、現在数多あるインドアサバイバルゲーム場の先鞭を着けた意欲的な取り込みだった。

【BBスポーツフィールド】
2006年にオープンした「BBスポーツフィールド」。残念ながら諸般の事情で2007年にサービス終了に

 現在は少し前のブームから比べると落ち着いた流れになっているが、「ブーム」という一過性の盛り上がりに終わることなく、人気を保っているのは各サバイバルゲームフィールドが初心者向けの施策を積極的に行ない、新規ユーザーへ働きかけている努力もあるからだ。

 ライトユーザーが手にする銃は東京マルイのものが多くなる。昨今では海外製の安価な商品も増えてきたが、店に行けば当たり前のように売っており在庫もあり、品数が多く、アフターサービスもきちんとしているというところで、店舗側でも東京マルイの商品を薦めるところは少なくないとのこと。

 購入してそのままサバイバルゲームで使える品質の高さ、当たる楽しさを体感できるところもセールスポイントだ。これを可能にしているのは、製品の完成度の高さは無論だが、自社工場での生産とMade in JAPANに拘っている物造りへの姿勢が大きいと島村氏は語る。※10歳以上用の数種類は海外製。

 東京マルイは他のエアソフトガンメーカー以上に広大な倉庫を持ち、パーツを含めると500アイテムの殆どの在庫をストックし、流通業界を通じて安定供給を可能としている。自社工場で製造している為、品質を管理でき、万が一不具合があっても即対応する事ができるという。

 現在サバイバルゲームはレジャーとして安定的な人気を見せている。それに合わせエアソフトガンへの興味も大きくなった。「コスプレ文化」の盛り上がりも大きい。エアソフトガンは手軽に入手できる“小道具”であり、ミリタリールックをはじめ、アニメ/コミックではリアルな銃器を手にするキャラクターも多い。昨今の巣ごもり需要の中エアガンを購入する人も多い。島村氏は改めて「15年前では想像もできなかったエアソフトガンの定着がある」と語る。

 もちろんメーカー単体での努力がエアソフトガンの人気の盛り上がりを実現させたわけではないが、東京マルイが果たした役割は大きい。1つの商品の一過性のブームではなく、初心者が扱え、きちんとまっすぐ飛ぶエアソフトガンが、安定的に供給されていなければ、増えたユーザーをカバーしきれない。サバイバルゲームの人気は東京マルイというメーカーそのものの信頼に繋がった。だからこそ東京マルイの単独のイベント「東京マルイフェスティバル」も大きな人気を博しているのだ。

訓練や映画の小道具など求められるエアソフトガンの役割

 国内エアソフトガンの最大手として東京マルイに求められる役割は様々だ。実銃に近い機構を持ち、実銃と同じくらいの重さを再現したエアソフトガンは自衛隊や警察でも訓練用として使用される。

 機動隊が使っている「機関拳銃」をモデル化した「電動ガンスタンダードタイプ MP-5J」、自衛隊の正式採用小銃を再現した「電動ガンスタンダードタイプ 89式5.56mm小銃〈固定銃床型〉は、それぞれ訓練用として納入され、使用されているという。機関拳銃の型番は非公開であり、東京マルイは「MP-5J」という製品名を創出したのだが、今や機関拳銃の正式な型番かのように使われている。

 ……ちなみに当時のパッケージデザイン担当者は、「MP5J」という名前に反対したとのこと。

【電動ガンスタンダードタイプ MP-5J】
2004年7月発売の「スタンダード電動ガン MP-5J」。機動隊が使っている「機関拳銃」をモデル化した商品で訓練に使用されているという
【電動ガンスタンダードタイプ 89式5.56mm小銃〈固定銃床型〉】
自衛隊の正式採用小銃を再現した「電動ガンスタンダードタイプ 89式5.56mm小銃〈固定銃床型〉」は2018年7月発売

 刑事ドラマや特撮などでも銃は欠かせない小道具だが、2019年放映の“令和最初の仮面ライダー”として大きなインパクトを与えた「仮面ライダーゼロワン」では、かねてからガンマニアである事を公表してきた杉原輝昭監督の指名で1年間のシリーズを通して、東京マルイが貸与したエアソフトガンが画面を彩った。番組では軍隊的な性格の強いA.I.M.S.(エイムズ)という組織が活躍する。彼らが扱う武器として多くの東京マルイのエアソフトガンが使用されたのだ。

 このドラマに限らず、東京マルイには様々なドラマや映画での協力要請がある。基本はその要望を受ける方針だが受けられないものもある。「いじめのシーンの道具に使いたい」、「犯罪者のいたずらとしてエアソフトガンを使いたい」等という要望に、当たり前だが、メーカーとして協力はできない。時にはシナリオを読ませてもらうこともあるという。

【東京マルイの協力】
「仮面ライダーゼロワン」では東京マルイが貸与したエアソフトガンが活躍した
東京マルイの公式ページでは様々な協力が紹介されている

 もう1つ昨今では鳥獣対策へのエアソフトガンの使用も目立っている。サルやシカ、イノシシなど野生動物たちの被害が深刻なものとなっており、老人達がエアソフトガンを手に周囲を巡回する、といったニュースも見られるようになった。鳥獣対策にエアソフトガンが使われているケースがある。

 メーカーとしてはエアソフトガンは玩具であり、人はもちろん動物などにも撃ってはいけないと言わなくてはいけない。しかし被害に遭っている農家などの悩みは深刻であり、個人はもちろん市町村での相談も来るとのこと。現状は東京マルイとしてはそのような使い方はしないで欲しいと伝えている。しかし、「鳥獣対策エアソフトガン」とキャッチコピーをつけて販売する業者もいる。メーカーとしてこう言った要望に対応できるよう、見識者達の意見を聞き一定のルールを作れないか相談したこともあったとのことだ。

 反面、エアガンを悪いことに使用する例もあり、警察からの電話対応も島村氏はしているという。実際に捜査協力、検証実験にも立ち会い、過去には警察からの表彰も何度か受けている。「エアガンを使用しての犯罪やイジメは絶対許せません」と、“デカ”らしい島村氏の言葉も聞けた。

【モンキーバスターズ】
FNNプライムオンラインの記事。農作物を食い荒らすサルと奮闘する女性「モンキーバスターズ」を紹介している