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「エアソフトガン超入門」 第3回:サバゲフィールドを一変させた「次世代電動ガン」

※写真は発射する瞬間のためトリガーに指を掛けています
【次世代電動ガン「HK416D」】

2012年12月発売

価格:64,800(税別)

種類:アサルトライフル

全長:819mm/894mm(ストック最大伸長時)

重量:3,540g(14.5インチバレル・空のマガジンを装着した場合)

装弾数:82発(1発は本体に装填した場合)

※アウターバレルの長さを14.5インチから10.4インチに変更可能

 エアソフトガンの基本を学び、その魅力に迫っていく「エアソフトガン超入門」。第3回のテーマは「次世代電動ガン」。ガスガンと電動ガンは何が違うのか、どんな魅力があるのか、そして「次世代電動ガン」とはどんなものか……様々なポイントを、東京マルイの広報を務めるデカこと島村優氏の解説で取りあげていきたい。今回の教材は2012年12月に発売され、今もロングセラーとなっている次世代電動ガン「HK416D」である。

【次世代電動ガン「HK416D」】
今回取りあげる「次世代電動ガン」の代表的な商品として次世代電動ガン「HK416D」を教材として使っていきたい。2012年12月の発売から変わらぬ人気を得ている銃だ

 モーター駆動でピストンを可動させ、空気を作ることでBB弾を発射する。電動ガンは実は東京マルイが初めて商品化したのである。そしてその衝撃が東京マルイの商品を世に知らしめ、サバイバルゲームの世界を一変させたのだ。そしてさらに「次世代電動ガン」で撃つ楽しさを提示し、さらにエアソフトガンの世界を変えていく。今回はこの東京マルイのアプローチから電動ガンの歴史を語っていこう。

 現在、電動ガンは「サバイバルゲームの主役」と言える。多くのユーザーが電動ガンでサバイバルゲームを楽しんでいるのだ。なぜサバゲユーザー達は電動ガンを使うのか? ガスガンとの違いはどこなのか? ガスと電動では「弾を撃つ」という目的は同じものの、感触、機能性、コスト、銃器の玩具としての魅力など、様々なポイントが違う。今回は敢えてサバイバルゲームという視点も加えて解説していきたい。

解説は東京マルイの広報を務めるデカこと島村優氏

 なお、第1回、第2回ではエアソフトガン、そしてガスガンの基礎知識を大きく掘り下げている。まだ読んでいないという方は、併せて読んでいただきたい。

電動ガンがサバイバルゲーム場の景色を一変させた!

 モーターでピストンを可動させ、空気を作ることでBB弾を発射する「電動ガン」。これを初めて製品化したのが、東京マルイだった。そして東京マルイは「次世代電動ガン」で再び業界に衝撃を与える。今回はまず電動ガン、次世代電動ガンが生まれた背景から紹介していこう。

 東京マルイが商品として世界初の電動ガンである電動ガン「FA-MAS 5.56F-1」を世に出すのは1991年。当時のエアーソフトガンは、エアーコッキングでの単発の他、ガスを注入するものも登場していたが商品としては未成熟で、銃の玩具としては実銃の外見を再現した「モデルガン」のファンが多く、エアーソフトガンは「弾が出る」というところにのみフォーカスした商品も多かった。

 この時代、サバイバルゲームを行なうユーザーが使ってた銃はなんと「タンク」がついていた。「エアタンク」と呼ばれる大型の金属密閉容器に圧縮空気を充填して背負い、耐圧ホースをエアソフトガンに繋いで撃つのである。まるで火炎放射器で打ち合っているような姿が、この時代のサバイバルゲームの主流だった。

 この「エアタンク」、重くてかさばるというのは仕方ないとしても、毎回空気を充填する苦労が絶えなかった。標準で8Lぐらいの容量のタンク内に8気圧ぐらいの空気を充填する必要があったのだ。ちなみに自転車のタイヤの容量は700cc(0.7L)ぐらいだから、自転車のタイヤに換算すると8本分以上。1ゲーム毎に充填する事を考えたらどれほど大変だったか想像できるだろう。

【タンク】
筆者がかつて背負っていたタンク。皆これを背負って戦っていたのだ

 こんな大きな装備が必要だから当然敷居は高い。しかもユーザーが望んでレギュレーターをひねれば容易に圧力を変えられるため、ゲームがエキサイトしてくると弾の威力を変える人が出てくる。そんな弾で撃たれればケガをしかねない。この時代のサバイバルゲームは、今よりずっと危険だったのだ。

 東京マルイは電動ガンで本格的にエアソフトガン業界に勝負をかける。東京マルイでは、1980年代末から、外装ホースを繋ぐ必要も無く、エアタンクを背負わなくても良い、安全なエアソフトガンの必要性を感じていた。東京マルイはプラモデルやRCカーなどを発売しているホビーメーカーだった。自社で発売しているRCカーのバッテリーやーモーターのノウハウを使って、電動ガンを作れないかというチャレンジを行なっていったのだ。

【電動ガン「FA-MAS SV」】
現在では当初の電動ガン「FA-MAS 5.56F-1(ノンHOP)」は絶版となっているが、発射速度の問題の改善や可変HOPが搭載された「FA-MAS 5.56F-1」や「FA-MAS SV」は現在でも販売している

 東京マルイが1991年4月に発売した電動ガン「FA-MAS 5.56F-1(ノンHOP)」は、エアソフトガン業界で初めて製品化されたモーターで空気を圧縮しBB弾を発射する商品だった。しかしこの銃の評価は「威力が低い」というものだった。他社のエアソフトガンに比べ弾速が出ていなかったのである。結果、「FA-MAS 5.56F-1」というモチーフはうけたが、ファンからの評価は得られなかった。なぜ威力が低くなってしまったのかと言えば、当時のエアソフトガン業界の製造業者組合の自主規制を順守した0.4J(ジュール)をきちんと守ったためだ。実は他社の銃は0.4j以上だったのだ。

 当時の話を聞くと、「試射を川辺でしたそうです。対岸に向かって銃を撃ってね。規制を守った『FA-MAS 5.56F-1(ノンHOP)』では弾が対岸まで届かない。ところが他社の商品の弾はバンバン対岸まで届くわけです。何だこれはと」。当時から受け継がれている話を島村氏は語った。

 東京マルイはその後、1992年に「M16A1」や「MP5A5」、「MP5A4」を発売した後、次なる秘策「HOPシステム」を搭載した電動ガン「FA-MAS SV」を発売する。弾に逆回転を加えることで揚力を生じさせるHOPシステムは弾の飛距離を伸ばす。

 現在のエアソフトガンでは当たり前のように入っているシステムだが、この時代でこのシステムを最初から組み込んだものはなかった。電動ガン「FA-MAS SV」はホップシステムの有効性を証明する商品となったのだ。電動ガン「FA-MAS SV」は、「まっすぐ飛び、良く当たる」商品として大きなヒットとなった。結果、サバゲフィールドでホースの無い電動ガンで身軽に走り回る姿が当たり前になるのである。

 電動ガン「FA-MAS SV」は性能の高さで業界に大きな衝撃を与えた。そもそも当時サバイバルゲームで使われていたガスガンは、知識の無い人が、買ってすぐの状態で誰でもが楽しめる物では無かった。弾を飛ばすには改造や改良が前提であり、商品の値段そのものを超えるような高価な改造パーツを組み込まなければならなかった。それはそれで楽しいホビーではあるが、敷居の高さは否めない。

 ところが東京マルイの電動ガンは買ったままできちんと動き、さらにフルオート/セミオートの切り替えが完全に行なえた。当時の連射可能なガスガンはフルオートオンリーだったのである。改造なしで東京マルイの電動ガンを持ったライトユーザーの参入は、エアタンクとガスガンで戦っていたサバイバルゲームの景色を過去のものとした。電動ガンはサバイバルゲームのスタンダードとなるのである。

【電動ガン「M16 A1 ベトナムバージョン」】
「M16 A1 ベトナムバージョン」こちらも改良が加えられたものだ

 そして2007年、東京マルイは「次世代電動ガン」で再びエアソフトガンファンに大きな衝撃を与える。しかしこの「反動を楽しめる電動ガン」が生まれるのは「銃刀法の改正」という大きな要因があった。

 2006年に公布された改正銃刀法では、「圧縮した気体を使用して弾丸を発射する機能を有する銃のうち、内閣府令で定めるところにより測定した弾丸の運動エネルギーの値が、人の生命に危険を及ぼし得るものとして内閣府令で定める値以上となるものをいう。以下同じ」という一文がある。つまり、エアソフトガンで打ち出す弾の初速の上限が法律で規定されたのだ。

 そもそもこの法律ができる原因となったのは改造パーツなどを組み込んだエアソフトガンを私用して犯罪を犯した人がいたことが起因である。「パワーアップ」、「改造」というのは個人レベルでの楽しみの範疇ではあったが、限度を超えたパワーアップ、さらに犯罪を犯すものが現われたことにより、ニュース等でも大きく取りあげられ、エアソフトガン業界への風当たりも強くなった。

 そして逮捕されたメーカーやショップもあり、業界のイメージは大きく崩れ、エアソフトガンにも「怖い」、「危険」、「犯罪」といったイメージからエアソフトガンの人気も下がってしまった。

 ただ、改正銃刀法が公布される準備期間中に、「このままではエアソフトガン業界がピンチになる」として、内部カスタムに代わる「エアソフトガンの新しい楽しさ」が何かないかと考えた東京マルイが提示したのが「次世代電動ガン」だったのだ。

 銃内部に「ウエイト」を搭載し、それをBB弾発射と共に前後させることで、本物のリコイルを疑似体験できるようになり、さらに暴れる銃をいかに押さえ込んで命中精度を高めて射撃するというリアル感をユーザーに提案したのだ。結果この提案は受け入れられ多くの次世代電動ガンが登場することとなる。

 初のモデル化となった次世代電動ガン「AK74MN」が発売されたのは2007年12月。約300gのウエートが前後に作動する事で振動を感じられる様に設計。その振動で割れてしまうのを防ぐ事も考慮し、金属ボディを採用した。

【次世代電動ガン「AK74MN」】
次世代電動ガン「AK74MN」。東京マルイ初の次世代電動ガン。再販され現在も入手可能だ

 そして翌2008年、真打ちとしてM4の特殊部隊向けモデル次世代電動ガン「SOPMOD M4」がリリースされる。これは“究極のM4電動ガン”を目指した意欲作で、専用バッテリーも開発。マルイ初のオートストップ機能を搭載。レール、レシーバー、バレル、ストック基部はアルミを用いる事で、ホンモノ同様の質感を再現すると同時に、強度が増した事で弾道もより安定している。

【次世代電動ガン「SOPMOD M4」】
次世代電動ガンの真打ちとして登場した「SOPMOD M4」

 次世代電動ガン「SOPMOD M4」の価格は54,800円(税別)と、スタンダード電動ガンの「M4」34,800円(税別)より20,000円高額となったが、サードパーティ製の金属フレームが20,000円以上だった事を考えれば、オートストップシステムも入ってむしろ安価なのだ。こうして東京マルイは価格、安定性、という信頼を得た上で次世代という“楽しさ”をもたらし多くのユーザーを獲得した。現在のサバゲーの景色は、東京マルイの商品が実現したと言っても過言ではないだろう。

【「エアソフトガン超入門」 次世代電動ガンならではの楽しいリコイル】
射撃することで島村氏の腕が震えているのがわかる。この反動の楽しさが、電動ガンに新しい価値観を生まれさせたのだ