インタビュー

プラモデル「機首コレクション VF-25F」開発者インタビュー

河森正治氏のアップデートされた“最新のVF-25像”を反映

 高久氏は「人と対比できるサイズでの航空機モデルを作ることができたと思います」と言う。1/20というサイズで、フィギュアプラモデルと並べる時、ランディングギアの高さ、戦闘機に乗り込む時のタラップの必要性、コクピットの狭さ、様々なことが"実感"できる。完成品モデルの中には1/18といった大サイズの商品もあるとのことだが、航空機モデルでは1/72が主流で、大きなサイズでも1/32~1/24だ。1/20にすることで改めて「航空機の実在感」を実感できる。そういう商品を実現できたことには満足感を感じているとのこと。

 実はVF-25に関しては"実物大モデル"が東京スカイツリーのソラマチ8階にある千葉工業大学 スカイツリーキャンパス AreaII惑星探査ゾーンに、機首とガウォークの腕が実物大モデルとして展示されているのだ。「機首コレクション VF-25F」開発にあたり、この実物大モデルは大いに参考にしたという。

「マクロス」の中心人物である河森正治氏。写真は2019年の河森正治EXPOの時のもの

 実は「マクロス」シリーズの各種商品は河森正治氏の考え方で、あえてアニメ設定を忠実に立体化することだけが正しいと決めきっていない部分があるという。公式できっちりと決められたものではなく、プラモデルなどの商品化の際、収納脚の内部デザインや、コクピットなど細かいところは商品ごとに河森氏のアイディアで"更新"される場合がある。

 それが河森氏の設定との向き合い方の1つだというのだ。例えばVF-1もTV版と劇場版では様々なデザインやディテールが異なるが、映像化、商品化の度にブラッシュアップし続け、変化し続ける河森氏の取り組み方があってこそ。河森氏自身そこに面白さを感じているとのことだ。あえて河森氏自身が決まった形を提示しないことで、スタッフや、商品開発者が考察し、河森氏の監修の元そのときのバルキリーを作る、そういう考え方を持っているとのことだ。

 VF-25に関しても、実物大モデルを作るにあたってコクピットのデザインが再考されている。アニメでのコクピット内部を描くための設定はあるが、外観のように3SCGがあるわけではない箇所も多い。そのうえで参考になったのは"EXギアを装着した形でのコクピット"というシチュエーションだったとのこと。

 VF-25やVF-31といった可変戦闘機では、パイロットはパイロットスーツに加え、"EXギア"という外骨格型パワードスーツを装着している。このEXギアはコクピットに装着されることで操縦装置になる上、パイロットの姿勢などをダイレクトに伝え、細かな操作を可能にする。また耐G装置として機能し、緊急時は単独で飛行可能な脱出装置ともなる。「機首コレクション VF-25F」のコクピットは、スカイツリーの実物大同様、このEXギアが装着された状態でのコクピットとなっているのだ。

「実物大VF-25」も参考にしたコクピット表現。モニタにはシールが使用される予定だ

 また、この実物大モデルを作ったスタッフ達と竹下氏、高久氏は親交が深く、作った際に得た知見や、実物大のコクピットで活かした航空機の知識、メカとしての実在性、実用性なども意見交換し、「機首コレクション VF-25F」開発に活かしていったとのこと。「立体物は絵画的な嘘がつけません。だからこそ様々な資料や解釈を当たった上で、整合性を考えての設計となりました」と竹下氏は語った。

 もちろん「機首コレクション VF-25F」も河森氏に何度も見せ、修正や提案を受けている。高久氏は「1/20スケールだからこそのこだわりがあった」と語る。1つめが「機首上面の微妙な角度」。先端のコーン部分に"折れ角"が設定されており、はっきりとラインが下に折れ曲がっている。これはこれまでのVF-25では設定されていなかった要素だ。

 「1/20だからこそできる表現ですよね。1/72だとこの微妙な角度を表現しても、わからない。キャノピーの周りにセンサーが埋め込まれていますが、このセンサーは出っ張っているのか、引っ込んでいるのか、そういう表現もできるようになった。『1/20サイズで作れたこと』に対して河森さんが一番ビビッドに反応して頂けたと思います」と高久氏は語った。

赤丸で囲った部分が河森氏がこだわった機首部分の折れ角。矢印も入れて補足してみた。このサイズでなければ表現できない要素だ
センサー周りも細かい考察が盛り込まれたという

 1/20で表現することで、これまでの設定では足りないところもあるし、このサイズの立体物を目にしたことで新たなアイディアも生まれる。河森氏がそこに”気づいた”のは企画者としてはかなりプレッシャーで、だからこそ楽しい体験だったという。実機の微妙なニュアンスも、小さいスケールモデルでは表現しきれない場合がある。河森氏は実際の航空機、戦闘機も間近で見た経験がある。そこで得た知見、感触をこの1/20に活かしたい、そう考え、様々な意見をしてくれたのだ。

 竹下氏が指摘した本商品の注目ポイントが「バブルキャノピー」。VF-25やVF-31はキャノピーが側面がわずかに膨らむバブル(泡)のような形状になっている。これまでの立体物では省略されてきた要素だが、1/20だからこそ、バブルキャノピーにしたいと河森氏は指摘した。これは従来の金型からパーツを成型する方法では難しかった。

 高久氏は「VF-1」でバブルキャノピーの成型方法を考えた。多くの航空機モデルのキャノピーは真ん中にパーティングラインができてしまう上、断面が膨らんだバブルキャノピーを表現するためには側面を厚くするためキャノピー越しでコクピットをのぞくとレンズ効果で歪んで見えてしまう。

 そこでキャノピーを上下ではなく前後方向で動く金型金型を設計することで、側面を厚くすることなく、真ん中が膨らんだバブルキャノピーを成型できるようになった。金型の組み合わせでパーティングラインも入らない。「世界のプラモデルメーカーでこのバブルキャノピーの成型方法をできたのは、ウチだけじゃないですかね」とのことだ。

 「この商品ならではというところは色々ありますが、もちろんこれまでの河森さんが監修した商品にはその商品に込められるだけのこだわりが詰まっていて、この商品だけ特別、ということはないと思います。ただ、このサイズだからこそできる表現や、このサイズだからこそ生まれるフェティッシュな想いというのを込めて頂いた。"現在の河森さんの考え"が詰まった商品になりました」と高久氏は語った。

側面が膨らんでいるバブルキャノピー。金型の設計を工夫することで実現できた
最初に製作した3Dプリンタによる試作品
比べることで、開発スタッフや河森氏のこだわりで、「可変戦闘機の実在感」を求め、大きくブラッシュアップされているのがわかる

 例えばVF-25はそのデザインを発表してから12年たっている。その間も河森氏は知識をアップデートし続けているし、航空技術も進歩している。VF-25のデザイン自体も河森氏の頭の中では12年前で固定されておらず、「実はここはこうなっていたのではないか?」、「最新の技術を考えればここの形状はこうなっているはずだ」というように変化している。それは最初のVF-1から最新のVF-31もすべてだ。そういった話を河森氏自身から聞くことができる。それは竹下氏にも、高久氏にもとても楽しい体験だったとのことだ。そしてその河森氏の思いを濃密にうけて、「機首コレクション VF-25F」は開発されていったのである。

 前述したとおり、VF-25やVF-31は公式のCGデータがある。そのまま3Dデータを出力すれば「公式の設定通りのプラモデルです」ということも可能だ。しかし河森氏の想いはもちろん、高久氏、竹下氏の航空機、戦闘機、可変戦闘機への想いがある。「コクピットに人が座るとしたらこうなっているのでは?」、「全体のシルエットではなく、機首だけにした時に求められるカッコ良さは?」など、理屈だけでなく、ロマンの部分も突き詰めての製作となった。「ディテール表現は設定画に準拠している」ということではあるが、このサイズだからこそ生まれる理想、新たなイメージ、整合性のあるデザインなど、様々な想いを活かしたモデルなのだ。

 3ページ目は「マーキングやランディングギアなど、より細かいこだわりに迫っていきたい。