インタビュー

プラモデル「機首コレクション VF-25F」開発者インタビュー

これまでにないバルキリー、戦闘機プラモデルを実現

 「機首コレクション VF-25F」の情報量をグッと増しているのがマーキング。全体に細かなマーキングが描かれているが、「戦闘機のマーキングは文字の高さが何インチ」というのは決まっており、そこから逆算して設計されている。これはアニメや、マクロス関連の資料でも共通しているという。

 「機首コレクション VF-25F」は設定上のマーキングに加え、さらにマーキングを足している。それは「戦闘機として必要なマーキング」として突き詰めたもので、イラストレーターであり、メカニックデザイナーである天神英貴氏もマーキング設定は参加している。

デザイン的なバランスも考え、天神英貴氏の協力の下設定したマーキング。現在はまだ仮のもので、今後さらにブラッシュアップするという
マーキングは水に濡らさなくてはいけないでカールではなく、直接台紙から剥がせるシールとなる

 天神氏はこれまでも「マクロス」関連のイラストや設定、商品のボックスアート、さらにアニメ「マクロスΔ」では「マクロスビジュアルアーティスト」として作品に参加している。本商品のマーキングに関しては戦闘機としてのリアルを突き詰めるだけでなく、"デザインとしてのカッコ良さ"も考えたものとなっているとのことだ。

 1/20サイズならではの表現としての"整合性"という意味では、コクピットを包む壁の厚みは特に見て欲しいと高久氏は語った。これまでの立体物ではサイズ的な理由でもどうしても省略される部分だが、パイロットと外気を隔て、キャノピーをしっかりロックするためにも、コクピット周辺の構造には厚みがあるのだ。「機首コレクション VF-25F」では、戦闘機としてしっかり厚みのある構造を再現できた。実在の戦闘機のコクピットを見た時の、コクピット周りの縁の厚みをしっかり表現できたのは、注目ポイントとのことだ。

 この大きな機首モデルをしっかり支えるのがランディングギアだが、中心に金属シャフトを使っている。このアイディアは「VF-1」の設計から活用したものだが、この金属感がシリンダー部分に独特のリアリティを与えていて楽しい。ランディングギアの表現、脚を格納する内部の表現は"メカ描写"のい楽しい場所だ。この大きなランディングギアはフィギュアプラモデルの対比としても面白い箇所である。

高久氏が特に見て欲しいと語るコクピット側面の装甲の厚み。この厚みがあるからキャノピーをしっかりロックできるのだ
大型モデルをしっかりと支える金属シャフトを柱としたランディングギア。収納部分のディテールもしっかり入っている

 一方で筆者が気になったところは「パイロットフィギュアを乗せなかったところ」。「マクロス」シリーズは恋愛ドラマも大事な要素であり、バルキリーはそれぞれの機体に乗り込むパイロットによってしっかりしたキャラクター性を獲得する。しかし、あえてパイロットを乗せない設計にしたのはどうしてだろうか?

 まず1つめは「キャラクターはそれぞれ体形なども違うので1つ1つ用意するとコストが上がってしまう」という問題。キャラクターがいると台座に配置するプラモデルフィギュアとの関係も大きくなるし、コクピットにいるキャラクターは「操縦している」、「駐機中である」という状況が固定されてしまう。「可変戦闘機とヒロイン」といういろいろなイマジネーションが広がる本商品のコンセプトが狭められてしまう、という想いがあったとのことだ。

 もちろん、ユーザー自身がパイロットとヒロインのドラマとして「機首コレクション VF-25F」をぜひ使って欲しいと高久氏は語った。「VF-31」の場合は、パイロットスーツを着たフィギュアプラモデルとしては「PLAMAX MF-46 minimum factory ミラージュ・ファリーナ・ジーナス」は販売されているので、彼女のプラモデルを改造すればコクピットに座らせられる。キャノピーを開けた状態にするのも改造すれば可能だ。しかし、送り手側としては、イマジネーションを固定化させず、ユーザーの創造力が広がるようにしたかったとのことだ。

 パイロットフィギュアを入れなかったのは「間口を広げたかった」という想いもあると高久氏は語った。「機首コレクション VF-25F」から始まるこのシリーズはそういった組み立てのストレスをできるだけ減らし、複数組み立てて欲しい、というのが大きなコンセプトである。例えばワルキューレと並ぶためにVF-31を5体作るとなると、パーツ数はできるだけ減らしたいし、作業も軽減したい。このためパーツの色分けも工夫し、組むだけでも機体の雰囲気が出るようにしている。

ほぼ同時に開発が進められている「機首コレクション VF-31J」。並べるとデザインの違いがわかる

 マーキングも水に濡らしてから貼る「デカール」ではなく、直接台紙から剥がして貼り付けられる「シール」だ。プラモデルを組み立てた経験が少ない人でもコレクションして欲しい、という想いがあるからこそ「機首コレクション VF-25F」から始まるこのシリーズは、組み立てやすさを大きなセールスポイントにしたいとのことだ。

 「パイロットフィギュアをつける、キャノピーを開閉の選択式にする……。『機首コレクション VF-25F』はあえてそういう選択の幅を狭くしているところがあります。できるだけシンプルに、作りやすくする。それはユーザーさんが買って満足して、組まずに置いておく、というのを避けたいと思ったんです。誰でも気軽に組み立てられるそういうプラモデルにしたかったんです」と高久氏は語った。

 もちろん、ユーザーがこだわろうと思えばどこまでもこだわれる。塗装、コクピット周りの表現、パイロットフィギュア、モデラーならば電飾だって仕込めるだろう。そういったこだわりの改造ができる"素体"としても魅力的なプラモデルになっている。1/20という大きさは、ギミックなどを仕込める余裕もある。これまでの飛行機プラモデルではできなかったアイディアを盛り込むこともできる。モデラーへの"提案"としても「機首コレクション VF-25F」は魅力的な商品だと、竹下氏は指摘した。

 「どう遊ぶか、どう飾るか、こちらとしてはまず組み立てやすく、イメージが膨らみやすく作りました。これをジオラマに利用しても良いと思いますし、そのまま飾っても良い、手にもって遊んでも良い。戦闘機のプラモデルとしてとてもユニークな形と、表現ができたと思っています。いろいろな遊び方を考えて欲しいです」と高久氏は語った。

 「マクロス」は数社合同の共同プロジェクト「マクロスモデラーズ」を2015年から展開しており、今も隔週での番組を配信している。プラモデルコンテストなども開催されているが、「マクロス」は「歌」、「三角関係」、「バルキリー(可変戦闘機)」が大きな要素だが、立体物だと「キャラクターフィギュア」、「バルキリーの立体物」にどうしてもわかれる傾向がある。それはやはり大きさが違い、ふたつの要素が同居する表現が難しかったからだ。

 竹下氏、高久氏が「機首コレクション VF-25F」を提案したのは、キャラクターとバルキリーが同一に立てる要素を提示したかったからだという。マクロスならではの3つの要素を活かしたプラモデル作品をもっと見たい、そういう思いがこの企画の原動力だと高久氏は語った。

こちらも今後発表予定の「YF-29」
「PLAMAX」シリーズのキャラクターを並べることでドラマが生まれる。特に「ミラージュ」はVF-31のパイロットスーツを着ているので、改造の素体としても活用できる

 今後の展開としては、今後の発売予定として、「機首コレクション VF-31J」が予定されている。比べると大きくデザインが違う。VF-25とVF-31は作業としては同時に進めており、成型色を変えることでバリエーション展開をしていく。一部彩色を施し、組み立てやすさを優先するという思いは実現したいとのこと。「YF-29」も設計を進めているとのことで、今後の展開を期待していきたい。

 今後というところでは、「マクロス」における権利関係が整理されたことで、「機首コレクション VF-25F」は海外に展開する「マクロス」プラモデルの第1弾になるということだ。国内のユーザーはもちろん、海外のユーザーの反響にも期待しているとのことだ。

 ファンへのメッセージとして高久氏は「ぜひ、"コレクション"してください。そのためにパーツ数を抑え、作りやすさも考えました。価格も頑張りました。1つ買って終わりじゃなくて、並べることで生まれる景色、雰囲気を楽しんで欲しいです。そして繰り返しになりますが、キャラクターと機首が並べられる、『人と飛行機』という『マクロス』の面白さを実感できる商品です。この商品で、『マクロス』の持つ面白さを、ぜひ表現してください」と語った。

 竹下氏は「やはりスケールを活かして、フィギュアプラモデルと組み合わせて欲しいです。モデラーにとっては"キャンバス"になる商品だと思います。活用して頂きたいです。価値観を固定せず、大いに広げて欲しいです」と語った。

竹下氏と高久氏の強いこだわりの一端を聞くことができた

 とてもグッと来る話だった。筆者はバルキリー(可変戦闘機)のファンであり、「DX超合金」など関連商品を集めている。そのうえで「これまでにないアプローチでバルキリーを表現する」という本シリーズはとても興味が惹かれた。組み立てやすさ、集めやすさを強く意識しているというところも気になる。ぜひ開発者のこだわりを組み立てることで体感してみたいと感じた。