インタビュー

トミカで街を学び、サンリオキャラで星や科学に興味を持つ、マクドナルドの「ハッピーセット」に込めた想い

【ハッピーセット「トミカ」】

【ハッピーセット「サンリオキャラクターズ」】

第1弾:4月15日~4月28日

第2弾:4月29日~5月12日

第3弾:5月13日~

価格: 470円~500円(税込)

 日本マクドナルドの「ハッピーセット」は現代の"おもちゃ"を語る上で見逃せない商品である。ハンバーガーなどの食べ物と選べるサイドメニュー、飲み物とおもちゃのセットで500円(税込)。価格も手ごろでおもちゃがついてくる。おもちゃもバラエティ豊かで、しかも様々なキャラクターとのコラボレーションも行なっている。

 弊誌では毎回このハッピーセットを取り上げている。どの商品もユニークなコンセプトに加え、様々なアイディアが詰まっており、IPの魅力に頼りすぎない「遊んでもらおう」という企画開発者の意欲を感じられる商品である。今回、ハッピーセットの企画開発を担当する日本マクドナルド マーケティング本部ナショナルマーケティング部マネージャーの佐賀貴氏にインタビューをを行なった。

 ハッピーセットはどのような想いで企画されているのか、子供達を飽きさせないどんな工夫をしているのか? 今回、改めてハッピーセットを企画する開発者の想いを聞いてみた。ハッピーセットの魅力を確認できるインタビューとなった。

日本マクドナルド マーケティング本部ナショナルマーケティング部マネージャーの佐賀貴氏

2021年より導入された"フィロソフィー"を考えたおもちゃとは?

 ハッピーセットは前身となる「お子さまランチ」として1987年からスタート、1992年より「ハッピーセット」という名前になった。そのコンセプトは「お子様におもちゃを届けることで、より食事を楽しんで欲しい」というものだ。その根底の想いは現在も変わることなく継続しているという。

 「ひょっとしたら導入当初は『食事中におもちゃをいじるなんてお行儀が悪い』という意見もあったかもしれませんが、おもちゃがあることで"食体験"を楽しんでもらおう、というのがこちらの願いでした。ハッピーセットが生まれて30年以上、ハンバーガーという食文化そのものの普及にも貢献したのではないかなと考えています。ある意味、それまでの固定概念に囚われない『おもちゃと食事のセット』というスタイルを提示できたのではないでしょうか」と佐賀氏は語った。

 昨今のハッピーセットは年間1億食という売り上げになっているという。通常のおもちゃの1商品の出荷は数千から数万という規模であることを考えると、玩具業界においても注目すべきおもちゃブランドと言える。ハッピーセットが購入するおもちゃの中心、という家庭も少なくないのではないだろうか。

 そのハッピーセットが昨年から新しい開発方針を導入したと佐賀氏は語った。キーワードは「フィロソフィー」。フィロソフィーは哲学と訳されるが、この言葉は元々はギリシア語の「知恵(ソフィアsophia)」と「愛している(フィロス philos)」を合成したもの。子供達の好奇心を刺激し、“遊び”や“体験”を通じて子供たちの成長と発達に貢献することを開発方針とした。

2021年1月のハッピーセット「おさるのジョージ」の「ジョージのシーソーあそび」。ここから子供の発達支援の専門家がおもちゃ開発に携わっている。歯車のギミックなど知る楽しさを刺激するギミックが盛り込まれている
同時発売のハッピーセット「すみっコぐらし」の「しろくま」こちらはパズルが楽しめる。裏表で絵柄が違っていたり、紙のおもちゃであるなどこちらも新しいアイディアが盛り込まれている

 「これまでは子供に人気のおもちゃ、キャラクターを起用しても『子供の成長にどのように貢献できるか』という理念の部分でまだ考えられていないところがありました。私たちは子供の将来、未来をしっかりサポートしていきたいという想いで、成長、発達に貢献できるようなおもちゃを開発していきたい。そのように開発方針を変えることを決断しました。年間1億個も子供達の手に渡るおもちゃだからこそ、子供達の成長や発達に何か手助けができるのではないか、我々の目標に近づけられるのではないかそう思っています」と佐賀氏は語った。

 子供達の好奇心を刺激する、という要素は玩具業界においては大きな需要がある。ひらがなや算数の基礎、プログラミングなど遊んで学べる「知育玩具」というジャンルがある。しかしハッピーセットのおもちゃは知育玩具ではないと佐賀氏は強調した。ここにはおもちゃ開発のこだわりを持っている。

 知育玩具は親が子供に「この勉強をして欲しい」という願いと共に買い与える「勉強道具」だ。おもちゃの形はしていても、その目的は学習にある。ハッピーセットのおもちゃは、あくまで遊ぶためのものであり、その遊びを通じて、様々なことを学んで欲しい。主な目的は"遊び"であり、その遊びを通じて色々なことを子供が自発的に学んでいき、知識を増やして欲しい、そういう願いと共に開発された玩具である。知育玩具ではなく、あくまでおもちゃであることが大事だ。

 知育玩具は大人の理屈で勉強に遊びの要素を盛り込むものだが、ハッピーセットは遊びの先に成長や発達がある。そのためのおもちゃを考えていきたい。大人の理屈ではなく、子供の好奇心、知識欲求に応えたいという想いがある。そのためのおもちゃを開発していくのがハッピーセット開発チームだ。

 「子供の遊びが学びに繋がる。このことを考え提示していくのが我々の社会的責任の1つでもあると考えています。ハッピーセットはいわば食品のセットの"おまけ"ですが、開発側はそのおもちゃに強い想いを込めて開発しています」と佐賀氏は語った。

 「おもちゃ開発というのは、ファストフード・レストラン・チェーンであるマクドナルドとしてはちょっと他の業務と違う仕事なのでは?」という質問をしてみたが、佐賀氏は『楽しい食体験を提供する』、という根本で同じです」と答えた。パッケージ製作、店舗設計、流通、店舗スタッフ、食品開発などマクドナルドは様々な業務・分野があるが、目的は「お客様の楽しい食事」でありすべてはそこに繋がっている。

 多彩な業務によってその対象となるターゲットも異なる。その中でハッピーセットは"子供"に向けたおもちゃ開発に特化している。その視点はもちろん子供のみにとどまらずその子供を支える"家族"をターゲットとしている。

 ハッピーセットは基本は1度の販売で2つのIPを扱い、それぞれ6~8商品ほど(シークレットがあるとそれぞれ1商品追加)のラインナップを提示する。これらのおもちゃはおよそ1年ほどの期間で開発されるとのこと。現在は2023年の商品のプロジェクトが進み始めていると言うことになる。

 この開発期間には「子供に遊んでもらう」という調査も行なわれている。母数はそれほど大きくはないが、数人の子供と親がハッピーセットに触れる機会を作り、その子供と親の意見でアイディアの取捨選択や、仕様の検討なども行なっているとのこと。遊びやすく、わかりやすいおもちゃを作るためには、子供自身の意見は重要だ。そして子供にどう遊んで欲しいか、どんなおもちゃが好ましいか、なによりも楽しく遊べるのか? もちろん親の意見もきちんと参考にすることで、親が安心して子供に与えられるおもちゃを作っていくことができる。

 ハッピーセットのおもちゃのメインターゲットは3歳から8歳まで。この年齢の幅だと遊ぶおもちゃへの興味も遊び方も大きく違う。このため幅広い層の意見も聞き、バランスを考える必要があるという。そのうえで佐賀氏がハッピーセットのおもちゃ開発において重要としていることは何か? という筆者の質問に佐賀氏は「キャラクターのアイディンティティーをしっかりと汲み取る」ということだと答えた。

 「ハッピーセットの長い歴史では失敗の経験もあります。IPの最も重要なところ、お客様が求めているところをちゃんと押さえなければならないというのは、過去色々な商品を作ってきた経験からの想いです。IPのアイディンティティー、世界観をしっかりおもちゃで実現していくというのが大事にしていることの1つです」と佐賀氏は語った。

 子供の成長は早く、価値観も大きく異なってくる。個人でも大きく異なる。ハッピーセットは1期間で12~18種類のおもちゃを展開、年間で約15回ほどもハッピーセットを販売する。低年齢層の子供に受けるキャラクター、就学児の子供が好きなキャラクター、さらに同じキャラクターを扱っていても遊び部分で差別化したり、"幅"を持たせている。

 もちろん子供だけでなく、親の満足度も重要だ。子供が楽しくおもちゃで遊ぶ。そのおもちゃをきっかけに好きな物、興味のある物がはっきりと親に伝わる。ハッピーセットのおもちゃそのものに親が興味を持つ。こういったサイクルがあるからこそリピーターが生まれる。親と子供両方が楽しめるおもちゃを目指して開発を行なっていると言うことだ。次ページからはこれらのコンセプトが最新商品にどう活かされているかを見ていこう。