インタビュー
トミカで街を学び、サンリオキャラで星や科学に興味を持つ、マクドナルドの「ハッピーセット」に込めた想い
2022年4月14日 00:00
遊びをもっと肯定的に! ハッピーセットのこれからの課題
筆者自身は「ハッピーセットのおもちゃ」に触ったとき驚いたことがある。「トミカ」の名前を冠したハッピーセットには本当にトミカのダイキャストのミニカーがついてくると思っていたのだ。「トミカ」は日本を代表するミニカーブランドであり、手のひらよりも小さい大きさながら、ダイキャストで車体が作られ、各車のディテールを精密に再現している。
一方、「ハッピーセットのトミカ」トミカより大きく、材質も樹脂製のオリジナルだった。ディテールなどはかなり作り込まれているが、やはりトミカよりシンプルだ。その他のおもちゃ、例えば「シルバニアファミリー」といった、おもちゃのブランドがついていても、それはハッピーセットならではの商品なのである。特におもちゃのIPに対し、ハッピーセットはどういうスタンスなのだろうか?
「ハッピーセットのトミカは材質が違います。しかしながら、ハッピーセットと「トミカ」は『車ってどんな形をしているんだろう?』、『どうやってタイヤが回ってるんだろう?』、『どんな種類があるんだろう?』という子供の興味に答えるという点において、トミカが表現しているテーマと、私たちのハッピーセット『トミカ』は同じであり、そこが重要ではないか、そう考えています。他にも例えば『シンカリオンZ』は新幹線からロボットに変形する。こういった子供が求めるおもちゃの本質を外さないように作っています」と佐賀氏は答えた。
もちろんトミカに限らず、「どのように楽しく遊べるか」が一番重要だというのは、これまでのユーザーからの意見によるデータからはっきり出ているという。IPへのリスペクト、本質の表現をきちんと追求しながら、一番重要視するのは"遊び"だ。その楽しく遊ぶ風景は子供自身だけでなく、親の評価も上げるということだ。
この遊びを重視する姿勢は佐賀氏達日本マクドナルドの方針だ。マクドナルドは世界でハッピーセットを販売しているが、どのようなおもちゃを販売するかは各国の担当者が決める。グローバル的には"フィギュア"タイプのおもちゃが多いとのこと。日本のおもちゃは精巧にできているし、遊びを前面に出す商品も多い。文化の違いや、普段触れるおもちゃというものの認識も違うのかもしれないが、フィギュアではどのように遊べるかを提示しづらい。よりフィロソフィーを子供達に感じてもらえるおもちゃを出していきたいというのが佐賀氏の考えだ。
その佐賀氏がトイフィロソフィーというテーマを持たせたこの1年のハッピーセットのおもちゃで特に印象に残っているおもちゃは何だろうか? 佐賀氏はトイフィロソフィーをテーマに掲げ、子供の発達支援の専門家がおもちゃの開発から携わって作られたおもちゃの第一弾にあたる2021年1月に発売したハッピーセット「おさるのジョージ」、ハッピーセット「すみっコぐらし」を挙げた。新しいおもちゃとしてアイディアを練ったのはもちろんだが、ハッピーセット「すみっコぐらし」は"ペーパートイ"であるところも"これからのおもちゃ"を提示できたと考えているという。
現在、世界的に「プラスチックから紙へ」という考え方がある。ペーパートイはこの考えに応えたものであるという。紙のおもちゃがユーザーにどれだけ受け入れてもらえるかという点でもチャレンジだったとのこと。紙のおもちゃの代表的な物でパズルがある。ハッピーセット「すみっコぐらし」はこのパズルで様々なキャラクターを表現するだけでなく、裏表で違う絵柄が楽しめたり、ピースの形にハートを盛り込むなど、従来のパズルを発展させるようなアイディアを盛り込んだ。持ち運びや、何度も遊べる耐久性など、様々なポイントを検証した。
このハッピーセット「すみっコぐらし」は開発側が予想した以上の好評を博し、売り上げも好調だった。「紙だからダメ」という意見はなく、「何回も遊べる」、「かわいらしい」、「持ち運びやすい」といった開発側が工夫したポイントがきちんと評価されたことも嬉しかったと佐賀氏は語った。
ハッピーセット「おさるのジョージ」に関してもギア(歯車)を遊びの中心に据えるというユニークなアプローチを行なっている。新しい遊びを見せることができ、子供達の想像力を膨らませるおもちゃになった。ユーザーからの評価も高く、こちらも手応えを感じたとのこと。
ユーザーである子供達は、時には開発側が驚かされるような遊び方をすることがある。フィギュアタイプのおもちゃを他の自分が持っているフィギュアと組み合わせ、「学校の先生ごっこ」をしたという感想に、佐賀氏はかなり驚き、印象に残っているとのこと。開発側の想定を越える遊び方だが、おもちゃの可能性の1つだ。今後も様々な可能性を探っていくという。
環境への取り組みは今後さらに大きくしていく。プラスチックから紙へ、という方針は今後より注力していくし、リサイクル可能な素材を使ったぬいぐるみや、使用するプラスチックも植物由来の物の開発を進めるといった取り組みをしている。2025年に向け、環境を配慮した取り組みをさらに加速させていくという。特におもちゃを与える親にとって、安心できる素材という観点は必要だし、今後注目がより集まると佐賀氏は考えている。
ハッピーセットの環境への取り組みで、特に印象に残っているのがマクドナルドが行なっている「おもちゃリサイクル」だ。「おもちゃを手放す」というのは子供にとって複雑な思いもあるとは思うが、実際には飽きてしまうおもちゃ、いらなくなるおもちゃという物は出てくる。このおもちゃリサイクルはマクドナルド店内に専用のおもちゃ回収ボックスを設置し、集めたおもちゃをハンバーガーなどを載せるトレイにリサイクルするもの。
「子供は『このおもちゃ捨てちゃおうか』というとすごく嫌がるんですが、『マクドナルドに持って行くと、このおもちゃがトレーに変わるんだよ』というと持ってきてくれる、という声が何件もあります。マクドナルドでは実際に緑のトレーがそのリサイクルされた物として確認できる。ただ捨てるのではなく、生まれ変わるというイメージが、子供の中でプラスになっているのだと思います」。マクドナルドでは「トレーに生まれ変わる」という具体的な"ストーリー"を提示でき、具体的に生まれ変わったトレーを見せることで、子供達の協力を得られたのではないかと佐賀氏は語った。おもちゃリサイクルはかなり好評とのこと。
このリサイクルプロジェクトの前身の取り組みで、おもちゃの回収が始まったのだが、スタート時点では回収はあまり進まなかった。しかし、マクドナルド側でこのプロジェクトを評価し、改めておもちゃの回収プロジェクトを環境省と共にスタートさせ、その際に「トレーに生まれ変わる」というスキームを開発し、そのストーリーを提示したところ、子供達の反応が大きく変わった。以前は期間限定だったが、現在は年間を通じてのおもちゃの回収、トレーへの再生を行なっている。おもちゃに限らず現在リサイクルは様々な分野で行なわれているが、マクドナルドは各店舗で、子供にもわかりやすく具体的にイメージを提示できていることが、大きな反響を得られたのではないかと佐賀氏は考えている。
これからの課題として佐賀氏は「トイフィロソフィーのさらなる認知」を挙げた。2021年1月よりスタートした「遊びを通じて成長や発達に貢献できる楽しさ」がまだ親への認知に繋がっていない。ひょっとしたら「ハッピーセットのおもちゃに学ぶ楽しさまで期待していない」、「マクドナルドがいきなり教育と言っても……」といった保護者のイメージはまだあるかもしれない。そう言う意味で、今後は保護者に向けたアピールも必要ではないかと思っており、「遊びが発達に繋がる」ということをどうやって認知してもらうか、模索をはじめているという。
「おもちゃだけでなく、例えばゲームでも学べること、好奇心を刺激させられ、様々なことを知りたいと思うきっかけになると思います。遊びをもっと肯定できる世の中の雰囲気作りを様々な業種とやっていきたいと思っています」と佐賀氏は語った。
だからこそ佐賀氏達開発チームが作るものは「アイテム・道具」ではなく、「おもちゃ」なのだという。あくまで本質は"遊び"にあり、子供達に楽しい時間を提供することこそがその存在理由だ。「どう遊べるか、どう遊んでもらえるか」に重きを置き、その遊びを通じて様々な物に興味を持ったり、人の関係性を考えたりなど、自分から学ぶ楽しさを感じて欲しいというところが、ハッピーセットのおもちゃの目指す方向性だと佐賀氏は重ねて強調した。
佐賀氏はユーザーへのメッセージとして「マクドナルドは家族の幸せと未来を担う子供達の健全な発達をサポートすることを目指しています。担当者は思い入れを持っておもちゃを開発しています。子供や家族が喜ぶ顔を想像して幸せになってもらうためにおもちゃを作っています。ハッピーセットや食体験を楽しんでいただきたいと思っています」と語った。
「なぜマクドナルドでおもちゃを販売するのか?」、今回のインタビューでは改めてこの疑問に対しての回答を得られたと思う。そして「何よりもまず楽しく遊んで欲しい」というハッピーセットのおもちゃのメッセージはおもちゃの本質、遊びの可能性を問うものだったと感じる。
年間一億食以上という販売個数はおもちゃ業界でもかなり大きな数字であり、その存在感は大きい。子供達の「お気に入りのおもちゃ」にハッピーセットのおもちゃを選ぶ子供達も多いだろう。そのおもちゃに明確に"フィロソフィー"という考えが盛り込まれているというのは興味深い。今後のレビューなどにもハッピーセットが提示する"知る楽しさ"という考え方は活かしていこうと思う。
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