インタビュー

「MS Li-Po バッテリー」開発者インタビュー

保護回路で高い安全性を確保、エアソフトガンの未来を担う中心アイテムに!

【MS Li-Po バッテリー 7.4V 1500mAh[スタンダードタイプ]】

5月17日 発売

価格:8,580円

【MS Li-Po セーフティチャージャー】

5月17日 発売

価格:14,080円

【MS Li-Po バッテリーチェッカー】

5月17日 発売

価格:7,480円

【MS Li-Po セーフティバッグ】

5月17日 発売

価格:8,580円

 東京マルイは「MS Li-Po バッテリー」と、対応アクセサリーである「MS Li-Po セーフティーチャージャー」、「MS Li-Po バッテリーチェッカー」、「MS Li-Po セーフティーバッグ」を5月17日に発売した。

 「MS Li-Po バッテリー」は東京マルイが発売する「Li-Po バッテリー(リチウムイオンポリマーバッテリー)」である。リチウムイオン バッテリーは現在スマートフォンや電気自動車など幅広い分野で使われている。

 東京マルイは本来この「MS Li-Po バッテリー」を2021年7月に発売された「次世代電動ガン MP5 A5」と同時発売を目指していた。しかし実際の発売は2年後、開発にかなり難航したイメージがある。「MS Li-Po バッテリー」のMSは「MARUI SAFETY」の略である。東京マルイの安全規格を採用したLi-Po バッテリーというわけなのだ。この独自規格のバッテリーはどこが優れているのか気になるところだ。

 今回は「MS Li-Po バッテリー」の開発者インタビューとして東京マルイ開発部開発管理リーダーの高島拓生氏と、営業部営業管理リーダー兼マーケティング課長の島村優氏に話を聞いた。インタビューでは「そもそも電動ガンにLi-Po バッテリーを使用するとどのような利点があるのか」と言った基礎的なところから、「MS Li-Po バッテリー」ならではの特性や、各アクセサリーへのこだわりまで様々なポイントを質問してみた。

「MS Li-Po バッテリー7.4V 1500mAh[スタンダードタイプ]】」、5月17日発売、価格は8,580円。ファン待望の東京マルイ純正Li-Po バッテリーであり、今後の電動ガンの未来を語る上で中心といえる製品だ

電動ガンを進化させる「MS Li-Po バッテリー」と対応FET(電子トリガー)

 東京マルイの「MS Li-Po バッテリー7.4V 1500mAh[スタンダードタイプ](以下、MS Li-Po バッテリー)」は、「これからの電動ガン」に大きな変革をもたらす存在となるという。今回、インタビューにあたり、そもそも「Li-Po バッテリー」とは何なのか、それを使うことで電動ガンがどう変わるのか? そういった基礎的なところも含めて質問してみた。

  「実はホビー関連でもLi-Po バッテリーが普及してきたのは10~15年ほど前からなんです。従来のニッケル水素バッテリーより性能が向上する。軽くて小さく、バッテリーの持ち、瞬間的なパワーも強いんです。何より冬場が安定してる。特にLi-Po バッテリーを導入しはじめたのはRC業界が早かった。Li-Po バッテリーと対応したブラシレスモーターなどの高性能モーターを使うことで、飛行機や車などで小型エンジンを使っていた機種と遜色ないパワーが出せる電気RCが出てきたんです。特にドローンは4つのローターを動かすので、軽くて高出力なLi-Po バッテリーは必須でした」 と高島氏は語った。

東京マルイ開発部開発管理リーダーの高島拓生氏
"デカ広報"としておなじみのマーケティング課長の島村優氏

 Li-Po バッテリーとは、「リチウムイオンポリマー二次電池」の1種である。電解質にポリマー(重合体)を使用してゲル化したもので、ケースの中にはラミネートチューブに包まれたゲル状の物質がある。このため、ニッケル水素電池などより薄く、ウェハース状に成型が可能で、スマートフォンなど、薄型の電子機器の搭載にも向いている。「MS Li-Po バッテリー」に関しては、東京マルイの既製品バッテリーである「8.4V ニッケル水素1300mAh ミニSバッテリー」より小さくした上で、より高性能なバッテリーとなる。

  「ニッケル水素バッテリーは乾電池のような筒状のセルを繋げてケースに入れています。そこそこの大きさのセルを6本か7本使わないと必要な電力が得られない。一方、Li-Po バッテリーは板状のセルで作るので、小さく作ることができることに加え、形の自由度も高いんです」

 高島氏は「MS Li-Po バッテリー」のメリットの第一はこの"小ささ"であることだと語る。エアソフトガンと実銃の最大の違いはパワーソースである。実銃はカートリッジの中の火薬を爆発させて弾丸を発射するのだが、エアソフトガンは火薬は使えないため、空気を圧縮したり、ガスを噴出したりしてBB弾を発射する。電動ガンの場合はモーターでピストンを動かしバネの力で空気を圧縮、その空気でBB弾を発射するのだ。

 エアソフトガンにおいて「実銃の雰囲気を再現する」というのは重要な要素だ。重さやサイズはできるだけ実銃に近づけ、その雰囲気をユーザーに味わってもらいたい。電動ガンの場合、モーターやピストンを動かすためのギアなど実銃とは全く異なる機構のため、電動ガン開発者はそのスペースを確保するのに苦労している。その中で苦労の大きいものの1つが「バッテリー」なのである。

上が「MS Li-Po バッテリー 7.4V 1500mAh」で、下が「8.4V ニッケル水素1300mAh ミニSバッテリー」。「MS Li-Po バッテリー」のサイズは、98x29x16.5 mm。東京マルイのバッテリーの中でもかなり小型の「ミニSバッテリー」よりさらに小さいが、瞬間的な放電力や、バッテリーの持ちに優れる。FETと組み合わせることで大きな可能性をもたらすバッテリーとなる

 バッテリーは当たり前だが実銃にはない部品だ。しかも他の部品と較べても大きい。このバッテリーをどこに配置するか? 特にハンドガンのようなコンパクトな銃の電動ガンは、これまではスペース優先で低出力のバッテリーを使用していたりもした。「Li-Po バッテリー」の小ささと高出力の性能は、設計の負担を軽くしてくれるのだ。

 「MS Li-Po バッテリー」に対応した電動ガンは「電子トリガー(FET)」を搭載している。FETとはモーターのON/OFFを機械式接点ではなく電子制御で行うので、機械式接点に比べ電気的ロスが少なくバッテリーの力をモーターに無駄なく伝えることができるため、引き金を引いた瞬間に効率よくモーターが動き、BB弾が発射される。結果、瞬間的にBB弾を当てられるようになるのだが、その反面FETがショートすると引き金を引かなくても弾が出てしまういわゆる「暴走状態」になる危険性があった。

 東京マルイはこれまでにも電動ショットガン「AA-12」や、次世代電動ガン「Mk46 Mod.0」といったFETを搭載したエアソフトガンを販売している。これらはFETのショートなどを監視する回路が組み込まれ、安全性に配慮している。加えてFETのメリットは「セミ/フルオート」の撃ち分けにある。機械式の場合、引き金を引いても一発しか弾が出ない単発式と、引き金を引いてる時だけ弾が出る連発式(フルオート)、もしくは3発だけ発射する3点バーストがあり、これらを切り替える機能を実現するためには、専用の機構が必要で、機械の負担やスペースの確保が大きな問題だった。電子制御にすると、回路でこの撃ち分けがより省スペースで実現できるのだ。

 さらに高島氏は技術者ならではの視点で「MS Li-Po バッテリー」とFETを組み合わせることで、「より電動ガンの魅力を向上できる」というメリットを語った。 「電動ガンはギアがピストンを引いてないところで止まってくれるのが理想なんです。従来製品のようにピストンがスプリングを圧縮した状態で止まってしまうと、モーターの回り始めはトルクが弱いため、モーターの負荷が大きくなり動き出しが遅くなります。さらに重りを動かして銃のリコイル(反動)を表現する次世代電動ガンの場合、重りがピストンと連動し、引いてぶつかって、戻ってぶつかる。この2回の反動で、射撃の反動を擬似的に再現するため、スプリングを圧縮した状態で止まってしまうと、引いてぶつかる時の勢いが弱くなってしまいます。しかし、FETを使用することで、モーターにブレーキをかけてピストンがスプリングを圧縮していない状態で止めることが可能となり、『MS Li-Po バッテリー』の高出力と合わせることで十分にモーターが加速し、トルクが出た状態でピストンと重りを動かす事ができるようになるため、リコイルの質を向上させることと、初弾のレスポンスを向上させることができます」 と高島氏は語った。

 現在(2023年7月)、この「MS Li-Po バッテリー」に対応している東京マルイの製品は3機種「次世代電動ガン MP5 A5」と「次世代電動ガン MP5 SD6」そして「電動ガンスタンダードタイプP90プラス」である。「電動ガンスタンダードタイプP90プラス」は、"できるだけコストを掛けず『MS Li-Po バッテリー』に対応したFETを搭載する"というテーマに挑んだ商品だ。電気的ロスが少なく、引き金を引いたとき素早く弾が出るレスポンスの良さが大きな魅力だ。「P90プラス」は今後の「電動ガンスタンダードタイプの+(プラス)化」のテストケースとなっている。

【MS Li-Po バッテリー対応製品】
「電動ガンスタンダードタイプP90プラス」。2023年5月17日発売、価格は40,480円。「P90」は2001年に初発売、2006年にリニューアルが発売された。そして「MS Li-Po バッテリー」対応のFETを搭載したプラスが発売された
「次世代電動ガン MP5 A5」。2021年8月発売、価格は65,780円。Mシステムを搭載、電子制御によりフルオート、セミオート、3点バーストを撃ち分けられられる。安全対策も含め東京マルイの電動ガンの未来を提示するフラグシップモデルと言える製品。「MS Li-Po バッテリー」によって真価を発揮する
「次世代電動ガン MP5 SD6」。2022年12月発売、価格は72,380円。アルミ切削加工のサイレンサーを標準装備したMP5のバリエーションモデル

  「『P90プラス』に関しては、FETの搭載に加え、『MS Li-Po バッテリー』によるモーターの初動の勢いに対応して、ギアの耐久力の見直しなども行っています。射撃位置を最適化するブレーキなど、機構的な付加価値は高くなっています。ただ電動ガンスタンダードタイプとしてコストが上がりすぎないように気をつけています。それでもシリンダーとギアの最適化を行ない、トリガーのストロークを見直したりしています」 と島村氏は補足として言葉を加えた。

 ここで少し本題と離れて雑談として「電子トリガーの小気味良い反応速度は本当にリアルか?」という話をした。カートリッジの中央の発火薬を撃針で叩き発火させ、内部の火薬を爆発させて弾丸を発射する実銃は、それこそ0.00何秒のラグが発生する。FETと内部機構でラグを極限まで抑えた発射機構は火薬発火による弾丸発射より反応は早くなる。ある意味「実銃のリアル」から乖離してしまう。この反応の良さを求める動きは、「ゲームの影響」が大きいのではないかという話になった。0.00秒での射撃が勝敗を決する、デジタルなゲームの感触が、FET導入の流行になっているのかもしれない。

 なお、「電動ガンスタンダードタイプP90プラス」の登場によって、旧製品となるFETを搭載していない「電動ガンスタンダードタイプP90」の販売はなくなるのか? という質問をしたが、旧製品も販売は現時点では継続されるとのこと。その大きな理由は価格である。低価格の商品はやはり一定の人気と需要があるとのことだ。

 「電動ガンスタンダードタイプP90プラス」は今後の東京マルイの電動ガンの仕様を決めるための"試金石"としての役割が強いと高島氏は語った。できるだけコストを掛けずに、キレが良く安定した射撃を実現する「プラス(+)」シリーズは、FETとピストン周りをきちんと止めるブレーキ機構という最小限の構成としたが、ユーザーが何を求めるかは今後検討していくとのこと。

 一方、「次世代電動ガン MP5」シリーズは「MS Li-Po バッテリー」に対応した全く新しいシステムとして、コンセプトカーのように意欲的な要素を盛り込んでいるため、「従来の製品のアップグレード」という範疇には全く収まらない製品とのことだ。 「社内的には本当は『次世代電動ガン』という従来のカテゴリーではなく、新しいモノを作ったという自負があったので、『次世代電動ガン』という名称も変更しよう、という議論も出ました」 と高島氏は語った。

 「次世代電動ガン MP5」の革新性を担っているのが「Mシステム」だ。Mシステムは「限りなく実銃に近い操作感をユーザーに味わって欲しい」ということを目指したシステムなのだという。

  「例えばですが、コッキングハンドルを引きロックし、マガジンを入れ、手でレバーを叩く『HKスラップ』でハンドルのロックを解除、実銃ではこれでマガジンのカートリッジを薬室に送り込み射撃準備が整います。Mシステムはこれを電子的に再現しています。他にも、マガジンの有無で射撃が可能な状態かを判断したり、BB弾の残弾を監視して射撃を停止したりすることで実銃に近い操作感が再現できるようにプログラムしています。でもこのプログラムが大変なんです。バグとの戦いなんです。セレクターのセイフティ、セミ、3点バースト、フルでも変わるし、それぞれの状態で複数のセーフティー機能もチェックする必要がある。おまけに、銃によって構造も操作も変わるため、新しい機種を作ろうとするとまた新しいプログラムを作る必要があるんです。それでもいかに実銃に近い操作感を再現するかを常に考えていますね」。

 面白いのはこういった複雑なシステムは実銃には搭載されていないことだろう。実銃はカートリッジが薬室に入っているかどうかが弾が発射される基準になる。「次世代電動ガン MP5」のMシステムは、プログラムによる電子制御でこれらをシミュレートしているのだ。こういった情熱がエアソフトガンに"リアルな感触"をもたらしてるのである。Mシステムはこだわりのシステムなのだ。だからこそコストもかかる。コストの比較的かからない「プラス化」とこだわりの「Mシステム」はユーザーのニーズを商品等で使い分けていくのが今後のマルイの方向性なのかもしれない。

【Mシステム】
「次世代電動ガン MP5」シリーズに搭載されているMシステム。各センサーと連動することで実銃の操作をシミュレートする

 エアソフトガンに限らず、モデルガンでも「実銃と同じ操作で発射準備をする」というのはたまらなく楽しいところだ。そして銃の場合、モチーフによって操作が大きく異なる。それは銃が作られた背景や、時代、設計者によってシステムが全く異なるからだ。Mシステムにより、こういった操作感の違い、感触もよりこだわった物になる。Mシステム搭載電動ガンはハイエンドクラスとして、今後も企画されるとのことだ。

 「正直なところ、Mシステムだけならばニッケル水素バッテリーでも楽しめる」と高島氏は言う。しかし違ってくるのは「撃った時の安定性」。特にセミオートの場合は、引き金を引いた瞬間にモーターが大きな出力を出さなければ、しっかりした射撃感は得られない。前述したとおりリコイルも充分に表現できなくなる。さらに「バッテリーの持ち」だ。Li-Po バッテリーは長時間にわたり安定した出力が楽しめるが、ニッケル水素バッテリーはモーターへのパワー供給が徐々に弱くなっていく。

  「ニッケル水素バッテリーの場合、サバゲーに行く前日にフル充電していても、当日サバゲー場まで行くと電圧がピークから下がってしまう。もちろん射撃できないほど電圧が低下するわけではないのですが、Li-Po バッテリーは較べるとピーク電圧を長時間維持できるし、バッテリーの出力も安定しています。朝から夕方まで遊んだ場合、ニッケル水素バッテリーだと2個必要な場合でも、Li-Po バッテリーなら1個ですむ場合があります。Mシステムは『MS Li-Po バッテリー』があることで、その真価を発揮できるといえます」

 東京マルイはフル充電したバッテリーで、大体何発電動ガンが撃てるかの計測も行っている。あくまで目安ではあるが、ニッケル水素バッテリーとLi-Po バッテリーを撃ち較べた場合、1.3倍ほどLi-Po バッテリーの方が持つ。しかも射撃サイクルの持ちも違うとのことだ。長時間サバイバルゲームを楽しむ人には、魅力的なデータである。

 さらに高島氏は「MS Li-Po バッテリー」の一番のメリットは「低温時の安定作動」だと強調した。高島氏自身が「MS Li-Po バッテリー」の導入したかった大きな理由が低温時の作動だという。

 従来のニッケル水素バッテリーだと、気温が5度以下になると射撃ができないほど出力が弱くなってしまうという。前日フル充電しても通常時より性能低下が早く、これが原因でサバイバルゲームが楽しめない場合もある。このため、低温時は注意が必要となると高島氏は指摘した。サバイバルゲームに持って行っても使えなかったバッテリーがあったり、冬場のサバイバルゲーマーは結構経験したことがある人が多いのではないかとのこと。

  「『MS Li-Po バッテリー』の場合、採用したセルの動作温度範囲はマイナス20度からです。Li-Po バッテリーでも低温ではピーク性能は出せなくなってしまいますが、雪の中でも電動ガンを使ってサバイバルゲームができると思います。私は秋田出身なので、やってましたよ、雪中サバイバルゲーム。雪まみれになって楽しいですね。寒さに強いというのは、大きなメリットだと思います」 と高島氏は語った。

 高島氏はさらに重ねて「MS Li-Po バッテリー」の大きなメリットとして長期保管に適していることを挙げた。ニッケル水素バッテリーは自己放電が大きいため長期間保存すると性能が低下してしまう。特にバッテリー残量が0の状態だとダメージが大きくバッテリー寿命を短くしてしまう。ニッケル水素バッテリーの場合は数カ月に一度の充電が必要だ。

 「MS Li-Po バッテリー」は専用充電器によって「ストレージモード」というバッテリーを長期保存できるコンディションに調整する機能があり、バッテリーの能力低下を防げる。推奨はされていないがこの方法で半年放置していてもバッテリー電圧の低下はほとんどないとのことだ。ユーザーでも普段はあまりエアソフトガンを使わなかったり、忙しくてサバイバルゲームに参加できない人も少なくない。長期保存も嬉しいメリットだと言えるだろう。

 ここまでは「MS Li-Po バッテリー」というより、Li-Po バッテリーの導入のメリット、対応したエアソフトガンの能力向上を聞くことができた。その上で、東京マルイが開発した専用バッテリーである「MS Li-Po バッテリー」はどんな機能を持っているのか、アクセサリー製品の特性なども聞いていきたい。次ページでは東京マルイが開発した「MS Li-Po バッテリー」の意義、について深掘りしていこう。