インタビュー
「MS Li-Po バッテリー」開発者インタビュー
2023年7月28日 11:20
安全対策、セルフモニター機能に優れた「MS Li-Po バッテリー」
「MS Li-Po バッテリー」のMSは、「マルイ セーフティ」の略である。本商品は既製品を使うのではなく、東京マルイの独自仕様のバッテリーとなっている。それはきちんとした安全対策を施したものだ。
「『MS Li-Po バッテリー』の特性というのは、今回のインタビューで一番語りたい部分ですね(笑)。このバッテリー開発で目指したのは『Li-Po バッテリーを安心して使える』という部分です。実は現在市場に出まわっているバッテリーの中には、安全対策で不安なものもある。また、自動車やスマホなどの発火事故も起きていますが、Li-Po バッテリーは扱いが難しい一面があるのです。このためしっかりしたホビー用の、保護回路を装備したバッテリーを東京マルイが販売する、ということが必要だと感じていました」 と高島氏は語った。
現在、市場には様々なLi-Po バッテリーが販売されているが、中には保護回路を装備していないバッテリーもある。Li-Po バッテリーは危険性を啓蒙する動きもあるが、そもそも安全基準という視点では不安な商品が出まわっている現状がある。内部セルを作る会社も安全性を考え「保護回路を搭載したセルしか販売しない」という基準を設けてる会社もある。今後、Li-Po バッテリーでの保護回路搭載はより注目されるポイントであると東京マルイは考えているという。
今回、「MS Li-Po バッテリー」はリサイクルをきちんと行うため、小型バッテリーを回収・再資源化する団体「JBRC(Japan Portable Rechargeable Battery Recycling Center)」に登録、同団体の基準に合わせた開発を行っている。この基準は、2001年に施工された「資源の有効な利用の促進に関する法律」に基づき、小型充電式電池メーカーや、輸入業者等は小型充電式電池の回収・再資源化が義務づけられたことでJBRCが設立され、JBRCによる回収できるバッテリーの基準が設定されている。基準を満たした製品には「リサイクルマーク」の表示が許可され、JBRCで回収・再資源化を行ってもらえる。
このため、使わなくなった「MS Li-Po バッテリー」は家電量販店などに設置されている回収BOXで処分できる「リサイクルマーク」がしっかり表記されている。このリサイクルマーク取得には「ハードケースの中に封入されていること」、「保護回路の搭載」が絶対条件となっている。
保護回路とは一体どういうものだろう? 代表的なものは、「過放電防止機能」と「過充電防止機能」、「ショートを検知し出力を停止する機能」というものだ。もちろん他にも様々な安全対策の機能が内蔵されている。
「過放電防止機能」というのはLi-Po バッテリーの電力を放電しすぎない機能。Li-Po バッテリーにとってバッテリー残量がわずかなときの放電はセルに深刻なダメージを与え寿命を縮めてしまう。「過充電防止機能」は同様に、容量以上の充電を停止させる機能。こちらもバッテリーの寿命を守る大事な機能だ。これらの機能がない場合、誤った操作で最悪爆発・燃焼する可能性があるという。
ここで「Li-Po バッテリーの発火」というものがどういうものか、YouTubeにアップされている愛知県江南市の消防本部の啓発動画を紹介したい。この動画ではリチウムポリマーバッテリーに、本来使用してはいけない「ニッケル水素専用充電器」を接続して充電するケースを紹介している。ホビーユーザーならばやりかねない間違いだが、結果は非常に恐ろしい。まるでジェット噴射のように炎が飛び出る様は「発火」という単語から連想されるものとは大きく違う。保護回路がないLi-Po バッテリーならばこういった事故も起こりえるのだ。
高島氏は「ショートを検知しバッテリーの出力を停止する機能」に関して、 「実はホビー系のLi-Po バッテリーの使い方は家電や電子機器と大きく異なります。ホビー系ではバッテリーの最大出力を瞬間的に求められるんです。電動ガンの引き金を引いた時のBB弾発射用のモーターの動きや、RCカーやRC飛行機での0から最大出力まで一気に上げるような使い方は家電やスマホでは想定していない。あるとしても、ドリルなどの電動工具か掃除機くらいですが、最近のLi-Poバッテリーなどを使うような製品は大体ブラシレスモーターを使っているので瞬間最大電流はそこまで高くありません。ブラシモーターを使っている電動ガンなどの瞬間最大電流はバッテリーのショート状態と似た状態になるため、選別する方法が非常に困難でした。そのため、『MS Li-Po バッテリー』では専用のICを開発しました」 と語った。
バッテリーがショート(短絡)した状態というのはバッテリーが最大放電する状態と同じと言える。保護回路は、この状態が電流を止める危険な状態なのか、それとも正常な出力かの判断を求められる。「MS Li-Po バッテリー」の保護回路は「電動ガンスタンダードタイプP90プラス」や「次世代電動ガン MP5」シリーズで使用した場合に、異常な最大放電状態が続くと一定時間で電流をカットする機能が備わっている。
この保護回路がないと、FETがショートしてもバッテリーからの出力が止まらず基板やバッテリーが発火するなどの危険な状態となる。「バッテリーを保護すること」と共に、「誤作動を起こさないことを」考えての設計なのだ。改めて対策をしていない機器の怖さを実感させられる話だ。 「現在の市場では電動ガンに使用できる、私たちが求める判別機能を持ったIC(集積回路)がありませんでした。このため独自開発するしかありませんでした」 。特に電動ガンの場合はブラシ付きのモーターを使うため、起動時の出力が大きなものとなり制御が難しいというところも、独自規格が必要だった理由として大きかったという。
さらに、この「保護回路」を搭載する事で「バランス充電を採用しない」事が可能になった。バランス充電とは2つのセルが同じ電圧になるように充電する機能の事だ。
通常バランス充電を行うと、複数のセルを電圧が同じ状態になるまで充電を行う。この状態で使用すると、劣化したセルは劣化してないセルと同じ使われ方をするため、さらに劣化が進み発熱などが発生する事で、膨れや発火などの危険性が高くなるデメリットがある。そもそも、電動ガンなどで使うLi-Po バッテリーは7.4Vや11.1Vなど、3.7Vのセルを直列接続で繋いで作るものが多く、保護回路がついている場合は直列接続のLi-Po バッテリーをバランス充電する必要がないのだという。
並列接続の場合は循環電流というセルとセルが充電し合う現象が発生するが、直列接続では発生しないためだ。「MS Li-Po バッテリー」の保護回路はバランス充電をしない代わりに、劣化したセルの電圧に合わせて充電を行うため発熱などのリスクが低く、充電完了時の電圧が新品の状態より下がっていくため、バッテリーの寿命を把握しやすくなるメリットがある。この機能により廃棄・リサイクルの目安もわかりやすい。「MS Li-Po バッテリー」の保護回路はこのように様々な安全対策を行っているとのことだ。
機器や充電器と接続するコネクターにも工夫を加えている。「MS Li-Po バッテリー」は3本のコードが接続するようになっている。従来のニッケル水素バッテリーの2つ口とはっきりと形状が違う。この形状を変えた理由は、前述のように間違ってニッケル水素バッテリー用の充電器に「MS Li-Po バッテリー」を繋がないようにするためだが、3本目のケーブルは「温度検知」をするためのものだという。
「MS Li-Po バッテリー」内部には温度センサーのみが入っており、このデータを判定するのは電動ガン側の回路、そして充電器での回路となる。危険な温度を検知した場合、銃本体や充電器側で通電をカットする機能が備わっている。「MS Li-Po バッテリー」が専用機器と接続することで真価を発揮する機能の1つというわけだ。ちなみにこのコネクターはLi-Po バッテリーの大出力も設計に組み込んでいる。従来のコネクターでは大きな電流が熱に変換されてしまい、電流のロスに加え、危険性が増す場合もあるとのこと。
対応していない充電器にLi-Po バッテリーを繋ぐのは本当に危険だ。「MS Li-Po バッテリー」はコネクターの形状を変え、しかも安全用の対策をした上で特殊なコネクター形状を採用している。ちなみに内部基板で充電状態も監視しているため、仮に間違った充電器に接続された場合の安全対策も行っている。
そしてバッテリーを包むケースだ。リサイクルができるリサイクルマーク取得のためにはハードケースへの封入が条件の1つになっている。カメラなどで使われているLi-Po バッテリーは堅い樹脂ケースに包まれ、内部の柔らかいセルは保護されている。「MS Li-Po バッテリー」は難燃性の塩化ビニル樹脂を使ったケースに収めている。この素材と、薄さを実現するのもかなり苦労したとのこと。このケースの成型・加工技術も苦労した。工場側も要求された仕様を実現するために試作を繰り返し、現在のきれいな四角形のケースを作ることができたとのこと。
ところで「MS Li-Po バッテリー」はリサイクルマークは取得しているが、「PSEマーク」がついていない。PSEマークとは電気用品安全法のことで、「丸形PSEマーク」と「ひし形PSEマーク」の2つがある。Li-Po バッテリーなどのバッテリー関係は「丸形PSEマーク」がないと販売できない。ただし単電池(1セル)あたりの体積エネルギー密度が、400Wh/L(ワット時毎リットル)以下のバッテリーは表記する必要がないのだ。PSEマークの取得には保護回路がついていることが条件になるが、「MS Li-Po バッテリー」はそこはクリアできているため、今後この基準を超えるような容量のバッテリーも視野に入れて開発を行いたいとのことだ。
「消防署などの啓蒙動画を見ると誤った操作をするとLi-Po バッテリーがどうなるか、驚かれると思います。本当にものすごい勢いで炎が出る。それはLi-Po バッテリーに安全回路がついていないという所も大きい。東京マルイとしては、そういった安全対策を行っていない製品を販売することはできませんでした」 と島村氏は語った。
昨今、電動工具やカメラなどの「互換バッテリー」、メーカー品ではないバッテリーを使用しての事故や、海外製のスマホの事故などが報告されているが、「MS Li-Po バッテリー」の様な保護回路なども含めた安全対策、リサイクル基準に従った仕様を満たしていない商品も多いとのことだ。「Li-Po バッテリーは危険」という誤ったイメージが広がりかねない状況の中、東京マルイとしては安心して使える商品を届けたいという想いが今回の取材では強く伝わってくる。
高島氏は 「ここまで説明させていただくことで、現在ホビー業界で流通しているLi-Po バッテリーと較べると、『MS Li-Po バッテリー』の7,800円という価格にもご理解いただけるんじゃないかと思っています。単純に比較すれば割高に感じるかもしれませんが、決してそんなことはありません。適正価格か、それよりも安いと開発者として思っています。様々な安全対策、独自規格に加え、リサイクルマークを取得したリサイクル可能品なので、処理も含めた安全性と利便性を考えた製品であるということは強調させていただきたいと思います」 と、改めて「MS Li-Po バッテリー」の優位性を語った。
「MS Li-Po バッテリー」は、本来、2021年7月に発売された「次世代電動ガン MP5 A5」と同時発売を目指して開発が行われていたが、実際の発売は2023年5月17日とかなり時間がかかってしまった。話を聞くと開発にかなり難航したのも納得させられる。加えてコロナ禍の「半導体不足」がスケジュールに大きく影響した。独自規格の電子基板は半導体の確保がより難しかったとのことだ。
「MS Li-Po バッテリー」は本体のみならず専用充電器「MS Li-Po セーフティーチャージャー」、「MS Li-Po バッテリーチェッカー」、「MS Li-Po セーフティーバッグ」と言ったアクセサリーにも細かい安全対策をしている。次ページではこれらを紹介していきたい。