インタビュー
モデルガン「コルトライトニング」インタビュー
コルト初のダブルアクション、実銃すらレプリカを作れなかった銃をモデルガン化!
2023年11月7日 00:00
- 【コルトライトニング】
- 開発・発売元:ハートフォード
- 発売日:11月中旬
- 価格:39,380円
- スケール:1/1
- 全高:約230mm
- 重量:約520g(カートリッジ含む)
- 素材:高比重樹脂、亜鉛合金
「コルトM1877ライトニング(以下、ライトニング)」は、アメリカの銃器メーカー・コルトが1877年より生産した銃でコルトでの正式名称は「コルトM1877」、同社初の"ダブルアクションリボルバー"である。
「ダブルアクション」とは引金を引くことでハンマーが連動して起き上がり、引金を引ききることでハンマーが落ち、撃針が叩くことで弾丸が発射される機構だ。指でハンマーを起こしてから引金を引く「シングルアクション」よりも直感的に、引き金を引くだけで連射できるダブルアクションは、銃の歴史においてリボルバーの標準機能へとなっていく。しかしダブルアクションの黎明期ではそのノウハウが確立されていないためメカニズムが複雑になり故障しやすいものも多かった。
コルト社が最初に手がけたこのダブルアクションリボルバー、ライトニングも故障の多かった銃として知られる銃である。その後コルト社はダブルアクション機構に改良が加えられ、完全なものになっていくのだがライトニングの複雑なメカニズムは日本、海外のトイガンのみならず、アメリカの実銃の世界ですらレプリカが再現された例はなかったという。
ハートフォードはあえてこの「再現が難しい銃」に挑戦、モデルガン化。11月中旬に発売を予定している。ハートフォードにとって異例の製作期間、数多くの試作を経て完成された商品となったという。
ライトニングとはどんな銃なのか、ハートフォードはどのような苦労を経て商品化にこぎ着けたか、そして商品にどんな想いを込めてきたか。今回、ハートフォード代表のコネティ加藤氏に話を聞くことができた。モデルガン「コルトライトニング」の魅力を紹介していこう。
ビリー・ザ・キッドが使った「コルトM1877」はどんな銃?
ライトニングは、正式な名称は「コルトM1877」。その.38ロングコルト弾を使用するバージョン付けられた愛称が「ライトニング」である。コルトシングルアクションアーミーに「ピースメーカー」という愛称が付けられたように、西部開拓時代の銃は様々な愛称が付けられた。ちなみにコルトM1877の.32ロングコルト弾を使用するモデルには「レインメーカー」、.41ロングコルト弾では「サンダラー」という愛称が付けられた。
コルトM1877はコルト初のダブルアクションとして知られている。この銃にさらにロマンを加えたのが西部の伝説のガンマン達だ。無法者ビリー・ザ・キッド(サンダラーを使用したと言われる)、さらにニッケルのサンダラーをドク・ホリデイが使っていたという。
ドク・ホリディは映画「OK牧場の決斗」をはじめとした様々な映画のモデルとなった保安官ワイアット・アープとクライトン兄弟のトゥームストンという街を舞台とした銃撃戦の登場人物で、ドクはワイアットを助けた。実在の人物だが、様々な映画でちょっと斜に構えたキザなキャラクターとして印象に残る描かれ方をされている。
ビリー・ザ・キッドも実在の無法者だ。21歳で射殺されるまで無法者としてその名を西部にとどろかした。映画「ヤングガン」、「ヤングガン2」ではエミリオ・エステベスがビリーを演じた。映画はビリーの刹那的で激しいエネルギーで仲間達を引っ張り、無法者としてその劇的な短い生涯を駆け抜ける様が描かれる。ビリーは射撃の名手として知られている。今回の「コルトライトニング」が発売されれば、「サンダラー」のモデルガンも手にする日も近いだろう。
「ガンスミスのお気に入り」といわれた内部機構をいかに表現するか?
この伝説的な銃をハートフォードはなぜモデルガン化したのか。加藤氏の強い想いがあったからだ。
「コルトの創設者であるサミュエル・コルト氏は死ぬまで『コルトではダブルアクションはやらない』と言い続けたらしいのですが、イギリスの銃器メーカー(例えばアダムスなど)がダブルアクションリボルバーを販売したことで、米国マーケットでのニーズは高まっていました。彼の死後、SAA45(シングル・アクション・アーミー)の設計に関わったコルト社のウィリアム・メイスン氏が M1877のメカニズムを設計したんです」と加藤氏は語った。
コルトM1877は20世紀初頭までで16万丁以上が販売されたという記録があるが、同時にその故障率の高さでも有名になり「ガンスミスのお気に?り」という呼び名が付けられた。"職人が修理代で儲けた"というわけだ。ダブルアクション機構が出たばかりの当時、機構に対しての設計、技術の蓄積が充分でなく、複雑で壊れやすい機構となっていたのが原因だった。
そのコルトライトニング(M1877)をなぜモデルガンにしたか? 加藤氏はこう語る。「最初は東京店の常連さんとの何気ない会話から始まったんですよ。こういう仕事をしているとお客様からこんなモデルを作って欲しいみたいな話がよくありました。ウェスタン系機種が多い当社には『ライトニング』の要望は当然でした。私の決まった答は『メカニズムが複雑すぎて樹脂と柔らかい亜鉛ダイキャストなんかで作るには到底無理な対象ですよ』と。ところがその常連さんは『メカニズムなんかどうでもいいよ。とにかく快調にパンパン撃てるモデルガンが欲しい』と言う会話からでした」。
「当初ライトニングという銃は、モデルガンでは到底作れないものと思っていました」と加藤氏は言う。ハートフォードのモデルガンのコンセプトは「1/1の正確な模型」というもの。メカニズムが複雑で、しかも故障の多い設計のライトニングはモデルガンで実現するのは不可能と加藤氏は考えていた。
「モデルガンは銃刀法や自主規約の関係で強度の高い部品は使えない。樹脂と強度の低い亜鉛ダイキャストで作らねばならない。鉄製の実銃ですら壊れてしまうライトニングを一分の一の正確な模型として作れるわけがない。実銃と同じようにすぐ壊れます、と言う製品をユーザーさんが納得する訳がない、よしんば納得すると言われても私のメーカーとしての矜持が許しません」。
「一方でハートフォードは『古き良き西部開拓時代の銃の立体化』をテーマにしたきたメーカーです。パターソン、ウォーカー、ドラグーン、M1860アーミーといったパーカッションタイプの古式銃から、メタルカートリッジ世代早々のSAA45に至るまでコルト社製品をトレースしてきた歴史があります。ハートフォードという社名も、コルト社のある米国コネティカット州ハートフォード市からもらいました。だからこそライトニングに挑戦したい気持ちはずっと持ち続けはいました」加藤氏は熱を込めて、ライトニングの製品化への思いを語った。
ハートフォードが「コルトライトニング」の開発をスタートさせたのは2020年2月。発売は2023年11月だから、3年以上、4年近くの開発期間となる。これはこれまでの製品と比べても長い開発期間となる。
加藤氏は銃のメカニズムの説明と、基本要素を解説してくれた。「皆さんがご存じのように、シングルアクションの場合、ハンマーを起こすとシリンダーが回ると同時にハンマーが射撃位置で止まります。ここで引金を引くとハンマーが落ち、シリンダー内のカートリッジを叩きプライマーを刺激、カートリッジ内の火薬に引火して爆発、銃弾が発射されるものです。」
「ダブルアクションであるライトニングは、ハンマーに切り込みがあり、その切り込みにトリガーから伸びたバーがはまり込んでいて、バーによってトリガーを引くことでハンマーが起きる仕組になっています。この複雑で強度の要るメカニズムに加え、シリンダーを止めるボルトノッチ(溝)がシリンダー後端にあること、SAA45ではハンマーにあるボルトカムがトリガーにあることなどモデルガンメーカーから言わせれば絶望的な機構です。東京店での常連さんからの言葉を思い出して『よし、とにかく挑戦はしてみよう』と。それが2020年2月のことでした」
ハートフォードは同時に採寸の為ライトニングの実銃をアメリカにて購入する。1980年米国コロラド州立大学での研修時の後輩「朴誠周氏(パク・ソンジュ。米国バージニア州在住)」に依頼して購入、預かってもらっている。「採寸にも協力してもらいました。東部時間バージニアとは時差13時間。電話でやり取りした採寸当時は毎日が寝不足気味でした。」と加藤氏は笑いながら語った。
「実は当初不可能と予想していたこのメカニズム、試作段階では動いたのです。でも引ききったトリガーが元に戻らない。この戻すメカを如何に組み込むか、ここから悪夢が始まりました。実銃では、とても強い板バネでトリガーを戻す設計になっています。この板バネに負荷が集中してしまうので折れてしまう。海外の写真などではトリガーが戻っていない個体をよく見かけましたがその例です。この方法をモデルガンに仕込むことなどは到底できません。新たなメカの模索がはじまりました」と加藤氏は、この改善案をメモした開発資料を見せてくれた。
それは数多くのアイディアがメモされた分厚いファイルだ。加藤氏が思いついたアイディアをどんどんメモした。特にトリガーを戻すためのメカが詰まっている。トリガー形状の見直し、サブシャーシの内部を薄くする、ヒゲバネを多用した設計にしてみる……。
メモを設計担当者に提案として送った。提案は13を越え、そのアイディアを検証するための試作も10セット以上製作したとのこと。これは非常にコストと時間のかかる話だ。試作はすべて外注に依頼したが、金属の3Dプリンターによる粉体造型品の金額が非常に高かったことで試作費用はふくらんでいった。通常、試作を発注する前にコンピューター上で作動や勘合の確認をする。「確実に動く」ものを出力して検証するため、試作は1から2回ほどで完了となる。10セット以上も試作を重ねるのは異例中の異例だった。それだけ「コルトライトニング」は設計が難しく、コンピューター上ではうまくいくように見えても試作を作ってみると動かなかったり、苦労の連続だったという。
「一般のダブルアクションリボルバーはシリンダーをスウィングアウトすることでカートリッジをロードします。『ライトニング』は『ピースメーカー』と同様で、ハーフコックの状態でシリンダーを回転させてカートリッジをロードする。ダブルアクション、そしてシングルアクションメカに加えハーフコックもできるようにしなくてはいけない。つまりハンマーとトリガーの間に『シアー』という部品を介在させなくてはならない訳でそれだけ複雑になります。『ライトニング』が実銃の世界で存在しな理由を身をもって知らされたのです。挑戦しがいのある対象でした。同時に後戻りはできないな、とも考えていました。」加藤氏は「コルトライトニング」への想いを語った。
しかしながら2021年12月ハートフォードは会社として「コルトライトニング」の開発からもう数カ月で2年というところで棚上げにする。「このまま『コルトライトニング』に関わり続けては他の製品が出せない」と判断、加藤氏が一人で引き続き機構を考えるとして、商品設計・開発のスタッフは別のプロジェクトを手掛けることになる。それが2023年9月に発売されたモデルガン「プロテクター・パームピストル」だ。
実銃メーカーすら挑戦しない難しい機構、それは参考にする商品がないということだ。それだけに開発は難しく、この時点で「コルトライトニング」の開発は暗礁に乗り上げたと言える。しかし意外な方向からのヒントから開発は再スタートする。
加藤氏は「コルトライトニング」の内部メカニズムを模索し続けていた。その"ヒント"を得たのは、2022年、夏ごろだったという。そのヒントとなったのはこれも東京店の常連さんとの会話からだった。米国の玩具メーカーでバービー人形で知られるマテル社が60年以上前に日本で輸入・販売したトイガンのことだった。
「団塊の世代以上なら多くの人が記憶している『マテル・ファンナー(MattelFANNER)』という機種が当時の子供たちには有名でした。それを覚えている往年のトイガンファンは多いと思います。今回ヒントを得たのはその『ファンナー』の上級機種でSAA45と外見もサイズもそっくりな『マテル・シューティングシェル45』という機種です。シングルアクションはもちろんのことダブルアクションも可能、ハーフコックがあって、ゲートを開けてカートリッジをロードできるものでした。シリンダーの回りにはボルトノッチはなく、でも定位置で止まる。これこそがライトニングそのものでした。この機構が参考になるのではないか?その考えから『マテル・シューティングシェル45』の内部機構を調べ、その上でこれまでに蓄えていたアイディアも盛り込むことで開発を再スタートすることが出来ました」と加藤氏は解説する。
さらに、「『マテルファンナーやシューティングシェル45』は60年以上も前のトイガンですが、出来の良い玩具としてトイガンファンに人気だったんです。当時の子供は強大な国、正義の国アメリカの象徴がこれらのトイガンでした。東京店には数多くの常連さんが居て、その中には団塊の世代で当時のトイガンを記憶している人たちがいました。彼との会話で「そういえばあのときのマテル・シューティングシェル45は『ライトニング』そのものだったなあと思いだしたのがきっかけでした。この思いつきが突破口になりトリガーを戻すメカニズムの開発につながりました。そして企画を再スタートすることができました」と加藤氏は語った。
再スタートには加藤氏とハートフォード側の「決断」もあった。この機構を採用するということはハートフォードが目指す「1分の1の正確な模型」という従来のコンセプトから外れることとなる。「実物のようにすぐ動かなくなる、すぐ壊れてしまう模型より快調に発火でき、長年使っても壊れない、いつまでも楽しく遊べるモデルガンを作ったほうがいい」そう決断したのだ。
この決断は、かつてお店を頻繁に訪れてくれて親身にアドバイスをくれた常連さんとのやりとりからも影響を受けたとのこと。「メカニズムなんかどうでもいい、パンパンと快調に撃てて、手の中におぉライトニングだぁと実感できるのを作ってほしい、彼の言葉が耳に残っていますね。彼は現職を退官された方で帰られる時の丁寧な敬礼が決まっていました。残念ながら『コルトライトニング』の完成を見ることなく今年6月に旅立たれました。ですから完成した暁には本モデルガンをお供えに行くつもりです」。
「紆余曲折を経て完成された本製品の軌跡には私や当社設計者、社員の熱意、執念に加え当社を取り巻く常連さんの多くのサポートやアドバイスがあったからです。いつも言いますが、ものつくりにはエネルギーと時間とお金がかかることを知ってほしいと思います」と加藤氏は語った。
3年以上かかった「コルトライトニング」。とても気になる内部システムの詳細だが、加藤氏は「ハンマーを起こすメカニズムはS&Wを参考にしています。当社はKフレームシリーズがラインアップにありますからね。そのほかはぜひ商品を買っていただいて確かめてください」とのこと。
次ページでは苦難を乗り越えて完成した「コルトライトニング」の試作品の詳細に迫っていきたい。