インタビュー

「次世代電動ガン MP5」に「ガスブロAKM」! デカ広報・島村氏が語る、「2021年の東京マルイ」

「ガスブローバックマシンガン AKM」

 そして「ガスブローバックマシンガン AKM」だ。1949年にソ連軍に正式採用された「AK-47」を改良し、1959年に制式採用された「AKM」をモチーフとしたガスガンで、今後の「AK-47」のガスブローバックマシンガンのバリエーション展開する上で重要な意味を持つ商品だ。

 この商品に関して島村氏は、「本当に難産で、お客様にはお待たせしてしまった」と語る。しかも初期ロットはすぐに完売してしまって、ユーザーからは『買いたいのに売っていない』という声が上がっており、再販に時間がかかっていることにも心苦しさを感じているという。当時のソ連の軍事工場生産のAKMの質感を再現するために金属部品を削り出した後、表面処理を行ない、塗装をする。本商品は高いクオリティを追求したために工程数が多く、再販に時間がかかる。最低でも生産に4カ月以上はかかるとのこと。

【ガスブローバックマシンガン AKM】
「ガスブローバックマシンガン AKM」、7月15日発売、価格65,780円(税込)

 そのなかで「産みの苦しみ」とは何だったのだろうか? という質問をぶつけてみた。島村氏は「機関部の強度の調整が本当に大変だった」と答えた。リコイルと部品の強度の調整、AKMらしい強力なリコイルを実現するためにギリギリまでリコイルの強さを上げたい一方で、1万発以上の射撃にも耐えうる部品強度が求められる。東京マルイがこだわる「商品としてのクオリティ」を実現させるため、リコイルの強さと部品強度に関しては、とことんまでこだわった商品となっているという。

 しかし今回の試行錯誤は今後の商品展開に重要な意味を持つ。「AKシリーズ」は様々なバリエーション展開、改良型や派生型がある。これらのモデルを再現したガスブローバックマシンガンに、今回の機関部の設計は活用できる。今回のノウハウが活かせることになるのだ。

【ガスブローバックマシンガン AKM】
特に強度での調整が難しかったという機関部
樹脂部品にプリントで木製部品の雰囲気を再現。ピンを印刷で再現するなどこだわりに満ちている

 ……しかし例えばフレームが長くなるとか、銃身(インナーバレル)が短くなる、といった変化があればその時は0スタート、また新しいバランスを追求していかねばならない。ただし、「これくらいのスプリング強度があればリコイルはこうなるだろう」、「この部品はこのくらい強度が必要になるだろう」といった知見は今回充分会得できているので開発の難度は下がるだろうとのことだ。「とはいえ、開発には常に“魔物”が潜んでいます。予想もつかなかったことが起きる場合もある。開発スタッフはその魔物と日々闘っているんです」と島村氏は言葉を足した。

 さらに「今回のAKMが出たことで皆さんから『このバリエーションをラインナップに加えて欲しい』という要望が来ています。もちろん私たち自身も展開していきたいと思いますので、楽しみにして欲しいです」と島村氏は語った。

 「ガスブローバックマシンガン AKM」は塗装、表面処理にも強くこだわった商品だ。まず実銃では合板で生産された木製部品の質感を再現したストックとハンドガードの樹脂部品。これはリアルで生産部品として安定した木目を再現するための印刷技術に施策を重ねた。模様だけではなく、触れた時の触感、本物の木と錯覚するような質感にこだわっている。自動車関連の会社との協力で開発したこだわりの部品となる。

 さらにダイキャスト製のレシーバーの表面処理。AKMは大量生産を目的に「プレス加工」でレシーバーの部品を生産しているのだが、当時のソ連の軍事工場の技術レベルは高くざらりとした質感の表面処理、部品の端の折り返し処理などにその技術が見て取れる。「ガスブローバックマシンガン AKM」は実銃を徹底的に研究し、その質感を再現している。こういったモチーフへの強いこだわりも商品の特徴だと島村氏は説明した。

東京マルイの未来を提示した「次世代電動ガン MP5A5」

 「次世代電動ガン MP5A5」は東京マルイの“これから”を提示する商品だ。「コンパクトキャリーガスガンシリーズ」、「ガスブローバックマシンガン AKM」に加え、この「次世代電動ガン MP5A5」が短いスパンで発売された2021年の東京マルイはユーザーに強い衝撃を与え、「新しい力」を感じさせるもので話題を集めた。実際には生産工程などのスケジュールによるものも大きかったとのことだが、やはり「次世代電動ガン MP5A5」が提示した“新しさ”がユーザーに驚きを与えたのだとも筆者は思っている。

 「次世代電動ガン MP5A5」は外国製品などでは搭載している「FET(電子トリガー)」が導入された。電動ガンは引き金を引くとモーターでシリンダーを動かし、空気を圧縮してBB弾を撃ち出すのだが、ガスの力で瞬時に弁を開くガスガンに比べ、機械式の従来の機構ではレスポンスで不満点があった。FETを採用することで、キレの良い動作が可能になるのだ。

【次世代電動ガン MP5A5】
「次世代電動ガン MP5A5」、8月18日発売、価格65,780円(税込)

 しかしFETは安全性の問題があった。特に撃った時にリコイルを生じさせるモーターを動かす次世代電動ガンのような場合には、大出力の電流が一気に回路に流れるため負荷が高くなる。作動しないならまだしも、意図せず撃ちっぱなしの状態になったら大問題だ。このため東京マルイは「次世代電動ガン MP5A5」にFETを導入するにあたり、安全性を重視したマイコン制御システム「M-SYSTEM」を搭載。複数のセンサーで状態を監視するようにした。

 さらにサブマシンガンである小型のボディに、従来の次世代電動ガンと同等の約300gの重りが動くリコイルエンジンを内蔵、射撃時の重いリコイルを実現した。新しいメカボックスにより、左右の操作レバーをメカボックスを貫通して取り付けられたり、マイコン制御の3点バーストを実現するなどこれまでの商品での課題であった点をクリアしている。

 さらに外観へのこだわりである。当時の実銃に使われていた樹脂の成分を分析して再現したり、アッパーレシーバーなど多くの金属製パーツに、本物に近い質感の粉体塗装を採用することで実銃を持った時の“感触”にもこだわっている。さらにコッキングレバーを耐久度の高いものにすることで、ロックしたコッキングレバーを叩いて戻す、通称「HKスラップ」を実現するなど随所に強いこだわりを盛り込むことで、機能・再現性両方で、「これからの東京マルイ」を期待させる商品となっているのだ。

【次世代電動ガン MP5A5】
東京マルイならではの安全性を考えたMシステム
【「次世代電動ガン MP5A5」、HKスラップからキレのある射撃!】

 島村氏はこれらの特性に加え、「射撃性能の高さが、高い評価を受けた」と語った。東京マルイの商品は高い命中精度で定評があるのだが、「次世代電動ガン MP5A5」はリコイルを感じさせながら銃の全体の剛性を確保し、「ホップシステムの生産にちょっと手間がかかっている」というところで、さらなる命中精度の向上を目指したという。もちろんインナーバレルとシリンダーのバランス、部品の剛性といった従来のノウハウも活かされているとのこと。ホップの改良に関しては、まさに工場レベルの微妙な調整とのことだ。こういった複合的な技術も今後の商品には活かされていく。

 「あまり大きくアピールはしなかったのですが、2021年は東京マルイが世界初の電動ガンを発売してから、30周年なのです。そのために用意した製品ではないのですが……『次世代電動ガン MP5A5』は30周年にふさわしい商品になったと思います。これまでの技術をレベルアップさせて形にしたマイルストンとなった商品と言えます」と島村氏は語った。

【次世代電動ガン MP5A5】
リアサイトとこだわりの溶接跡。パターンが微妙に異なる
開発者が特にこだわったというアッパーレシーバーの質感。実銃では鉄をプレスして作られているが、商品は亜鉛ダイキャストを使う。プレスでの製法の味を再現するためにこだわったとのこと
ハンドガードや本体部分の樹脂は、実銃の樹脂の成分を分析して質感を再現

 一方で心配事は製品の供給だ。非常に好評で初期ロットは完売という形になった新商品だが、今後の再販状況に、現在の半導体の供給不足が影響を与えかねないという。コロナ禍で世界中の工場の稼働率が低下していたため生産数が落ち、状況が改善した中で発注が集中しているため、様々な工業製品で影響が出ている。東京マルイも今後の原材料や金属類の仕入れなどを注視しているとのこと。

 また“在庫”に関しては好評な売り上げで商品在庫がかなり減っているとのこと。ホビー業界はテレワークや旅行自粛での“お家需要の増加”で売り上げは伸びているが、東京マルイの倉庫在庫も少なくなるほど様々な商品が売れているとのこと。工場生産も増やしているが、戸惑いを感じる部分もある。生産計画を考えながら進めているとのことだ。

「プロモーションビデオがとれなかったのが心残り」、島村氏の2021年の想い

 新商品の発売は2021年の大きなトピックスだが、島村氏の活動全体で印象に残ったことを聞いてみた。「あんまり活動できなかったなあ、というのが本音というところです(笑)。やはりイベントでの出展がやりたかった。あとはプロモーションビデオが撮れなかったのも心残りです」と島村氏は語った。

 プロモーションビデオは新製品販売時に公開するドラマ仕立てのもの。火器で武装した悪役と、新商品を装備した善玉が凝ったドラマを繰り広げる。島村氏自身もかっこよく決めた姿で登場する。このドラマ風のプロモーションビデオはファンにとって新商品展開の楽しみの1つで、コンパクトキャリーシリーズはスパイものを思わせるドラマ仕立て。「次世代電動ガン MP5A5」は雪山でのロケを行なうなど毎回非常に凝っている。

【東京マルイ【次世代電動ガン】MP5 A5】

 これらのドラマは外注の専門チームに丸投げで発注するのでは無く、島村氏が基本的なアイディアを出し、社内のスタッフでコンテにし、撮影なども行う。ゲストや機材など外部の協力も仰ぐが東京マルイが全力でドラマ作りに挑戦しているのだ。島村氏の出演もファンの楽しみの1つ。島村氏自身もこういったプロモーションビデオを作り、出演するのが大好きなのが画面からも伝わってくる。ところが自粛の動きもあってロケ場所が確保できず撮影ができなかったとのことだ。

 その中で積極的に取り組んでいたのが、「マルデカ宣伝本部」と「マルフェスオンライン」のオンライン配信だ。「マルデカ宣伝本部」は隔週のペースで開催されている。このシナリオなども基本的に島村氏が執筆しているという。放送日に向けての準備に加え、放送中のコメント。これまでとは異なったユーザーとの関わりを実現しているが、労力もかなりかかるとのこと。しかも放送は事前収録。直前で内容が変更されるような事態にならないように注意もしなくてはならない。もしあった時は緊急で修正をする。こういった心理負担も大変とのこと。

【【マルデカ宣伝本部】俺の私のガバメントは世界一!.45口径モデルを熱く語ろう!【#45】】

 一方販売した商品で、島村氏が個人的に特に気になった商品は何だろうか? 「やっぱり次世代電動ガン MP5A5ですね」と島村氏は即座に答えた。「雪山でプロモーションビデオを撮った、これの記憶は強烈です。MP5の発表は本当に満を持して、溜めに溜めた発表だったので、印象深いです」。

 もう1つは「ガスブローバックショットガン サイガ12K」だという。本来は今年発売だったが、発売が遅れることとなった。この商品に関してはこのインタビューの後編で詳しく紹介していきたい。今回のインタビューは「2021年の東京マルイ」となる。「サイガ12K」、「エアーコッキングガン シングル・アクション・アーミー(SAA)」、「ボルトアクションエアーライフル VSR-ONE」など発売を控えた新商品は次のインタビューで取り上げていきたい。

【2021年発売の商品】
「サイガ12K」
「エアーコッキングガン シングル・アクション・アーミー(SAA)」
「ボルトアクションエアーライフル VSR-ONE」

 最後に島村氏は読者に向けて「今年は皆さんがワクワクしていただける商品を発売できたと思っています。最後に『サイガ12K』を発売できなかったのは本当に残念です。その分来年は発表した商品がどんどん発売されていきます。こちらも楽しみにしてください。……ただ今年大きな商品が出た分、来年は準備の年でもありますが、バリエーションなどを展開することも予定しています。ご期待ください」と語りかけた。

やはりイベントでお客様と会いたいということを島村氏は重ねて語った

 弊誌は東京マルイの新商品を積極的に取り上げているが、今年の「ガスブローバックマシンガン AKM」、「次世代電動ガン MP5A5」は特に聞き応えがあったように思う。AKMの樹脂や金属の表現、MP5のMシステムや外見へのこだわりは、その後の商品のさらなるクオリティアップを期待させるものだった。「ガスブローバックマシンガン AKM」は近々再販が予定されている。これらの商品は今後も要注目である。